乃木若葉を庇って死んだら東郷美森に転生していた件 作:てんぱまん
「さて...ゆっくり全部、話してもらおうか。」
「...。」
「まず、あなたが誰なのか。」
「............驚かないで聞いてほしい...。あなたは私のこと、全く知らない人だから信じてもらえないかもしれないけど...。私は一度死んだの。」
「...死んだ?」
「そう。...そして気づいたときにはこんなことに。それも今日の朝からよ。私だって、なんでこんなことが起きたのかわからないの。いわゆる転生ってやつかしら。」
「ということは、生まれ変わったってことかな?でも...それにしてもいきなりこれは異質だよね。前世の記憶持ちで、昨日まで普通のわっしーだったのに。......わっしーの...元人格はどこに?」
「それもわからない...。何にも感じないの。おかしいところはどこもない。だからこれまでの彼女の記憶も一切ない。」
「......そう...。わっしーは、どうなっちゃったんだろう...。」
「...ごめんなさい、私...なんにもわからないで...。」
「いいの!いいの!あなただって突然のことで戸惑ってるでしょ?それよりお名前お名前!」
「あ、そうだったわね。...私の名前は郡千景。前世では丸亀市に住んでいた。生年月日は2004年2月3日。血液型はA型。...歳は中三で死んだわ。」
「中学三年生?じゃあ私と同い年だ~。...でもそんな早くに亡くなるなんて......一体何が原因で...?」
「!......そ、それは...。」
千景は答えられなかった。若葉を庇い、バーテックスに喰われて死んだなど、一般人に到底言えるわけがない。そして名前を言っても気づかれなかったということは、少なくとも千景が生きていた年代とは別ということになる。あのときはマスコミによって勇者の名前が大々的に宣伝され、四国中に広がっていた。少なくとも知らない人はいないだろう。園子が勇者のこともバーテックスのことも知らなかったら余計なことを教えてしまうだけだ。
(そもそもここは私の住んでいた世界と同じなのかしら...?パラレルワールド...異世界という可能性も...。)
「.........あ、ごめん...。言いたくないよね、そんなこと。命を落とす瞬間なんて、とても怖いだろうに...。」
「い、いえっ!大丈夫よ!」
「...千景ちゃんは2004年生まれって言ってたよね?それで中学三年生ってことは2018年から2019年あたり...。」
「...?それはそうだけれど...それが何か?」
「ってことはさ、あなたが生きていた時代...もしかして勇者が活躍していた?」
「...っ!?!?」
ガタッ
千景はあまりに驚き、園子の部屋のドアに手をぶつけた。だがそんな痛みなど今は感じない。
「...どうして...勇者のことを...?」
(同じ年代の人なら私の名前を知っていて当然...!いや...そういえばこの人の名字は............)
「千景ちゃんって言うのむずかゆいからちーちゃんって呼ぶね。...いい?今この時代は西暦じゃなくて、神世紀って言うの。」
「シンセイキ...?」
「そう。今は神世紀301年の4月。...ちょうどちーちゃんが亡くなった年あたりから300年後くらいかな。」
「300年!?!?」
(そんな月日を超えて...私はこの子の体に転生したの!?300年経った割には街の外観も機械も進化してなさそうだったけど...もしや人間進歩してない!?)
「そりゃ驚くよね~。ねえねえ、300年前の世界ってどんな感じ~?」
「今とそんなに変わらないわ...。ってか変わらなさすぎてびっくりしてる...。」
「へ~、そうなんだ~。」
「ねえ園子さん。私に教えてくれないかしら?この300年で何が起こったのか。」
千景は自分が死んだ後、どうなったのか気になっていた。残された高嶋と若葉のその後は...。300年経ってもこの世の中があるということは、二人は無事に守り抜けたということなのでそこは安心できた。
「う~んそうだね~。ちーちゃんはまず歴史のお勉強が必要だね。...ちょっと待ってて!」
園子はそう言って自分の部屋の奥に行き、どこからか学校で使うようなホワイトボードを引っ張り出してきた。
「おまたせ~。図で書いて説明した方がわかりやすいからね~。」
(たぶんなんでもあるわねこの家...。)
「西暦2015年。突如として空から無数のバーテックスが出現。それにより、人類のほとんどが蹂躙された。だけど日本の四国...それから長野の一部などは神様の力で守られた。そのおかげで人間たちはそこで生活を送ることができたの。」
「うん...。そのときのことは私もよく覚えているわ...。」
「けどこのまんまじゃ人間たちはずっと狭い土地に閉じ込められたまま。さらにバーテックスたちがいつこの神様の結界を破って侵攻してくるかわからない...。そこで立ち上がったのが四人の勇者。...乃木若葉、伊予島杏、土井珠子、高嶋友奈。彼女たちは神様の力を借りてバーテックスと戦う力を手に入れた。」
「え.........四人...?それは本当......?」
自分の存在が消されている...。まさかあの行動のせいでこうなったのか。どうせ大赦の仕業だ。勇者が一般人を襲い、同じ勇者でさえも殺そうとしたのだ。...歴史から消されてもおかしくなかった。
「そ、そんな.........そんなことって............。」
(私...最初から存在しないことにされてるってことじゃない...。私が生きていた事実はすべて消されて...周りからも忘れられて...生まれていないことになってる...。)
「ふっ.........本当、死んだ後も最悪すぎる人生だったのね...。」
千景はむしろ笑えてきた。ここまで来ると自分の不幸さがおかしく思えてくる。すると園子があからさまに口を開いて話し始めた。
「で~もね?実際は四人じゃない。もう一人いたんよ~!...四国を守るために戦ってくれてた勇者が。」
「え......でも今四人って...。」
「それはあくまで正しいとされている文献の情報。でもそれはおかしいことだらけなんよ~。...例えば......」
園子はまた部屋の奥に行き、大きなつづらを持ってきた。そしてそれを地面に置き、中を開けてある一冊の書を取り出した。
「よいしょっと。ほら、これ見て。」
「!...それは、勇者御記...!なんであなたがそんなもの...!」
「まあまあ、今はそれ置いといて...この中身を見てほしいんだ。」
園子はペラペラとページをめくり、
「ね?見ていてわかると思うけど、度々全部黒塗りにされているページがある。しかもこれらのページは、書いた著者の名前まで消されている。...あからさますぎるでしょ?だから間違いなく、もう一人勇者はいたんよ~。」
「...!」
「あなたは当時生きていた人間だから、五人勇者がいたことを知ってたんでしょ?ご先祖様の日記を読む限り、この時代の勇者は全国民に存在を教えていたみたいだし。...その際の苦悩がよく書かれてるよ~。」
「......その通りよ園子さん...!............ん...?今『ご先祖様』って...。」
「ああ~そうそう。実は私、この乃木若葉の子孫なの。」
「.........。...ええっ~~!?まさかとは思ってたけど......ええっ~~!?!?」
(嘘...!全然彼女と違うのに!)
「300年という月日が怖いわ...。」
「...え?」
「あの中学生らしくないきっちりかっちりして冗談も言えない武士みたいな乃木さんからこんなほのぼのして笑顔が可愛らしいおっとり系女子になるなんて...。とても血がつながっているとは思えない...。」
「そんなに違うの~?私のご先祖様ってどんな感じだった~?」
「そりゃもう乃木さんは人の気持ちがわからないでズカズカ思ったこと言っちゃうし無自覚で余計なことするしひどい人だわ!のくせに周りからチヤホヤされて鼓舞するのもみんなをまとめるのも上手くて、戦闘においても横に出る者はいない。いっつもバーテックスを殲滅させることしか考えてない異常者よ!.........あっ...」
「ふ~ん...ちーちゃんは私のご先祖様のこと大好きだったんだね~。」
「はあっ!?大好き!?誰がそんなこと!...むしろ逆よ!!あんな人のどこを私が...。」
「...話を聞いた感じ結構ご先祖様と関わりがあったみたいだね~。」
「...!」
「......あなたなんでしょ?五人目の勇者は。」
「えっ.........!」
「『郡千景』...その名前を聞いて引っかかったよ~。話を聞けば聞くほど、あなたが勇者だったってことがわかる。」
「.........そう...その通りよ...。私は勇者だった...。でも私...あのとき血迷ったことを...。だから歴史からも消されて...。ごめんなさいっ!!!...私、あなたのご先祖様のことを!」
「いいんよ~無理に言わなくて。あなただってつらかったんでしょ?」
「...っ!」
「次は私のこと話そうかな~。私も結構この歳に見合わず壮絶な人生を送ってきてるからね~。」
「うん...。私もあなたのお話を聞きたい...!」
「ならいっぱい喋っちゃうよ~!!とんでもなく長くなると思うから覚悟してね~!」
「...うん!」
千景は園子と会話するのが楽しかった。ここまで心が高ぶったのは久しぶりだろう。こうやって笑ったのも、いつぶりか...。
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いろいろと話しているうちに夜になってしまった。園子の身の上話、勇者部のみんなの話、東郷の趣味や癖、喋り方(なんで園子は東郷にここまで詳しいのだろうと思ったが)、これからの話など話題は尽きず、とことん盛り上がった。なので今日のうちに話せなかった内容もたくさんある。外が真っ暗になってしまったため、東郷は園子の家の車に乗っけてもらって家に帰った。
「今日はいろいろとありがとう...!えっと.........そのっち...。」
「うんうん!それでいいんよ~!それじゃ、また明日ね~!」
「うん、また明日!」
「あ、そうそう。今日教えた通りにやるんだよ?みんなへの接し方!...自分の中の人がわっしーじゃないってバレて、みんなの対応が変わるのを恐れているんなら、きっちりそうしないとね!」
「そうよね...!がんばるわ!」
「ま~バレちゃうのも時間の問題だと思うけど~。」
「......ぅ...。」
「あとそれからそれから、今週の週末...またうちへおいで!今日話しきれなかったこと話すから!」
「わかったわ。」
「そんじゃ、今度こそバイバーイ!」
そうして、園子を乗せた車はそのまま走り出して言ってしまった。
「ふぅ...。私、本当に大丈夫かしら...。」
東郷は家に入り、今日聞いた話をまとめる。
(まさかここが300年後の世界で...しかもそのっちたちはつい最近まで勇者だったなんて...。それに彼女たちが頑張ったおかげで、神樹様は消えてバーテックスも根絶したって言ってた...。とすると乃木さんと高嶋さんはバーテックスを絶滅させることはできなかったってことよね...?あ~...情報量が多すぎる...。ゆっくり理解していくことが重要よね...。頭がこんがらがるわ、まったく。)
この日、千景はすぐに床についた。楽しかったけど、すごく疲れた一日。こうして、彼女の転生後初めての一日は幕を閉じた。
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翌日
「東郷さんおはよっ~!今日は大丈夫~?」
友奈が東郷のうちを訪ねてきた。今日は金曜の朝。千景は寝坊せずにすべての準備を終わらせていた。むしろ上手く過ごせるか不安でとても早くに起きてしまった。
(昨日教えてもらったとおりに...!ちょっと恥ずかしいけど、やるしかない!『東郷美森』はそう言う人だって、そのっちは言ってた...!)
すると千景は助走をつけるために玄関へと続く廊下をダッシュする。そしてそのまま勢いよく戸を開けて大ジャンプ。戸の前に立っていた友奈に飛びついてギュッと抱きしめた。
「わあっ!?東郷さん!?」
あまりの勢いに、友奈は驚き困惑する。すると千景は早口で話し始めた。
「あぁ、私の愛しの友奈ちゃん!...友奈ちゃん!友奈ちゃん!友奈ちゃあんっ!今日も可愛くて存在自体が素敵だわ!スンスン......友奈ちゃんの匂い...最っ高...!どこをとっても完璧!どうやったら友奈ちゃんみたいになれるか知りたいわ!あぁ...愛してるわ友奈ちゃん...好き好き大好き...。もう頬ずりしちゃうわ!」
千景はそう言い、目をハートにしながら友奈の頬に自分の頬をこすりつけた。
「ちょ、ちょっとぉ!と、東郷さん何してるの!」
「え...?」
「今日の東郷さん...いつもよりハイテンションだね...。」
「え!?嘘!?......ご、ごめんね!そうなのよ~!昨日の夜良いことがあって、その時のテンションがまだ抜けきらずに...あはは~ハハハハハハー。」
(なんで!?私はそのっちの言うとおりにやっただけなんだけど!?.........でも友奈ちゃん、本当に高嶋さんとそっくりだから...悪くなかったわ。)
「あっ!!東郷さん!鼻血鼻血!」
「えっ?あら、ほんと。」
友奈はポケットティッシュを取り出し、血をふき取って鼻に詰めておいた。
「よし、これで大丈夫!」
「あ、ありがとう友奈ちゃん...。でも私、これで学校行くの?私恥ずかしいわ...。」
「学校着く頃には止まってると思うから大丈夫だよ!さ、行こう!(さっき私にやったやつは恥ずかしくないんだ...。)」
こうして友奈と東郷は学校に行った。
「わっしー、ゆーゆ、おはよ~!」
「今日は大丈夫だったのね、二人とも。にぼし食べる?」
「いらない!...あ、今日の朝ね、東郷さん鼻血が...」
「言わなくていいわ、友奈ちゃん。もう止まったし。...それよりそのっち、ちょっとお話があるんだけど。」
「え...な、な、何かな~?」
「東郷はにぼしいる?」
「結構よ。」
千景は園子を廊下の端に呼び出し、問い詰めた。
「ちょっと!どういうことよ!教えてもらった通りにやったら少し友奈ちゃんに引かれたんだけど!?」
「えっ!?あれ本当にやったの!?」
「え...?」
「冗談のつもりで言ったんだけどね~。まさか本当にやったとは...。ふふ......あははははははは!!見てみたかったな~!」
「あ、あなたねぇ......!!」
(こっちは何もわからないってのに...!)
「そうだな~、じゃあ次はにぼっしーに......」
「いい加減にしなさいっ!!私に恥かかせて!!絶対、絶対...許さないわあなたっ~!!!!!」
「わ~!ごめんなさいぃぃ~!!」
(第四話に続く)