「えーでは、12月の定例トレーナー会議を始めます」
100人ほどが入れるトレセン学園内の大きな部屋で、トレセン学園に私を含む所属するトレーナー全員が集まっていた
「皆さん、今年の『有マ記念』は12月24日です」
進行役の言葉に何人かの比較的若いトレーナー
が苦虫を潰したような顔をしたり、顔を逸らしたり、顔に手を当てたりしている
「殆どの人が理解しているとは思いますが新人の方もいらっしゃるのでご説明します。今年の有マ記念は、クリスマスイブの日です」
クリスマスイブ
日本人の殆どが家族と過ごしたりサンタがやってくる日だったりケーキを食べる日だったり、何かしら騒いだり美味しいものを食べたりする日
数多の過ごし方の中の一つに、恋人と過ごしたい、という思いがこのトレセン学園という特殊な空間と混ざり合ったとある日、事件が起きた
「えー、我々トレーナーはウマ娘の為に粉骨砕身取り組んでいるとは思いますが、我々にとっては担当ウマ娘の一人という認識に対して、彼女たちにとっては導いてくれる大人であるという事実です。我々への信頼が恋愛感情に発展しないとは言い切れません」
レースを終えたウマ娘は、数日は授業に参加しなくても許される
北海道、京都、新潟などなど遠方に赴いてレースもウィニングライブを終えた時、その日に帰りの新幹線に乗るのは厳しいので、激しいレースで疲れた身体を休めるべく宿泊する事を推奨されている
担当トレーナーと一緒に泊まり込みの遠征、しかもクリスマスイブの夜、さらにはトレセン学園は冬休みなので実家に帰省も可能
「有マ記念という大舞台でウマ娘がレース後の昂りを抑えきれずに、担当トレーナーと一夜を過ごしたという事件を起こさないべく、有マ記念に出走させる予定のトレーナーはレース後、二人きりにはならないようご注意ください」
ある時、有マ記念の勝利を担当ウマ娘に誓われた一人のトレーナーが、世間を騒がす事態に陥った
「悲しい、事件だったねぇ…」
「双方『誓って
「まだまだこれからだって時にな…」
「まぁ名家のお抱えトレーナーって地位を得られたから…」
「その代わり…『ロリコン』…という風評被害も…ついたが…」
「おぅ、他人事みたいな顔をすんなや、お前さんが一番心配されてんだ、新人」
「…?…⁈」
「有マ記念じゃないから大丈夫つーわけじゃないぞ?むしろ『ホープフルステークス』終わってそのまま帰省に同行するのも危険だぞ?今の担当『セレーネグリマー』一人だろ?」
「…!」
「あーもう約束しちゃってたかー、予想通りだったけどー」
「目に見えて好感度高いっすからねぇ…」
「残ってるといいわね、外堀」
「続いての議題ですが…年末に行われる予定の『グランドライブ』にて、お祝いの為にLIVEに参加させてくださいって『お願い』が届きました」
「(G1七勝ウマ娘からの)お願い…ね」
「(実家がスゴイ、ウマ娘からの)お願い…か」
「(海外含むG1六連勝の天才ウマ娘を見出したウマ娘からの)お願い…」
「「「…踊りの指導は任せた、
「無茶言わないでよ!こっちも忙しいのよ!?」
「…失礼します」
私、『ムラクモヒメ』は私のトレーナーに呼ばれ、トレーナー室に来ています
「…来たか」
後ろ向きの年季の入って軋む音が大きくなった椅子からしわがれた声が放たれ、トレーナー室の空気が重くなった気がしました
「…今日行われたトレーナー会議で決定した、機密事項だ。他言無用だ、大丈夫だと思うが、気をつけろ」
機密事項、という言葉に心臓が跳ね上がります
私はまだトゥインクルシリーズを走り始めたばかりですが、そんな重大な役割を求められる事に不安になります
「…私に出来るでしょうか」
「…例え嫌だと言ってもやらねばならん」
椅子が回って幾多ものウマ娘を勝利に導いた眼光がこちらを射抜きます
次に発せられる言葉を聞き逃すまいと、背筋を伸ばして集中します
「…クリスマスイブに、『背走サンタ』をやってもらう」
「………配送、配る手伝い、ですか?」
「…違う、背に走る、で、『背走』だ」
「???」
トレーナーの表情はいつもと変わらぬ仏頂面でした
「…詳細は生徒会から追って来るそうだ」
「あ、あの…背走サンタ?というの聞いたことありませんし、そもそも背走サンタとは何でしょうか?」
「何、トレセン学園に伝えられる数ある七不思議の一つだ。それが今年、復活する」
「私に七不思議の一つになれって事ですか?!」
表情が変わらないのもありますが、時折トレーナーが冗談をが分かりません
「〇〇さんはクリスマスイブは空いているんですか?」
夜、まだそんな遅くない時間帯での電話にて『クローバーレース』に尋ねられる
「…社会人の中にはね、イブでも休めない人がいるのさ」
「…え?!日曜日ですよ?!」
「休めない、人が居るんだよ…」
誰かが笑う日には、誰かの苦労で成り立っているのである
仕事、つらみ…