達磨少女、拾われる。 作:大人しい子を甘やかし隊
人と機械の融合なんて、そう新しい技術でもない。
古くから機械の動力に人力を用いた事もある、150年程前から機械義手だってあった。小型の機体に人間を詰め込むのは寧ろ古い時代の考えだ。機械の中核に人間の力を用いる、ある種の荒技。
荒技であるが故のメリットも幾つかあったのだろうが、今の世界に求めるべくもない。詰まる所、私の視座ではこの少女、完全に犠牲者にしか見えないのである。
「……」
少女は黙ったまま私を見つめる。が、私も私で長い暮らしの中、音声出力ユニットが故障しノイズ程度しか発せないのだ。
……ここで私は何を血迷ったのか、機械の中に埋もれる少女に近付き、剥き出しのイカ腹を指で
「あ……あ……あっ……」
腹を押され、吐き出した息で反射的に少女からか細く声が漏れ出す。抵抗も出来ないと言うのは分かった。反射が生きていると言う事は、中身はまだ生身でもあるのだろう。
次に私は少女の頬を掴み、その眼を覗いた。
「んぎゅ……」
日に当たってないせいか色白だが、肌艶は問題無し。眼も特に悪くはない、紫紺の瞳と言うのは珍しいが。……私は奴隷商か何かか。
まあ、今からする事からして、大差はないな。
私は、少女を機械から取り出した。改めて見て、その少女の体躯はランドセルを一回り大きくした程度しかない事を思い知らされる。手足には袋の口を閉じる様に3本の線。間違いなく手術によって彼女の手足は奪われたのだろう。
「私は、売られるのですか」
取り敢えず、首を横に振っておく。彼女が何故あの盗賊団の拠点にあったコンテナから出て来たのか、彼女の身元はどこなのか。謎は多く、考えればキリのない事だらけだと思う。
けれど考えて足を止めていても、助言者が都合良く現れてくれる世の中でもない。だから、私のモットーは取り敢えず行動する事だ。言葉すら介せない以上、私はそうするしかない。
「なら、私は貴方の所有物となるのですか」
……少し迷って、首を振る。すると今しがた脱いだ私の服に身体を包まれ、顔だけ出していた少女は沈黙した。
私は、彼女の何となるのだろう。
私は私自身を知らずに生きて来た。どこか期待しているのだろう。
人として死に、ロボットとして今を生きる私が、彼女に意味を与えられる事を。
──彼は何も喋らない。
見た所、全身義体あるいは自律型のロボットであると推測されるが、観測された幾つかの有機的なリアクションは、人であった名残を残すものであり、高い確率で全身義体化された人間であると私は結論付けた。
彼は私の身体を調査し、何かを見定めると私を接収した。初めは私を売ろうとしているものと考えたが、彼は首を横に振る。それが正か偽か判断する材料は無く、私は仮定を用いて彼の動向を推察する。
彼は私を所有物としない意思を表していた。売らず、持たず。それはつまり、彼が私を物品的価値以外で評価していると言う事になる。となれば、機体に組み込まれていた『私』としての価値ではない所に価値を見出していると考えられる。
それは何か──つまりは人間のメスとしての価値だと判断する。
ごく稀に全身義体化を行なっても性的欲求が抑えられない存在が居ると言う事は研究所で見た事がある。具体的には研究室で生殖行為を行う全身義体の研究者が居た。
私には与えられた命令として、機体運用に当たり任務の的確な遂行と自己保全を全うする必要がある。私が破損する事は、会社の損失並びに信用の失墜に繋がる。
私の知識に残念ながら生殖行為の知識は無い。私が破損を回避する為には、彼を満足させる必要があると考えられるが、それを実施するには彼から何としても情報を聞き出す必要がある。
「貴方の陰茎は何cmですか」
──ガン!
そう言うと、片手で私を抱き抱えながら二輪車を走らせる彼が頭をハンドルに打ち付ける。私は手足が排除されている為、彼のズボンに手を入れ確認すると言う方法は取れない。故に聞く事にした。
しかし彼の反応は意味不明だった。何故彼は頭をハンドルに打ち付けたのか。彼は何故、スリット型のカメラアイで私を凝視するのか。
「私は貴方の陰茎を受け入れる為の……んぎゅ」
二輪車を止めた彼が私の頬を引っ張る。──痛い。
最後に痛みを感じたのは、いつだったか。
「わらひは、あならのなひになうのでふか」
何故か、私はこんな質問をした。これから性欲の捌け口となる事など予想出来ていた筈なのに。
すると彼は凝視をやめ、一度ある場所を見つめると、私の頭を乱暴に撫で回し始めました。──痛い。
私も横目でその先を見ました。
そこにあったのは、旧世界では子供達が集団で教育を受けていたと言う施設……『学校』。
分かりません。私は何になれば良いのでしょうか。彼は私に何を求めているのでしょうか。
分かりません、分かりません。
どうして、教えてくれないのでしょうか。
その目は、私の何を見ているのでしょうか。
その訳は終ぞ、彼の拠点と思しき場所に到着するまで分からずのままでした。
私ん取り巻く環境が1日にして何もかもが変化してしまったと理解したのは、急な眠気に襲われ、目覚めた時です。
目覚めた時、彼はベッドの隣でその無骨なデザインに相反したピンク色のエプロンを身に付け、何らかの赤い果実の皮を小さなナイフで剥いていました。
私を見た彼は数回、目の光を点滅させました。それは一体、どうの様な信号なのか。私には理解出来ませんでした。
ただ、研究所で与えられて来た何もかも決まり切った生活は、もう訪れないと理解しました。
訓練の成果も、試験の合否も、何の理由もなく──ただ無償で食糧を差し出す彼の姿を見て、私は何かが変わり始めた事に気付いたのです。
2話を消した理由については、シンプルに「思ってるのと違う」感があったのと、ペラペラ喋る主人公はやめた方が良い気がしたからです。と言う事で設定の相違は
・主人公無口化
くらいです。混乱させる様な形になってしまいましたが、今度はこの方向性を守って進めていくつもりですので、宜しくお願い致します。