サ イ バ ー パ ン ク お ね ロ リ と せ が ら 作:ハム山公男
この小説は正真正銘フィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係がありません。筆者はこの作品によって政治・経済・ポリティカルコネクトレス等に対する主張を行うつもりは一切なく、全てはサイバーパンク等物語の王道的な文脈に依存した、ある意味ではとても偏見に満ちたものである事をご了承の上でご覧ください。
おねロリとせがらと言いつつ今のところTSしかありませんが、自分を追い込むために公開します。
ちゃんと一話以降でおねロリもとせがらもあります。ある……はず……。
西暦20XX年、日本という国家は事実上消滅した。
少子高齢化は止まらず、社会保障は崩壊し、小さな政府を余儀なくされた日本政府は大規模な外資系企業の誘致を行う。
それは日本という国が、外国企業によって事実上の分割統治される時代の始まりだった。
☆
街中のネオンのせいで星一つ見えない夜空の下、吐き出した水蒸気と、まき散らされた人工血液の匂いが混じり合った。
失敗だった、と内心でごちる。電子タバコのフレーバーで誤魔化そうかと思ったけど、余計に酷い臭いになっただけだった。結論、嗅覚をシャットアウトする。
最悪な気分をちっとも転換できないままに、私は私が切り刻んだ/撃ち抜いた、体の三分の二は既に死体である襲撃者に銃を突き付ける。
「なあ、どんな気分なんだ? 自分の信念に殉じるっていうのはさ」
「あ、が、ぐ……が……」
「お前には、本物が見えているのか?」
答えはない。上等な義体であれば、この程度の破壊なら痛覚遮断で活動可能であるのに。
こいつらはその程度の義体でしかないのだ。壊せば死ぬ程度の常人でしかない。私のように、改造されつくされた暴力装置ではない。
なのに、何故。
「そんなに、お前達にとって『在りし日の日本』とやらは大事なのか?」
「……のろ、われろ」
辛うじて、と絞りだされた声は殺意/呪詛がこもっていた。
弾かれたように飛び退くのと同時に、襲撃者たちは共鳴するように/輪唱するように次々と叫ぶ。
「呪いあれ」「呪いあれ」「呪いあれ!」
「――資本主義に、呪いあれ!!」
その瞬間、襲撃者たちの体が爆発した。
炎/熱/光、それから逃れるために私はビルの屋上から身を躍らせる。空を爆炎が焦がした。
そのまま落ちていく。ビルの森/摩天楼/ネオンが彩る夜の街へと、私は墜落する――その寸前に。
私の右腕から射出されたワイヤーフックがネオン看板の一つを掴み、無事地面へと降り立った。
見上げると、松明のように燃え盛るビルが見えた。それを眺めて、私は呟く。
「……死神は、中々来ないもんだな」
『結構な事じゃないか、セラ。まだまだお前さんで稼げるって事さね』
「私『で』稼げると素直に言うところは信頼しているよ、マダム」
『アタシはいつだって正直者さ』
魔女じみた、自慢げな老婆の笑い声が通信の向こうから脳裏に直接響く。仕事を終えたジャストタイミング。果たしてどこから/どうやって見ていたのやら。
『首尾は上々みたいじゃないか?』
「リストに名前のあった人は一人残らず始末したよ」
『結構。結果を出せる子は好きだよ。特に殺しの仕事ではね』
歯に衣着せぬマダムの物言いに、殺した相手の顔が頭をよぎる。
男は、呪詛を吐きながら笑っていた。
「……ナショナリストか。どんな気分なんだろうね。こんな国でなお、愛に狂うっていうのは」
『狂人を理解しようとしたところで無駄さね。連中の言う『在りし日の日本』なんてのは、過去一度も存在した事はないんだからね』
「たとえそれが幻想でも、本物だと信じる事に意味はないのかな」
『さて、そいつは市民を守る民警連中の矜持にもなるが、テロリスト連中が己と周りの命を投げ捨てて追い求める理想にもなる。銃と同じ、使い様さね』
「……私は、彼らに向ける銃を持っていなかった」
『心に弾丸がなくちゃ戦えないってかい? そうじゃない事はお前さんが一番知ってるだろうに』
知らず、口元に電子タバコを咥えていた。吸い込んだ水蒸気をトリガーに、電脳に直接メンソールのフレーバーが叩き込まれる。
ふう、と水蒸気を吐き出す。一向に落ち着かない。心に空いた穴/虚無が忍び寄る。首筋がざわざわした。
「マダムはいつも手厳しいな」
『お前さんの戯言に付き合ってメンタルケアしてやってるだけありがたいと思うんだね。ほら、さっさと帰投するんだよ。仕事はいくらでもあるんだ、資本主義の奴隷としてキリキリ働きな』
「了解」
踵を返し、路地裏の闇に身を隠す。あたかもこここそが、私の居場所だと言うように。
こんな生活を続けて、早十年。
まだ私は、私に慣れない/成れない。
☆
あるところに、ごく普通の男がいた。
決して裕福ではなかったが、最低限定職に就ける程度には恵まれていて、非行歴もなければもちろん犯罪にも縁遠い男だった。
しかし、男の人生はある日突然崩壊した。
付き合っていた――少なくとも男はそう思っていた女性の、莫大な借金の連帯保証人にされていたのだ。
男は女性共々、全てを失った。
家も、金も、職も、肉体も、名前も、尊厳も。全ては売り払われ、一生返しきれないような額の借金の足しとなった。
その時、男は世界の真理を知った。
この世界に金で売買できない物などないという事を。
本物か偽物か、そんな事に意味などないという事を。
それでも男は――否、もはや男ですらない無貌の誰かは、本物を探している。
己を己だと規定する何か/これが本物だと胸を張って言える何か。
そんな幻想を追い求めて、セラと呼ばれるようになったジェーン・ドゥ/ジョン・ドゥ/私は、今日も街を彷徨い続けている。