「あ、どーも〜お邪魔してま〜す」
トレセン学園のあちこちで甘い匂いが漂うこの日、午後からのミーティングの準備をする為に私のチーム『モサラー』のチーム部屋の扉を開けると、先客がソファーに座っていた
私のチームメンバー、というわけではない
同期で奇抜なトレーニングをする事で有名なトレーナーの一人(このトレセン学園には複数人いる。そして皆何故か強くウマ娘が育つ)のチームメンバーで、私の担当の一人である『クローバーレース』のクラスメイトの一人だ
「鍵は閉めてた筈なのだけど?」
ここはチーム部屋である
自分のチームメンバーの資料やらトレーニング方法、弱点克服への特訓メニューなど、
要するに関係者以外立ち入り禁止、だ
「や、一緒に部屋に来たレーちゃんが『お客様にはおもてなしが必要だよね』って購買にお菓子買いに行った留守番で〜」
「一緒に来るなら事前に買っときなさいよあのバカ!」
「ただいま〜!買ってきた…あ、お疲れ様です…」
「お帰り、クローバーレース、取り敢えず説教ね?」
「それで、今日はどうしたのかしら?」
一通り情報管理の大事さを頭に叩き込んだ後、改めて客人と向き合う
なお、頭から煙の出ているクローバレースは床の上に転がしている
「ん、この前お世話になったから〜お礼的な?という訳で山吹色のお菓子で御座います、お代官様」
「山吹色どころか黒いんだけど」
渡されたのはそこそこお高めのお菓子メーカーのチョコだった
まぁ、敵チームだとしても犬猿の中でもないし、いつも迷惑を被ってるから有り難く受け取っておく事にした
「で、ホントの所は?」
なお、明朗快活のトレーナーが担当しているとは思えない程、レースでの相手との駆け引きに長けたウマ娘だ
何か別な目的があると思っていい
(流石に部屋の中を漁るような事まではしていないようだけれども)
「あっはっは〜、なんというか、そろそろかなって…」
「?」
あっけからんと笑って見せて、ドアの方に目を向ける彼女
そしてドタバタと走る音とともに招かれざる客がやってきた
「よっ!
「ノックしなさいよ、大人でしょう?」
「財布が何故か無くて飯抜きは午後まで持ちそうになくて…あれ、何でここに居るんだお前?今日は休みだったろ?」
「実は〜チーム移籍のご相談を〜」
「そうか、決まったら教えてくれよ?」
「え〜?そこは引き留める所では?」
「何回嘘吐かれたと思っているんだ…」
「信用無いですね、泣いちゃいますよ?ヨヨヨ〜」
「何かと姉を気にかけたり、嘘を吐くけど誰かを貶めたりはしないし、義理堅くてチーム移籍なんかしないって確信出来るほど信頼しているが?」
「全く…トレーナーさんには勝てませんねぇ〜」
「漫才するのならば帰りなさい」
騒がしいのが増えて精神的負担がかかるのを感じた
このまま居座られると私の仕事が滞るので、机の中から愛用している物を取り出す
「はい、これあげるからとっとと帰りなさい」
「おう、サンキュー…角砂糖?」
「いいえ、ブドウ糖よ?紅茶用の」
「お、おう…まぁサンキュー、そろそろトレーニング開始時間だし、もう出るな」
「なら何で窓の方から出ようとするのよ」
「近道だから、な!」
「……今『モサラー』のチーム部屋を窓から出た、と。…ん〜、三橋さんは白よりの『グレー』判定、かな?自慢の手作りチョコで押してけ、と…送信送信」
「…これからチームメンバー集まるから貴方も帰ってくれる?」
「大丈夫ですよ〜、やるべき事はやったので」
お邪魔しました〜、と言ってスマホ片手に彼女は手を振ってドアから退出していった
静かになったチーム部屋で紅茶でも淹れようとして席を立つと、少しだけ開いたドアの外から聞き慣れた声が聞こえてきた
「…びっくりですわね?調理室で爆発だなんて…」
「何でも生徒が作ったチョコが原因だとか。正直、レース先輩並の事件が起きるとは思わなかったッス」
「クレちゃんに合わせて今回は各自で準備して助かったかもね…」
「ワタクシ、次は手作りに挑戦いたします!細かく指定がある方が動きやすかったですし」
「自分は少し凝ったものに挑戦するッス!」
「良いわね、トレーナーさん、喜ぶわ」
私は5人分のカップを用意し、茶葉を取り出してポットを用意した
今回のミーティングも騒がしいものになりそうだ