乃木若葉を庇って死んだら東郷美森に転生していた件 作:てんぱまん
------------------------------------------------------------------------
あなたさえいなければ---
あなたばかり周りからチヤホヤされて---
挙げ句の果てには...
-----------------------------------------------------------------------
樹海
「せめて私から...高嶋さんまで盗らないでよっ!!」
郡千景は鎌を振るう。彼女は、壁の外からやってくるバーテックスから人類を守る『勇者』...のはずだった。今は同じ勇者である乃木若葉に向かって鎌を振っていた。
「っ!......なんだ!どうしたんだ千景!?」
「あなたは周りから賞賛され...頼られ...一番戦果もあげている...!どうして.........どうしてあなたばかり!!」
千景の猛攻に対し、若葉はすべて自らの武器である刀..."生太刀"で防ぎきる。
それを見た千景はこのままでは勝てないと思い、切り札を使った。切り札とは、精霊の力を借りて大幅にパワーアップする勇者の奥の手。まさに『切り札』だ。だが、その技にはある欠点が...。
「うわあああああっ!!」
彼女が下ろした七人御先の力により、千景は七人に分身する。そしてそのまま若葉に切りかかった。
「なぜ......どうしてあなたなのよっ!!」
「千景!!なんだ急に!!落ち着け!!」
さすがの若葉も切り札状態の千景には敵わず、計六本の鎌で身動きが取れない状態にされてしまう。
「......うぐっ...。」
「ふふふ......。」
千景は不敵な笑みを浮かべ、
「とった!!!」
と言って若葉の首めがけて鎌を振り下ろす。
が......その時であった。
「...!?」
勇者の変身が解けたのだ。千景は元の制服姿へと戻り、今までにない現象に困惑する。
「なっ、なによこれ...!?なんで変身が...!?」
千景はスマホを取り出し、何度も画面をタップするが何も反応しない。
「あっ...!?」
と、そんなことをしている間に後ろからバーテックスが迫ってきている。戦う力を持たない千景はどうすることもできなかった。しかし......
ザシュッ...!
「...!!......乃木さん...!?」
「...大丈夫か?千景。」
そんな彼女を守ったのは若葉であった。先ほど若葉を縛っていた鎌は、千景の変身解除と共に消えたのだ。だからこうして千景を守ることができた。
「私の後ろにいろ。動くんじゃないぞ。バーテックスはすべて私が倒す!」
「なんで...?私はあなたを...殺そうとしたのに...?」
「当然だ!千景は私の大切な仲間だから!!」
「...!!」
その言葉を聞き、千景は彼女の戦う背中を見ながら思った。
(私は...どうして彼女を殺そうとしたのだろう...。きっと本当の勇者というのは...彼女のことなんだ。そうか.........私は...私は彼女のことを...)
その時、若葉の死角からバーテックスが一体突っ込んでくる。それを見た千景が起こした行動はたった一つであった。
トンっ
「あっ......?」
千景は若葉の背を押し、彼女を救った。だが......その代わりに自分が喰われた。
「ぁ.........千景.........?......わあああああああああああああああああっ!!!!!」
------------
------
---
「.........げ......かげ............千景っ!...千景っ!!」
「......乃木...さん...?」
「!...よかった...。大丈夫だ千景。すぐに大赦の救護班が来る!千景は絶対助かる!」
若葉は自らの勇者服を破り、止血しようと試みているが全く効果はない。なにしろ、千景の半身はないのだから。
(ここ、樹海じゃない...。どうやら......乃木さんが全部倒したみたいね...。)
「乃木...さん......私...。」
「もう何も喋るな!体に障る!」
「.........私はもう助からないことくらい...自分でわかるわ...。」
「...っ!」
「乃木さん......私は、あなたのことが...嫌い、だった...。」
「え......?」
「でも、ね......嫌いなのと同じくらい......あなたに憧れて.........。あなたのことが...............好き、だった...。」
「..................千景...?...千景!しっかりしろ千景っ!!」
自分の伝えたかったことは伝えられただろうか。それは自分でもわからなかった。今ここに、ひとりの勇者の命が消えた。つらい幼少期を過ごし、とても恵まれたとは言えない人生であった。だが、最期は...。自分の死を泣いてくれる人物がいた。愛してくれている人がいた。それだけが、彼女の救いでありとても嬉しいことであった。
(とんでもない人生だったけど...丸亀城に来てからの人生は悪くなかったわね。)
勇者のお役目からも、クズの両親からも解放される。千景はちょっと気分が軽くなった。
ようやく楽になれる............はずだったのに。
「........................はっ!!!」
(え...?)
気づいたときには布団から飛び起きている自分がいた。思考が停止し、しばらくそのまま動けなくなる。そのうち自分の手を見てから周りをキョロキョロ見渡した。
「え...?は...?私今......死んだ...わよね...?えっとじゃあ......ここは天国...?」
天国にしてはリアルすぎる。そもそもあんな行動をして自分は天国に来れるのだろうか。地獄送りにされそうだ。とりあえず布団から起き上がってみて今いる部屋を調べてみた。
(この服装は...パジャマかしら?それにここは和室ね...。見覚えのない場所だわ。)
机の上にはいくつか写真立てがある。自分と同じくらいの年頃の子だろうか。だがそこに写っていたのはどれも知らない人物だった。しかし、その中で一人だけ気になった。
「!?!?......え...!この人...高嶋さんに似てる...!」
千景の親友であった、高嶋友奈に瓜二つの少女が写っていた。しかもその少女の写真だけ妙に多い。
「これはどういうことなの...?.........っていうか...。」
ここでようやく一つ目の違和感に気づいた。とても今更であるが。
「私の声......なんか違うような...?」
そして一番の違和感が...。
「なんか重いと思ったら...。私の胸......こんな異常に大きくないわよね!?」
もしや。ひとつの考えが千景の頭に思い浮かぶ。今までやったゲームにこういうのがあった気がする。いや、あれは小説か漫画か。いや、そんなことどうでもいい。今いち早くやるべきことは...。
千景はすぐさまこの部屋を飛び出して洗面所を目指した。早歩きで家の中を歩き回り、少し時間がかかってから洗面所に辿り着いた。ドキドキしながらゆっくり洗面所に入り、おそるおそる鏡を見た。
「.........っ!!!!!」
案の定、千景の思った通りであった。鏡に映っているのは自分の知らない人物。千景はなんども自分の顔を触って確認した。だがそれに間違いはない。...確定だ。
「私......転生しちゃったの...!?!?」
それにしてもいきなりこの大きさとは。普通赤ちゃんからではないのか。たぶんこの体も中学生くらいだろう。胸だけは中学生ではないが。
「転生なんて...本当にあるものなのね...。感覚的に痛覚もあるっぽいし...。それになにより...。」
千景はトイレに駆け込んだ。朝は毎回行きたくなるタイプだ。
「出たってことは...やっぱりちゃんと生きてるってことだわ...!」
トイレから出た後、千景はこの先どうしたらいいか悩んだ。今日は何年何月何日なのか。やっぱり学校に行った方がいいのか。そもそもここはどこで、自分は誰なのか。前の記憶が全くない。
「困ったわね...これじゃなんにもできないわ...。」
ピンポーン
そんなことを考えていると、ちょうどインターホンが鳴った。
(私が出るしかないか...。)
千景はゆっくりと玄関に向かい、戸を開けた。
「東郷さんおはよー!学校いこ......って東郷さんまだパジャマ?」
「...え?あ、ああ...。」
(そうだ!私まだパジャマだった!しかもこの人...あの写真の...!!)
「東郷さん...?」
「え、あ~えっと...なぜか朝のアラームが鳴らなくてね~...寝坊、しちゃった~。あはは~」
「......。」
高嶋友奈そっくりの人物は千景をじっと見つめている。
(何かマズいことでも言ったかしら...?)
千景は汗をかきながらゴクリと唾を飲み込む。だが目の前の少女はごく普通に話し始めた。
「そうなんだ...。東郷さんが寝坊なんて珍しいね~。」
「そ、そうなのよ珍しく...。だから先に学校行ってていいわよ!今起きたばかりだから全然準備もまだだし。」
「...。なら私も手伝うよ!」
「えっ!?学校遅れちゃうわよ!?」
「二人で急いでやればきっと間に合う!」
「いいわよそんな...。」
「私は大丈夫だから!東郷さんと一緒に学校行きたいし。...ってことでお邪魔しまーす!」
「ちょっ...」
少女はズカズカと東郷の家に上がり込んでしまった。
(容姿だけじゃなくて......声も性格も高嶋さんにそっくりね...。)
千景は少し嬉しかった。再び高嶋友奈と会えた気がしたから。話してみた感じも対して変わらない。
「東郷さん!まずは着替えて着替えて!」
「あ...う、うん!」
----------------
--------
---
数分後
「カバンの準備しておいたよ!行こう!まだ走れば間に合う!」
「そうね...!えっと......」
(イチかバチか......ここまで似ていればきっと...!)
「ありがとう...!ゆ、ゆ、友奈...さん...。」
「!?......ええっ!?!?」
「!......なっ、なに!?」
(さすがに名前までは違った...!?)
「『さん』だなんて...どうしたの東郷さん!」
「そんな!!名前まで一緒!?」
「?...な、何が?」
「あっ...声出てた...。何でもないわ!」
「......。」
またしてもじっと見つめてくる。千景はとても彼女と目を合わせることができなかった。そして...友奈の軽い一言。
「東郷さん...今日なんか変じゃない?」
「ギクッ!.........そ、そそそそそそうかしら?」
「そうだよ!『アラーム』って英語で言ってたし...私のこと『さん』付けで呼んだり...話し方もちょっと違和感があるっていうか...。」
(普段この体の持ち主は外来語を使ってないの...?一体どういう趣味なのかしら...。)
「あ~......そうね...。変な夢を見たからかしら...。」
「夢?」
「そうそう。別の人の体に入っちゃってその人になりきらなくちゃいけないっていう夢~。...変でしょ?」
(実際今がその状況なんだけどね...!)
「確かに変...。あの『入れ替わってる!?』的な感じの?」
「そうそう!それ!(なんなのそれは...?)」
「だったら仕方ないね...。まだ抜けきってないってことか。」
「そうなのよ~。結構長い夢だったからまだまだかかるかも~。だからあんまり気にしないで。ね?」
「おっけ~!...あ!もうこんな時間!学校行かないと!」
「あ、ああ...。」
(学校...か。)
友奈は千景の手を取り、東郷家から飛び出す。友奈に手を取られながら走るのは、なんだが懐かしく感じた。今日初めて会ったはずなのに。
(彼女がいれば......何とかなる気がする...。)
千景はそう思った。この体の持ち主はきっと、昔の自分のような境遇ではない。ごく普通に暮らしていた少女...友達に囲まれて学校に通い、勇者とも無縁の暮らしを送っていたことであろう。
この世界でなら気楽に生きていける気がする.........が、そう思ったのもつかの間。
(いやいやいや!!やっぱり普通に考えて無理じゃ!?まだこの体の両親にも会ってないし!どんな趣味があってどんな話し方でどんな友達がいるのかもまだ全くわからないじゃない!初めて会ったのが友奈さんで良かったけど...。この先そう順調に行くとは思えないわ!そもそもここはどこなの!?周りを見る感じ私の生きていた時代とさほど文明は変わっていないようだけど...。てか私『東郷』って言うのね!忘れないようにしなくちゃ...!)
いくらなんでもわからないことが多すぎる。これから自分は上手くこの世界で暮らしていけるのだろうか...不安は募るばかりであった。
「てか下の名前は何!!」
(第二話に続く)
前作が完結したので新連載です!今回は日常系に挑戦してみようと思います!僕は普段、日常系の作品を見ないので上手くできるがわかりませんが頑張りたいと思います!
今作は特に最終話から物語を組み立てて入るわけではないのでネタが尽きたら突然連載終了する可能性がございますのでご了承ください!