ウマ娘の新アプリがリリースされました   作:たかなしゆういち

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三橋トレーナーは後日、雨鬼の噂を耳にする

 

 大雨の日のトレセン学園校内の練習場は人気(ひとけ)が無くなる

 

 全生徒が一斉にレース場を走ることは出来ないため、ローテーションで練習場の練習時間が割り振られるのだが、この悪天候では早々に切り上げる事が多いため走る者がいなくなる

 

 もちろんレースは雨でも行われるので、芝や土が水を吸って稍重、重バ場の時の練習を行うのに打ってつけの日である

 が、芝だと滑りやすい、体力の消耗が激しい、スピードも出にくい上に服も髪も靴の中までもびしょ濡れになるのが嫌だ、と口には出さない(出すものも居る)が明らかにコンディションを落とすウマ娘が多い

 重馬場の走りをある程度経験させたらウマ娘が怪我をしないように、調子を下げないように短時間に纏めるトレーナーが多数だ

 また、最近は最新のVR機器の仮想空間内で悪天候を再現し、実際の天候に左右されず、練習着の洗濯の必要もなく、転倒などの怪我のリスクも抑えられるので、殊更大雨の日に外に出て練習をしたがらない

(VRは便利だしAIは優秀、分かってはいるのだがトレーナーの存在意義を失いかけているのは錯覚なのかしら)

 

 だから大雨で練習場に人気がない…筈だった

トレセン学園の赤い練習着を纏い、ずぶ濡れになるのも厭わず、転倒を恐れずただ一人コースを駆けていく

 『ムラクモヒメ』だ

トレーナー歴三十年を越えたベテラントレーナーの元、【ウマ娘トレーニングサポーター】の制度を利用している芦毛の目隠れの気弱なウマ娘

担当の一人である『クローバーレース』と仲がいいウマ娘だ

 そのクローバーレースも傘をさしてゴール板の所に立っているではないか

右手を覗き込んでいるあたり…ストップウォッチでタイムを測っているのだろう

 

「クローバーレース」

「あ、三橋(みはし)トレーナーお疲れ様でーす」

「今日の練習メニューは終わっているから問題はないけど…体冷やして体調を崩さないように」

 

 わかってまーす、と、彼女は生返事をして最終コーナーを回ってきたムラクモヒメに視線を戻す

目上に対しての対応としてはよろしくないが、今まさに目の前を駆け抜けようとするのに此方に意識を割かせる訳にもいかない

 

 最終直線

こちらに向かってくるウマ娘は普段の気弱な姿とは想像もつかなかった

 雨に濡れて長い髪が身体に張り付き、顔面にも張り付き、前髪が纏まって露わになって見えたその『眼』は

 

 獰猛(どうもう)な肉食獣を彷彿とさせた

 


 

 前の世界の村中さんがよく愚痴にするのが奥様についてだ

ゲームに難色を示していた奥様は『ムラクモヒメ』に一目惚れして家族ぐるみで彼女の育成を行なっていたが、「雨の日×」のマイナススキルを見ると以前働いていた時の自身の貯蓄を持ち出した

 【ウマ娘プリティーダービー】では簡単に取り除けたマイナススキルだが、【ウマ娘トレーニングサポーター】ではポイントで取り払うことが出来なかった

 故に村中さんは放置していたのだが、奥様はお金を『マニー』に変換、そして消費アイテムからシャンプー、リンス、ヘアオイル、尻尾用のトリートメント、高品質のドライヤーからブラシなど様々な消費アイテムを買い与えた

(そして旦那に雨の日の中ひたすら走らせた)

 

 

 普段プレゼントなんかされない村中さんは自身との扱いの差に奥様へ抗議をしたが、そのうちムラクモヒメが「雨の日◎」、さらには「重馬場◎」を習得したことを見せつけられ黙らされた

 この瞬間、村中さん主導であった育成が奥様へと移り変わったのである

 


 

 雨の日は苦手です

私の髪と尻尾の毛が湿気を吸って膨張したり、うねってしまうから

手入れをするにも時間がかかるし学生のお小遣いでは必要なものを買い揃えるには少し物足りません

 アルバイトも視野に入れたのですが、接客業は私の内気な性格では不可、そもそも面接で上手く喋れません

 内職系の仕事を勧められましたが、数をこなせず纏まった金額にはなりませんでした

 

 そんな時、サブトレーナーを受け持っていただけた村中さんの奥様から、身銭を切って色んな物を贈ってくださいました

中にはトレセン学園のお嬢様も購入の視野に入れるようなランクの高い用品まで入っていました

 こんなに頂いても受け取れない旨を伝えても

『もう買った物だから使いなさい』

『悔いのないように走るのが貴方が出来ることよ』

『それなら家の娘にでもなる?』

と、取り合ってくれません

 

 私は自分に自信が持てません

運良くトレセン学園に入れましたが、周りは私より速い人が沢山います

でも…それでも『走りたい』気持ちは抑えきれなくて

両親にも背中を押されて送り出してもらって

デビューもしてないのにプレゼントも貰って

私の走る姿を『カッコイイ』と言ってもらって

 

 

 

 雨の日、多くのウマ娘があまり走りたがらない日

本来の練習場の使用チームが早めに切り上げたので許可を貰って走りました

 私のトレーナーさんにも追加のトレーニングの許可をもらい、誰よりも多くターフを走るべく雨の下に繰り出します

 プールメニューを終えたクレちゃんもタイムを測るのを受け持ってくれました

同じ後方策を取る者として、後でどうだったか聞きましょう

 

 練習後のケア、明日の練習着、髪と尻尾の手入れも問題ありません

共用の寮のドライヤーの取り合いも、頂いたお高めのドライヤーを持っているので気になりません

 

 私は恵まれています

こんなにも応援してくれる人が居るから

 だから私は走ります

例え相手が天才でも、ルームメイトでも、同期、先輩後輩相手でも

 

 私の勝利を皆に捧げるために、全員を喰らいつくします

 

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