ウマ娘の新アプリがリリースされました   作:たかなしゆういち

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初めての『先輩』

 

 アプリ【ウマ娘トレーニングサポーター】にも当然フレンド機能は存在する

身近なユーザーと、もしくは見知らぬユーザーとフォローしあうと、毎日ちょっとしたアイテムやマニーが貰える

 

 基本的には連絡が取りやすくなったり模擬レースがしやすくなる程度だが、時には自分の担当ウマ娘から名指しでフォローした人の担当ウマ娘の名前が出ることがある

 

 数多の検証勢が調べた所、近くのアプリユーザーがいて且つお互いのウマ娘の相性が良い時に起きる、らしい

(らしい、と付けるのは、相性が良い悪いのパターンが多種多様すぎて参考にならなかったとの事)

 

 私と付き合いの長い『ムラクモヒメ』のサブトレーナーの村中さんも、最初は軽く会話する程度だったが、私が担当する『クローバーレース』がムラクモヒメの名前を出した事から少しづつ交流が深まった

 

 趣味も違う、性格も違う、学年も違っていたのに彼女たちはどうして仲良くなったのか

 時に不思議な友好関係が築かれるのは、我々人間と同じなのかもしれない

 

 


 

 

 「それで?机に突っ伏して何があった石川」

 

 始業前の会社で、自分の机に額を打ち付けていた後輩に声をかける

 

 「【ウマ娘トレーニングサポーター】運営からのお祈りメールが届きました…」

「…あぁ…」

 

 彼はウマ娘のレースやライブが好きな人間で、度々私に【ウマ娘トレーニングサポーター】制度に関して質問をしてきていたが、そうか、志願していたのか

 

 「先輩はどうやってサブトレーナーになったんですか…?」

「…私か?」

 

 どうやって、と言われても回答に困る

なにせ気づいた時からクローバーレースのサブトレーナーなのだ

 試験も書類審査もトライアウトもした覚えなど無いし『以前の私だった存在』からの記憶の引き継ぎなど親切な物も無い

 

 「…神の気まぐれ…かな…」

「なんすか〜それ〜、アドバイスとかないんですか〜?」

 

 後輩からダル絡みをされたが、居るかどうかは知らない『三女神』に導かれたと言われた方がまだ納得できるから仕方ない

 何せ、私自身はトレーニングに活かせるスキルの一つも持っていなかったのだから採用された理由なぞ見当もつかない

 

 ただ一つ言えることは

私はクローバーレースと会えて良かったという事だ

 

 


 

 

「じゃあ今日はトレセン学園を散策します!」

「よろしくお願いします!レース先輩!」

 

 春の暖かい陽射しの元、真新しい制服に袖を通したウマ娘と先輩と呼ばれたウマ娘がトレセン学園内を歩いている

 

 生徒数約二千名を収容できる校舎に広大なレース場、全生徒を満足させるほどの大規模な食堂、カフェテリア、最新機材の揃ったウェイトトレーニング室に室内プール、ライブ練習やイベント時に使用する屋外のステージなど、様々な施設がある

 その主要な施設の行き方や注意点などを説明しているようだ

 

 

 「ここは進路相談室だよ」

「進路…相談室ですか?」

「そう!入学したてで縁の無い場所のように思えるけど、進学のための勉強についてのアドバイスを貰えたり、バイトの募集とかボランティアの募集もしてるの」

「へぇ〜バイトですか…家の家計の助けになるならやりたいですね」

 

 「ラーメン屋の出前のバイト…」

「そこの配達のバイトは高倍率だね。なんでもぎっくり腰で動けない人の代わりに配達のヘルプに入ったトレセン学園生がG1を取ったから、毎回履歴書が殺到してるの」

「ラーメン屋のスタッフ…」

「トリプルティアラも認めたローズラーメンを出すお店だね。こっちは食べると太り気味が治るとされる新陳代謝爆上げのラーメン屋、何故かお茶の入れ方や捕縛術に礼儀作法も学ぶ事ができるウマ娘トレーナーが店長のラーメン屋『愛蘭』…」

「ラーメン屋多くないですか?」

 

 

 

 「『大樹のウロ』…の周辺に来ています」

「ここは…」

 

 『次は“ヒメ”に負けないからーっ‼︎』

 

 切り株の中の大きな穴に向かって一人のウマ娘が叫んでいた

叫び終わって悔しさを馴染ませた顔を両手で叩き、ウマ娘は顔を引き締めてトレーニングコースへと走って行った

 

 「何か叫びたい時がある時は、この場所で発散させるの。…だから誰かがいる時はそっと離れてあげようね?」

「分かりました!」

 

 

 

 「『三女神』様の像です!」

「噴水となっていて憩いの場であり、コインを投げ入れると願いが叶うとも言われたり、周りに誰もいない時に『三女神』に呼ばれてここに導かれると強くなれるとの噂です」

「せっかくなのでコインを投げ入れてきても良いですか?」

「良いよ、わたしも入れちゃおう」

 

「…なんて願ったか聞いても良い?」

「はい!お母さんが元気になれるようにお願いしました!」

「…そっか、元気になるといいね?」

「はいっ!」

 

 

 

 「トレセン学園サポート科の研究室です」

「先輩ぃ…あまりここには来ない方がいいって、みんな言われてるみたいなんですけど…」

「えー?そんなに危ないことあったかな?」

 

 トレセン学園で少し変わった(精一杯のオブラート)人達が集まるサポート科の研究室棟

個々の研究室に籠る者が多いこの建物は不気味な静かさに包まれていた

 

 「失礼しまーす」

「そんなあっさりと⁈」

 

 その静寂を破ってさも自分の教室に入るかのように扉を開ける先輩と呼ばれたウマ娘

部屋は数人で手狭になる個室でパソコンに向かって灰色のパーカーの上に白衣を着たウマ娘が資料を作っていた

 

 「……何か用…って『クローバーレース』じゃないか、どうしたんだい?生憎とオレンジジュースは無いからココアで我慢してくれ」

「はい、ありがとうございます…あれ?オレンジジュースが好きって言いましたか?」

「データ集めの一環でたまたま知っただけさ、今度美味しいオレンジジュースが手に入ったら持ってきてあげよう」

「嬉しいです!メモリー先輩!」

「研究に協力してくれたお礼だよ、ところで…君は『ペチュニアガール』、でいいかい?僕は『ナインティメモリー』だ」

「(…名前バレしてる⁈)ひゃい!」

「君は…このトレセン学園で目指したい物はあるかい?」

「え⁈あ、はい!私は…!」

 

 少し強張ったウマ娘が質問に答えると、白衣を着たウマ娘はチラリと左耳に目を向けると満足そうに頷いた

 

 

 


 

 

 「〜っ!美味しいです!先輩、奢っていただいてありがとう御座います!」

「いいのいいの、今日はお疲れ様」

 

 一通り歩き周り、午後3時前のカフェテリアの広いテーブル席でスイーツを食べる二人のウマ娘

二人が先に着くと同時に人が増え始めて甘味に舌鼓を打つ声が聞こえ始めた

 

 「あちゃぁ…混んじゃってるか…」

「…今日無理に食べる必要は…」

「トレーニングで節制をする事考えたら今しかないよヒメちゃん」

 

「あれ…?おーいこっちこっち」

 

 座る席に困っているウマ娘の二人に向かって、先輩と呼ばれたウマ娘が手を振ってテーブル席に呼んだ

 

 「ごめん呼んでから言うのもあれだけど『ペチュニアガール(チュニちゃん)』相席にしちゃっていい」

「あ、ハイ!大丈夫です!」

 

 チュニちゃんと呼ばれたウマ娘がスイーツの乗ったお皿を持って先輩の隣に移動する

そして向かいに座ったウマ娘二人を見て驚愕する

 

 一人はこの学園で『月の女神』やら『かぐや姫』などと称される実力も美貌も実績もトップクラスなウマ娘の『セレーネグリマー』だ

クラシック路線の一つ目『皐月賞』で勝利をし、学園内でも世間でも注目されている知名度の高いウマ娘である

 

 

 そのウマ娘を見……ることをせず、その隣に座った長くて白い髪に眼が前髪に隠れたウマ娘に釘付けだった

 

 「『フローラルステークス』勝利おめでとう御座います!『ムラクモヒメ』先輩!」

「…えっ⁈私⁈」

「最終直線から一気にごぼう抜きして追込一気の一着!とっっってもカッコ良かったです‼︎」

「えっと…ありがとう?でもほら『皐月賞』よりかは霞むかなって…」

「そうだよねシビレタよね!ルームメイトとして私も鼻が高いよ!」

「まさかのグリちゃんからも⁈助けて『クローバーレース(クレちゃん)』…ん?」

「…コウハイカラノソンケイノマナザシ、ウラヤマシイ」

「味方が…味方が居ない…!」

 

 視線による威圧、そしてそのデバフに対処している両名を他所にして会話を続けるセレーネグリマーとペチュニアガール

 

 「ヒメちゃん推し…つまり貴女が目指しているのは…」

 

 「はいっ!私は『オークス』制覇を目指してます!」

 

 


 

 

『…って事でトレーニングの負荷上げて『メイクデビュー戦』に絶対勝ちたいんです!』

「まぁまぁ落ち着け」

 

 クローバーレースから電話が来て、新たなルームメイトで後輩の話を聞かされた

今までチームの誰かかムラクモヒメの名前以外の名を聞いたことが無かったのでとてま新鮮だ

 

 「それに無理に負荷をあげて怪我したら元の子もないぞ?」

『うぅ…でも〇〇さぁん…わたし、先輩として良いところ見せたいです…』

「直接的な後輩ならスピッツチアーがいるだろうに…」

『【ウマ娘トレーニングサポーター】で一緒にチーム入ったからなんだか同期って感じなんですよ…』

「まぁわからなくも無いが…そしたら『オークス』と『日本ダービー』、二つは東京レース場で行うからその共通点を活かせないか?」

『…!早速今まで纏めてた東京でのレース映像を共有してきます‼︎』

 

 電話が切れたが声色から彼女の活力が戻った事が分かり安堵した

学園での出来事に一喜一憂する彼女の生活に、大人の私はその濃密な一日の時間の流れに羨ましく思うのだった

 

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