ウマ娘の新アプリがリリースされました   作:たかなしゆういち

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夢の先まで

 六月

 

 私、『ムラクモヒメ』にとって毛のうねりを引き起こす湿気と戦う月ですが、今年は更にもう一つ戦いが始まります

 

 ダービーが終わり、梅雨の時期に入るこの月は、二大グランプリの『宝塚記念』、春のマイルの頂上決戦の『安田記念』がありますが、もう一つトレセン学園のウマ娘にとって一大イベントがあります

 

 本格化を迎え、身体が出来上がり始め、憧れの夢へのスタートライン

勝者のみが次のステップへと駒を進めることが出来る栄光への道

叩きのめされても、土をつけられても尚立ち上がり、走り出さなくてはいけない薔薇(イバラ)の道

 

 そう、六月には

 

 「『ビューティードリームカップ』、楽しみだね!ヒメちゃん!」

 

メイクでび…

あぁ、それもありましたね

ビューティー安心沢がデザインするウェディングドレスをモチーフとした勝負服で走るレース

女の子の憧れとして良く挙げられる素晴らしい衣装を見に纏うことには心惹かれる物がありますが、本格化し始めたこのタイミングでは(うつつ)を抜かしている暇がありません

 

 クレちゃん、私にとって大事なレースは他にあるわけで

…そう、六月には

 

 「期末テストの準備はバッチリッスよー♪いーっぱいサブトレに教えてもらえたッス!」

 

メイk…

確かに学生である私たちには学業のテストがあります

 出走するレースによってはテスト当日の参加を免除される事もありますが、本格化が始まっていないウマ娘は通常の学校と同じようにテストを行い、成績の悪い学生には補習もあります

 当然、補習期間中は練習をやらせて貰えないので乗り越えるべき壁ではありますが…

 

 「本当⁉︎なら歴史教えて!〇〇さん歴史は苦手だって言われて困ってたの!」

「いいッスよ!この前オレンジジュース貰ったお礼ッス!」

「ありがとう‼︎アーちゃん!」

 

 クレちゃんこと『クローバーレース』、そのチームメイトのアーちゃんこと『スピッツチアー』が抱き合っています

 正直、スピッツチアーさんのサブトレお手製のノートはお借りしたい程ですが、今日集まってもらったのは別な理由です

 事前には内容を伝えておいたのですが、私が口を出さないので話の主導権を取られっぱなしです

 

 満足して離れた二人を確認してから、今日することを改めて言いました

 

 「今日は、『メイクデビュー』戦後のウイニングライブ

『Make debut!』のダンス練習に付き合ってほしいの」

 

 


 

 

−−−響け ファンファーレ

 

−−−届け ゴールまで

 

−−−輝く未来を君と見たいから

 

 

 メイクデビュー戦、OP戦の勝者がセンターで行うLIVE、または大規模なLIVEイベントでも採用される『Make debut!』

 

走る場所が何処であろうと、レースに出たことのあるウマ娘ならば必ず関わった事がある始まりの歌

 

一着だったウマ娘をセンターにして、二着、三着を伴ってファンへの感謝を伝えるLIVEを行います

 

 当然、LIVEの練習を事前にするのですが…とても大変です

四着以下はバックダンサーとなりますが、その時の人数によって立ち位置も移動する場所も違う

一着から三着は、歌いながらそれぞれの着順で定められた振り付けのダンスをしなければならない

 

 つまり…3パターン+バックダンサーの動きを覚えなくてはならないということです

 

「~♪?!あ!!ゴメン!早かった!」

「えっとえっと…次は何でス!?」

「…ちょっと休憩しましょう」

 

 一着から三着の立ち位置をローテーションしてダンスをしていましたが、上手くいきません

お二人はまだ本格化前ということで、ダンスの練習時間がそんなに組み込まれていないのもあるでしょう

 

 「ヒメちゃん、始めるよ~」

「合いの手なら得意ッス!」

 

 センターの動きの練習として動画をお二人に撮って貰い、見返す事にしました

先程から動きっぱなしですが、この後も学校の課題、レースの対策のためのミーティングと時間がないので泣き言は言ってられません

 

−−−いつか笑える

 

−−−最高だけを目指して ゆこう

 

 


 

 

 寮内の自室にて、撮って貰った動画と生徒に公開されている参考映像と見比べます

疲れている状態で行ったので、両手で数えきれないほどの粗が見つかります

 

「あっ‼︎ヒメちゃんも『Make debut!』の練習してたの?」

 

 動画に夢中になっていたらルームメイトが戻って来ていました

「今度一緒に練習しない?センターが居ないと二着、三着の動きってピン!と来なくてさ」

「うん、私もお願いしたいかな?センターの動きが変じゃないかも見て欲しいし」

「任せて!ふふっ、いつやろうかな〜。あ、私のトレーナーも呼んでいい?」

 

 楽しそうな私のルームメイト

私と同時期に入学をして、同時期に本格化を迎え、適正距離もほぼ同じ

 学園では『月の女神』、『かぐや姫』等、共通して『月』と『美しい』に関係する名称で噂される彼女

確実に歴史に蹄鉄の跡を残すであろう素晴らしい才能を持ち、数多のトレーナーから契約を迫られた才女

 

 『セレーネグリマー』

 

それが彼女の名前

 

 そんな彼女を新人トレーナーが担当することになったのも学園内で話題となりました

 新人トレーナーが先輩のチームで経験を積まずに担当一人を持つのは稀で、素晴らしい才能を持ったウマ娘と二人三脚、比翼連理でトゥインクルシリーズを駆け抜けて、そのまま結婚する程の仲にまで至るケースが多く、生徒の間で恋の進展、嫉妬の対象として良くも悪くも話題の中心となります

 

 彼女自身明るく、真面目で、才能があって、正義感が強くて

まるで、『主人公(ヒロイン)』の権化のような存在です

 

「ん、じゃあ次の金曜の放課後で。よろしくね、ヒメちゃん」

「よろしくね、お休み、グリちゃん」

 

 彼女を嫌いになる要素など見当たりません

才能の差すらも、普段から真面目に練習をして、バックダンサーの動き方すらも確認して、遅く帰ってくるのを知っていれば嫉妬の感情すら起きません

…あぁ、でもそのサラサラな金色の髪は羨ましい限りですが、特にサラサラ

 

 いつか、同じレースを走ることがあるでしょう

彼女はきっと笑顔で手を差し出して「よろしくね」って言うでしょう

 

 今のところ

私はその言葉に上手く返事が出来ません

 

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