サ イ バ ー パ ン ク お ね ロ リ と せ が ら   作:ハム山公男

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case.1-2

 リーダー格と思しき男に銃を突き付けた状態で光学迷彩を解くと、瞬時に黒服たちは私に照準を合わせた。が、リーダーが片手を挙げて制止する。

 

「どこの誰だ。何故ここにいる」

「君達が思っているほど、君達の組織の口は固くないらしい。……ロシア系か? 大陸同盟のどこだ?」

「……ふん、装備からして大方合衆国か。ハイエナめ」

「その子はなんだ?」

「答える義理は――ない!」

 

 男が私の銃をかちあげる/黒服達が発砲/四方八方/絶体絶命。

 しかしその前に、私は光学迷彩を起動していた。

 

「チィ、この距離で見えない光学迷彩だと……? がぁっ!!」

「そこかァ!!」

「残念、外れだ」

 

 銃に比べて近接武器が優れている点はいくつかあるが、分かりやすいのは二点。

 マズルフラッシュがないため位置がバレない事と、ストッピングパワーが非常に高い事だ。大抵の義体は、頭を潰せば止まる。

 そういう殺し方をするための武器は、私の義体にはいくらでも積んである。腕部にはブレード/シザーハンズ/膝と肘には杭/そもそも、殴る蹴るで人は殺せる。

 さらに追加で、黒服の内三人をハッキング。銃を向け合う黒服達/同士討ちを狙う――が、嫌な直感。

 

 じりじりと、電脳がノイズを発している気がした。

 

「ッ!!」

「まずは右腕、貰ったぞ」

 

 リーダーの男の早撃ちによって黒服達の電脳はあっけなく吹き飛ばされた。全くもって、感心する容赦のなさ。

 しかしそんな事はどうでもいい。重要なのは、私の右腕が『何故か』その弾丸のうち一発に貫かれている事だ。

 

「そら、次は右足だ」

「ッ!」

 

 バランサーに異常/関節部の破損/あえて転ぶに任せて、ただ左手に移した銃の照準を男の眉間に合わせる事だけに集中する。

 発砲/男のこめかみを薄く切った。思わず舌打ちが出そうになる。

 それよりも早く、私は男の手で壁に叩きつけられた。

 

 至近距離で、男の銃が私の左胸にぐりぐりと押し付けられる。不快感に顔が歪んだ。

 

「なるほど。よほど脳力に自信があったらしいな。だが、俺には無意味だ」

「……私の電脳をハックしたのか、やるじゃないか」

「その余裕がいつまで続くのだろうな?」

「っ――!!!」

 

 発砲/左腕の付け根に、灼熱の棒を押し付けられたかのような痛みが走る。くぐもった悲鳴が漏れた。

 撃たれた/それだけではない/明らかに痛覚を操作されている。

 

「はぁ、はぁっ……!!」

「知っているか。頑丈な人間ほど、拷問には弱い。痛みをどこまでも長引かせられるからな。ところでその身体、全て義体なんだろう?」

「……やってみろよ。やれるものなら」

「強がる女は嫌いだ。面倒だからな」

 

 男の眉間に皺が寄った。喧嘩を売ったと思われたか。

 しかしそうではない。本当に、言葉通りの意味だ。

 

「そこまで言うのならば望み通り……ッ!?」

 

 怪訝/驚愕。男の表情が変わる。引き金を引こうとしたのだろう。

 しかし引き金にかけるべき指はまっすぐに伸びたまま、微動だにしなかった。

 

「チィ、指一本程度ならば拮抗してみせるか!」

「お望み通り、脳力比べといこうじゃないか」

 

 男が私から手を放し、銃を持つ手を押さえる。それでも銃口が私から外れないのは流石だった。

 脳力/電脳の性能比べ。お互いに、お互いの電脳の制御権を食い合う電子戦。なるほど、男は確かに強い。

 しかし既に、大方男の癖は掴んでいた。

 

 徐々に腕が押され始め、男が目を見開く。

 

「何故……!?」

「覚悟しろよ。私は、私を女と蔑んだ奴を絶対に許さない」

 

 制御が戻り始めた左足で地面を蹴る/狙いを定める。一か八か、けれど頭でなく左胸を狙ったあの癖を考えると勝算は充分。

 

 そうして、男の股間に私の蹴りが突き刺さった/彼は声にならない声をあげた。

 

「~~~~~~~~~!?!????!!!」

「……本当に生身だったのか。ごめん」

 

 股間を押さえながら、男が崩れ落ちる。既に私には存在しない部位ではあるが、内臓をねじ切られたような幻痛を覚え、申し訳ない気持ちになった。

 人は、自分の急所が相手にも通用すると思いがちだ。心臓を狙うのは、生身の割合が多い人間にありがちな癖だった。

 

「まあ、なんだ。再建するなら、見栄は張らない事をオススメするよ」

「き、ざ、ま………………!!!」

 

 泡を吹く男に憐憫を覚えながらも、殺さないよう慎重にスタンガンで意識を刈り取る/こちらの許可がない限りは起きないように厳重に電脳をロックする。

 

 そうして血みどろの室内には、私と、この惨劇を前に悲鳴一つあげなかった少女が残った。

 

「……怪我はないかな」

「……」

 

 ヘーゼルの瞳がまっすぐに私を見る。見定めるかのよう。それに、薄ら寒いものを覚えた。見たところまだ一桁か、せいぜいが十歳程度の少女が、悲鳴もあげずじっと私を見つめているのだから。

 一歩、少女が私に近づく。思わず後退しそうになった。

 

「……あなたは、わたしを助けに来たのかしら?」

「成り行き上だったけど、そうだね」

「そう。そういう事なのね」

 

 一人で納得するかのような言葉に/あまりにも冷静すぎる態度に、違和感を覚える。

 しかし、その違和感をきちんと掴みとるよりも前に、少女は私の手をとった。

 

「あなたはわたしのナイト。そういう事で、構わないかしら?」

「は? 何を言って――ッ!?」

 

 言葉を形にする前に、がくんと体が崩れた。

 思考がまとまらない。驚愕、ただそれだけが私の電脳を支配する。

 

 いいや違う――支配しているのは、この少女だ。

 

「お、まえ、何のつもりだ……!!」

「ナイトには、誓約が必要でしょう?」

 

 脳力で負けている/私があの黒服どものように、いとも簡単に眼前の少女に操作されている。

 

 ああ、そうだ。そういう事か。

 少女に感じた違和感の正体/じりじりとした電脳のノイズは、未だ止んでいなかった。

 

 跪き、少女を睨みつける。

 

「やっと見つけた。わたしの愛しいナイト、わたしの味方、わたしを連れ出してくれる人」

 

 そうして見上げた少女は、うっすらと笑いながら泣いていた。

 全くもって美しくない、寂しさ/喜び/自暴自棄/希望/あらゆる感情をないまぜにした涙だった。

 

「どうか、誓って。あなたはいつもわたしと共にあり、わたしを守り、わたしにこの広い世界を見せてくれるのだと」

 

 だからだろうか。

 

「…………誓うよ。私が、君のナイトになる」

 

 強制されるまでもなく、そんな風に答えてしまった。

 

 花開くように少女が微笑む/私の電脳になにかがインストールされる/私の体の自由が戻る。

 そして、少女に向けようとしたはずの銃は、私のこめかみを狙っていた。

 

「……………………君は、なんなんだ」

「あら、悪い子だわ。さっそく主に逆らおうとするだなんて」

 

 くすくすと少女が笑い、銃を下ろした私に近寄ってくる。

 それは今の私には、バケモノの歩みに見えた。

 

「わたしはロクジョウ=ミカ。ロクジョウグループ総帥の一人娘。あなたのお名前は?」

「……セラ。それ以外は、なにもない」

「ふうん? ホントみたいね。まあわたしのナイトだもの。ちょっとくらいミステリアスな方が素敵だわ」

 

 鈴の鳴るような声。甘えるように/ねだるように。

 庇護欲をそそる振舞い/演技か、それとも真実か。

 擬態する怪物か/ただの幼稚さか。

 

 少女の姿をした怪物が/怪物のように見える少女が、私の手を取る。

 

「セラ。どうか、わたしの手を離さないでいて」

 

 たった一つの真実/その言葉には、切なる願いが感じられた。

 

 次の瞬間、少女はまるで電池が切れたかのようにその場に倒れ込む/辛うじて受け止める/ただ、少女は眠っていた。

 なにもかも理解できない状況の中で、マダムに後始末をお願いするだけの理性が残っていたのは、奇跡だった。

 

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