「本日の練習は終了です。『ムラクモヒメ』さん、お疲れ様でした」
「お…おつかれ…さまでし、た…」
「ムラクモヒメさん、タオルをどうぞ」
「ライスさん、私は片付けに入りますのでクールダウンと食事の準備をお願いしても?」
「うん…!いっぱいご飯炊いたし、おかずも沢山出来たよ、楽しみにしててね!」
「ステータスに『高揚』が発生…急いで
トレセン学園が利用する合宿地の一つ、多くの生徒から人気のある海の合宿地と比べると利用者の少ない山が近くにあるこの合宿所で、トレセン学園所属のブルボンコーチとコーチと知り合いの方に指導をお願いしています
「あ、あの…ムラクモさん…」
「え、はい、なんでしょう、か…?」
クールダウンを手伝ってもらっていたところ、トレセンOGでコーチと同期のライスさんに話しかけられました
「その、ね?貴女と『セレーネグリマー』さんとのお話…聞いてもいいかな?」
「『
「う、うん…!そのね…なんだかムラクモさんと、親近感が沸くんだ」
「親近感…ですか」
「それでね…もし良かったら、絵本の題材にしたくって…いいかな」
「え、絵本⁈あの、その…保留で」
「あ、ご、ごめんなさい、急にこんな事言っちゃって…」
「いえ、そんな…あの、でも…お話するだけなら、いいですよ、絵本は…ちょっと考えさせてください」
「う、うん、ありがとう…!」
私のルームメイトで私達の世代で最強と名高い『
初日から新入生向けの資料と称してチームの勧誘に誘うトレーナー自作のパンフレットや有名なトレーナーの名刺を手元に溢れさせ、気が荒い先輩ウマ娘に勝負を挑まれ返り討ちにし、トゥインクルシリーズが始まってからはメディアからの注目も高く、取材の依頼やファンからの手紙も沢山届きました
普段の練習だけでも忙しいのに学業も疎かにせず、ファンレターへの返信も小まめに行い、クラスメイトとの仲も良好と完璧超人(人じゃなくてウマ娘?)です
しかし、ルームメイトとしてみると彼女は普通のウマ娘でした
ムシャクシャして叫びたくなっている事もありましたし、スイーツに顔を綻ばせる事も体重に悩むこともありましたし、トレーナーに弱音を吐くこともありました
トレセン学園に来て初めての親友
競争成績としては差が出来てしまいましたが、これからもきっと変わらないでしょう
それでも少しだけ、彼女を
〇〇さん、お元気ですか
『
「じゃあ今日も畑の手入れよ!時間内に終わらないと朝練の時間が無くなるわよ!」
「「「イエス!マム!」」」
「それでは各自始めなさい!あと、マムは辞めなさい」
広大な面積の畑仕事をしています
トレセン学園が産んだ奇跡の野菜
栄養価も高く、春夏秋冬関係なく栽培でき、収穫するまでのスパンも短い上に量もウマ娘も満足させるほど安定して採れる
まさにウマ娘の為に出来たような都合の良い作物なのですが、生産できる土地が限られていて全国各地にはまだ出回っていません
奇跡的に野菜との条件が合致した北海道のこの牧場で、未来のウマ娘の為ならばと牧場の一部をトレーニング場に変えて宿泊施設も建設したこの場所は、北海道に限らず様々な場所からトレーニングをしに訪れる名所となりました
そんな予約でいっぱいであろうこの場所で長期間練習出来るようになったのは、畑の手入れや施設の掃除などを手伝う臨時スタッフとして入ったからでした
「やっと、お昼ッス…」
「雑草を抜くの、中々に辛いですわ…」
「トレーニングも兼ねているとはいえ、大量の水が入ったじょうろを持っての往復はしんどい…」
畑仕事とトレーニングで土まみれになった身体を洗い流し、ジャージを洗濯機に投げ入れてようやく一息つけたお昼ご飯の時間、わたしと『
(『
「はいよ、お待たせ!いっぱい食べてトレーニングも頑張りな!」
「「「あ、ありがとうございます…」」」
「いいのいいの!アンタらもスペちゃんみたいに活躍してまた来てちょうだい!この食堂に色紙並べるのが楽しみでしょうがないんだからさ!」
食堂のスタッフのおばちゃんがご飯もおかずも山盛りの昼食を持ってきてわたし達のテーブルにドン、という音を出して置いてくれました
最初にこの食堂に来たとき、おかずでいっぱいの皿が数皿並び、これらを三人で分け合うのかと思いきや追加で二セット届き、山盛りおかず複数皿+山盛りご飯で一人分という量の多さに驚きました
「昔はもっと食べれたんですけどねー」と、隣のテーブル席に座って平然とわたし達の倍以上食べる
「…昨日までのワタクシとは違いますわ…今日こそは完食してみせますわ‼︎」
「む、無理しないでくださいスノウ先輩!い、いざとなればわたしが先輩のも食べきって…」
「そう言って昨日死にそうになってたじゃないッスか!?」
今日もハードな
夜、海が近い合宿所にて私の担当である『セレーネグリマー』を探して砂浜を歩いている
本日は雲がなく夜空の星々もはっきり見えている
そんな日は彼女は月を見上げる為に外に出歩く事が多い
トレセン学園が懇意にしている合宿所ではあるが、流石に暗い海辺まで警備の目が行き届かない、ましてや彼女は世間の注目も高いクラシック三冠馬達成間近のウマ娘だ
あまり一人で外に出歩かないで欲しいのが本音だ
「〜♩…〜♫…」
一人用の敷物を広げてビーチに座って月を見上げて歌を口ずさむ彼女は、それだけで絵になるほど綺麗だった
暫く聴いていたかったが、明日もハードなトレーニングを予定しているので体調を保つべく早めに寝てほしくて声をかけた
「…そっか、もうそんな時間かぁ……ごめんなさい、もう戻るね」
素直に従い敷物を畳んで私と共に合宿所まで歩き始める
道中、気になる事があったので彼女に質問をする
「寂しいかって?…あー歌ってた歌が歌だもんね…」
少し前に流行った、曲名に月の名を有する会えない寂しさを綴った歌だ
(歌の中ではその相手は恋人だと思うが)
「トレーナーが居るから寂しくないよ♩…ア、ハイ、それだと寂しそうに歌っている理由がないですね、ハイ」
空元気を一刀両断して詰め寄るとすぐさま認めたので改めて話を聞く
「ん…ヒメちゃんと、最近話し出来てないなって…」
『
仲が良くて学園内では一緒に行動する事が多く、彼女自身も一番の親友とも言っている
今回の夏合宿ではそれぞれ別の場所でのトレーニングとなっていて暫くは会うことが出来ない
「電話?電話はねぇ…、ヒメちゃん、トレーニングで忙しそうだし…」
それに…、と言葉を濁して彼女は空を見た
その視線の先には月があったが、彼女は月ではない誰かを見ているようにも見えた
「勝ちたいからね、『菊花賞』」
合宿所まで競争ね?と、いきなり小走り(一般人には追いつけない速度)で走り出したので慌てて自分も走り出した
追いつかなかったので彼女がその時どんな顔をしているか分からなかった