天井裏から見る世界   作:鞍馬エル

9 / 39
 出来たには出来たが、病み成分が不足している様な気がする


おかしい
そろそろくるみをおぎゃらせる片鱗くらいは出てくると思ったのに(無計画な極み)

それでもよければ、どうぞ


 おれ(わたし)のせかい

 新田治孝にとっての世界は余りにも小さい

 

彼の世界の中心は若狭悠里であり、彼は添え物に過ぎない

おかしな話だと誰もが声を揃えて言うだろう

 

が治孝にとって若狭悠里以上のものはなく、それ以下のものばかりだったのだ

 

歪という事なかれ

その閉じた世界が彼の全てだったのだから

 

 

 

そんな彼の世界が生き延びる為に天井裏が中心となったとしても、その世界に拡がりはない

 

天井裏から見える景色だけが、彼が見た世界の全てだった

 

しかし、悠里がいない事で

 

悠里を探す

という目標があったから、彼は外を見た

そして彼の世界は少しだけ拡がりを見せる

 

 

 

しかし、学内に悠里がいたと知った瞬間、広がり始めた世界を治孝は閉じて悠里の為だけに動き始める

 

 

勘違いしてはならないのは、若狭悠里という少女が願うのは新田治孝という少年からの献身ではなく、寧ろ治孝の世界を広げる事で彼と共に悠里は様々な事をしたいと願っている

 

 

極端な話

若狭悠里は彼が居なくても彼女自身が生きていこうとする意思さえあれば、生きていける

 

が、治孝はそうではない

治孝は自身の命よりも若狭悠里の幸せを上に置いている

 

その癖、彼自身が悠里を幸せにする

という考えは完全に抜け落ちており、悠里『のみ』幸せであれば良いと本気で考えているのだ

 

 

幾ら悠里が彼を想おうとも、それが彼に伝わる事は、ない

 

 

壊れたくない、死にたくない

そう彼は思っているが、それは死が恐ろしいのではなく

悠里を守れないから

 

という独善的な考えによるものでしかない

 

 

幼い頃の悠里にとって、治孝が救いであった様に

学内でも社会ですら孤立しがちな治孝にとって悠里こそ救いだった

 

 

しかし、悠里と治孝には決定的な違いがあった

悠里は治孝に寄り添う為、努力をした

 

治孝の為という大凡健全とは言えない理由であっても、悠里は自分を磨く努力を怠らなかった

治孝も努力はした

 

しかしそれは、若狭悠里という少女を助けるための努力であって、彼自身に対して決してプラスにはたらくものではなかったのである

 

 

 

他者の為に命すら擲つ

なるほど素晴らしい話だろう

 

 

だが、自分すら大切にできない者が本当に誰かを大切にできるものなのだろうか?

 

 

人と関わる事を辞めた治孝はそれに気付く事はない

既に彼の走る道は他人の道から大きく逸れすぎていたのだから

 

 

 

----

 

 

治孝は諦めた

 

こんな手で、悠里に触れる事は出来ないと

彼女を(けが)してしまう事を何よりも誰よりも新田治孝は恐れる。自分はもう昔悠里と一緒に笑い合っていた頃に戻る事は決して出来ないだろう

 

泣きたくなるくらい、嫌だ

全てを投げ捨てたくなるくらい、悲しい

 

 

でも

 

 

それでも

 

新田治孝という男にとって若狭悠里という女性(・・)は大切で大事なものなのだ

 

 

ありきたりな表現であるが

 

もし世界中が悠里を非難して、彼女を否定しようとも

自分だけは最期まで彼女の事を信じて、あの時の誓いを果たそう

 

弱い自分であっても、変わり果てた穢れきったこんな自分であったとしても悠里の為にできる事を最期まで探すのだ

 

 

 

悠里さえ笑っててくれたなら、どれだけ自分が惨めになったとしても幸せなのだ

穢れ切った自分が悠里に愛される事は、もうない

 

醜くても、愚かでも良い

 

 

それでも自分(新田治孝)は今此処にいるのだから

 

 

彼はそう覚悟を決めて、バールと木刀を持つと1階(地獄)へと向かう

今はまだ昼過ぎ

 

彼らの行動が活発な時間だ

 

 

だからどうした?

それがなんだ?

 

 

悠里の未来(明日)を邪魔しようとするのなら、治孝はおににでも修羅にでも、悪魔に魂を売り渡しでもしよう

 

 

それだけが彼女に自分がしてあげられる事なんだから

 

 

 

 

----

 

結局、今日は集積してあった物資の確認に時間を費やす事になってしまった

 

(上手くはいかないわね)

私は内心の苛立ちを何とか外に出さない様に努めながら、物資の確認作業をしていた

 

菓子パンとかはまだ日持ちするみたいだから、後にしろよ?ゆき

 

ええっ!これだけあるのにぃ!?

 

ゆきさん。くるみさんの言う通りです

流石に冷蔵庫とかはないのですから、日持ちしない食料を優先的に使わないと腐ってしまいますから

 

…腐らせたら、腐らせたで肥料にならないかな?

りーさん、ダメかなぁ?

 

くるみとゆきとあの女が珍しく建設的な話をしている

くるみは割としっかりしているし、ゆきもなんだかんだで芯がある。が、あの女までそれであるのは少し困る

 

うーん、肥料にはなるかも知れないけど相当時間がかかると思うわよ?

 

…ダメ、かな?

 

育てているのがもう少し足の早いものならよかったのだけど、ね?

 

 

流石にこんな状況が起こると想定していないから、飢餓対策のサツマイモやジャガイモなんかは植えていない

 

…どうにも学園側か経営者であるランダルコーポレーションはこの様な事態を想定していた様に思える

余りにも屋上付近に設備が整いすぎているのだから

 

 

どこの学校が屋上にシャワー室を設置すると言うのか?しかも明らかに屋上にある貯水タンクだけとも思えない

くるみと私は水の事を心配して貯水タンクを見てみたのだが、この状況にあっても

 

何処からか水は補給されているらしく、その水量を維持していた

 

 

更に屋上に太陽光パネルがあるものの、初日は晴れていたがここ2日程は曇り空

となれば、太陽光発電が機能しているとも考えにくい

 

 

それに購買部で売っていたと思われる商品にも違和感がある

 

 

新品の電気ケトル

普通に学校に必要のあるものか?と問われたなら首を傾げるだろう

 

備品としてなら分かるが、何故購買部で販売する必要があるのか?私には理解出来なかった

だが、この状況を想定(・・・・・・・)しているのであれば話は全く変わってくる

 

 

ガスは非常時に使用するにはあまりにも危険極まるものだ

万に一つでもガス管などに損傷があった場合、そこよりガスが出てしまう

そうなって気付くのならば良いが、そうでない場合火花一つで大惨事になるだろう事は想像に難くない

 

最近流行りのIHを使えばガスの代わりになるだろうが、当然それ相応の場所と設備が必要にもなる

だが、電気ケトルならば無事なコンセント一つと水さえあれば問題は解決するのだ

 

 

用途こそ限定的だろうが、電気ケトルの利便性は高いと言って良い

 

 

手間暇を考えなければ、ケトル一つでもお風呂を沸かす事すら可能になる(なお温度)

熱湯というのは調理のみではなく、消毒に攻撃手段としても有効だ

 

 

戦国期において籠城側の攻撃手法として熱湯を浴びせるという方法があったくらいな訳で、その有効性は保証されているといえるだろう

勿論彼らに通じるわけではないが、何もこの極限状態においての『敵』とは彼らのみであると思うほど悠里は夢見心地の少女ではない

 

(最悪の場合も想定しないといけない、でしょうね)

今はまだ自分達の生活拠点の中心が屋上であるから、良い

雨が降らなければ、まだ暑くも寒くもない時期である以上そこまでの不都合を感じる事はないだろう

 

が、人間とは良くも悪くも慣れる生き物

 

 

極限状態にあるからこそ自制できているだけであって、仮に以前の生活水準に生活レベルが戻せる。そうなった時にどれだけの人間が今の不自由さのままの生活を選べるだろうか?

 

人は闇を恐れるが故に火を使い闇を追いやった

火はやがて電気による人工的な光となり、人はいつしか夜の闇に恐怖する事を忘れてしまう

闇というのは恐怖なのだ

見えぬという『未知』そのものと言っても良い

であれば、自分達とて校舎内での生活を過ごすとなれば意識しないと直ぐに『光に頼る』だろう事は間違いない

 

だが、『誘蛾灯』というものがある様に、光とは生物を引き寄せてしまう効果をも持つ

果たして(文明の息吹)を見た周囲の者が此処を目指さない理由があるだろうか?

ましてや高校となれば、そこにいる者が高校生と容易に想像できるはず

 

 

性の捌け口として格好の的になる年齢だ

仮に教師がいたとしても、少し知恵が回るならばどうとでもなる

 

 

 

安全で文化的な生活を送れて、しかも労力と運が良ければ欲望の発散も出来る

そう考える者が居ないとは思えない

善性の人間はおおよそこの3日間の間で命を落としていると考えるべきだろう

 

今生き残っている者達はどう言い訳しようとも

 

見知らぬ他人よりも、自分や自分の周りを優先した者達ばかりなのだから

 

 

 

本来こんな潤沢な物資を手に入れる事自体が破格なのだ

私も含めたこのメンバーはこの幸運をもう少し噛み締めるべきだと思いながら私は確認作業を続ける

 

 

 

ねぇりーさん?

 

どうしたの?ゆきちゃん

 

うん。これだけあるんだから暫くはくるみちゃんとりーさんも危ない事をしなくて良いんじゃないかなぁって思うけど、どうかな?

 

うーん、それは少し危ないと思うわね

確かにこれだけあるなら籠るには不足しないと思うのだけど

 

ゆきはやはり私やくるみへの負担を重く受け止めている様で、休むべきと言ってきた

頷きたくはあるが、そうもいかない理由もあるのだ

 

いや、ゆき。それじゃ危ないと思う

何よりあたし達が解決しないといけないのは、誰がこれを何の目的で用意したのか?だと思うんだ

 

…確かに。これだけの量があれば、大人数でも暫くは心配しなくて良いはずですから

 

くるみとあの女も意見を出す

 

 

私の個人的な考えだけど、幾つか可能性があると思うの

一つは安全圏にいるであろう私達の好意を勝ち取って、この屋上に問題なく合流しようとしている可能性

この場合なら、完全に信用できないとしてもある程度信用して良いと思うわね

一つはバリケードの前、つまり屋上に私達生存者がいる事を確信した上で、3階あたりに自分達の縄張りを作ろうとしている可能性

此処にある物資は有限よ。対して仮に拠点を作ろうとしているなら相手は外に出るのも留まるのも自由にできるし、私達の監視も出来るわ。彼らについては私とくるみが昨日ある程度倒しているし、後の事も考えて出来る限り教室内で彼らを倒さない様にしていたから拠点を作るのも楽でしょうね

 

もし、今言った二つ目ならどうしてアタシらに食料を渡したんだ?って話になると思うけど

 

簡単な事よ

これだけの物資があると、どうしても私達も意識しなければ気が緩む。もしかしたら、節制する事を忘れて食べ切ってしまうかも知れないわ。そうすれば後に待ち受けるのは『飢え』よ

1日や2日なら耐えられるでしょう。けどそれが1週間にもなれば体力もけずられるでしょうし、精神だって間違いなく消耗する

そうなる前に私達は行動しなくてもならない。そうなってからでは何も出来ないのだから

 

あー、そういう事か

そこを待ち構えればって事かよ

 

くるみは理解した様で嫌悪感を滲ませる

 

可能性としての話だけどね

 

仲良く出来ないかなぁ?

 

難しいでしょうね。何せこちらは女子3人と女性1人

仮に捕まったとしたら、碌なことにならないと思うわ

 

…想像したくない未来だな、それ

 

……

 

ゆきの発言に反論するとくるみはそれを想像したのか顔を嫌悪感に歪ませ、あの女は顔色を悪くしている

 

 

あくまで籠城側する側が勝利する最低条件は『外部から援軍が来る事』なのよ。それが物理的なものか、或いは相手の補給が切れるかの違いはあるでしょうけどね

ただ籠城するだけなら精神が疲弊し、食料や時間をいたずらに消耗するだけに終わると思うべきだと私は思うわ

 

となると危険でも踏み込むしかないって事か

 

まぁそう言っても、大丈夫だと思うわよ?

鳴子を階段の所々に用意していたからそれが鳴っていないのなら問題ないと思って良いわ

 

…りーさんって結構抜かりないなぁ

 

あら?私だって死にたいわけではないのよ?くるみ

それなりの対策くらいはしておくのが、乙女の嗜みでしょう

 

…んな物騒な乙女の嗜みなんてあたしは知らないけどな

 

 

(ふふっ、くるみは隠すのが下手ね)

私は内心彼女の純粋さに微笑ましさを感じた

今の私の言葉で彼女は間違いなく、私への信頼を確固たるものにしたのだから

 

(人を縛るのに嘘をつく必要はないのよ、くるみ。仮に嘘だとしてもそれを悟らせなければその人にとっての真実となる)

既に彼女の周りには私が張り巡らせた鎖が巻き付いている

でも、彼女が気付く事はない

 

 

何故か

 

くるみにとって、若狭悠里という人物は

 

少しお茶目な頼れる人物

としての評価が定まってしまったのだから

 

 

 

 

 

(くるみ。貴女なら私と一緒に彼に愛される権利をあげるわ)

 

私はあと少しで訪れるであろう未来に心を躍らせながら、動き続ける




 お気に入りが20件突破してワイ困惑中

みんなやっぱり重々なりーさん好きなのだろうか?
となるともっともっとりーさんをグラヴィティさせないといけなくなるか?


18禁要素は匂わせ程度になると思います
りーさんと彼の娘と化したくるみシナリオは少しずつ書いてみたいと思います
こうなれば自重する事なく書き連ねていくとします!

めぐねえは曇らせてなんぼ
私はそう思います
ゆきちゃんは一度ドン底に落としてから這い上がると輝くと思います

みーくんは
無茶苦茶情緒を破壊したい気がするので、圭と一緒にボロボロになってもらいます(闇のがっこうぐらし!勢)
ワンワンは癒し
ただしヒエラルキーで言うとめぐねえよりも上だったり

湿度マシマシのIFルートりーさん見たい?

  • 見たい
  • 怖いから勘弁
  • ジェジェノサイドでなければ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。