街中で笹の葉がついた竹が並べられていた
日陰を探して歩く通勤路
コンクリートが支配するこの都会でポツンと立てられているのを目にした
近々、七夕の日がくる
笹の葉に付けられた短冊の可愛らしい字の微笑ましい願いに心癒されながら、最後に短冊を吊るしていたのはいつだったかを思い返したが、遠い記憶の彼方へと消えていた
色鮮やかな願い達が眩しくなってきた私は、思考を『クローバーレース』の期末テスト終了祝いに切り替え、この場を足早に通り過ぎた
「………あっつい」
「同感……冷房、もっと強く…」
「ねぇ、二次関数のグラフの頂点の求め方、誰か覚えてる?」
「むしろウチが聞きたいー」
放課後、わたし、『クローバーレース』を含む勉強が苦手なクラスメートが集まって課題に取り組んでいる
が、人間より体温の高い
平熱が高いのに、体温の危険域が人間と同じなので熱中症対策は必須である
部屋の中に居て尚襲いくる熱に対し、部屋全てを涼しくするにはトレセン学園は広すぎた
「補修対象になれば…涼しい部屋で…夏を…乗り切れる…?」
「ダメよ、それ。学業もレースも成績振るわなくなって途中退学コースよ」
「プールトレーニングと…交互なら…問題ない」
「もうそれ水泳選手では?」
「ウチ、泳げんのだけどー」
僅かながらの空調から届く冷たい風では集中力が続かず、雑談が混じり始めたので本日三回目の休憩となった
「ところでレーちゃんはさ、『サポーター』の人とはどんな感じよー?」
『サポーター』、【ウマ娘トレーニングサポーター】のサブトレーナーの通称
公的にはサブトレーナーだが、学園にトレーナー資格を持ったサブトレーナーも居るので区別の為に『サポーター』と呼ぶ人も多い
「んー、◯◯サブトレーナーさんはね、なんか面倒見のいい親戚の人って感じ?」
「ちょっと歳の離れた…頼れる人って…なんか…こう…いいよね」
「アンタの好みは聞いてないが?」
「テストの点数も上がったんしょー?ウチも申請すればよかったー」
「テスト無事乗り切れたらご褒美約束してくれるし、無理言って人参収穫の手伝いに着いてきて貰ったし、それからそれから…」
「おっとー、ノロケか?」
夜、私、『ムラクモヒメ』はトレーナーさんとのミーティングを終え、寮の自室へと戻ってきました
扉を開けると、既にルームメイトの『
「あ…お帰り、ヒメちゃん」
「ただいま、グリちゃん。そしてメイクデビューおめでとう」
「…ありがとう」
グリちゃんはこの間行われた、トゥインクルスターシリーズの第一歩、メイクデビュー戦を華々しく飾った
早くもジュニア級の有望株と注目され、来年のクラシック期の期待が高まりつつある
「その…ヒメちゃんは…」
「大丈夫」
「大丈夫。これは私が焦って自滅しただけなの。トレーナーは自分の責任って言ったけど、私自身が自分を信じきれていなかったから起きたの」
「ヒメちゃん…」
「だからね?グリちゃんが気にすることないの。はいこれ、勝利祝い」
抱き潰していたぱかプチを開放し、私からのプレゼントを受け取ったグリちゃんの目に、輝きが戻ってきた
「チーズケーキ…!」
「メイクデビュー勝利おめでとう」
「ありがとう…!」
好物を貰って表情が明るくなり、一安心する
私のせいで、勝ったのに暗いままなのは申し訳ない
「……フォークが一つしか無いよ?」
「え?」
「…ん、はい。ヒメちゃん、あーん」
「え?え?」
「あーん」
ウマ娘向けの大きめなケーキだが、ホールを切り分けた内の1ピースだ
当然、一人分である
しかし、グリちゃんは切り分けて片方を私へと差し出した
真っ直ぐに此方を見つめ、引く意識が無いようなので戸惑いながらも口の中に入れた、おいしい
「うん!トレーニング出来るようになったらさ、並走でもなんでも付き合うよ!」
「グリちゃん…」
「中距離なら私も練習しなきゃだし。それに
大切な人には自分の一番を見てもらいたいもんね」
___そう、私も、見せたかった
なのにあんな無様な姿を見せてしまった
トレーナーに謝らせてしまった
遠く離れた両親に心配させてしまった
【ウマ娘トレーニングサポーター】にてお世話になっている村中さん達にも気を使わせてしまった
…あの子に泣きそうな顔をさせてしまった
もう、絶対に、そんな事は起こさせないと、強く誓っている