ウマ娘の新アプリがリリースされました   作:たかなしゆういち

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【閑話7】誰かにとっての一番の星

 

 「金曜日、午後半休を頂きたいです!」

 

 私の後輩の石川は、仕事日の朝に突然頭を下げて懇願した

 

 「いいぞ」

「急に仕事に穴を空けることになって大変申し訳ないのですが…あれっ⁈いいんですか⁈」

「いや、繁忙期じゃないからカバーできるし、事前にある程度金曜分の仕事を終わらせる事が出来るなら堂々と休め」

「ホントですか⁈ヒャッホウ!これで気兼ねなく推しを応援に行けます!」

「有給が支給されているんだから程よく消化しとくんだ、使っておかないと怒られるから」

「あー、法律で休まなきゃいけない日数って決まってるんですよね?…あれ、先輩っていつ有給取りました?」

「…いつかは休むさ」

「…お土産に八ツ橋買って来ますね」

 

 


 

 

 「それじゃあ改めまして、かんぱ〜い!」

「「「乾杯っ‼︎」」」

 

 とある日のとある町の大きな飲み屋

座敷に座る殆どが年季が入った成人男性だが、その中で一際目立つのが席の中心に座る、一人の若いウマ娘であった

 

そんな彼女の背後の壁の大きな横断幕には

『祝☆初出走』

と、書かれていた

 

 「遂に…!遂に!おこめちゃんがデビュー…うぅっ!」

「いやいやいや、泣きすぎでしょおじ様…勝てるかどうか分からないってのに」

 先ほど音頭を取った男性が突然泣き出した為に、困惑しながら宥めるウマ娘

 「気持ちは解るぜ大将ぉ!ちょっと前までこーんな小さいチビ助だったのによぉ‼︎」

「よく駄菓子を買いに来てくれてたわよねぇ」

「母の日にカーネーションを恥ずかしながら買いにきたのは可愛くて可愛くて」

「ついコロッケをサービスしちゃうよな」

「人参もな。目ぇキラキラさせて『ありがとう』ってそりゃあもう…」

「ストップストォーップ!恥ずかしいから止めてってばもう!皆んなノンアルコールなのにテンション高いな⁈」

 止まらない昔話を両手を前に出して静止の意思を表明するが、特に効果も無いままウマ娘の幼き過去が周囲に拡散されていく

 

 

 「…ハァッ、ハァッ!全くおじさん達はもぉお!」

「ハッハッハッ!皆んなお前さんが好きなのさ」

「それにほら、ネイちゃんもあなたの事フォローしてるのよぉ」

「いや、おばさん、たしか姉なんて居な…ネイチャさんだこれ⁈」

 

 そのウマ娘にとって遠いながらも縁のある大先輩がフォローをしている事を知り、驚愕するウマ娘

 

 「てか、フォロワー数上がりまくった原因これだ⁈道理で分不相応に人気高いなって思ったけど!」

「商店街ネットワークにも皆んな伝えてるぜ、全員おこめちゃん推しだ」

「初めて知ったよそんなローカルすぎる繋がり!」

 

 ウマ娘は次々と明かされる事実に処理が追いつかず頭を抱えた

 

 

 「しゃぁっ!最後に、おこめちゃんの勝利を願ってエールを贈ります‼︎ほら、全員立って立って!」

「あー!もう!恥ずかしいっての!」

 

 


 

 

 「まー、主人公みたく、勝てなかったわけですが」

 

 先日出走したレースとその前に行われた壮行式を思い返して暗い気持ちになる

 

 去年のデビュー戦直前で怪我をして、半年かけて治療してどうにか先日のデビュー戦まで漕ぎ着けたけれども、マイナスからのスタートでトレーニングしたアタシは掲示板にすら入る事が出来なかった

 

 あんなに応援してくれた皆んなに良いところ、出来れば一着!なんて浅はかな考えでしたよーと、ネガティブモード

 皆んなは気にしなくていい、次こそ勝利だ、なんて言ってくれたけど…

 

 「よっ!おこめちゃん!」

「うっひゃぁ‼︎どちら様ぁ⁈」

「おう、商店街ネットワークでファンになったトレセン学園通りの商店街の代表だ!」

「は、はぁ…ありがとう、御座います…」

「そんな暗い顔しちゃ練習の効率が悪くなるってもんだ。ほら、牛肉コロッケだ、これ食べてトレーニング頑張りな‼︎」

 

 そう言って袋に入ったコロッケを数個渡してくれた

 

「おじさん…」

「おう」

「これ、1月29日(いい肉の日)で作って余りそうだったんでしょ」

「はっはっはっ!バレたか」

「はぁ、アタシの友達にも教えてあげるから値引きして売り切っちゃいなよ。バイト代って事でコロッケは頂いてくね」

「助かるよ。イヨッ、二代目商店街ウマ娘!」

「なんじゃそりゃ、しかもなんで二代目?」

 

 

 

 「只今帰りましたよーって、ありゃ居ない」

 

 結局商店街で売り子の真似事をして、暗くなった頃に寮に帰って来た

寮長や近くにいたトレセン学生にもコロッケを配り、残りは二人で食べようと自分の部屋に戻っても同室の子は居なかった

 自分の机の上に荷物を置こうとすると、便箋が置かれている事に気がついた

 

 「んー、石川さん?知らん人だなぁ…」

 

 裏側にあった差出人の名前を見てもピンと来ない

本当に知らない人からだ

 しかし、表の宛先はアタシへと宛てられていた

 

 便箋を開けて、内容を確認する

誰かのイタズラだとか、恨み節だとか、ちょっとは思ったけれども、手書きの少し汚い文字で綴られた、アタシへの想いと激励の言葉でそんな考えは無くなった

 

 

 「ファンレターだコレ…」

 

 

 どうしてつい先日走ったばかりのアタシにファンレターが届くのか

どうして掲示板にすら入らなかったアタシを見てくれているのか

どうしてこんなにネガティブ気味のアタシを応援してくれるのか

 

 「…ハァ」

 

 溜め息を吐き、手紙を丁寧に折りたたみ直し、折れたりしないように丁寧に机の中に仕舞う

 

 今はまだ返事を書かない

書くならセンターを飾った後だ

 

 こんなアタシを応援してくれるファンの為に、アタシはまた走り始める

 




29日過ぎているけども、書いたからには出さねばならない
本編?いや、あの、その…お待ちください
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