やはり俺の大学生活はまちがっている。   作:石田彩真

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やがて比企谷八幡はハマりはじめる。

 青葉モカ、今井リサ、氷川姉妹と一緒にランチを食べ終えた俺は今井に誘われてRoseliaの練習を見学させてもらうこととなった。

 実際には湊……という女子高生の許可を経てからだが、今井は大丈夫だという。

 それで実際CiRCLE前のカフェテリアで自己紹介がてら湊友希那、宇田川あこ、白金燐子にあったわけだが──、

 

「…………」

「あ、あはは〜」

 

 今井が愛想笑いを浮かべる。

 ……いや、ほんとごめんね? 俺がうっかりスマホを出してホーム画面を湊に見えるようにしたばっかりに。

 

「……ふふ」

 

 かれこれ三十分くらい、湊友希那は俺のスマホをスクロールしてはうっとりと眺めていた。

 

「……にゃ〜」

 

 彼女は俺の知ってる猫好き──雪ノ下雪乃に負けず劣らずの猫好きらしいです。

 

 

 

× × ×

 

 

 

「……こほん。お見苦しいところを見せてしまったわ」

「あっ、いや、楽しんでもらえてなにより」

 

 俺が東京に引っ越してから小町が送ってくれてたカマクラの画像を全て見終わってから、ようやくスマホが返却される。

 湊はスマホを返すと、腕を組み改めて俺の顔へと目を向ける。

 

「…………」

 

 視線がぶつかり先に逸らしてしまった。

 なんか負けた気分。

 

「湊さん、そろそろ私たちの練習時間になります。中へ入りましょう」

「ええ、そうね。……比企谷さん、私たちの練習、ゆっくり見ていってちょうだい」

「お、おう」

 

 湊と氷川がCiRCLEは入っていくのに続き、俺が歩き出すと、背中をツンとされる。

 

「ねぇねぇ、比企谷さん。あこのおねーちゃんに会ったことあるんだよね?」

「ん? ……ああ、宇田川巴、だったか?」

「うん! どうだった? カッコよかった?」

 

 いきなり前のめりになりそう問いかけてくる宇田川。

 やたら距離が近い。

 

「そう、だな。……まあ、背が高くてカッコいいな」

 

 言うと、大きく首を縦に振り、自分のことのように喜んでいた。

 

「だよねだよね! うんうん、比企谷さんならそう言ってくれると思ったよ!」

 

 そんな宇田川を見て優しそうに微笑む白金。

 

「あこちゃん、……嬉しそうだね」

「うん! おねーちゃんのかっこよさが分かる人とは仲良くしたいもん!」

 

 どうやらは宇田川は姉のことが大好きらしい。

 そういや自己紹介でも姉に憧れてドラム始めたって言ってたっけな。

 

「りんりんも、比企谷さんと仲良くしたいよね!」

「う、うん。……せっかく知り合えましたし……話せるくらいには……なりたい……です……っ」

「……おう」

 

 白金燐子はおそらく人見知り。

 俺のサイドエフェクトがそう言ってる。

 いや、嘘です。ただ、なんとなくそう思っただけなんです。

 けれど実際、俺の予想は当たっていたらしい。

 

「おお、去年まではすごい人と話すのが苦手だったりんりんが男の人と仲良くなりたいって言ってる!」

「あ、あこちゃん……。改まって言われると……はずか……しい」

 

 ……………………。

 うーん。ここにも百合の花が咲いてそうですねぇ。

 

「あこー、燐子、受付終わったから、そろそろおいでー」

「あっ、……すみません。今井さん」

「今行くから待って、リサ姉!」

 

 「比企谷さんも早く!」と宇田川が俺の手を引っ張っていく。

 ……うーん、この距離感。

 今までも近しい人距離感の女子高生は何人かいたが、あれだな。

 この感覚は小町に近い。

 

「? どうしたの、比企谷さん?」

「いや、妹属性高いなぁ、と」

 

 首を傾げる宇田川。

 けれどすぐに氷川に呼ばれ、返事をしてCiRCLEへと入っていった。

 無論、手は繋がれたままである。

 

 

× × ×

 

 

 バンド演奏の音が鳴り止み拍手をする。

 こうしてさっきから一曲終わるごとに手を叩いてはいるが、なにも事務的にやっているわけではない。

 本当に、ただただすごいと感じていた。

 一曲一曲、これは練習のはずなのに、それを感じさせない力強い演奏。

 女子高生とは思えない迫力。

 圧巻の一言である。

 

「今日のあこたちもイケてるねー!」

「そうだね……あこちゃん」

「ふふっ、宇田川さん。常にこれ以上を維持できるようにしていくのよ」

「ええ、紗夜の言うとおりね」

「まあまあ、あこもそれくらい分かってるよね?」

「はい、もちろんです!」

 

 俺は立ち上がると、一度抜けてコンビニに買いに行った飲み物をRoseliaに手渡す。

 

「わっ、比企谷さん。良いんですか⁉︎」

「今日練習見させてもらったからな、これくらいは」

 

 言うと、あこが袋を受け取りみんなに配っていく。

 全員にお礼を言われるが、こういうのはどうもむず痒くなってしまう。

 ドリンクを飲みながら、先の演奏の評価を話し始めたので、俺は少し離れたところで様子を伺っていた。

 しばらくして終わったのか、今井が俺を手招きしてくる。

 

「比企谷さん。アタシ、クッキー焼いてきたのでみんなで食べませんか?」

「あ、ああ……」

「リサ姉のクッキーは美味しいんだよ!」

「そうなのか」

 

 わざわざ俺を迎えにきてみんなのところまで引っ張っていく宇田川。

 うん、やっぱり妹みたいなんだよなぁ。

 や、今日初対面だし、失礼なのは重々承知なのだが、この人懐っこさを見せられたら……俺みたいに思っても仕方がない。

 なので、と言うわけではないが、試しに頭に手を乗せてみた。

 そしてそのまま髪をゆっくり撫でつける。

 

「わっ、……ひ、比企谷さん、どうしたの?」

 

 うん、良い髪質だ。

 これはずっと撫でていたくなる。

 突然の俺の奇行にあわあわしてる宇田川と目に合い、ふと我に返った。

 

「あっ、や、悪い!」

 

 慌てて手を離す。

 見ると、周りの視線が痛かった。

 特に氷川は俺を射るように睨みつけてくる。

 

「比企谷さん、女性の髪にいきなり触れるのはどうかと思いますが」

「……はい」

「あなた、今日が宇田川さんと初対面のはずよね?」

「……です」

「それなら──」

「わー、ちょっと紗夜さん紗夜さん! あこは全然気にしてないですから! それにちょっと気持ちよくて、このままでいいかなー、とか思ってましたし!」

 

 氷川の真剣な怒りに、被害者のはずの宇田川は真剣に加害者である俺をフォローしてくれる。

 それをみた氷川は言いたいことをため息で吐き出すかのようにした。

 

「今度からはちゃんと宇田川さんに、許可を取ってから撫でなさい」

「えっ、紗夜、そこなの?」

「ん、そうします」

「今度があるの⁉︎」

 

 氷川に今井が、俺に宇田川がツッコミを入れると、和やかな雰囲気に戻る。

 氷川は空気を悪くしたことを謝罪したが、むしろ今のは全力で俺のせいなので、俺も謝罪した。

 

「悪かったな、宇田川」

「ううん、あこ、さっき言ったこと本当だよ? なんか比企谷さん、撫でるの慣れてるなーって感じだったし」

「比企谷さん、妹がいるものね」

「お、おう」

 

 なんで湊が知ってるんだ? と疑問が湧いたが、そういやさっきスマホ見てた時、小町が抱きかかえてたカマクラの写真もあったことを思い出す。

 

「へぇー、友希那さん。比企谷さんの妹さん、可愛かったですか?」

「そうね。かわいいと思うわよ」

「ああ、俺の妹は世界一可愛い」

「なんか、アタシの周り、そういう人多いなぁ……」

「? そういう人って?」

 

 宇田川の疑問に今井は苦笑いで返す。

 分かる。俺には分かるぞ今井。

 日菜を見たから尚更何を言おうとしたのか分かる。

 俺、宇田川、日菜をシスコンって言いたいんだろ。

 ……うっせ。シスコンじゃないやい!

 ただ俺の場合、小町のことが大好きなだけだ!

 これを口にすると、間違いなく「やっぱりシスコンじゃん」と言われるので控えることにした。

 

「……では、練習に戻りましょうか。比企谷さん、良ければ最後まで見ていってくださいね」

 

 氷川の声と共にRoseliaのメンバーはテーブルの上を片付けて、楽器の位置へと戻った。

 俺も椅子に座り、最後まで聞かせてもらうことにした。

 

 

 

× × ×

 

 

 

「…………」

「…………」

 

 現在帰宅中である。

 スタジオの時間が終了を迎え、みんなそれぞれ帰ろうとしたところで、俺は今井にこう言われたのだ。

 

『比企谷さん、もし良かったら紗夜を送ってあげてくれませんか?』

『えっ……』

 

 と俺は驚いたが俺以上に氷川が驚いていた。

 

『今井さん、私は別に大丈夫よ。いつもの道ですし、何も問題は──』

『まあまあ』

 

 氷川を宥めると二人が小声で会話を始め、それが終わると今井はとん、と氷川の背中を押した。

 

『……その、やっぱりお願いしてもいい、ですか?』

『えっ、あっ、や……まあ、大丈夫、だが』

 

 突然の心変わりについていけず、つい返答がしどろもどろになってしまった。

 で、現在こんな状況なわけだが──、

 

「…………」

「…………」

 

 気まずいなー、帰りたいなー。

 割と厳しめな説教を食らったから……と言うわけではないが、何を話して良いのかわからない。

 というか、なんで送ることになったのかがもっと分からない。

 

「……あの、比企谷さん」

「ん、なんだ……って、おい」

 

 ようやく口を開いてくれたかと思ったらいきなり頭を下げられる。

 

「その、先ほどは皆さんがいた中であんな態度……申し訳ありませんでした」

「や、だからあれは、確実に俺が悪いわけで」

「ですが、注意するにしてもせめてもう少しやんわりするべきだったと反省しています」

 

 なおも頭を下げ続ける。

 これは、どうしたものか……。

 俺はため息を吐く。

 

「……ほんと、頭を上げてくれ。でないと、俺は氷川に土下座をしなくちゃならなくなる」

「……土下座、ですか?」

 

 氷川がようやく顔をあげてくれた。

 

「おお、何も悪くない氷川が謝ってるんだ。なら、全面的に悪い俺はそれよりさらに深く頭を下げなきゃいけないだろ? つまり土下座以外に出来ることはないな」

 

 言うと、きょとんとした表情をした氷川だが、やがてクスッと微笑んでくれる。

 

「それは困りますね。では、私も謝罪はここまでにします」

「ん、改めて、俺も悪かった」

 

 今度はこちらが頭を下げる。

 これでこの一件は終了。

 俺が頭をあげると氷川は口を開いた。

 

「謝罪ついでに比企谷さんにお願いがあるのですが」

「ん、可能な範囲なら聞けるぞ」

「その……、日菜のことを名前で呼んでいるじゃないですか」

「そうだな」

「……だから、私も、紗夜って呼んでいただけませんか?」

 

 話の流れから予想はしていたが、やはりそうきたか。

 俺が喋ろうとする前に、さらに氷川は言葉を紡ぐ。

 

「あれです。日菜を名前で呼んでいるのに私だけ苗字なのは距離があるように感じるじゃないですか」

「や、でもあれは判別のためにだな……」

「つまり、日菜を氷川に戻し、私を紗夜と呼ぶことも可能、ということですね?」

「……ん?」

 

 確かに理屈上はそうなる。

 が、なんか違う気もしなくは無い。

 そもそもその提案は少し意外というか、氷川はイメージ的に……というか、実際にきっぱりしてるところがあるから、簡単に男に名前呼びを許す性格をしていないと思ったのだ。

 だから俺は、割とすんなり日菜を名前呼びするのを受け入れたってのもある。

 そのことを伝えてみると、氷川は頷いた。

 

「確かに、私は馴れ馴れしく名前呼びされるのは好かないです。ですが、比企谷さんがそんな方じゃ無いのは接していれば分かりますし、なにより"日菜"だけ名前呼びなのは許せません」

 

 ……これはあれだろうか。

 いわゆる負けず嫌い。

 俺の性格分類診断メーカーがそう告げてくる。

 これは雪ノ下雪乃と同類の反応だ、と。

 まあそんな診断メーカーは存在しないのだが、今の氷川の目が至って真剣で、ここで拒否するのも申し訳なく思ってしまう自分がいるのも事実。

 俺は息を吐き、ゆっくりと口を動かす。

 

「……紗夜、さん?」

「なぜ敬称をつけるのですか? 私の方が年下なのだから、呼び捨てで構いません」

「……紗夜、で良いか?」

「ええ、今度からはそのようにお願いします」

 

 そこから沈黙。足音だけがこだまする。

 正直氷川を紗夜って呼ぶのに慣れる気がしない。

 大学生になって年下の名前を呼ぶのに抵抗がない、って考えたけど、紗夜はなんか違う。

 というのも日菜の場合、あの明るさとちょっと突き抜けたとこが、良い感じに年下感を演出してくれてる。

 だが紗夜の方はどうだ。

 クールで真面目、高校の風紀委員をやってるらしいし、年下……というよりは同級、もしくは先輩くらいの雰囲気を纏っていた。

 だからちょっと心の中で復唱してみよう。

 紗夜紗夜紗夜紗夜。

 不意に紗々ってチョコレートを思い出した。

 あれ好きなんだよな、特にパリッとしている部分が。

 今度久しぶりにコンビニで買っておこうかと考えていると、俺たちの後ろからパタパタとかけてくる足音が聞こえてきた。

 

「おねーちゃーん!」

 

 そしてそのままそいつは紗夜に抱き付いた。

 咄嗟に振り返り受け止めた紗夜だが、思いの外日菜の勢いが強すぎてふらつく。

 俺がそのまま倒れそうになった紗夜をどうにか受け止めると、日菜は何を思ったのか俺と紗夜、二人まとめて抱きしめてきた。

 

「ちょっと日菜、急に抱き付いたら危ないでしょう?」

「えへへ、ごめんなさーい。帰り道で会えたのが嬉しくて!」

「……はぁ、まったく。家は同じなのだから、会えることくらいあるじゃない」

 

 あの、抱き付いたまま会話やめてくれませんかね?

 ほら、俺も巻き添えくらってるし、さっきのがあった手前、紗夜と密着してるこの状況から素早く抜け出したい。

 そう考えたのだが、日菜は首を少し傾けて口を開いた。

 

「ところで、なんで比企谷さんもいるの? ……あっ、もしかして二人──」

「待て、やめろ。それ多分何言っても地雷だからな?」

 

 以前の川崎のことを反省してないのかこいつ……と思ったが、あの時もさして気にした様子なかったな。

 メンタルが強いのか、人の機微に疎いのか……おそらく後者だろう。日菜の場合は。

 

「それより日菜、そろそろ離しなさい。比企谷さんが困ってるでしょう?」

「あっ、そうだった」

 

 そこでようやく解放される。

 

「えっと……、すみません」

 

 とりあえず謝った。

 

「? どうして比企谷さんが謝るのですか?」

「や、なんとなく」

 

 言うと、紗夜はため息を吐いた。

 

「なんとなく、で謝らないでください。そもそも今のは日菜のせいなので、私は別に大丈夫ですよ」

「そうだよ、今のはあたしが悪いから!」

「日菜は反省しなさい」

 

 言って、日菜の脳天に手刀を落とす紗夜。

 本当に痛いわけでは無いだろうが、「いてっ」と叩かれた部分をさすりながら日菜はなぜか喜んでいた。

 氷川日菜のM説が浮上した瞬間である。

 

「比企谷さん、ここまで送っていただいてありがとうございました。もう、すぐそこですし日菜と一緒に帰るので──」

「ん、了解」

 

 俺もそう提案する予定だったから丁度良い。

 しかし日菜の方は不満そうな声をあげる。

 

「え〜、比企谷さん、もう帰っちゃうの? うちで少し休めば良いのに」

「や、俺のアパートってそこまで遠く無いし、疲れても無いしな」

「でもあたし、もう少し比企谷さんと話したかったな〜」

「日菜、少し気になってたけれど、あなた随分比企谷さんに懐いているわね」

 

 それは俺も気になっていたことだ。

 初対面でいきなり腕を引いてきてそういうスキンシップが激しいだけの子かと当初は思っていた。

 が、今日は俺のパフェを理由はどうあれ俺が食べさせることになって、普通知り合って間もない相手にそんな隙を見せることはないはず。

 俺じゃなかったら、勘違いして告白して振られるレベル。振られちゃうのかよ。

 そんな俺と紗夜の疑問に日菜は少し首を傾げた。

 

「ん〜、なんでだろうなー。多分だけど、一緒にいて落ち着くからかな? ……ほら、おねーちゃんと比企谷さん、なんか似てるし!」

 

 言われて二人で顔を見合わせる。

 共通点と言えば互いに長男、長女というだけだ。

 それ以外は基本スペックは圧倒的に俺の方がボロ負けしていた。

 日菜は言葉を続ける。

 

「えっとね、なんか頼りになる感じ? ……こう、しっかり者、というか。……ごめん、あたしもよくわからないや」

 

 言って、日菜は自分の中で答えを見出そうとしていたようだが、結論は出なさそうだった。

 

「ふぅ、とにかく、日菜は比企谷さんといると楽しいってことで良いのよね?」

「うん! おにーちゃんがいたらこんな感じなのかなって、るんっ! ってするの!」

 

 そう言われて悪い気はしない。

 むしろ嬉しい。

 ただ、日菜が妹なら必然的に双子の紗夜も妹になるわけで、そうなったら俺は常に叱責されてる未来しか見えなくて震えてしまう。

 

「? 比企谷さん、どうされましたか?」

「や、そんな可能性がなくて良かったな、と」

 

 紗夜は首を傾げた。

 うん、俺は小町の兄でほんと良かった。

 適度に甘やかし、適度にいなされ、適度にごみいちゃん扱いされ……。

 大体、アメが二割、ムチが九割ってところか。

 全然適度じゃないんだよなぁ。……ってか、残り一割どこから出てきたんだよ。

 まあ少なくとも、頻繁に家事をやってるかの心配をしてくれてるし、家でぐうたらしてないかの心配をしてくれてるんだから、嫌われてはないはずだ。

 『お兄ちゃんがうっかり家で大事故起こしたら、こっちも面倒になるんだからやめてよね!』も、きっと心配から出た発言だ。

 ……決して蔑ろにされているわけではない!

 

「んじゃ、俺帰るわ」

「え〜、本当に帰っちゃうの?」

「日菜、比企谷さんだって大学やバイトで忙しいのよ。そんなわがまま良くないわ」

「ん〜、あっじゃあ──」

 

 言って日菜はスマホを取り出した。

 

「連絡先聞くのは良いよね?」

「まあ、それくらいなら……」

 

 こうして氷川日菜の連絡先をゲットした。

 今年に入って連絡先がどんどん増えていく。

 女子高生限定だけども……。

 確かこれで四人目か。

 

「ほら、おねーちゃんも交換しよ!」

「……そうね。日菜が迷惑かけたら、いつでも連絡してください」

 

 訂正。

 これで五人目だ。

 

「じゃあ流石に暗くなってきたし、そろそろ本当に帰るからな?」

「うん、なんか立ち話しちゃってごめんね?」

「比企谷さんも帰り、気をつけてください」

「ん、分かった」

 

 バイバーイ、と大きく手を振ってくる日菜に対し、控えめに手をあげる。

 今日も今日とても濃厚な一日だった気がするな。

 大学に入ってからの一ヶ月ちょっとで、高校時代の休日で外出した以上の外出をしたのではないだろうか。

 や、俺どんだけ高校の時家に引きこもってたんだよ。

 そりゃ、掃除の邪魔だって小町に言われても文句は言えないな。

 

「……コンビニで飯買って帰るか」

 

 昼の先送りにしていたコンビニ飯を夕飯として食べる決意をして、足を進める。

 今井から借りた音楽プレーヤーを取り出し、片耳だけイヤホンをつけた。

 今日聞いた曲名から一つを選ぶ。

 

「やっぱりすげぇな」

 

 自分でやってみたいとまでは思わないが、ライブハウスで聴く分には結構良いかもしれない。

 今まで聴かせてもらったAfterglow、ハロハピ、Roselia。

 そのどのバンドも俺の心を鷲掴みにしてみせた。

 正直、自分がここまでハマるとは思ってなかったくらいだ。

 俺はコンビニで買い物した後、多少リズムを覚えたRoseliaの曲を鼻歌混じりで帰路へと着いた。

 

 




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