「おはようございます!今日はトレーニング日和ですね」
仕事から開放された翌朝休日の8時頃
週一回のランニングに出ようとした玄関前には素知らぬウマ娘
「一緒に頑張りましょうね!〇〇サブトレーナー!」
花が咲いたような、という表現が当てはまるその笑顔は
今の私にとっては薄気味悪いものに見えた
「…クローバーレース」
「?はい!なんでしょうか」
名前を知っているのに知らない子
そもそも二次元の存在であったはずの彼女
私は現実(?)を受け止められぬ故、意識を過去へと逃避させた
【ウマ娘トレーニングサポーター】
ウマ娘プリティーダービーから派生したこのアプリは更なる社会現象を引き起こした
このアプリを簡潔に説明するならば
『ウマ娘と(現実で)一緒に行動して絆を深めてレースに勝とう』
と、いうものである
例えば自らの足でランニングをすれば
ウマ娘のスピード、スタミナが成長しやすくなり
(ご丁寧に車などで移動しても成長しない)
例えば自らの身体で筋トレをすれば、
パワーや根性が成長しやすくなり
(どのようにして計測されているかは検証勢でも検証出来なかった)
例えば観光スポットへと足を運べば
やる気が上がってトレーニング効率が上がったり…
などなど、『まるで』ウマ娘と一緒に行動しているかのように
アプリ内の自分のウマ娘に反映されるのだ
(引きこもっていた子が外に出るようになった、との噂もチラホラ)
そして、数多の検証勢が挑んだ結果このアプリで一番重要とされたのが
自分の担当とのLane(アプリ内で担当とやり取りするSNSの名称)での『会話』だ
アプリインストール時、膨大な質問に答えた果てに担当するウマ娘が決定される
(リセマラした猛者がいたが、なぜか緑の帽子のあの人からの通知が届いたらしい。その後、何故か起動できなくなったとか)
本職トレーナーの代わりに
一部の練習やオフのリフレッシュを任された(という設定の)
我々『サブトレーナー(ユーザー)』は
担当するウマ娘と行動をともにする(設定だ。何故トレーナーもトレーニングするかは深く考えないこととする)が
検証勢いわく、ただ運動や出かけるよりも、
事前に『何時〇〇するぞ』と、やり取りして実行するほうが
上昇値が高いとのこと
また、Laneで世間話をするだけでもやる気をキープできたり
ウマ娘側からの相談事に応えればトレーニング効率がさらに上がったり
ウマ娘と趣味を語り合ったりすればスキルが増えたり…
などなど、
『本物』のウマ娘と実際にやり取りをしているかのようなシステムは
我々ユーザーを熱狂させた
ただし『会話』は各ウマ娘によって傾向が違い、
最初はコミュニケーションに苦労する
攻略サイトでも担当との『会話』についての欄には
「お前の担当なのだからお前が一番知っていなければ駄目だろ?」
と、突き放される。
(尚、その下に家電の取り扱い説明書の動かないときに確認すること、の、ような些細な事も網羅したチェック事項がびっしりと書き込まれている)
どんなに話しかけても事務的な回答が返ってくるだけの子が居たり
(そのユーザーはクーデレ…大好きです、とも言っていたが)
パリピ語で送られてくるので翻訳に苦労したり
(後にそのユーザーは性格が明るくなった)
急激なテンションダウンが多く、ネガティブな発言を送ってきたり
(こじつけでも良いからとにかく縁起が良さそうな事を言うのがコツ
と、笑っていた)
何処其処に行った事を覚えているかと問われたり、
返事が遅いと拗ねたり、
設定した自分の誕生日にはお祝いの言葉を貰ったり、
まるで『本人』と実際にやり取りをしているかのような−−−
「サブトレーナーさん?」
目の前の少女、いや担当のウマ娘『クローバーレース』が
私の顔を覗き込む
「…終わったらオレンジジュースで良かったかな?」
「はい!トレーニングが終わったら一緒に飲みましょう!」
あぁそうだ。彼女はいつもオレンジジュースを選んでいた。
謎は解決できていないが、彼女の花のような笑顔を見れるのなら
取り敢えず予定通りのランニングに向かう事にした。