激しい雨がトレセン学園内の芝を打ち付ける中、ぬかるみ滑りやすくなった足元にも構わず鍛えた脚で地面を抉って走る
いまだ後ろに跳ね上がる泥や芝すらも届かない前方にいる相手を見据え、最終コーナー出口で少し膨らみつつラストスパートをかける
7バ身、6バ身、5バ身と、差を縮めていくもそこからは相手との距離が変わらず、並ぶどころか尻尾にすら手が届かないままゴール板を通り過ぎた
私、『ムラクモヒメ』は、今日もまた、親友の『セレーネグリマー』に追いつけなかった
「あ゛〜、生き返る゛〜」
「グリちゃん、声、声」
練習終了後、身体のあちこちに飛び跳ねた泥を落とすべく入った室内シャワー室で、下がった体温を温めるシャワーに乙女らしからぬ声を出すグリちゃん
最初は他のチームのウマ娘もいたのだが、この土砂降りのなか長く続けるのは私ぐらい
「急にお願いしたのに聞いてくれてありがとね、ヒメちゃん」
「いいの…相手がいた方が私も走りやすいし…けど、怪我しないでね?」
「それ、いつも雨の中で走り続けるグリちゃんが言う?」
クラシック路線を走ると決め、来る『皐月賞』の為に最終調整を行なっている筈のヒメちゃんから「一緒に走って欲しい」と言われたのには驚いた
(まぁレースが近いのでクラシック路線の子と走る事はしないから消去方か)
走ったのはほんの数本でしかなかったが、どれも並びかける事も無いまま完敗した
「シャワー上がったよー、トレーナー」
「…」
「ありがとー♪」
「…え、私にも?…ありがとう、ございます」
グリちゃんのトレーナーが、着替え終わった私たちにホットココアの差し入れをくれました
自身も雨の中で大変だったでしょうに、私の分まで用意してくれて頭が下がります
「そういえばヒメちゃんは課題終わらせた?」
冷えた身体をマグカップの熱で暖めているとヒメちゃんが話しかけてきました
本格化が始まりトゥインクルシリーズに命を燃やす私たちは、検査や怪我をした後の通院、テレビ出演や記者からの取材などのマスメディアへの対応、遠征で県外に移動するウマ娘の為に、学園の授業は映像化されて各自で閲覧可能とし、週明けには各授業の一週間分の課題をノートにまとめて提出します
「ん…順調に終わる予定」
「ならこの後カフェテリアでお喋りしない?」
「…レース間近で、スイーツ食べて大丈夫?」
「いやいや、お茶するだけだから大丈夫」
反対する理由も無いので私は了承し、私のトレーナーに自主練が終わった事を報告してカフェテリアに向かいました
「おっ!グリマーにヒメ!座るのならば空いてるぜ!」
カフェテリアに到着した私たちは、大きなテーブル席に複数人座っている中の一人、同期の『
「そう?じゃあお言葉に甘えて」
「お邪魔します」
「ついでに課題をみてやってくれよー、ハヤテのやつ、皐月賞出るっつーのに溜め込んでんだわ」
「ワタクシも復習がてら教えているのですが、なかなか進まなくて…」
「……走りたい…」
テーブルにノートや教科書を広げて、その上に
その隣で白く長い髪の『
「ところで…ルクちゃん、手に持っている鉄球は、なんなのかな?」
「これか?トレセン学園に伝わる必殺『鉄球圧縮』と言う技があるって事を赤い勝負服を着て帽子を被った先輩に教えられてな?パワーNo.1を目指すならこれが出来ないとな、って言われて貰ったんだ」
「うーん、誰が教えたか目に浮かぶね」
「ワタクシはルービックキューブを貰いましたわ!なんでも、六面とも色を揃えるとG1を6勝出来ると噂ですの!」
「…絶対に騙されてるよ、ゼルちゃん…」
「終わったぁ!ありがとうみんな!」
「また溜め込むなよ?次の『日本ダービー』でまたやりました、なんて勘弁だぞ?」
「ワタクシも…ワタクシもダービーに出たいですわぁ…」
「でもトライアルの『青葉賞』は狙えるんだよね?ならまだチャンスはあるよ」
「ま!まずは目の前の『皐月賞』だな!『ホープフルステークス』のリベンジ、果たさせてもらうよ!」
「んー、負けないよ?」
ここにいるメンバーは私を除いて『クラシック路線』を目指すので会話から置いてけぼりになりました
…別に?寂しくなんてありませんよ?
日曜日、『皐月賞』当日
ベットから起きて隣の綺麗に整えられたベットを見て、激動の一年の始まりを再確認しました
今日はよく晴れたレース日和
最も早いウマが勝つとされる『皐月賞』に私の友人達が挑みます
私は、いつか来る戦いに備えて、今日も走り込みます