やはり俺の大学生活はまちがっている。   作:石田彩真

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 こんにちは石田彩真です!
 いつもならpixivに投稿したあと2、3日経ってからこちらに投稿するんですが今回は少し早めに……!
 次回は恐らく結衣ちゃんの生誕祭作品を書く予定ではあります!
 ではどうぞ!


粛々と二人の関係は進展していく。(前編)

 テントから誰か出てきた気配なし。

 予定通り最初に起きることに成功する。

 覚醒した時、俺の左腕を羽沢が抱きしめるように眠っていることに気付いた瞬間奇怪な悲鳴をあげそうになったが、なんとか堪え起こさないように腕を解放していき、ひっそりと布団から抜け出す。

 俺が顔を洗ったりしている間に、他の面々も起き出し、やがて全員が目を覚ます。

 

「比企谷さん、おはようございます」

「ん、おはよ」

「比企谷さん、おはよーです」

「ああ」

 

 羽沢と青葉に挨拶をされ、その後律儀に全員からも挨拶を受け取り、朝食の準備へと取り掛かる。

 

「いやー、昨日は楽しかったですね〜、比企谷さん」

「ん? ……ああ」

「夜は星空も綺麗だしたもんねー」

「……だな」

 

 今朝からやたらと青葉が話しかけてくる。

 や、別に良いんだが、なんだそのニヤけ顔。まるで何かを企んでいそうな表情。

 しかし、青葉は積極的に会話をしようとするだけで、それ以上何かを仕掛けてくることはなかった。

 

「ふぅ、ごちそうさま!」

 

 言って、弦巻は外は走っていく。

 

「こころ、まずはみんなで後片付けをしてからでしょー」

「はーい!」

 

 奥沢に言われ、素直に従う弦巻。

 失礼かもしれないが、本能的に動く割に意外とこっちの言葉が届くんだよな……と思ったが、俺の発言は弦巻に割とスルーされる傾向にあるので、その限りでは無いと思い直す。

 やはり弦巻を制御できるのは奥沢と松原くらいだな、とうんうん頷く。

 

「ふふっ、朝からこころちゃん元気だね」

「あたしはいつでも元気よ!」

 

 俺はあくびを噛み殺しつつ役割である食器洗いに勤しんだ。

 隣では食器を羽沢が拭いてくれる。

 弦巻の元気を少しでも俺に分けてくれないかなー、と考えつつ作業に没頭していると、青葉が隣にやってきて一言。

 

「比企谷さんも、こころちゃんを見習わないとですねー」

「…………」

 

 だからなんで今日はやたら俺に絡んでくるんだよ。

 

 

 

× × ×

「みんな、宝探しするわよ!」

 

 キャンプ二日目の午前中は別荘内の掃除、夏休みの宿題などをしていた。

 すでに宿題の大半を終わらせてから今回のキャンプに臨んでいたらしい青葉は、羽沢の宿題を手伝いつつ電卓で何かをしている。

 

「ね、すごいでしょー」

「わ、本当だ!」

 

 ドヤる青葉に電卓を見て驚く羽沢。

 何をしてるのか知らないけど、青葉は羽沢の邪魔をするんじゃありません。

 そんな一幕もあり、勉強を終わらせお昼休憩を取る。

 そして午後、さあ何して過ごそうかを全員で考えていると不意にどこかへ消えたいた弦巻が大きな宝箱を抱えて戻ってきた。

 

「えっと……、こころ、それなに?」

「? 宝箱よ?」

 

 奥沢の質問に弦巻が答えるが、そりゃみれば誰でも分かる。

 奥沢が聞きたかったのはそう言うんじゃなくて──、

 

「こころちゃん、その宝箱どうしたの?」

「さっき黒服さんが来てあたしに渡してくれたの!」

 

 松原の問い掛けに今度はきちんとした回答が返ってくる。

 

「……なるほど、そういう趣旨か」

「みたいだねー」

 

 奥沢と青葉が頷き、俺、羽沢、松原は疑問に首を傾げた。

 

「モカちゃん、どういうこと?」

 

 羽沢の疑問に青葉は不敵に微笑む。

 

「つまり、これは黒服さんたちがあたしたちに挑戦状を叩きつけたってことだよー」

 

 なんかニュアンスが微妙に違うような気がしなくも無いが、なんとなく理解したのでまあいい。

 要するに弦巻さんちの黒服さんは退屈にならないように、わざわざ俺たちが楽しめる催しを用意してくれたってわけだ。

 青葉の説明でも理解出来なかったらしい羽沢と松原に奥沢が説明している傍ら、弦巻と青葉は宝箱に夢中になっていた。

 

「これを開けるためにはまず、この地図に載ってる六ヶ所を回って課題をクリアしてキーワードを集めなくちゃいけないのね!」

「ふむふむ。これは手分けした方が早そうですなー」

 

 説明を終えた奥沢たちも自然と全員が宝箱の周りに集まる。

 

「それじゃあ、地図も三つある事ですし、三チームに分かれますか」

「さんせーい」

 

 そして決まったチーム分けは弦巻を見張らなくちゃいけないと言う理由で奥沢・弦巻ペア。

 青葉が松原をすぐさま誘ったため青葉・松原ペア。

 で、成り行きを見守ってた間に残り物になってしまった俺・羽沢ペアとなった。

 

「……比企谷さん、よろしくお願いしますね」

「あ、ああ。こちらこそ」

 

 地図をそれぞれ三チームに分配し、六ヶ所マークが描かれている場所のいく方向をそれぞれ定める。

 

「それじゃ、安全にだけ気をつけていきましょう」

 

 奥沢の声掛けに頷き、俺たちは出かける準備をしていく。

 正直なところ、少しワクワクしている自分がいる。

 幾つになっても男にとって冒険は浪漫だ。

 それがたとえ遊びでも楽しむに越したことはない。

 あれかな? 出かける直前に健闘を祈る、とか言った方がいいかな?

 ……………………。

 まず間違いなく冷やかされることこの上ないので心の中だけに留めておく。

 

「比企谷さん、お待たせしました!」

「ん、行くか」

 

 最初に出かける準備を終わらせた俺たちは先に出発する事にした。

 ふと視線を巡らせ、青葉が黒服さんと会話しているのを流し見しながら、俺と羽沢は林道の中へ歩みを進める。

 

 

 

[newpage]

 タイムリミットは午後五時。

 それまでに六個のキーワードを集め別荘内にある宝箱を開錠する。

 手分けして探してるんだし、実質探すのは二つだけ。

 流石にただ目印の場所まで辿り着いてキーワードを持ち帰るだけなら三時間も掛からないと思っていたのだけれど……、なるほどこれは時間かかる可能性もあるわけだ。

 羽沢が小箱とメモを手に取り、呟く

 

「この紙に書いてある謎を解けばあの木箱のパスワードが手に入るんですよね?」

「みたいだな」

 

 木箱に電子ロックされた二桁の数字を打ち込まなくてはならない。

 たった二桁なので順番に打ち込む方法も考えたが、一度間違えてしまうと十分のクールタイムが発生し、数字を入力出来なくなってしまう。

 それを順番に行なっていき、暗証番号が"99"とかなら悲惨な事態になりかねないので二人で悩む事にした。

 羽沢が持っている紙を横から覗き込む。

 今回書いてある暗号というか謎解きは割と本格的っぽい。

 まあ言ってしまえばただの"あるなしクイズ"だが──。

 

ある     無い

12      11

3      4

8      9

 

 ……さっぱりわからない。

 えっ、思った以上に難しくない?

 ただでさえ数字に強くない俺が、ヒントが少なすぎる問題を解くとか無理難題にも程がある。

 ちらと横を見ると羽沢は真剣な様子で考えていた。

 

「ん〜、12にあって11に無い。3にあって4に無い──」

 

 結果がどうにも芳しくなさそうだったので、羽沢から木箱を受け取り何かヒントがないかを探してみる。と、裏側に小さく折り畳まれた封筒が糊付けされていた。

 

「羽沢、これ」

「あっ……!」

 

 取り外し確認してみるとそこには『お題をクリアすればヒントを差し上げます』と書かれていた。

 

「比企谷さん、見てみますか?」

「そうだな」

 

 このまま頭を捻り続けても埒があかないので異論は無い。

 封筒を開け、お題内容を確認した俺と羽沢は二人とも固まってしまう。

 

『二人、片手ずつを合わせてハートを作り、記念撮影をしてください』

 

 ……なにこれ?

 もう一度言う。

 ……なんだこのお題。

 やることはすぐに理解できたし、内容自体はそれほど難しくは無い。が、やることそのものが難易度高め。

 羽沢に目線を向ける。と、こちらを見つめていた羽沢と目が合う。そして互いに逸らす。

 

「ご、ごめんなさい」

「あ、いや、大丈夫だ」

 

 何に対しての謝罪なのか、大丈夫なのか、おそらく互いに分かってない。

 とにかく冷静になれ、俺。

 そもそもこのお題は俺たちに当たるとは限らなかったんじゃ無いか?

 地図が三つ用意して三チームに分かれることは予想出来る。けれど、行く場所は完全ランダムで決めたのだ。

 つまり、このお題は俺たちと別のペアに当たった可能性もあるわけで……。

 ということを伝えてみると、羽沢は力強く頷いた。

 

「そ、そうですよね!」

「お、おう、そうだな」

 

 まあ黒服さんたちが俺たちか周りをして、このお題とやらを用意したなら話は別なのだが……、黒服さんがそうする理由は無いだろうさ、その可能性を口にしてしまうとまた気まずくなるかもしれないので黙っておく。

 

「えっと……、それじゃあ、やりますか?」

「……だな」

 

 とにもかくにもヒントが無くては謎が解けない。

 なので俺たちは羞恥に気付かないふりをして、写真を撮る場所を探す。

 

「でも撮るって、スマホをどこかに立てかけないと厳しいよな──」

「私がお撮りしますので安心してください」

 

 どこからともなく現れる黒服さん。

 流石にこう何度も関わっていればもう驚きはしないが、せめて気配は殺さずに近づいてくださいお願いします。

 

「比企谷様、スマートフォンをお借りしても宜しいでしょうか?」

「あ、はい、どうぞ」

 

 渡すと、近くの木を背にして二人並んで立つように指示される。

 そして手でハートを作るのだが……、これどうやるべきなんだ?

 とりあえずどうするべきか迷った俺は右手でハートの半分の形を作り、それに倣って羽沢も左手で同じようにしてくれた。

 けれど、スマホを除いていた黒服さんはそれに納得がいかなかったようで、首を傾げてくる。

 

「比企谷様、もう少し羽沢様に近づいていただいて……肩に手を回してみましょう」

「えっ、いや、それは……」

 

 サングラス越しにじっと見つめられると従わなくちゃいけない気分になる不思議。

 迷った挙げ句、羽沢に目配せして首を縦に振ってくれたので、恐る恐る肩に手を回す。

 

「さあ、手でハートを作ってください」

 

 …………なんだろう。

 心なしかこの黒服さん、今の状況を楽しんでないか?

 それは気のせいだろうと信じたい。

 右手を肩に回すのに使ってしまったので今度は左手でハートを形作る。

 羽沢は逆に右手で半ハート型を作り、指先同士で触れ合う。

 なんとかハートは完成。

 そうすれば自ずと俺たちの距離も密着してしまうわけで、早く撮影してくれないかと気が気では無かった。

 

「……では、目線をこちらにお願いします」

 

 言われた通りにし、真っ直ぐと視線が前に向く。

 緊張で身体が硬直してきてるのが分かったが、辛うじて羽沢の肩に回してる腕にだけ力を入れないように木を配ることだけは成功した。

 

「……はい、撮影終了です」

 

 言って、スマホを返却され、次いでヒントであろうメモ用紙も渡される。

 撮られた写真が目に入った。

 俺も羽沢もぎこちない笑みを浮かべ、ハートは歪な形をしている。

 その画像をじっと眺めていたら、くいっと頬を朱に染めた羽沢に袖口を引かれた。

 

「あ、あの、比企谷さん……、うで」

「っ……! わ、悪い」

 

 指摘され慌てて羽沢から距離を取り、深呼吸。

 落ち着け、俺。落ち着け、俺。

 羽沢って身体の線細いんだなぁとか汗掻いてるはずなのに良い匂いしたなぁという感想は一度捨ておけ。

 今はとにかくやるべきことに集中集中!

 わざとらしくコホンと咳払いをして切り替え、メモ用紙を開く。

 そして書かれていたのは、

 

ある     無い

1       2

 

 という二つの数字。

 ただ謎の数列が増えただけだった。

 

「羽沢、分かるか?」

「……さっぱりです」

 

 だよな。

 というかこういうのってもっと普通分かりやすいお題をクリアしてゲットしていくものじゃないの?

 なんかリアル脱出ゲームをやってる感覚に近いな、これ。……や、リアル脱出ゲームはリアルでしたことないけども。

 そんなうまくもない発言をした自分に苦笑していると、羽沢がぼそりと呟いた。

 

「……誕生日」

「ん?」

「あ、ごめんなさい。誕生日とかヒントにならないかなと思いまして」

 

 言われて数字を見る。

 確かにこのあるなしクイズの数字上限が"12"までなら可能性はなくは無い。

 だとしても、それが二桁の数字にどう繋がるかは疑問だけど、考えなくちゃ始まらないのも事実。

 

「ちなみに羽沢って誕生日何月だ?」

「私は1月7日ですよ」

「そうか。俺は8月8日だから誕生日が関係してるなら二人とも"ある"側だな」

「ですね。……あっ、比企谷さん、誕生日もうすぐじゃないですか!」

「お、おう」

 

 いきなり発せられた驚きの声に一瞬たじろいでしまう。

 

「そっか、比企谷さんの誕生日もうすぐなんですね」

「まあな」

「あの、私に祝わせてください」

 

 急な羽沢の提案に俺はどう答えたものか言葉を詰まらせてしまう。

 や、だって「じゃあよろしく頼む」だとなんか上から目線だし、断るのもそれはそれで羽沢を傷つけてしまいそうで……。

 

「……迷惑ですか?」

「や、全然、そんなことは無いが……」

 

 そういう不安そうな瞳には本当に弱い。

 大体、こんな風に直接「祝いたい」と言われるのも初めてなのだ。

 小町や周りの奴らに捻くれてると言われ続けている俺でも嬉しく無いわけがない。

 だから──、

 

「んじゃ、よろしく頼む」

「っ……! は、はい!」

 

 顔を逸らしつつ答えると元気な返事が聞こえてきた。

 祝う方が嬉しそうなのはどうなんだろうと考え、でもサプライズ好きとかもいるし人に喜んでもらうのが好きな人もいるよな、と認識を改める。

 そしてなんでこんな話になったんだっけ? と記憶を遡り不意にカチリとピースが嵌まった音がした。

 

「羽沢、答えが分かったぞ」

「えっ、本当ですか⁉︎」

 

 普段謎解きとかあまりしないからあるなしクイズを難しく考えすぎていた。

 これはいわゆる"ある"の方の共通点を探すに他ならない。

 俺が辿り着いた回答を羽沢に伝え、大きく頷いてくれる。

 

「すごいです、比企谷さん!」

「や、羽沢が誕生日ってヒントくれなかったら解けなかっただろうな」

「ふふっ、じゃあ二人のおかげですね」

 

 羽沢を促し、電子錠に数字を打ち込んでもらう。

 するとピーっという音の後にカチッとロックが解除される音が聞こえてきた。

 

「開きましたよ!」

「……だな」

 

 中に入っていた数字が書かれたカード取り出し、俺たちは次のポイントへと向かうことにしたのだった。

 

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