私のチーム、《モサラー》には五人のウマ娘が所属している
内、シニア級の一人は引退を決めており、トレセン学園卒業後の進路を探している所で練習に参加する事は無くなった
もう一人のシニア級の一人は先週行われたレースの休養を兼ねて、実家に里帰りしている
残るはまだ本格化を迎えていないウマ娘が二人と、今年からデビューしたジュニア級の一人
「スノウ先輩次走るレースが決まったんですか⁉︎」
「そうなんスか⁉︎応援行きたいッス!」
本格化を迎えていない二人、『クローバーレース』と『スピッツチアー』が、白くて長い髪、また肌も色白なジュニア期のウマ娘『スノウエンゼル』を祝福していた
「そうですの!ようやく身体が仕上がってきましたのでここから先を走る同期の皆様に追いついて、いや、追い越して見せますわ!」
お嬢様口調でドヤ顔をするスノウエンゼルは、中長距離が得意なウマ娘で長らくレースに出ていなかった
ジュニア期で長い距離というのは2000mが最高で、それも六月ののメイクデビューで勝てなければ次の中距離レースは大分先になってしまう
また、それ以前の問題で、スノウエンゼルはあまり身体が強くなく、夏の暑さにも弱かった
なので夏のレースには登録せず室内トレーニングだったり、早朝や夕方でのトレーニングを中心に行なっていた
夏の間はシニア組を見る事に比重を置いたため(そもそも合宿に不参加)、自主練の比率が多くなってしまったが、実直な性格で適切なトレーニングメニューを守り続けてくれたので、ようやくレースに挑むことができる
「目指すは有マ記念ですわ!お世話になった方々に、ワタクシの勇姿を見て貰いますの!…その前にお父様やお姉様方に近々レースに出る事をお伝えせねば…」
普段は大人しい彼女だが、レースに出場し始める旨を伝えたら普段よりもかなりテンションが上がっている
「あれ?スノウ先輩は一人っ子でしたよね?お姉様?」
「えぇ!もう卒業してしまわれましたが、僅かな期間であってもワタクシに目をかけて頂きましたの!身分などを気にせずワタクシに良くして下さったお姉様方はこの学園での恩人なのですわ!」
「へぇー、いい先輩なんスね。…身分?」
「え、スノウ先輩ってお嬢様…ですよね?」
「いえ、ワタクシは普通の家庭で育ちましたが」
「え、嘘」「本当ッスか?」
ずっと走り続けているな、とは思った
彼女をチームに誘う前、綺麗な髪や尻尾を砂埃に晒しながら学園のダートのコースをひたすらに彼女は走っていた
芝のレースがメインのウマ娘でも、トレーニングとしてダートコースを走る事は良くある事だ
脚への負担を減らすためにダートを選択するのだが、その後の髪や尻尾の手入れが大変なので嫌がるウマ娘も居る
特に実家に綺麗なトレーニングコースを持っている、所謂お嬢様方に顕著に現れる
初めて会った時、その言葉遣いから珍しいお嬢様だと私も勘違いした
(後に走るのに夢中で乱れたり汚れたりした髪や尻尾の手入れを手伝った)
「…その言葉遣いは?」
「トレセン学園には多数の名家が通うとお聞きして、入学が決まった時にひたすら学びましたわ!結局の所必要ではなかったのですが、このお蔭でお茶会にお誘いして頂き御縁が出来ましたの!初めての事だらけで色々とご迷惑をおかけしても懇切丁寧に教えてくださいましたわ!」
「じゃあじゃあ、偶にチーム部屋に持ってきている見る感じ高そうなお菓子やハンドクリームやらはなんなんスか?」
「お父様に届いた物だったりお姉様方からのお裾分けですわ。ハンドクリームやら化粧水の類はご自身の拘りがあって使わないから、と言われて頂きましたの」
「はえぇ、じゃあ私たちみたく普通にファミレスとかラーメン屋とか行ってたんですね」
「いえ、幼い頃は行ったことありませんわね。お父様がお忙しく、そもそもそこまで余裕がありませんでしたし…」
「…
「…個人情報をペラペラ喋るのはアレだけど、あの子、父子家庭で切り詰めた生活してたそうよ。今はそんな事ないけど」
スノウエンゼルとスピッツチアーの二人で会話しているタイミングでクローバーレースが声を抑えて話しかけてくる
私がスノウエンゼルの父親に会った時には生活に苦労している素振りは無かったが、幼い頃に貧しく寂しい思いをさせた事を悔やんでいた
「え⁈『メガドリームサポーター』の整備に来てる人、お父さんだったんスか⁈」
「えぇ!ワタクシが入学した後に、お父様の誠実さを買われて直々に『採用です!』とお声を掛けて頂いたそうですの!整備が、終わった日は寮長とトレーナーに特別に許可を頂きファミレスに行きますの!」
「…たまにキラキラしたオーラで練習に来た日があるけど…」
「…お察しの通り、前日に食事に行った日よ」
スノウエンゼルには何故か人やウマ娘が集まる
その綺麗で珍しい白い髪のせいなのか、無邪気な性格がみんなの心に響くのか、色白な肌と普段の静かな微笑みから
今日も誰かが彼女の周りに集う
何処かの世界で、一人の男性と一匹の動物のサクセスストーリーがある
技術者であった男性は誠実であったが故に自分にも周りにも厳しくし、勤めていた会社から疎まれ様々な嫌がらせを受けた
度重なる嫌がらせを苦にして男性は退職し、傷ついた心を抱えながら宛もなく各地を彷徨った
ある日のこと、小さな牧場で駆け回る白い毛の動物に出会った
その白く美しい軌跡を追い続け、同じ光に焦がれた同士と出会い、誠実さを認められ自分の居場所を見つけ、その動物を支える術を手に入れた男性と、病弱であった身体ながらも多くの人間に支えられ、応援され、敗北して、勝利して、遂には大舞台で人々を熱狂させた動物の物語
その物語は別世界の二人に引き継がれた