ウマ娘の新アプリがリリースされました   作:たかなしゆういち

61 / 106
主人公(ヒーロー)は遅れてやって来るのですわ!

 「どうかしら『スノウエンゼル』。勝負服の着心地は?」

「えぇ!えぇ‼︎とても素晴らしいですわ!トレーナー!今すぐにでも走り出したい気分です!」

 

 トレセン学園の野外音楽場で、超特急で作られたスノウエンゼルの勝負服の試着を行う

 彼女がお世話になったというお姉様が是非、とお願い(笑顔と圧力によるゴリ押し)されて作られた、細部にまで金色の刺繍が施された臙脂色のシックで高級感のある勝負服だ

 そんな一着ウン十万する勝負服(スノウエンゼルには伝えない、気絶するから)を前にして思った事は

 

 「…暑くないのかしら…」

 

 スノウエンゼルは暑さに弱い

明らかに通気性の悪そうな厚手の布地を使ったお嬢様系ウマ娘御用達のメーカーの勝負服を着ながら炎天下でレースをしたりライブをしたりするのには賛同しかねる

(案外、真夏にG1レースが無いのはそれが理由かもしれないわね)

 

 「…メーカー…勝負服のデザイン…モチーフ…ヒールの高さ…右耳…ふむぅ」

「ライブの練習をしたいからどいて欲しいんだけど『ナインティメモリー』?」

 

 スノウエンゼルの周りをグルグル周り、勝負服を観察するサポート科所属のウマ娘を咎める

チームメンバーにすら勝負服が届いたことをまだ教えてないのに何故居るのだろうか

 

 「まぁまぁまぁまぁ、ライブ練習にも人がいた方が位置取りやら歌の入るタイミングがわかりやすいだろう?手伝うからもう少し観察させて欲しい、ついでにどうしてこの勝負服にしたのかの経緯も含めて教えて欲しくて

「じゃあスノウエンゼル、センターに立ちなさい。始めるわよ」

 交渉成立と受け取っていいんだね後で反故にしないでくれよ⁈」

 

 適当にあしらって音楽をかける

曲は当然『Winning the soul』だ

 

 


 

 

 一通りのポジションの動きを確認し、勝負服でのダンスに問題が無いことを確認してトレーナー室に戻った所、既に私のチームメンバーの一人が寛いでいた

 

 「あ、トレーナー、お疲れ様です。荷物沢山届いて…スノウ先輩それ『勝負服』ですかっ⁈」

「えぇ!私のお姉様より仕立てて頂いた勝負服ですわ!後で無事届いた事を写真付きでご報告致しますの!」

 

 赤い林檎のパッケージの紙パックのジュースを机に置いて、勝負服を身に纏ったスノウエンゼルに急接近して勝負服を堪能する『クローバーレース』

 スノウエンゼルはグルグルと自分の周りを回るクローバーレースの為にその場に佇み両手を腰に当てて胸を張ってドヤ顔をしている

 

 そこでふと気づく

 

 「『オレンジバカ(クローバーレース)』がリンゴジュースを飲んでるですって⁈」

「そんなっ⁈体調が悪いのですかっ⁈」

「そんな大声出すほど驚きますかっ⁈」

 

 

 「お疲れ様ッス!おっ!勝負服届いたんすね!…レース先輩がリンゴジュースを⁈」

 

 

 「おっす、邪魔しにきたぞ。へぇ、悪くない勝負服…りんごだとぉ⁈誰だお前⁈」

 

 


 

 

 後から入ってきた《スピッツチアー》と《ゲートスラッシュ》にも本人疑惑判定を受けたクローバーレースはギフトとして送られたリンゴジュースのセットを抱えて部屋の隅で睨みつけている

 

 「『ポムフルール(ルル先輩)』から送られてきたんスね」

「ダービー出走祝い、ねぇ…随分と後輩想いだこと」

「就職先のリンゴ農家のリンゴを使ったジュースセット、みんなで飲んで下さい、か…」

 

 比較的対応が穏便になるスノウエンゼルにクローバーレースを任せ、送られてきた荷物を三人で仕分ける

 

 「このチーム部屋に花輪を飾る日が来るなんて思わなかったわ…」

「スノウ先輩のお姉様方からでスね、自分も名前を知ってる人からも来てるッス」

「スノウがお世話になった所からだが…食べ物系は分けるぞ」

「勿体ないですが…これでもアスリート、レース前に不用意に口には出来ませんわね」

 

 再三に渡るスキンシップによってクローバーレースを宥めたスノウエンゼルが、リンゴジュースの入った箱を持って戻って来た

 

 「えっ⁈じゃあスノウ先輩はルル先輩の差し入れ口に出来ないんですか⁈」

「それは大丈夫よ、ちゃんと“URA”認可のギフトだから安全性が保証されているわ。…ほら、瓶のジュースはお父様と一緒に飲みなさい」

「感謝致しますわ!」

「訓練されたファンだこと…全部認可されたもんばっかだったわ」

「全部は食べきれないのでチームの皆様にお裾分けしますわ!同室の子にも是非!」

「ありがとう御座いますスノウ先輩!」

「しかし…感慨深いものですわね…一生に一度の日本ダービー…このワタクシが走れるなんて…」

「貴女の積み重ねた努力の結果よ、胸を張って走りなさい」

 

 

 スノウエンゼルは才能のあるウマ娘だ

去年の夏には暑さにやられて休養に費やした後、学園内のトレーニング室での軽めの練習と同期に遅れをとっていたが、冬が近づくにつれて頭角を表していき、一つ、二つと勝ちを積み上げてついには先月の重賞レースにて同じ舞台にまで上がることが出来た

 しかし、今回の相手は無敗クラシック三冠も夢じゃ無いとされる『皐月賞』を勝ったセレーネグリマー

…正直に言えばまだ力不足が否めない

その差をひっくり返す奇策も秘策も私は持っていない

勝ち目は薄い、しかし弱音は吐かない

 

 私は、スノウエンゼルのトレーナーだ

 

 

 「ダービーの作戦はどうするんですか⁈」

「有力なのは先行なら『セレーネグリマー』、逃げだと『ハヤテイチモンジ』、後方だと『トルククロール』、後は抽選でどの枠を取れるかだな」

「天気予報じゃ晴れッスよ!」

「もう一度コースの復習をするわよ」

「えぇ、えぇ!やれるだけやりましょう!ワタクシはこの日本ダービーで…」

 

 

 「一番目立ってやりますわ‼︎」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。