ウマ娘の新アプリがリリースされました   作:たかなしゆういち

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〈レポート〉江ノ島探索

 小田急線相模大野駅より小田急江ノ島線に乗り換えて快速急行で約二十分、藤沢駅から乗り換えて約十分

竜宮城を思わせるようなデザインの、緑の屋根と白い壁と赤い柱

 

 片瀬江ノ島駅

今日の目的地である江ノ島の最寄駅

 江ノ島へと続く桟橋には多くの観光客

ウミネコの鳴き声、潮の香り、海を走るモーターボートの駆動音

強い日差しも時折吹く海風が涼しくしてくれる

 

 「今日は晴れて良かったですね!お出かけ日和です!」

普段より二割増しなテンションの『クローバーレース』

 その元気な理由は夏の開放感からかテストからの解放からか、はたまた別の理由からか

 

 私達は、クローバーレースのテスト終了と、出会って一年の祝い(尚、私には覚えがない)を兼ねて江ノ島で観光する事にした

 

 普段はトレーニング絡みでしか二人で出かけないので、制服とジャージ姿でない彼女の普段着が新鮮だ

 白いブラウスに青い長めのスカートと、そして頭には今の彼女の装いからは少し浮いたクローバーの髪飾り

 「その髪飾りは…」

「はい、出会った頃に買って貰ったものです」

 

 彼女が付けているクローバーレースの髪飾りには見覚えがあった

私が元居た世界でプレイしていたアプリ【ウマ娘トレーニングサポーター】をプレイし始めた時、チュートリアルで自分の担当に何かをプレゼントする際に、大量の項目から悩みに悩んで選んだものだ

 贈ったのは確かだが、それはアプリでの話だったはずだ

 

 「名前にちなんでクローバーの飾りは安直過ぎたかと思うのだが…」

「わたしが気に入っているんですからセーフです」

 

 私が存在しない筈の人物(クローバーレース)と邂逅したのがついこの間の春

 しかしながら髪飾りの話が事実なら、私を慕う彼女の認識では、アプリ開始時の一年前から出会っていることになる

 そのことから考察すると、これまで贈った物、出かけた場所も彼女は認識している可能性が非常に高い

 

 「ほら、暑いんですから水分補給は大事ですよ!」

「わかっている。だから無駄な汗を抑えるためにもそこにある江ノ島エスカーを…」

「普段走ってますから行けますよ!階段で行きましょう!今日のトレーニングの代わりです!」

 手を引かれて階段へと誘われる

考えなければいけない事は増えたが、今のところは目の前の強敵(階段)への対処に集中することにする

 


 

 まず右手で柄杓を持ち、水を汲み左手を清める

左手に柄杓を持ち替えて右手を清める

再び右手に持ち替えて、左手を皿のようにして柄杓から水を受け、その水で口を濯ぐ

左手をもう一度最後に柄杓を立てて柄杓の持ち手を清める

 この一連の動作を一汲みの水で全て行う

 

 以上、手水舎(ちょうずや)で行う作法

暑い夏の日というのも相まって、手水舎で水に触れられるのが心地良い

 場所によっては柄杓がない代わりに花を浮かべて華やかにしている神社もあるので写真に収めるのもいいだろう

 

 「そーれ…あぁ!?弾かれた!?」

クローバーレースは神社の横にある、龍神の前にある池に囲まれたお賽銭箱に小銭を投げ入れようとして、失敗していた

 尚、人に物を投げて渡すのはあまり褒められた行いで無いのと同じ様に、お賽銭箱へ粗雑に投げ入れるのは良くないという話もある

いつも可能な限りは丁重に入れるが、ここでは丁寧に投げ入れる事にする

 

 「もう一度…いや、遠縁、十円玉を使うのは…」

「それはあまり関係ないよ」

 流れる水で十円玉を清め、お賽銭箱に下手投げでゆっくり投げ入れる

金属同士が当たる音がした後、小銭同士がぶつかりあった独特な音が聞こえた

「十円玉だからって意地悪してくる神様だったらこちらから願い下げ、それでいいのさ」

「えぇ…良いんですか?」

「良いのさ、大事なのは、その時の心持ち。それより早くこっちも見よう」

「えぇと、勝利の神様と、音楽芸能の神様!?ウマ娘にピッタリじゃないですか!」

 


 

 灯台からの景色を堪能したあと、近くのお店で早めのお昼ごはんにした

 レトロな雰囲気がまるで実家に帰ってきたかのような感覚を呼び起こし、開放された窓からは涼しい風と、蝉の鳴き声を届けてくれた

 

 「お待たせしました、生しらす丼でーす!」

 

 店員のウマ娘が私と彼女の二つのお盆を持ってきた

聞けば近所に住む学生のバイトとのことで、車やバイクなどが入れない観光客向けのお店の物の運搬は、ウマ娘を雇って行うのが大多数らしい

 可愛いくて看板娘もよし、狭い道でも入れてかつ大量に物を運べる

科学技術が発達していない大昔なら今よりも重宝されたことであろう

 

「〇〇さん〇〇さん、写真撮ってください」

「わかったわかった」

 

 彼女のスマホを借りて、撮影する

スマホに映った彼女を見て、過去に【ウマ娘トレーニングサポーター】で撮影して、初めて彼女が写り込んだ事を思い出した

 


 

 「ふと閃いた。このアイディアは、クローバーレースとのトレーニングに活かせるかもしれない」

「どうしたんですか?急に」

「いや、なんとなく」

 

 八方睨みの亀

天井にある亀の絵は、何処から見ても此方を見ている不思議な絵だ

 『八方にらみ』という同じ名前で本家アプリに登場した、相手に悪影響を及ぼすデバフスキルがある

 使用の際の作戦は[差し]、クローバーレースも得意な作戦であるため是非とも覚えて頂きたい(尚、獲得済みスキルを確認する術など無い)

 

 「ところで歩き通しですが大丈夫ですか?」

「…まだ行ける!」

 一年前の私であったならば無理だった

しかし、走り続けた成果は出ていた

 


 

 「鐘を鳴らしに行きましょう!」

「…恋人同志では無いが?」

「ウマ娘にとってのベストパートナー!女房役!強い絆!この繋がりは強めるべきです!」

「それは本来三橋(みはし)トレーナーの役割だからな?」

 

 彼女は途中の山道に入りカップル向けのポイントへと先行した

道も狭くなり、すぐ横は(ヤブ)となって入ることが出来ない

 

 「もうすぐ見、みぃぃい?!」

急に此方に下がってきてぶつかってしまった、痛い

 

 「…蛇?」

「これ、これ、通り抜けれますかね?!通った瞬間カブリと来ませんよねぇ?!」

「大丈夫だとは思うが…引き返すか」

 

 江の島に伝わる伝説的には、蛇は神の遣いと捉える事も出来そうだが、身の安全を第一とした

 


 

 

 江の島岩屋

押し寄せる波で島の岩が削られて出来た洞窟

洞窟の中には位の高いお坊さんも訪れたとして、彼等の石像が並べられている

 

 「涼しいです…」

「確かに、これは助かる」

太陽光から隔絶され、水が滴り落ちる洞窟内は、夏の日であることを忘れさせてくれた

 

 途中で配布された蝋燭による灯りを手に、奥深くにある神社まで向かっていく

道中、現代機器のライトがあるので完全に暗くなる事は無いが、遥か昔から人を導いてきた小さな火で、幼き頃の冒険心が蘇った

 

 「あまり早く動くとその風で消えてしまっ…!!」

「…手元だけ見るのも危険ですね…大丈夫ですか?」

 

 所々岩が迫り出しているので頭上にも注意しなくてはならない

大変な筈なのだが、不思議と(つら)くは無かった

 


 

 「口の中で広がる爽やかな蜜柑の酸味と香り、上質で控えめな甘さ…とても美味しいです‼︎金賞ものですね‼︎」

「暑いからすぐ溶けて垂れてくるからね」

 

 来た道をなぞるように戻り、お土産屋が並ぶ通りにあるお店でソフトクリームを購入した

 選んだ味は『湘南ゴールド』、私はそれとバニラとのミックス

 

 「でもっ!この舌に残る余韻をっ!少しでも(なが)くっ…‼︎ぁぁぁああ垂れて来たぁぁ⁉︎」

 一滴も無駄にしないようソフトクリームを急ぎ食べる彼女

しかし、冷たいものを一気に食べたので頭痛で顔を歪めた

 こちらも少しの頭痛に悩まされながらもソフトクリームを食べ終えた

「トレセン学園にも卸してくれませんかね…」

「神奈川限定とあるから…」

そう口にはしたが、頭の中で[採用!!]と扇子を広げた学園長の姿が頭によぎった

 

 可能性は、0じゃない

 


 

 緑のボディに車窓部分を覆うクリーム色の横線

帰りは江ノ電に乗って藤沢駅まで戻ることにした

 

 「今日はとても楽しかったですね!」

「あぁ、私も童心に返れたかのようだった」

「素敵な御朱印も買えましたし、チームの皆のお土産も一杯です!」

「食べ物ばかりなのは流石というかなんというか…」

「また、一緒にお出かけしましょうね、約束ですよ?」

「そうだな、次は何処にしようか」

 

 ゆっくりと進む電車に揺られながら、私は今日の彼女の笑顔を思い返した

 


 

 彼女と出会うまで、漠然と過ごしてきた私にとって誰かと出かけることなど思いもよらなかった

 ただただ自宅と会社を往復する日々

休日は出かけても買い出し程度、観光地に出向く考えなど一欠片もなかった

 

 元の世界で【ウマ娘トレーニングサポーター】を始めてスキル取得を目的に出かけたあの日

 慣れない電車の路線で右往左往しながらも、どうにか遠出をした場所で、初めて『クローバーレース』を写した写真

 

 大きな鳥居の下で此方に手を振り笑顔を見せる彼女に心惹かれたのだった

 

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