【完結】ダーク・ナイトはへこたれない   作:澱粉麺

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王都に来て

 

 

そこから、僕たちが王都へ向かう道のりは、これまでの、歩けばそのまま苦難に当たるような道のりが嘘だったように平坦で特筆する事がなかった。勿論いい意味で。

 

馬を急がせて、4日程。明るい時間にのみ走り、暗くなれば怪我をしないように止まったから、実際距離はかかった日数程ではない。ある程度の食事を摂って、休息して、また進む。それを繰り返した。

…ただ一つ、本当に思うことといえば。ドクターが少食気味で本当に助かったと言うことだ。

 

その日は、二つ月が空に綺麗に光り、夜中でも真昼のような明るさだった。いよいよ近付いてきているという事もあり、疲労を溜めさせすぎないようゆっくりと走らせて。遂にそれが見えてきた時の、イスティの目の輝き様と言ったら。つい、笑みが溢れてしまった。

そう。辿り着いたのだ。

 

「王都、グラントーサ。ついに到着だ」

 

自分のものでもないのに、何処か自慢げに。

ダルクが笑って言った。

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

「わーーーっ!

すごい、すごいすごいです!」

 

「い、イスティ…お上りさん丸出しだぞ」

 

「いいじゃないですか、実際そうなんですし!そんなことより見てくださいあれ!橋!橋の上に光ってる棒がありますよ!?」

 

「あれは街灯だグライト嬢。鉄の棒の先にライトの魔術が永続化させられている」

 

「永続化!ルーンは定着を厭うのに…すごい!」

 

 

くすくす、と周りの衛兵たちがこちらを遠巻きに見て笑うのを感じる。どちらかというと微笑ましいものを見る笑みだけれど、それでも少し恥ずかしい。

だけど彼女のキラキラと輝いた目を見ると、どうにも止めれない。ましてや気持ちはわかるものだから、尚のこと。

 

「キミの初めてきた時が思い出されるねぇ」

 

「あそこまではしゃいではなかったろ。

…なかったよな?」

 

「ひひひ。どうだか」

 

街灯が幾つも立つ橋の下、堀に溜まった水に二つ月とともに煌き反射される光景は神秘的で、虹を渡っているような気になる。その光景を初めて見るとするならば、僕だって騒がなかった自信はあまり無い。

白亜の城壁を繋ぐ灰色の橋と黄色い月と灯りのコントラストは、芸術と言っても差し支えないものだろう。

 

「探索者の方達と…

おお、教会のドクターの方ですか!

どうぞお入りください。夜分までお疲れ様です」

 

入り口で、こっちの身分をいつもなら厳しく確認してくる筈の衛兵のボディチェックもなんだかいつもより緩い気がした。

それは横にいる、ハイレインのお陰かもしれないし、そのにこやかな笑みからドクターの付き添いの子どもくらいにしか思われなかったのかもしれない。こちとらちゃんとした探索者なんだぞ。

 

 

「きゃーーーっ!!像!あんなにおっきい像ですよ!それに見てくださいこの色とりどりの街並み、もうびっくりです!まだ来て早々なのにびっくりだらけです!」

 

……そう、やるかたない所にまた耳を劈く黄色い悲鳴。もういっそ、口の中からハートが出てきそうに大はしゃぎするイスティを、頭を抑えながら後ろから追う。そんな僕を見てダルクがまたキキッといたずらに笑った。

 

「い…イスティ…さすがに、さすがに!

今はもう夜なんだからな!?」

 

 

さて。

少し時間が経って落ち着いてから改めて会話。

どちらかというと宥めたというのに近いけど。

 

 

「おお〜…あれは…ウォリアーの方ですか。

こう見てみると、見るからに探索者な方も多いですね」

 

「まあ、探索者の基本といえばここを拠点に様々な防魔に行って日銭を稼ぐ…って感じだしね。一つ場に住み込みしてたボクらみたいなのは寧ろ少数派だ。というか、イスティはラウヘルに『瘴気祓い』として任命される時に王都には来なかったのかい?」

 

「はい。私は孤児院から直接用命されて直接行ったので」

 

「どおりで。箱入り娘なわけだ!」

 

ダルクはそうからからと笑う。何処か嬉しそうに。

なるほど。喋りたがり、説明したがりの彼の癖が出てきている。喋りたくて教えたくて仕方がないようだ。特に最近は、解説をドクターが持っていくことも多いから不完全燃焼気味だったから尚のこと。

 

「はい、だからビックリすることだらけです、本当に。

あの入り口に入ってあった大きな立派な像も…

あれは、有名な方なのですか?」

 

…ただ、その質問については、皆ぎょっとした。

それは、太陽の登る方向や『世の淵』のような、この世界を生きてる人の常識であり皆知っているはずのことであるからと。僕ら3人は、イスティは絶対に知っているだろうと思っていたから。

 

 

「…まさか…初代聖女について詳しくない…

というより、知らない、のか?グライト嬢…」

 

「いやまさかそんな…

そんな、なのかい?イスティ?」

 

「う。…実は…

もし詳しく知ってしまったら、憧れすぎて、それになるなんて烏滸がましい!と聖女になることそのものを諦めてしまいそうで…だから敢えて、まったく知らないようにしてたんです」

 

 

ぽかん、と皆が呆気に取られる。なんだか、この女の子は、皆が予想もしないようなところで皆を心の底から驚かせたり、感嘆させたりするんだ。今回は無論感嘆でなく、驚きの方だ。

 

 

「……むう。歴史に根差すような常識を…まあいい。詳しく説明すると日が明けてしまうし歩きながら超、簡略化したものを話そうか。どうにも、知りたくてしょうがないみたいだからね」

 

「!ありがとうございます、ダルク!」

 

そんなこんなで、僕たちは行きつけの宿に向かいながら、皆が知るであろう歴史を語り続けるというよくわからない一団となってしまった。そうでなくとも、なんだか珍妙なんだけどな。

 

 

「まずは…王都の歴史の方。二百年くらい前、大厄災と言われる事件があったことは知ってるかい?…あ、知らないならいい。要するにとんでもない規模の破壊と殺戮がここ、王都で行われたんだ。城壁が何者かに崩されて、全ての国民も命も魔物に食い散らかされた、とかなんとか」

 

「なっ…なぜそのようなことが?」

 

「さてね。狂人が壊しただとか、厄災の竜が壊しただの色々言われるが…どれも考察の域を出ない与太話さ。なんせ昔の事だし、本当に皆殺しだったからね。それを実際に言い伝えた人がいないんだ」

 

こそりと、どうせ後で二人とも欲しがるだろうと思って屋台で焼き菓子を買っていく。ふと様子を伺うと、ドクターが補足したそうにうずうずとしていた。だが、これ以上話されてもイスティがパンクするだろう。彼女もそれを分かっているのか、焼き菓子を奪うように僕から取って、マスクの下から器用に食べていた。

 

 

「そうしてここは呪われた瘴気まみれの荒地になったんだが、そんな呪われた地に足を踏み入れた者がいた。それが…」

 

「初代の聖女さま、というわけですか!」

 

「その通り!治めて、ここを再び人の住める土地にしたのがこの世で初めての『聖女』であり、今の王都の名前でもある、グラントーサだ」

 

「なるほど…では今の王様たちはその初代聖女、グラントーサさまの、ご子息なのですか?」

 

「そこがちょっとややこしくてね。当時、その多大すぎる功績に少しでも応えるべく、都の名を彼女にしたまではいいが、彼女は栄誉にも報酬にも目もくれず、また召し上げる子供も家族もいない。だから今、現在に残る子孫である王たちはその聖女グラントーサの血筋ではない。けど、清められた地を治める王は必要。だからその為に養子になった者たちの子孫、それが今の王様たちってわけだ」

 

「はへ〜…聖女にも王都にも歴史あり、ですね」

 

「二人とも会話はキリがいいか?宿についたよ」

 

間の抜けたイスティの息とともに、僕らはがちゃりと宿の扉を開いた。王都に来た時は大体ここに泊まっている。すごく質がいいわけでは無いが、そこそこ安く、何より飯が美味い。ダルク曰く量が足りないらしいが。その素晴らしい宿を、ハイレインはこう一言で表した。

 

「ほお、素晴らしい宿じゃないか!

屋根が付いていて、壁もある!野宿より一段上だ」

 

あからさまな皮肉には聞かないふりをした。どうせ、宿を選り好みして無駄遣いしているような予算の余裕はないのだから。

 

 

「では、第二回。ヴァン少年一団の会議を始めよう。進行は、話し疲れたアーストロフ少年に代わり私、ハイレインが行おう」

 

「…さすがに喉渇いてきちゃったからね」

 

ぼろけた机に皆で座り、先の話をする。

気付けばこれももう二回目だ。出来ればこの先すぐに全てが解決し、これから先何度もこの会議が無いことを祈るが。

 

 

「結局、王都には到着したが。

第一優先事項は謁見とラウヘルの報告か?少年」

 

「ああ。だが知っての通り、『王との謁見には三年かかる』だ。まずは他の用事から終わらせてしまってもいいな」

 

「え、そ、そんなにかかるんですか?」

 

「あ、勿論そのままの意味ではなくて…王は多忙だから、要請が耳に届き謁見の準備が成されるまでに時間がかかるってことの揶揄だ。実際は長くて一ヶ月程度で済むと思う」

 

 

この時期は、淵付近のアルターも大人しく、そこまで逼迫した状況の場も少ない筈。だがそれでも、タイムラグが発生してしまうこと自体は間違いない。ならばその間にやることは何だろう。

 

「それならば…

来るかい?私の故郷、魔女狩り教団へ!」

 

「悪いがそれは無しだ。

距離を調べたら馬で結構走らせなきゃいけないだろ。謁見が可能になった発布がされたらすぐ行ける圏内に居なければならないし、何よりそこの用事が早く終わる保証もない。却下だ」

 

「………むう……」

 

がっくりと、マスクを外してまで熱弁しようとしていたハイレインはまたマスクをつけて肩を落としてしまった。なんだか意外とこの人は、故郷愛が激しい人のようだ。

 

 

「ならばどうしましょうか?私の孤児院の方も、歩きでは…だったから…馬だと…

……はい、同じくらいはかかってしまうかと」

 

「ならそっちも謁見を終えてからだな。

……というかイスティ、ひょっとして歩いてラウヘルまで直接来てたのか、どういう体力しているんだ、本当に」

 

さて、そうなるとやるべき事…というより、やれる事はこの王都での情報集めだけだ。それこそ防魔基地の本部があり、それ以外にも幾つもの商人組合…ギルドがあるため、魔女の話を耳にできる可能性は確実に高くなってはいるだろう。

 

「じゃあ、第一案。防魔基地でいっそ依頼を貼る。

魔女について知ってる人はいないか、って」

 

「いやヴァン、そりゃだめだめ。魔女の情報が知りたい〜なんて言ってみなよ。おこちゃま扱いされてまともに話もされなくなるよ。忘れちゃいないかい?魔女はあくまで伝説の存在なの」

 

 

う、と口をつぐむ。

そうだった、ここ最近、当然に魔女が存在する前提で話が進み、それで話をしていたものだから忘れていた事だ。

 

 

「まあボーマに行く事自体は異論はないよ。

ただもう一つ。フフ、いい案があってね」

 

「そら。『これ』で情報を集めるのも悪かない」

 

 

ばっと、皆がダルクの方に視線を集めた。

懐から出したライセンスを見て、皆首を傾げた。

 

「なんだ?それ。探索者のライセンスでもないし」

 

「あ、書いてありますね。これは…」

 

 

「盗賊ギルド?」

 

 

僕とイスティが、顔を見合わせた。

それを見てか、もしくはそのライセンスの正体にいち早く気がついていたのか。ハイレインがまた、無機質な笑いをあげた。

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

結局、あの日の会議ではダルクの案を、行う事に決まった。ダルクが持ってきたあのライセンスを有効活用して、情報を集める。

 

では、それは翌日の今、どうする事を指すか?

それは、そう。つまりは。

王都に来て、まずやることとはつまり。

 

 

「楽しい楽しい、王都散策の時間だーっ!」

 

「わーーい!!」

 

「ククー」

 

 

「……いやなんでだよ!?」

 

 

…はしゃぐ3人の中、僕の声だけが変に反響した。

 

 

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