乃木若葉を庇って死んだら東郷美森に転生していた件 作:てんぱまん
「東郷さん!まだ間に合うよ!」
友奈はそう言って東郷の手を引っ張りながら校門をくぐる。中身は東郷ではないのだが。
(......讃州中学校...?)
校門をくぐる際、千景は壁に刻まれたその文字を見た。
(ということは......ここは讃州市...。随分遠くまで来ちゃったのね。遠くと言っても県内だけど。)
そんなことを考えているうちに教室に着いたようだ。友奈がハァハァ息を切らせながら3年2組と書かれた教室の戸を開けた。
「おっ、おはようございますぅ!」
やたら大声で友奈はそう言った。普段しないこと続きでちょっとおかしくなっているのだろうか。
ギリギリ間に合ったらしく、担任が出席を取る直前に着けたようだ。
「よかった~...なんとか間に合ったね。」
「うん......。」
「...東郷さん?」
「あ、いや...なんでもないわ。」
(考えてみれば私、こんなに人がいる教室久しぶりだわ...!というかそもそも、この体の持ち主の友達がきっとこの教室の中にもいるはず...。私はその子たちと仲良くできるのかしら...。いやいやいやいや!無理無理無理無理っ!絶対バレる!いつもと違うって言われる!たまたま友奈さんが高嶋さんに似てたから話せたものの...他の人は完全なる初対面!話せる気しないわ!)
千景は人と話すということはあまり進んでしない。コミュニケーションも得意ではない。むしろ苦手だ。『東郷』という少女が普段どういう喋り方なのか、まだわかってすらもいないのに。
ヤバいヤバいと焦りながら汗を垂らしているとあっという間に朝の会が終わってしまった。
「東郷さ~んっ!」
終わったと同時に、彼女に飛び込むようにして友奈が話しかけてきた。
「ひゃっ!?......な、何...?」
「東郷さんは昨日出された宿題、もう終わった?」
「しゅ、宿題...?」
「そ!明日の数学で提出するプリント。私わかんなくてさ~...東郷さん教えてくれない?」
友奈はそう言ってプリントを東郷の机の上に置いた。それを見た千景はまたしても焦る。
(どうしようどうしようどうしよう...!?明日提出の宿題なんてあるの...!?しかもこの内容...序盤はまだいいけど後半は...!)
「......東郷さん?」
「あひっ!?ひゃい!」
「もしかして、東郷さんもまだやってない?」
「あ、あぁ~そうね~...昨日は眠くてすぐ寝ちゃったから...。」
「そっか~。確かに昨日、みんなでカラオケ行ったからね。私も家帰ったときにはヘトヘトだったよ~。」
「そ、そうよね~。(カラオケなんて行ってたの...!?)」
そのときだった。東郷の机に置かれたプリントを、横から誰かが取った。
「あ、そのちゃん!」
「ゆーゆ、わっしー、おはよ~!...ここの問題、わからないの?」
「そうなんだよ~。そのちゃんわかる?」
「ふっふっ~...この乃木園子さんに任せなさい~!!」
「おっ~!さすがそのちゃん!たのも...」
「乃木っ!?!?」
千景は彼女の言葉を聞き逃さなかった。今確かに、隣に立っている少女は『乃木』と言った。千景はガタッと大きく音を立てて立ち上がった。そして彼女の肩を両手でガシッと掴み、
「あなた今...今確かに......『乃木』って言ったわよね!?」
「え、う、うん......。どうしたの、わっしー...?」
「まっ、まさか...そんな...!?」
(一体どういうこと...!?たまたま同じ名字なだけ...?いやいやそんなはず...。......知りたい、どうしても!乃木さんとこの子の関係を!!)
千景は思いきって「乃木若葉という人物を知っているか」と尋ねようと思ったが、
「なに大声だしてんのよ、東郷。」
また新たな人物が現れた。その少女はツインテールがトレードマークで、腰に手を当てながらこちらを見ている。
「夏凜ちゃん!おはよ~。」
「友奈、東郷、おはよう。珍しいじゃない。二人が揃って遅刻ギリギリだなんて。」
「あ~、今日私が寝坊しちゃって...。」
千景が夏凜の方を向いてそう言ったとき、彼女は目を疑った。
(は......!?!?何してんのこいつ......!!)
夏凜は煮干しをボリボリと音を立てて食べていた。片手には錠剤の入った怪しいビンも持っている。
(学校でこんなことしてるなんて......すごいヤバい奴に違いないわ......!!)
「ん、食べる?煮干し。サプリもあるわよ。」
(この勧め方は......ズバリ、イキってるヤンキー中高生がタバコ勧めるのと同じ...!見たことないけど!)
「あ、私は遠慮しとこっかな~...。」
「私も朝から煮干し単体はね~...。」
(この二人からも引かれてるじゃない!!)
「あらそう?東郷は?」
「わ、わたっ、私もいらないっ!!」
千景はこれほどまでかというくらい拒絶した。
「わ、わかったわ...そこまで言うなら...。それにしても東郷が寝坊なんてね。...............ふ~ん...寝坊ねぇ...。」
夏凜は目を細めて東郷を見る。この目で見られたのは今日だけで何回目だろうか。千景は当然のごとく目をそらした。
「...ま、どっちにしろ間に合ったのならよかったわね。それで、何話してたの?」
「あ~、実はこの数学の問題が...」
結局この休み時間は話を元に戻されて終わってしまった。それから千景は思うように聞きたい話題を切り出せず、気づいたときには放課後になっていた。
「東郷さん!部室いこっ!」
友奈が園子と夏凜を引き連れてやってきた。
「今日もまた依頼がたくさん入ってるに違いないわ。」
「今日もファイトだぜ~!」
(部活...ってことかしら...。そっか...この子は部活にも入っていたのね...。)
三人いたので部室に行くことは苦労しなかった。部室に入ると、また一人そこにいた。
「いっつん今日も早いね~。」
「あ、みなさん!お疲れ様です!」
「樹、今日の依頼はなに?さっそくやりましょ。」
(樹...というのね、彼女は。私たちに敬語ということは後輩かしら?)
「ソフトボール部の助っ人依頼がきているのですが、まだ時間に余裕があるので...。その間に、新入部員の募集について話し合いたいと思います。」
「新入部員かぁ...。確かにそれは大切ね。この部活の存続のためにも。」
「フーミン先輩が卒業しちゃった今、新たな人材が必要なんよ~!...確か、明日から部活動見学が始まるんだよね?」
「そうなんです!なので初日は勇者部が普段どのような活動をしていてどのような目的で動いているのかを伝えるんです!」
「でも、それだけで来るかな~?私はもっと、勇者部は楽しいところだよってことを教えたい!」
友奈は拳を上にあげてそう言う。
「それをどうやって教えるかってことでしょ?」
「それはもう『楽しいよ~!』ってことを体で表現するんだよ!こ~んな感じで!」
友奈は暴れまわるように体を動かし始める。
「ゆ、友奈さん!ただでさえ部室は狭いんですから激しい動きは控えてください!」
樹に制止されて友奈はピタリと動きを止めた。
「あはは~、ごめん樹ちゃん。」
「あんな動きで伝わるわけないでしょ...。」
「ダイナミックさはとてもよかったんよ~!......やっぱりここは国防仮面と煮干し仮面で...」
「絶対イヤ!!!」
周りが盛り上がっている間、千景は話に出た一言に引っかかっていた。
(勇者部...っていうのねこの部活。変わった名前ね。........."勇者"...。もうその言葉は聞きたくないわ。...もしかしてそれと関係がある...?いやいや、勇者は私たち五人だけだった。この子たちの話なんて小耳にも挟まなかったわ。...きっとたまたまね。)
「東郷さんは?何か意見ありますか?」
「......。」
「...東郷さん?」
「えっ?ああ...。」
(私の名前『東郷』だったのすっかり忘れてた...!)
「...シンプルでいいんじゃないかしら...。この部活のよさが伝わればそれで。普段している活動を丁寧に教えれば、きっと一年生たちもその楽しさを理解してくれるはずよ。見学だけじゃなく、体験をさせてみたりしてもいいかも..................なんて。」
ちょっと喋りすぎただろうか。一同はポカンと口を開けて東郷の顔をじっ~と見ていた。
「それです...それでいきましょう!」
「しんぷるいずざべすとだね!」
「友奈...意味わかって言ってる...?」
「そうだ!勇者部のホームページを新しくするのもいいんじゃない?...どうかな、わっしー。」
「あ、あぁ...いいかもね...!」
「でしたら東郷さん、ホームページの更新お願いできますか?」
「......。......えっ...?」
千景は頭が真っ白になる。
(待って待って待って......コンピューターなんていつも使ってない...。いやゲームはやるけど!ホームページなんて作ったことないわ!)
「あ...。夏凜さん!友奈さん!そろそろ時間です!」
「ソフトボール部だったわね?」
「よ~し!運動場にしゅっぱぁ~つっ!」
友奈と夏凜は、そのまま部室を後にする。
「...では私、原稿用紙取ってきますね。ちょうど切らしちゃったみたいで...。台本書くのに必要ですからね。」
「ありがとういっつん~。」
「ありがとう...樹.........ちゃん。」
こうして樹も部室を後にした。そして残ったのはたった二人。千景は園子と二人きりになったのだ。ホームページの更新を頼まれた千景は、ゆっくりパソコンに向かおうとするが、
「わっしー...私がやろうか?」
「...!」
園子が千景に優しくそう言った。
「ご、ごめん...じゃあお願いできる...?」
千景はそう言うも、園子はやたら妙に顔を近づけてくる。
(近っっっ!!!もうくっつきそうよ!......なにこの子...!?)
千景は思わず体を反らす。
「わっしー、どうせなら私の名前を呼んでお願いしてよ~。」
「えっ......?」
「お願い~!」
懇願してくる園子に、千景は折れた。数センチ距離で見る園子はとても可愛く見えた。
(とてもあの悪人の目つきをした乃木さんとは比べものにならないピュアな目...!そしてほのぼのとした性格...!この子が乃木さんと関係があるだなんて到底思えないわ...!ちょっと髪型が似てるだけで......全然違うもの!)
千景は一か八か言ってみることにした。これほど距離を詰めてきているのだ。よほど仲良くないとここまでできない。千景は、この体の持ち主と園子が相当な仲良しであると考えた。そして合っているかわからないが、これに賭けた。
(さっき友奈さんも言ってた......あれならきっと!)
「そのちゃん.........お、お願い...!」
「......。」
その瞬間、園子は黙った。先ほどまでニコニコしていてご機嫌だったが、急に様子が変わった。
「や、やっぱり恥ずかしい......名前呼んでお願いだなんて......」
「わっしーは私のこと、『そのちゃん』なんて呼ばないよ。」
「......!!!」
そのとき、千景の背筋がキンと凍る。
「ずっとおかしいとは思ってたよ~。朝の時からずっと。さっきだって『シンプル』って言ってた。わっしーなら『端的に』とか『普通に』とかを使うはず。」
「.........ぁ...。」
「他にもね...仕草とか見てればわかるんだよ?普通はわっしーがしない動きとか...人間ひとりひとりにどうしても隠し通せない癖が出てしまうの。例えば、歩き方とか姿勢とか、ペンの持ち方や筆跡でもわかる。」
(この子、普段からそんなに東郷って子を見てるの...!?まるで探偵じゃない...!)
「姿形はわっしーで間違いないのに...明らかに別人なんだよね~。」
「な、何言ってるのよ...!私はどう見たって東郷......」
フルネームで言えない。まだ下の名前がわからないからだ。出席の時だって名字で呼ばれた。恐らく、下の名前を使われることはそうないのであろう。
「東郷......何?」
「...っ!」
「わっしーの下の名前...わからないんでしょ?」
(鋭すぎる...!どんな感性持ったらこんな中学生離れした洞察力持てるのよ...!............あ、でも上里さんもこんな感じか。いやいや、あれは特殊!)
「あ、あなた...何者なの...?」
千景は思わずそう聞いてしまった。もちろんそれは園子からも言えることで...。
「それはこっちのセリフだよ。」
「......ぅ...。」
「いい加減素直になったら?」
詰め具合がすごい。すっかり彼女の気迫に飲み込まれている。
「.........あなたは、誰なの?」
「私...は.........。」
(どうしよう...ここは話しちゃった方がいいのかしら。でも、それにしても...彼女が怖い!!)
「東郷さん、園子さん、原稿用紙取ってきました~!」
「あ、いっつんおかえり~。」
ちょうどそのとき、樹が戻ってきた。そのおかげで千景は助かった。だが...園子は千景の耳元でこう囁いた。
「話はまた部活が終わってからね...。あなたの目的はわからないけど、みんなに何かしたら許さないから。」
「......っ~!!!」
千景は顔面蒼白になり、体全体がブルブルっと震えた。
(こ、こ、こ.........こっわあああああああ~!!!!!)
「いっつん、私がホームページの更新やることにしたから原稿お願い~。」
「了解です。......あれ、どうしたんですか東郷さん。すごい震えてますけど...。」
「な、ななななななななんでもないわ樹ちゃん!アハハ~。ハハハハハハハ~。」
(なんでもないわけないでしょう!!何、園子って子!頭狂ってるわよ!怖すぎでしょいくらなんでも!てか私もまだこの状況わからないんだから!何かするも何もないから!!)
とは言うものの、樹が高嶋で、園子の立場が自分だったら、同じような対応を取るかもしれないと後々考えてみて気づいた。
そして時間が過ぎ、友奈と夏凜が戻ってきた。それから部活後...。
「東郷さ~んっ!帰ろ!」
「え、あ...その...。」
「ごめんねゆーゆ!わっしー今日はうちに来るから!」
「そうなの?」
「う、うん...そう...。」
「...。そっか。それじゃ、またねそのちゃん、東郷さん!」
----------------
園子に連れられ、千景は彼女の家にやってきた。
(すっごい...。......豪邸じゃない...!)
その家を見て千景はただただ驚く。
(こんな豪邸に住む人がごく普通の公立校に通ってるなんて不思議ね...。偏差値高めの私立に通うものじゃないの?)
「こっちおいで。私の部屋に案内してあげる。...そこなら誰も来ないし、二人きりでいっぱいお話できるからね。」
ゴクリ、と千景は唾を飲み込む。これから殺されてもおかしいくない雰囲気だ。心臓をバクバクさせながら園子についていく。
「ここが私の部屋。どうぞ。」
中も思った通り、豪華なものだった。中学生一人が持つような部屋の広さではない。
「私の部屋、初めて見る?」
「うん...!......あっ。」
「ふふっ、もう言い訳しようがないね。」
つい言ってしまった。もちろん東郷はこの部屋に入ったことがあるのだろう。...もうすべて話すしかなかった。
「さて...ゆっくり全部、話してもらおうか。」
「...。」
「まず、あなたが誰なのか。」
(第三話に続く)