次からは少し期限が開くかもしれません笑
一応伝えておくと、タグは書いた時点で出るキャラを順次足していきます。
羽沢つぐみは今作のヒロイン枠なので単体でタグにしてますが、他のバンドリメンバーは都度考えます!
では、よろしくお願いします!
午後の講義が教授の都合で休校になった。
普段特にやることない時は家でぐうたら過ごしてる俺も、唐突に時間が空くと何をしようか迷ってしまう。
今日はバイトも入ってないから学食で何か食べてから帰るか、と考えていると肩を叩かれた。
大学でも相変わらずぼっちな俺である。
そんな俺を認識してそんなことしてくる奴は、大学内に一人しかいない。
「……比企谷、今大丈夫?」
首だけで振り向くと、手提げを肩に掛け直し、シンプルでカジュアルな服に身を包んだ川……川……川なんとかさんが立っていた。
「おお、サキサキ」
「サキサキ言うな」
手刀が脳天に突き刺さった。
加減されてるおかげで全く痛くはない。
腕を組み、顔を逸らし、けれどもちらちらこちらを見てくるものだから、なんともむず痒い。俺もちらちら見返しちゃうぞっ!
そんなことしても気持ち悪いし、周りの人に悪評を広められても困るので、俺は歩き出した。
すると川崎は横に並び立つ。
「これから学食?」
「ん、ああ。この後の講義休講だろ?」
「そうだね。あたしも一緒に行ってもいい?」
「別に構わないが……」
「じゃあ行こ、早くしないと席埋まっちゃう」
言って、早歩きになる川崎を追いかけながら、さりげなく周りに視線を向けてみる。
案の定、すれ違いざまに男の視線が突き刺さる。主に川崎に対してであるが。
本人は気づいていないのか、はたまた気にしていないだけなのか、全くの無反応。
高校時代から美人ではあったが、川崎本人は近寄り難い雰囲気があったせいか、その手の話題はこれっぽっちも無かったと思う。
だが、偶然大学で再会し、会話するようになってから思うのが、少し物腰が柔らかくなったということか。
これも大学入ってから始めたという家庭教師のアルバイトのおかげなのかもしれない。
年下相手に威圧してたら親御さんからクレームとか来そうだもんね!
俺なんか初対面で挨拶の時に腐った目を揶揄されてクレームがくる未来まで見えるから、家庭教師をバイト先に選ばなくてよかったと思う。
「比企谷何食べる? あたしが買ってくるから席確保しておいて」
「ん、了解。じゃ、川崎と同じので」
「分かった」
言って、川崎と分かれ行動に移す。
ちょうど良く二人用の席が空いていたのでそこにすることにした。
念のためLINEで大体の位置を川崎に伝えておく。
こうすれば探しまくることはないだろう、多分。
影が薄いことに定評のある俺をそもそも見つけられるか分からないだろうから、近くに来たら手でも振った方が良い?
「おーい、川崎こっちだぞー」とか。
なにそれやだ恥ずかしい。
しかしそんなことをやる必要もなく、川崎が真っ直ぐこちらに歩いてくるのが目に入った。
「お待たせ」
「いや全然。よく分かったな、あのLINEだけで」
「……比企谷、結構目立つからね」
ん? 誰が目立つって?
陰に潜み、陰に生きる俺が目立つとかあるわけないじゃないですかやだー。
えっ、目立たないよね?
「女の子の視線集めまくってるくせに」
「? なんか言ったか?」
「別に。……朴念仁」
なんか馬鹿にされた気がする。
けどまあ良い。
とりあえず今日の予定を組み立てよう。
と言っても帰ってアニメ観るとかしか無いんだよなぁ。
そんなことを考えていると、川崎はスマホをいじりながら口を開いた。
「休講になったなら、今日行けるじゃん」
「行けるってどこにだ?」
「羽丘」
「…………ああ」
そういや今日だったか。
いまの今まで忘れてた。というか出来れば思い出したく無かったですね、はい。
今日は羽丘女子学園で新入生歓迎会が行われる。
そこで俺がバイトでお世話になっている羽沢珈琲店の娘である羽沢つぐみが所属する、Afterglowがバンド演奏をするのだそうだ。
予定がなければ行く、と社交辞令的に伝えたつもりだが、バイトの時に日付と時間を教えてもらっており、確かに知ってて時間があるのに行かないのはダメな気もする。
「けどなぁ……」
「気乗りしないの?」
「や、興味がないわけじゃないんだが……ほら、女子校だし」
そこなのだ。
羽丘女子学園。
俺のイメージだと女子校は男の先生は例外としても、男子禁制な気がして近寄りがたい。
日菜先輩? という人に入れるように頼むと言っていたが、もしそれが出来ず意気揚々校門まで行って門前払い食らったら恥ずかしいことこの上ない。
「ふーん。あたしもAfterglowの生演奏聴きたかったん、だけどな」
「えっ、Afterglow知ってんのか?」
「うん。あたしの教えてる生徒が大ファンで曲聞かせてもらったことあるんだけど結構良い曲ばっかり歌ってるよ」
「ほーん」
そう言われると気になってくる。
なんなら先ほどまで九割行きたく無かったのが、反転して九割行きたくなってきた。
俺の意思が脆弱すぎて泣ける。
「とりあえずその羽沢さん? だっけ。連絡だけでもしておけば?」
「……そうだな」
俺の高校と相違なければ大体今の時間は昼休憩かもしれない。
その予想は間違っていなかったのか、連絡すると一分も経たずに「本当ですか? 待ってます!」と大変元気な返信が送られてきた。
「一応、川崎のことも伝えたんだが、一緒に来るか?」
「いいの?」
「まあ、俺的に一人で行くよりは来てくれた方が助かる、というか」
なんか恥ずかしいことを言ってる気がしないでもない。
川崎と一緒なら多少は抵抗なく女子校だろうが、男子校だろうが入れる気がする。
「うん、じゃああたしも行きたい」
そう言ってくれてホッとする。
俺たちは食べ終えた日替わり定食のお盆を片付けてから、そのまま一緒に羽丘女子学園へと向かうことにした。
× × ×
羽丘女子学園は俺たちが通ってる大学から自転車で数分の位置にある。
正確な位置は把握してなかったが、そこは川崎が場所を知っていたので迷うことなく到着することが出来た。
時刻を見てみるとちょうど五時間目が始まってそうな頃合い。
五、六時間目を使って新入生歓迎会をするって話だから、恐らくすでに生徒は体育館へ移動しているのだろう。
正門付近に生徒はおらず、静まり返っていた。
「どうするか、羽沢に連絡しても今は返信出来ないだろうし」
「だね。……ねぇ、あの子」
携帯と睨めっこしつつ川崎と相談していたところ、昇降口から出てきた生徒が大きく手を振っていた。
「おーい!」
俺たちは顔を見合わせる。
そして控えめに振り返した。
その生徒は目の前まで来て校門を開けると、俺と川崎の顔を覗き込むようにしてくる。
「ねぇ、あなたが比企谷さん?」
「お、おう。そう、です」
「そっかー、じゃあ二人がつぐちゃんが言ってた人たちだね!」
つぐちゃん、というのは羽沢のことで間違いはないだろう。
ってか、この顔どこかで──、
「あっ、パスパレ」
「おっ、比企谷さん! もしかしてあたしたちのこと知ってくれてるの? 嬉しいなー、るんってくるよ!」
氷川日菜、Pastel*Palettesのギター担当。
趣味はアロマオイルづくりだったはず。(小町情報)
日菜先輩、というのがまさかアイドルの氷川日菜だとは思わなかった……と一瞬考えたが、よく考えたら羽沢珈琲店にもパスパレメンバーの一人が働いてたことを思い出す。
「すご、本物じゃん」
「川崎も知ってるのか」
「今時知らない方が珍しいんじゃない?」
確かに。
ほんの数年前から活動を始めたにも関わらずみるみる実力を伸ばし、個人でもCMや雑誌取材、バラエティ番組の出演と数々の仕事をこなしているらしい。もちろんこれも小町情報である。
「えっと、じゃあ氷川、さん」
「あはは、そんな畏まらなくて大丈夫だよ! 比企谷さんたちの方が年上だし、気安く接してもらえれば!」
「そうか。じゃあ氷川、俺たち入っても大丈夫なのか?」
聞くと、氷川は俺と川崎の手を引っ張って中へ招き入れた。
「うん、問題無いよ。ちゃんと先生たちの許可も取ってあるから、早く行こ!」
俺と川崎は顔を見合わせる。
なんというかすごいフランク。
俺も川崎も人付き合いが得意じゃ無いから、これくらい積極的だと逆にありがたい……んだが、いやこれはちょっと近い近い良い匂い。
完全な偏見だけど女子校に通う生徒って男に免疫なくてこういう行為抵抗あるもんじゃ無いの?
俺が頭を振って煩悩退散に徹していると、氷川は俺たちに振り返り声を掛けてくる。
「ねぇねぇ、二人は恋人さん?」
「は?」
おおう、川崎さん。怖いです。
いやね、分かるよ。俺なんかと恋人に思われたく無いもんね。でもその露骨な反応は傷付くなぁ。
顔真っ赤にして氷川睨みつけたら可哀想じゃん。
相手年下だよ? ビビっちゃうよ?
自分がビビっているのを棚上げして氷川に目を向けてみるも、彼女は変わらずキラキラした目でこちらを見ていた。
「そっかー違うのか。てっきり二人一緒にきたからそうなのかなって」
「まあ、高校からの知り合いだからな」
説明にもなってない説明をすると、「ふーん」と受け流される。
そのまま無言が続き、昇降口で来賓用スリッパに履き替え、再び氷川に手を引かれる形で体育館へと向かうこととなった。
……あの、一人で歩けるのでそろそろ手を離してくれませんか?
ハチマン、ひとりでできるもん!
× × ×
「ちょっと遠いかもだけど、ここからで大丈夫そう?」
「ああ、視力はそこまで悪く無いからな」
「あたしも」
俺たちが通されたのは体育館の上にあるスペース。
卓球部が使用するエリアといえば伝わるだろう。
ご丁寧に二人分のパイプ椅子が設置してあった。
俺はちょうど入院中だったから知らなかったが、新入生歓迎会はレクリエーションをやるのか。
ただ我が校はこんな感じですよーって校長から大変ありがたいご高説を頂く場だとばかり思っていた。
……ん? 待てよ?
もしかして俺が高校でぼっち街道を突き進むことになったのは新入生歓迎会に参加できなかったからなのか?
違うか、違うね。
「もうすぐAfterglowのバンド演奏だから、そこに座って待ってて。あたしはつぐちゃんの代わりに司会しなくちゃだから戻るね」
「うん、頑張って」
俺が自分のぼっちの理由を責任転嫁している最中、歓迎会へ戻る氷川を川崎が見送っていた。
「比企谷、とりあえず座ろ?」
「ん、そうだな」
川崎に促され椅子に座って新入生歓迎会をしばらくの間眺めていることしばし、いつの間にか羽沢の司会から氷川へと変わっていた。
「新入生のみんな〜、楽しんでくれてる? それじゃ次が最後のレクリエーション、新入生も知ってる人はいるかな? Afterglowの演奏だー!」
歓声が凄まじい。
こっちまで熱気が伝わってくる。
俺の想像以上にAfterglowは人気があるようだった。
垂れ幕が上がり、中心に立つ美竹がマイクを握った。
「新入生の皆さんこんにちは、Afterglowです」
そして順番にメンバーを紹介していく。
その際、紹介されたメンバーは各々パフォーマンスをしていた。
「…………」
「──っ」
一瞬、羽沢と目が合った気がした。
気のせいかもしれないが、俺たちがここで見ていることを氷川から聞いていれば目を向けても不思議では無い。
やがてメンバー紹介が終わり曲紹介に移る。
「それでは聞いてください。『Y.O.L.O!!!!!』」
演奏が始まりギターの音が響く。
普段アニソンしか聴かない俺だが、これはあれだ……凄い。
安易な感想しか出てこなかった。
一瞬で観客を引き込む音色、新入生、在校生、先生達、全ての視線がAfterglowへと向けられている。
「……すごいね」
「ああ」
川崎の呟きに自然と答えていた。
高校生のバンドだからって甘く見ていた部分はあるが、とりあえず後で羽沢には謝罪しなくてはならないだろう。
そう思わせる力強い音楽だった。
俺は多分、この瞬間にAfterglowのファンになっていたのだろう。
× × ×
「あっ、比企谷さん!」
「ん、お疲れ」
新入生歓迎会が
「おっ、比企谷さんじゃないですか〜。えーっと、それと──」
「あっ、川崎沙希です」
青葉に続いて各々が挨拶をしていた。
上原の勢いに押されて若干引き気味の川崎を宇田川がフォローしている光景を見ていると、どちらが年上か分からなくなる。
少し離れたところからその様子を伺っていると、青葉が近づいてきた。
「比企谷さん、今日のつぐはどうでしたか〜?」
「ん、ああ……、よかった、な」
いきなり問われ、安直な感想しか出てこなかった。
青葉はメモを取るような仕草で追求を続けてくる。
「ほうほう、具体的には?」
「や、具体的って言われてもな……、バイトで見るより凛々しくてカッコよかった、的な?」
「なるほどなるほど〜」
その言葉を聞き満足したように頷く青葉。
そして羽沢のところへ向かい、止める間もなく先のやり取りを話していた。
すると、今度は羽沢がこちらへ近づいてくる。
心なしか頬が朱に染まっていた。
「その……、楽しんでもらえましたか?」
「お、おう……。楽しすぎて家に帰ったらAfterglowの曲を調べまくるところだったわ」
「ほ、本当ですか……⁉︎」
驚いたように声を上げる羽沢。
うん、嘘は付いてない。
事実、他にどんな曲があるのかとても興味がある。
「じゃ、じゃあ後で私の家に寄りましょう! CDあるので差し上げます!」
「良いのか?」
「はい、比企谷さんにはぜひもらって欲しいです!」
嬉しそうに微笑む羽沢。
その顔を見ていると俺の表情筋も緩んでしまう。
──可愛い。
「…………」
いやいや待て待て。
高校生相手にドキドキしてるんじゃねぇよ。
思い出せ、材木座の今期アニメの推しを熱弁する姿を!
……気分が悪くなってきたので速攻やめた。
あいつ、なんで夜中に電話してくるんだよ。しかもテレビ通話で。
おかげでこの前寝坊するところだったんだからな。
沸々と材木座への怒りが湧いてきたところで、教室の扉が勢いよく開かれた。
「ねぇねぇ、みんなで写真撮ろうよー!」
「良いですね!」
氷川の発言に上原が頷く。
「んじゃ、俺が撮ってやる──」
「何言ってるの? みんなで撮るんじゃん!」
言うと机を並べてカメラがちょうど良い高さに設置し始める氷川。
それを見てAfterglowメンバーは並び始める。
川崎も上原に手を引かれてその中に入っていた。
「比企谷さんもこっちに来てください」
羽沢が手招きしてくる。
川崎たちの視線も集中し、断ることは出来なさそうだった。
流石にここで断って空気を悪くするのも
「……ふぅ」
仕方なく輪に入り羽沢の隣に並ぶ。
「ふふっ、楽しいですね!」
「……ああ」
俺は未だAfterglowの演奏を聴いた高揚感が続いているようだ。
つい正直に言葉を返してしまう。
「もう少しみんな寄って〜」と言う氷川の声に皆が中心へと少しだけ集まる。
肩が羽沢に触れそうになった。それを気にして少し離れようとするもの氷川に咎められ動けなくなる。
「……よし。じゃあ撮りまーす」
カメラをタイマーにセットしたのだろう。
ボタンを押して氷川が川崎の隣に並び立つ。
しばらく待ちシャッターが切られる瞬間──、
「いぇーい!」
氷川がそう叫んでAfterglowはきちんと反応していた。
俺と川崎は引き攣った笑みを浮かべていたはずだ。
けれどきっとこれも後の思い出として笑い話になる、なんとなくそんな気がしたのは俺だけではないだろう。
だって──、
「比企谷さん、また私たちの演奏を聴きに来てくださいね!」
こうしてここにいる全員がもれなく笑顔なのだから。