天井裏から見る世界   作:鞍馬エル

19 / 39
片手の爪が全損して片足を壊したので番外編です


 潜む刃

 人は何を以って正常と定義するのか?

 

常識とは何か?

強さとは、弱さとは?

 

 

私はいつも疑問だった

多様性を声高に叫ばれる様になった今日(こんにち)においてもなお区別(排除)は行われる

 

集団心理とはとかく残酷なものだ

 

 

様々な考えを持つ人間が一つにまとまる方法として最も有力な方法として挙がるのが『共通の敵』を作る事であろう

 

 

グループ内の連帯感を生む

 

その為に、時に人は仲間内からも新たに()を求める

 

 

 

さながら椅子取りゲームの様に少しずつグループの保持を名目に人を切り捨てる

敵が居るから団結出来る。ただそれだけの為に

 

ならば常に敵を作り出す事で自分は多数派となる(被害に遭わない)

本来、人と考えなどが違うのはおかしな事ではない

しかし、それを許容出来ない集団心理というものもまた存在しているのだから、救えない

 

誰しもが明日もその席に座り(多数の中にい)たいと渇望する

敵が居なければ本来なら好ましいはず。だがそうなってくると、グループ内でも線引きが行われてそれから弾かれた者が槍玉に挙げられる事もあり得てしまう

当然それを受け入れたくない者は自身の代わりになる生贄を求めるだろう

 

 

嗚呼素晴らしきは人の醜さよ

その結果、集団から弾かれた者の末路など弾いた者達が考えるはずもない

自分達は笑い合う

 

その下で必死にもがく者の事など考えもしないのだから

 

 

 

 

それ故にある意味でこの騒ぎは男にとって好機であったとも言えるだろう

 

 

----

 

 

 

 

彼はいつも通りに買い物に付き合わされていた

 

断っては中々に鬱陶しい事になる事は疑いようのない事であり、内心顔を顰めながらもへらへらと笑う事で他人(自分)を誤魔化していたが

 

幸運だったのは、彼に色々とする連中は『金を要求しない』。その一線を超えない事で『友人同士のふざけ合い』という体裁を維持できるのだから

こう言った連中に多いのが『外面(世間体)だけはしっかり整える』という事

そうする事で見逃している連中にも大義名分(言い訳する余地)を用意するのだ

 

そんな事をする人には見えなかった

 

誰しも好んで火中の栗を拾う(トラブルに巻き込まれたい)などごめんだろう

 

知らなかった

気づかなかった

 

自分は加害者でも傍観者でもない

寧ろ被害者なのだ

そう周囲の者に思わせようとする無意識下の動き

 

 

まぁ、実際問題として虐めなどに遭遇したとして本当の意味での解決など残念ながら果たせるはずも無いのだが

 

被害者に寄れば、その線引きが主観的なものになってしまう為に解決するとなるととんでもない事になる事もあり得る

転校などの場合は明らかに双方に対する負担が大きくなる上に、転校先でも起きないという保証はどこにもない

 

加害者に寄れば大問題となる。最悪自殺でもされて発覚したとなれば監督者の責任問題になるだろうし当事者のみならず親すらも批判に晒される可能性も出てくる

さりとて真にその様な事をしている者達とて『ふざけ合っていた』『相手もやり返してきたのに』とでも言えば事態の穏便な解決など不可能となる

自分の子供を傷つけられて怒らない親や自分の子を信じない親というのは中々いないのだろうから

 

 

とは言え、だ。勿論している側のそういった事や周りの動きというのは意外かも知れないがされている側はしっかり見ている。自分に危害を与える者のみならず、『知っていて傍観する者』や『手を出さないまでもそのグループにいる者』など

だからこそ、その立場が逆転する事をしている側や周りにいる者達は無意識に恐れるのだ

 

報復される可能性は決してゼロではないのだから

 

 

肉体的にダメージを与えるとしても、そういった連中は露見する事を恐れて見えない部分を狙う

それか目に見えない部分、精神的な痛みを与える事にシフトするだろう

 

 

 

 

 

しかし、である

やられている側は耐えているだけであり、決して平気な訳ではない

 

何かの決定的な変化があればその瞬間に牙を剥く事も充分あり得るのだ

 

 

 

 

----

 

 

 

どうやら妙な事になった

 

男は困惑しながら、人だったモノを単管パイプで殴り飛ばした

偶々ホームセンターに居たから長モノには困る事はない

男の行動を見て、顔を青くしていた連中も思い思いの武器を持って抵抗しようと動き出す

 

そんな中で未だに顔を青くするだけで動かない者も数人いた

その数人の中にはグループの中心的な者もいる

 

お疲れさん(・・・・・)

男はその者達が辿るであろう末路を想像して、嗤った

 

 

 

何とか安全を確保した男達だったが、男は見張りを買って出る

男が率先して戦った事にある程度の評価をしていた現在のリーダーとその仲間たちはそれを認める

 

 

そして現在のリーダーは

 

戦おうともしなかった者達(役立たず)についてどうするかを決める。

男を排斥していたグループは男女問わずのグループであり、そのリーダー格の人物はグループカースト上位の女性と付き合っていた

更にその女性のそばには彼女の友人が多数おり、彼女達は具体的な行動をする事なく立場を手に入れている

 

 

グループリーダーの彼女と近いという理由だけで、切り捨てられる危険のない立場に居られる

当時男を物理的に害していた現在のリーダー達からすればグループリーダーやその彼女やそれにくっついて安全な立場にいる連中の行動。それは間違いなく嫌悪するに足るものでしかなかった

 

とはいえ、彼等に逆らってはグループ全体が敵に回る可能性は高い

それでは面倒な事にしかならないから従っていただけである

 

 

それと手頃なサンドバッグ(八つ当たり出来る的)があるというのは中々ありがたい事でもあったのは確かなのだ

 

 

 

しかし状況は変わった

その為、現在自分達を守る為に戦っている男と何もしないで無為に時間を過ごす複数人であれば

 

前者に重きを置くのは仕方のない事だろう

 

そしてリーダー達は混乱に乗じて()リーダーらを始末。人数こそかなり減ったものの、全員が戦ってでも生き延びようとする者達

何ら問題はなかった

 

だが、人数という最大の武器を失ったのも事実

 

 

その為巨大なショッピングモールという部分を活用すべく、生き残りを探す事にした

男性であれば、生き延びる為の努力や才覚を

女性であれば、いざという時(・・・・・・)役に立つ者を

 

役立たず(穀潰し)などいるだけ邪魔にしかならない事と、かつてのリーダーやその周りにいた女性達の様な連中と関わり合いになりたいと思わなかったが故の判断だ

 

 

前者は剣道の有段者であるオヤジ

後者は見た目も良く、程良く抵抗しそうな女を2人彼等は幸運にも確保(・・)できた

 

オヤジは役に立てば前衛に

役に立たなくなったとしても肉壁に

 

女2人は『今日の晩に壊す』女達の次に

ないとは思うが、もし仮に飽きてしまったとしても他の生き残り達との交渉に使えるだろう

 

という実に彼等からすれば合理的な考えだ

 

 

----

 

 

男はそんな馬鹿らしい(・・・・・)考えをオヤジにも仄めかしているリーダー達(馬鹿ども)を止めるつもりなどない

 

(このオヤジ多分逃げるな、こりゃ)

男はこんな状況下でも

 

下らない倫理観や情で動くであろうオヤジを心底疎ましく思った

 

だが、それも好都合だ

このショッピングモールで停滞した生活を送られるのは男にとって不都合でしかない

男は自身を虐げてきた元リーダーの死や取り巻きの女達の送るであろう凄惨な最期については寧ろ内心では喝采の声すら挙げている

 

 

だが、まだ目の前に始末すべき連中が残っている

 

しかし、ショッピングモールで安定的な生活を送るとなると、男が付け入る隙が中々見つからない事になるだろう

それでは困るのだ

 

 

 

ならば、オヤジのやりたい様にさせる事で彼等が獲得した『手頃な獲物』(美紀と圭)を何処かへと逃させる

そうすれば、このショッピングモールで自重しない彼等の事だ

 

 

次の獲物を求めて外に出る事だろう

 

そうならなければ、自分が少しだけきっかけを与える(背中を押す)警察署(武器のありか)なり、聖イシドロス大(新しい獲物のありか)なりを教えよう

そうすれば既に暴力や快楽に歯止めの効かない連中の事だ

 

 

さぞ無様に踊ってくれるだろう

 

 

----

 

 

オヤジが予想通り、女2人を連れて逃げた

 

既に欲望を遠慮なくぶつけられる連中は死んでいる

(今日くらいは我慢して探し回るかも知れないな。明日あたりに提案するとするかね)

 

男はオヤジの勝手な行動に怒るリーダー達を他所に次の方法を考えた

 

 

 

----

 

かつて男をグループで排除してきた者達の生き残りは、ある部屋に軟禁されていた

 

鍵はかけてある

が、破ろうと思えば道具などを使う事で破る事は決して不可能ではない

 

此処にいるのは女性ばかりであり、皆恐怖で動けなかった

 

 

彼女達のリーダー的な人物の彼氏。彼は彼女達の目の前でグループのメンバーだったはずの男3人に殴り殺されている

その恐怖と、変わり果てた環境にゾンビ達

 

それは目に見えない鎖となり、彼女達を縛っていた

加えて希望的な観測に過ぎないが、彼女達は生かされている

 

 

つまり、利用価値がある(・・・・・・・)という事に他ならない

彼女達としては生き残る為であれば、多少(・・)の不条理くらいは受け入れても良いと考えるしかなかった

 

 

ところが、である

 

次の日になって現れた3人は先ず泣き喚き抵抗を続けるリーダー格の女性を有無を言わさず殺したのである

そして

 

俺達のいう事を聞かないってなら、こうなる

 

と宣言した

 

彼女達は必死になって助かろうとする

明らかに異常な彼等だ。何をされるか判ったものではない

 

そして

扉の向こうにいる人物に一縷の望みをかけて声をかけた

 

助けてよ!

 

 

 

だが、男は苦笑いすると

 

ま、別に俺はとめないけど後腐れない様(・・・・・・)にな?

 

と邪悪に嗤い、扉を閉めた

 

 

 

----

 

 

女達は助けて欲しかったみたいだが、知った事ではない

 

助けを求めたからと言って助けてくれる

そんな事は現実であり得る事の方が稀なのだから

 

 

 

 

これでようやくある程度の形になった

そう男は安堵した

 

勿論全員ではないが、流石にこの状況でもれなく殺し切るなど不可能だろう。ならばある程度で妥協しなければならない

 

 

男としては昨晩あの2人に手を出さなかったリーダー達に忌々しさすら感じていたが、危機感を持っているだろうオヤジに彼女達が迎えるであろう未来をそれとなく伝えておいた

 

男は相手からすればリーダー達の手下であり、それに不満を持ちながらそれでも従っている輪に入る事のできない人物

そう見える様に振る舞ってきた

 

今自分達がこうしている間が最後の機会(チャンス)であるとそれとなく伝えたので、逃げる事を選ぶだろう

 

 

 

…実に滑稽な事だ

 

正しさなど

優しさなど

 

誰も助けはしないというのに

 

 

 

----

 

 

 

 

 

 

あれから暫く後、警察署によって武器調達を済ませたリーダー達は予想通り、更に粗暴な振る舞いとなった

 

ま、少ないとは言え拳銃というある意味絶対的な武器があるのだ

当然かも知れないが

 

 

そしてラジオ放送をやっていた変わり者を手にかけたり、見つけた生存者を慰みものにしたりと奴等のブレーキはついに壊れた

 

それでもどうやら俺は奴等からすれば『従順に従う手下』として重要らしく、今までの中では1番マトモな扱いを受けているのだから笑えない

 

 

こんな状況下なのに

…いや、こんな状況だからこそ、か

 

 

とりあえず奴等が何をしようとするときは周囲の警戒をする

 

此処まできて、ゾンビなどになってもらうわけにはいかないのだから

 

 

 

 

 

そして大学に着いたわけだが、予想通り何者かが拠点にしているらしい

 

 

 

車で突っ込むか?

 

破れんのか?それで

 

 

(…おいおい、この車はそんなに装甲が厚い訳じゃないんだが)

車内での会話に俺は冷や汗をかく

一部の特殊車両ならともかくとして、今俺達の乗っているのは一般に流通している車

仮に突破出来たとしても中身(俺達)が重傷になってしまえば何の意味もない。こちらは火力で優越しているのだから、無理をする必要は全くないのだ

 

 

 

----

 

お、俺が行くよ

門なんだから、内側に行けば開けられる筈だ

 

危なくねぇか?

 

…いや、ならこの車の上に誰か乗って援護すればいける、か?

 

 

この集団の中で1番立場が下の男の発言にリーダーは少し考えると

 

 

…任せる。が、心配すんな

しっかりと援護してやる。開けたら直ぐに突入して制圧するぞ

 

と今後の方針を決めた

 

 

 

----

 

それは突然の事だった

 

 

此処聖イシドロス大学はランダルコーポレーションが『重要拠点』の一つとして定めていた場所であり、元々大学という事もあってか各種インフラが大学内で独立運営出来るレベルの規模を持っていた

 

…無論、それでも大学内の人員全てを想定している訳ではない

あくまでも『ランダルコーポレーション関係者』や『施設責任者』などのごく一部を生存させるだけのものでしかなかったが

 

しかし、『緊急用マニュアル』を用意したところで実際それに思い至る関係者がどれだけいて、尚且つそのマニュアルを置いてある場所まで到着出来るか?

という肝心要の部分が抜け落ちていた。そう言える程度のものでしかない。そのマニュアル自体の存在を忘れている教職員が多く、そもそもの話として人為的災害をランダル社が起こしたなどという荒唐無稽な話を受け入れられるはずも無い

故にマニュアルの存在を知っていたとしても、この災害についてのマニュアルなどと誰が思おうか?

 

 

事実、巡ヶ丘高校や大型ショッピングモールにおいてもランダルの緊急用拠点という役割を果たしているとは言いがたい

巡ヶ丘高校には生存者がいるにはいるが、そこにいるのはランダル社が『切り捨てる立場』として定義している筈の一般生徒

校長はあまりの非情さに耐えかねて自ら命を絶ち、唯一残っている教員も寧ろ生徒達に全て任せている始末

 

それは此処聖イシドロス大学においても例外ではなく、各種インフラが未だに動く事を理解した一部の学生達が生存圏として活用しているに過ぎない。ランダル社が欲している『生体サンプル』や『各種データ』については無いに等しい状況だった

 

 

更に本末転倒であるが、この人為的災害を引き起こした当事者であるランダル社とて、その機能を喪失している

 

オマエ何やってんの?

 

そう言われても仕方のない有様である

 

しかも、早期に該当地域を隔離するなりすればまだ(・・)どうにかなったにも関わらず、完全に後手に回った結果制御不能の大災害となったのだから笑えないし、救えない

 

 

 

他の場所に比べて安全が確保しやすいから、留まる

その程度の認識しか誰も持たないのである

 

もし仮に、マニュアルを読んだ者がいたとすればマトモで居られるはずもない

下手をすれば発狂からの皆殺しすらあり得る

 

 

 

そんな危うい状況の中でも生きている者達はいる

 

 

 

何だ、アイツら!?

 

くそっ!門のそばに車をつけて乗り越えてきやがった!?

 

落ち着け!まだ何とかなるはずだ!!急いで向かうぞ!

 

 

 

そうして、最後の幕は上がる

 

 

 

 

 

----

 

 

さてさて、邪魔者は全部消したし此処にいるのは『都合の良い幻想』に逃げ込む事を良しとした連中ばかり

ま、慌てる事はないか。待つのと耐えるのには慣れてる

 

男はリーダー達と大学を守っていた学生達を皆殺しにして、『穏健派』と呼ばれていた者達に会った後、彼女達の生活スペースから正反対のところで密やかに生活を始める事にした

 

 

 

なお、男は救助が来た際に自ら命を絶った

 

 

全ては夢、か

そう呟いて、自らの頭を撃ち抜いたと救助に来た自衛隊員は報告書にて記述している

 

彼が何を思い、命を絶ったのか

何一つわからぬまま一つの事件は終わりを告げたのである

 

 

 

 

 

 

 

 




みーくんと圭に『色々しようとした』グループのお話

信用も信頼も男には無かった
実はリーダー達から信頼されていたのだが、彼がそれに向き合う事は最後までなかったと言う救いの無い、良くあった話

湿度マシマシのIFルートりーさん見たい?

  • 見たい
  • 怖いから勘弁
  • ジェジェノサイドでなければ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。