東京優駿
あるいは『日本ダービー』
東京レース場 芝 2400m 中距離 左周り
ウマ娘にとって一年しかないクラシック期のみ参加出来る優駿達が集うG1レース
同じくクラシック期限定の『皐月賞』、『菊花賞』のG1の三レースを競い合う路線を『クラシック三冠路線』と言い、一つでも勝利すれば後世に自分の名が語り継がれていく大規模なレースだ
『皐月賞』は最もはやいウマ娘が勝つと言われ、『菊花賞』は最も強いウマ娘が勝つと言われ
そして『日本ダービー』は最も運がいいウマ娘が勝つと言われている
自宅近場の運動公園で軽めのランニングを終えた後、勉強会として家へと移動した休日の午後
遠慮なく風呂場のシャワーを使っているクローバーレースに特に言うこともないのでタオルとドライヤー、そしてオレンジジュース(100%)を準備して待機する
勉強会と言っても今日は学業ではない
本日開催の東京レース場にて行われる『日本ダービー』を、テレビで見ながらレポートを作成するのだ
現地の直接観戦やトレセン学園の寮内、トレーナー室でも出来そうなものだが、現地は満員御礼確実、寮内ではダラけたりして気が緩い、
サブトレーナー同伴のトレーニング終了後、そのまま此方でレースを観てもらった方が都合が良いとの事で自宅での観戦となった
シャワーから上がり、髪もまだ半乾きのまま『日本ダービー』前のレースもじっと見つめるクローバーレースに問題を出す
「クローバーレース、東京レース場の特徴は?」
「…長い最終直線、525.9m。最終直線で登り坂はあるけど全体的な高低差は低め」
ちらりと目だけで私を見てすぐに戻し、画面を正面に捉えたまま答えるクローバーレース
集中している時の癖だ
声をかけたらすぐ顔をこちらに向ける普段の彼女とは違う
(今の所、息抜きのゲームで興に乗っている時しか私は見ていないが)
あまり刺激しないように、そっと空になりかけたオレンジジュースを注ぎ直した
クローバーレースの所属するチーム〈モサラー〉に所属する先輩が走るレース
シニア級限定 芝2400m
つまりはダービーと同じ距離
枠番は不利とされる外側での出走だった
「…先輩、負けたら引退するって言ってました…」
彼女が呟いた。先程と変わらずじっと画面を見続けているままだ
両手は強く握られ、彼女の服に皺ができている
ウマ娘の競技人生は短い
本格化が始まって長くても四、五年走れば能力値が下がり始める
落ちきった状態でも成人男性より遥かに身体能力が優れているが、走ることに命を燃やす彼女達にとってそんなことはなんの慰めになどならないだろう
クローバーレースの先輩が五年かけて走ってもたったの二勝
衰え始めていく身体ではこの先勝利をする事が更に難しくなる
喜ぶ勝者の背後に小さく映ったのは三橋トレーナーに付き添われてターフを去るクローバーレースの先輩
その後ろ姿と零れた涙などきっとほとんどの人が忘れていく
彼女に私が出来ることなど幸せな未来を祈ることだけである
『運も実力の内』という言葉がある
枠順で有利不利がでたり、天候によって良馬場重馬場、その得手不得手があり、怪我や病気をせずに迎えることができた幸不幸等など
自分だけではどうしようもない要素を味方につけられるのも勝利にする要素の一つ
コンマ数秒の差で競う一発勝負のレースでは、ほんの些細な事でも勝敗を決することもある
ウマ娘達の実力者が集い、生涯で一度しかチャンスのない枠を勝ち取った猛者たちの中の一番を決める
『最も運がいいウマ娘』が勝つとされる、日本ダービーが始まる
わたし、『クローバーレース』は運に自信がある
運要素の強いゲームには高確率で勝て、おみくじは『大吉』ばかり、マークシート式のテストもお手の物
お菓子やアイスの当たりは両指では数え切れず、限定品の購入での抽選にも強い
わたし、『クローバーレース』は運に自信がある
トレセン学園に通えるほどの実力があって
トレセン学園で三橋トレーナーに早い段階からチームに誘われ
【ウマ娘トレーニングサポーター】の試験導入の初期テスターに選ばれ
『〇〇さん』と出会うことが出来た
わたし、『クローバーレース』は運に自信がある
不自由の無い生活を送り、大きなトラブルに巻き込まれることもなく過ごし、心配してくれる人が居て、見守ってくれる人がいて、応援してくれる人が居て…
一緒に居てくれる人が居る
わたし、『クローバーレース』は応えたい
わたしが貰った『幸運』をみんなに倍返し
レースに勝つことが最上級の恩返し
運だけで勝てる程レースは甘くない
突然降って湧いてきたチャンスに気付き、そして掴もうとする勇気
そして成功するために積み上げてきた努力
このレースがいい
『〇〇さん』が直接応援に来やすくて、世間からの注目が大きくて、
ウマ娘の生涯たった一度だけの栄冠のレース
『日本ダービー』
ダービーウマ娘の称号が、私は欲しい