ウマ娘の新アプリがリリースされました   作:たかなしゆういち

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樫の女王の座

 聞き慣れないアラームで目が覚める

見慣れない天井、心地よい肌触りのベット、寮とは違う一人用の部屋の間取りに疑問を覚える

そして徐々に覚醒していく頭でようやく私がどこにいるのかを思い出す

 

 今日はティアラ路線の二つ目『オークス』当日

私、『ムラクモヒメ』はそのレースに出走するためにホテルの一室で朝を迎えたのでした

 

 


 

 

 「おはようございます」

「おはよう。もうお前の分の食事は取ってある」

「ありがとうございます」

 

朝食を取るために入ったホテルのレストランでは、私のトレーナーが既に席に着いていました

レースを走るウマ娘のために食の安全に拘った特別な朝食セットを取った後、部屋に戻って今日のレースに向けて改めてミーティングを行います

 

 「天気予報は晴れ、芝もそこまで荒れないだろう。このレースの有力なウマ娘は『桜花賞』でハナ差まで迫った『サマーフライト』だ」

「…私と同じ追い込みの…」

「そうだ。お前の末脚も凄いがトップスピードまでの加速力なら向かうのが強い、見てから追いかけたのなら追いつけないだろう。レース前半でサマーフライトより前にいて相手が加速する前に先にスパートを切る」

「わかりました…桜花賞を取ったウマ娘は?」

「正直言って、2400mは厳しいとみた。走れて2000mだろう。他の出走者は…」

 

 この後も移動予定時刻まで今日の対策を念入りに確認をし、東京レース場に向けてトレーナーの車に乗って出発しました

 

 


 

 

 「…不思議な感じですよね、寮からでも行ける距離なのに、わざわざホテルに泊まってレース場に向かうのは」

 

 今日の『オークス』は東京レース場

つまり、トレセン学園から数駅程度しか離れていない距離

ウマ娘の脚力を考えればちょっと走れば着く場所です

 

 「前の『フローラルステークス』でもそうだが、レース前で神経質になるウマ娘を寮の相部屋なんかに入れさせるわけにはいかないからな」

「わかってますよ、トレーナー」

 

 レースが近づいた同室の先輩が日に日に怖い顔をしていくのに耐えきれず、一時的に友達や寮長の部屋に避難する事例や、言動が荒くなる事を考慮して周囲と距離を取らせる事例などとにかくレース直前のウマ娘は過敏になりやすく、ウマ娘もトレーナーも調整に神経質になります

 

 「着いたら勝負服に着替えるぞ。パドックでのアピール考えてきたか?」

「…はい」

 

 私にとって、初のG1レース

つまり、私の『勝負服』の、初お披露目です

 

 


 

 

 「2番人気 12番 サマーフライト』

『桜花賞では惜しくもハナ差の二着でしたが、飛ぶように先頭にせまった末脚は目を見張る物があります。念願のティアラの戴冠なるか、期待出来るウマ娘です』

 

 

 出走枠が私より早い、トレーナーが注意すべきウマ娘としたサマーフライトがパドックに向かい、バ体と勝負服のお披露目をしています

 

 鹿毛のセミロングにリボンの付いたウマ耳を出せる麦わら帽子

走りやすいように少し丈の短い白中心のワンピース、下部には色とりどりの夏の花が散りばめられ、私の印象は『避暑地に来たご令嬢』と言った感じです

 

 『8番人気 15番 ムラクモヒメ』

『フローラルステークスを勝利してオークスの出走枠を手に入れたウマ娘です。中盤、最後方から徐々にポジションを上げ、大外から先頭集団を抜き去っての勝利。レース後も余力がありましたので2400mも走り切れるでしょう。初めてのG1の挑戦ですが…落ち着いていますね』

 

 目の前の閉じられた幕が開き、一斉に向けられた私への視線を受け止めつつ、踊り場にゆっくりと歩み寄ります

 

 真ん中に立ったら舞うようにゆっくりと一回転

【ウマ娘トレーニングサポーター】である村中さん達が考えてくれた案を取り入れた、白からグレーのグラデーションの和服の袖もたなびきます

緊張で早まる心臓につられぬように、胸元に刺してあるプレゼントされた簪に手を当てゆっくりと一礼

 顔をあげ、観客席を見ると肩車をされた少年が一人目につきました

 

 村中さん家族の一人息子、ナギト君です

手を振る彼に小さく手を振って応え、パドックから退場しました

 

 


 

 

 「いやいや、今回は『サマーフライト』が一着だ!桜花賞は全力を出し切るのに短すぎたんだよ、レース後の回復も早かっただろう?」

「それでもやっぱりトリプルティアラを願って俺は『ニューキャンバス』推すね!」

「何を言ってる、『ムラクモヒメ』のあの太ももが目に入らなかったのか?あれは相当仕上げてきている」

 

 

 

 「レース日和ですね!レース先輩!」

「わたしたちが走るわけじゃ無いけど…いい天気だね」

 

 今日は親友の『ムラクモヒメ(ヒメちゃん)』のオークス挑戦の日

ルームメイトの『ペチュニアガール(チュニちゃん)』とチームのみんなで東京レース場に来ています

 

 「三橋(みはし)トレーナーさん!本日はお誘いありがとうございます!」

「え?えぇ…別にいいのよ気にしなくても」

「(シュシュ先輩…先程からチームに所属してないのにしれっと混ざって来ますわよペチュニアガール(この子))」

「(幼い故の怖い物知らずみたいなもんだろ)」

「(もうスカウトすればいいんじゃないスかね?結局まだ成功してないッスから)」

 

 

 元々チームで見に行く予定だった所、チュニちゃんが目指す『オークス』を一緒に見に行きたいという要望に応えるべく三橋トレーナーに相談したところ、監督する者が居ないと危ない、との事で面倒を見てもらえることになりました

 

 「スノウ先輩スノウ先輩!先輩も『日本ダービー』でここを走るんですよね⁉︎」

「え?えぇ!『青葉賞』を勝ったウマ娘は『日本ダービー』には勝てない、なんて言う人も居ますが尊敬するお姉様の一人が言うように『ジンクスは破る為にある』ので、例えあの『セレーネグリマー』が相手でも勝利してみせますわ!」

 

 わたしより先にデビューした『スノウエンゼル(スノウ先輩)』は『日本ダービー』のトライアルレースに勝利して、私たちチームで久しぶりとなるG1レースに挑みます

 

 「勝負服、間に合うと良いがな」

「だだだだ大丈夫ですわよ、ですわよね?」

「自分も急に勝負服案出せって言われてもすぐ出ないから今のうちに考えとくッスかねぇ…」

 

 普段は体操服で走るレースとは違い、G1は勝負服の着用が義務づけられていて、スノウ先輩の勝負服案を提出期限(オーバーして頭を下げて延長して貰って)ギリギリまで考えられた案を敬愛する大先輩にインターセプトされて出された案で急ピッチで作られているそうです

 

 

 「ほらそろそろ始まるわよ、レースに集中しなさい」

 

 三橋トレーナーに言われ、ヒメちゃん達が入るスターティングゲートに目を移します

レースの始まりを告げるファンファーレが奏でられ、一人、また一人とゲートの中に入っていきます

 

 胸に刺した簪に手を当てながらゲートに入ったヒメちゃんを見つめ、全員がゲートインして少しの静寂の後、ゲートが音を立てて開きレースが始まりました

 

 


 

 

 今までのレースより比べて一番のスタートを切れましたが、先頭争いをする逃げ、その後ろに着く先行の作戦を取ったウマ娘を見送り後方グループに収まります

 

 桜花賞を取った『ニューキャンバス』は先行

薄い桃色に風で舞い散りそうな花びらをこれでもかとつけた勝負服が先行集団の外側を走っているのが見えます

 

 

 「…(『ムラクモヒメ』)!」

 「………(まず、良し)」

 

 

 トレーナーが有力と評した『サマーフライト』に対して枠番を活かして外から捲る際に壁となる右斜め前方を位置どります

外にいる分コーナーで走る距離が伸びてしまいますが多少の不利は覚悟の上です

 

 

 [さぁ向こう正面に入って先頭は『ミスハンナ』続いて『フラワリングデイ』、3バ身離れて桜花賞バの『ニューキャンバス』、内には…]

 

 1000mの通過も体感で遅くなく、大きな変化がないまま後半戦へ

息を少し整えて最後の直線でのラストスパートに備えつつ、後方の麦わら帽子によって視線が見えない『サマーフライト』の様子を見ます

 

 …始めの方と比べて変化なし、嵐の前の静けさの様

虎視眈々と機を窺っているでしょうが、元々のプラン通り、私は前へと駆け出します

 

 

 [大ケヤキを抜けてここで上がって来たのは『ムラクモヒメ』!それを見て『サマーフライト』も上がって来たぞ!後方集団のペースが上がり一団となって来た!ここから誰が抜け出して行くのか!]

 

最終コーナーで差し集団を外から追い抜いてそのまま最終直線へっ⁈

 

 

 「…(ホントはフライト対策だったけど!)」

 「…っく⁈(ニューキャンバス!)」

 

 

 最終コーナー出口手前

 

 コーナーにおいて私のスピードが一番乗る理想の進路にはすでにニューキャンバスが居て、最終直線を駆けるの為の加速を邪魔されます

すぐに外へと進路をずらしますが距離も稼がれスピードも少し落とされました

 私の背後に居たサマーフライトも外へと膨らみましたが、後ろに居た故にニューキャンバスの動きを捉えて対応できたのか、私と並ぶまで上がってきました

 

 

 [さぁ最終直線だ!『ニューキャンバス』苦しみながらも坂を登って行く!大外から『ムラクモヒメ』と『サマーフライト』が追いかけていく!]

 

 

 「はぁっ!はぁっ!うぁあ‼︎」

「まけ…ない…‼︎」

「…!私だって…‼︎」

 

 

 [ニューキャンバスを差し切って『サマーフライト』と『ムラクモヒメ』が競り合っている!残り100m!やや『サマーフライト』が抜け出しているか⁈残り50!迫る『ムラクモヒメ』!]

 

 

 足りない

足りない足りない

 

 

 [今ゴール板を駆け抜けた!『サマーフライト』一着‼︎府中に一足早い夏の空‼︎二着は『ムラクモヒメ』、三着には『ニューキャンバス』が滑り込みました!]

 

 

 足りない

 

 距離が足りない

 

 

 「こひゅっ!っはぁ⁈しんどい…!」

「…大丈夫?キャンバスさん…」

「あり、がと…はぁっ…なんで…もう息が…落ち着き始めてるのよ…⁈」

「…長距離…練習してるから…?」

「なに…それ…ふぅ…」

 

 芝の上で膝をつき必死に息を整えているキャンバスさんの側に行き、肩を貸します

向こうには汗を流し、息も上がっていて尚観客席に両手を大きく振るフライトさんが見えます

 

 敗れた私たちは、各々のタイミングで控え室に戻り、ライブの準備へと向かうのでした

 「『秋華賞』では…負けませんよ?…フライトにも…貴女にだって…!」

「…えぇ」

 

 強い闘争心を見せる彼女と違って

 

 私は次のレースをどうするか冷徹に考えていました

 

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