『
『この世界』ではそんなの当たり前だろうと言われること請け合いの事実ではあるのだが、『ウマ娘』とは架空の存在である、という今とは違う別(もしくは元)の世界の住人である私にとっては、この言葉は胸に刻まなければならない
「……ケテ……タスケテ」
当然だが『生きている』、という事は三大欲求はもちろんとして
喜怒哀楽の感情があって
それぞれの趣味に没頭なんかして
学校を卒業したらその後の人生(ウマ生?)が続いていて
冠婚葬祭、その他さまざまなイベントが待ち受けているわけで
ゲームでは簡単に治ったケガなんて物はすぐに治るわけでもなくて
当然ながら病気にもなったりすることもあって
「…オネガイ…コナイデ」
『
「ヒッ…ヒメイガ…」
学生、社会人、ほとんどが経験するであろう『注射』に怯え、私の背中に隠れ縮こまっているクローバーレースはまさに『生きている』存在だと言える
心に負ったダメージとは対称に元気になった体で仕事をしていた時
クローバーレースの本トレーナー、
それは私のチームの予防接種に帯同してもらい、クローバーレースだけでも側に居て見て欲しい、という内容であった
正直に言えば、サブトレーナーというほぼ一般人を呼んでまで、更には
という疑問はあった
しかし、指定されたトレセン学園御用達というライブも行える大きな会場に辿り着いた時、数多のウマ娘達による阿鼻叫喚の現場に直面して納得した
脱走しようとするウマ娘がいる
しかしそれは目がどこか虚なクラスメートに両側から体を捕まれ叶わなかった
亡者、もしくはゾンビのように『ニガサン…ヒトリダケニゲルナ』やら
『キサマモコノクルシミヲアジワエ…』など
怨念たっぷりの呪詛と、金切り声で振り解こうとするウマ娘の姿はさながらホラーゲームのようだ
床に突っ伏しているウマ娘がいる
どうやら注射の直後らしいが、何かに襲われて力尽きたように倒れ込んでいるので救急車を呼ぶことも一瞬考えた
ひたすらに『注射なんか駆逐してやる…』なんて言っているから大丈夫であろう
全身を拘束されているウマ娘がいる
生徒の虐待とも捉えかねない光景だが、彼女の周りの壁や床の傷やへこみ、さらには布の切れ端やら何かの綿やらが散乱している事から察するに大暴れしたのだろう
…今まさに拘束具を持ってスタッフと思わしきウマ娘が別なウマ娘を抑えるために駆けて行った
スタッフさんの目も虚に見えたのは、自らの手で死地へと送り出す同族達への懺悔からか、はたまた続け様に起こるトラブルへの疲労からか
(虐待とも捉えられるが暴れられた方が周りもウマ娘自身も危ないので常備されている物、らしい)
魂が抜けたような状態で椅子に座る芦毛の目隠れウマ娘がいる
というかクローバーレースの親友『ムラクモヒメ』がいる
聞けば、「オネイチャンダカラ、チュウシャナンカコワクナイッテコトヲシメサナキャ」
と、村中さん宅の注射が嫌いな息子さんを鼓舞すべく、サブトレーナーの同行を断ったのだそうだ
予防接種は終わっているそうだが、立ち上がるまでまだまだ時間がかかりそうだ
私の背中に隠れて震え上がっているクローバーレースがいる
服の背中側を強い力で握られ下手すればちぎられそうである
この惨状だ。誰も彼女の醜態を気に留める者など居る筈がない
おそらく自分と同じサブトレーナーだろう女性も膝に顔を
目線が合い、軽く会釈をする
言葉は交わしてないがおそらく「お互いに大変ですね」だろう
後から聞いた話ではあるが、サブトレーナーが帯同したウマ娘の方が調子の戻りが早いらしい(ついでに言うなら周りへの被害の無さも帯同を懇願する理由)
予防接種を終えた後も、幼い子供のように甘えたがるクローバーレースの相手をし続けた
尚、三橋トレーナーも自分の担当ウマ娘達に振り回されてやつれていた事をここに記しておく
ウマ娘が注射を嫌がるのはウマ娘を知るおおよその人が認識していることである(『元の世界』での例に上げれば帝王とお嬢様の主治医の人とか)
それは並行世界の存在が、注射、もしくはそれを取り扱う医師を苦手とするからだろうか
クローバーレースも、おそらく苦手としていたに違いない
ご機嫌取り用に買ってきたオレンジジュースを彼女に飲ませつつ、そんなことをふと思った