ウマ娘の新アプリがリリースされました   作:たかなしゆういち

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【閑話11】彼女達の歩みは続いていく

 

 プロスポーツ選手の引退後も彼等の人生は続いていく

 

 彼らが引退する理由としては年齢による身体能力の衰えだったり若手の台頭による世代交代だったり怪我によるものだったりと様々な理由があるが、定年まで働こうとする社会人と比べると早い段階で選手としての道から離れてしまう

 

 その後は選手時代の経験を活かして次世代の選手を鍛えるコーチやトレーナー、知識量を基に選手の心理や戦術を紐解く解説者、自身の知名度による企業の広告塔、テレビタレント、動画配信者…

 

 引退後にも様々な道があるがウマ娘の世界であってもそれは同じ

 

 広告だけでも飲食店、美容関連、スポーツ用品、レジャー施設、寝具、家電、等々

 見目麗しいウマ娘が都心のモニターにアップされる物だから引退した後もファンが増える事も多々あるそうだ

 

 


 

 

 「かっこいい〜!」

「や、やめ、て『クローバーレース(クレちゃん)』…照れ、る、から…」

 

 一緒に『Winning the soul』の踊りの練習をした休憩時間に『ムラクモヒメ(ヒメちゃん)』が表紙となった雑誌を見せて貰て彼女を褒める

 

 クラシック期の夏合宿中に腰にまで届きそうなほど長くボリュームのあった芦毛の髪をボブカットにまで短くし、慌てふためく眼も真っ赤な顔も切ってしまった前髪では隠しきれずに必死に手で顔への視線を遮ろうとしている

 

 表紙には二人のウマ娘、一人は勿論ヒメちゃん

日本史の授業で見た『十二単』を思わせるような白色で纏められた和の勝負服を纏い、小道具として開いた黒基調の和扇子で口元を隠して立っている

 もう一人はヒメちゃんのルームメイトにして世代最強とも名高い『セレーネグリマー』が背中合わせに立っている

 こちらは西洋の夜空を連想させる紫のドレスの勝負服に金色の長い髪が天の川のように下ろし、斜め後ろに顔を振り向かせてカメラ目線

 こちらは羽の付いた豪勢な紫のセンスを口元に持ってきているが、口角の吊り上がった挑発的な口元が隠しきれていなかった

 

 

 「すっごいね〜流石G1レース出走バ、インタビューに加えて写真撮影…芸能人みたい」

「け、結構緊張したよ…何回も、撮り直したし…インタビューも噛んでばっかりだし…」

「それでそれで、やっぱりスポンサーの話って来たの⁈有望なウマ娘には企業から打診が来るって噂だよ⁈」

「と、トレーナーに任せっきりだからわからないな…」

「良いな〜わたしもいつかスポンサーが来るのかなぁ〜」

「…もし、受けるとしたら、どんなのがいい?」

「え?…う〜ん…

 

 

 

 

 オレンジジュース‼︎」

「…うん、知ってた」

 

 


 

 

 ありがとうございました

 

 頭を深々と下げてそう言ったウマ娘は、私物の入った大きな鞄と共にトレセン学園から旅立つべくゆっくりと歩き始めた

 

 涙を噛み殺してのか細い声、しかし此方にとっては彼女に思い入れがある訳ではない

たった数ヶ月の指導を施しただけであるし最後のレースだって掲示板にようやく滑り込んだだけだ

 

 「…こんな天気じゃなくても、良いのにねー?」

 

 空は厚い雲が漂い、午前中だと言うのに少し薄暗い

まあ、土砂降りの雨でないだけマシなのだろう

…いや、むしろ雨で涙が隠れるのならばそっちの方が良かったか

 

 

 「お疲れ様です。…見送るのは、やはり寂しいですね」

「おやー、理事長秘書も、お見送りですかー?まー勝負の世界ですからね、仲良く皆で一等賞なんて出来ないですからねー」

 

 

 一勝、たった一勝ですら修羅の道

その一勝を勝ち上がった者同士でさらに競い合って遥かな高みを目指して走って行く

数多の落伍者を置き去りにして

 

 故にその頂点に立つ者の栄光は輝き、その眩しさに憧れた新たな挑戦者が後を絶たない

 

 

 「…力不足を感じますねー」

「あの子はきっと、貴方に救われましたよ?」

「…そう、ですかねー?」

 

 トレーナーとしてレースで一着を取らせてやる事は出来なかった

出来たのは、彼女の今後通う事になる学校の選定だけ

正直な所、こうなるだろうなとは覚悟していた

していた所で心が揺さぶられることには変わりないのだが

 

 

 

 「おや、新人君じゃないかー、君も見送り?」

校門へと歩いてゆくウマ娘を見ていると、後ろの存在に気づいたので声をかける

「………」

「ダメダメ、『もしも』なんて持ち出したらー。キリがないよ?」

「………」

「担当を受け持っていたら君のところの『セレーネグリマー』が調子を崩すかもしれない。二兎を追うものはー、って言うでしょ?それにー結局この学園から去るウマ娘が別の子になるだけだろうしー」

「……………」

 

 ままならないですね、と零した優しい新人君

 

 落ち込みたいのはこっちなのだがここは先輩トレーナーとしての意地と尊厳をみせるべく、彼を飲みに誘うことにした

 

 「お酒でも飲んでこの気持ち吹っ飛ばそうかー、だーいじょうぶ、奢ってあげるよー?」

「……(頷く」

「でしたら、他のトレーナーも呼びませんか?きっと皆同じ気持ちでしょうし」

「おー、そしたらいっそ学園にお金出してもらっちゃおうかー?お願いたづなさーん」

「ダメでーす❤️」

 

 理事長秘書と軽口を叩きながら学園内へと戻る

 空を見上げると厚い雲に覆われながらも少しだけ空いた雲間から放射状に光が差し込んでいた

 光芒、もしくは天使の梯子(エンジェルラダー)

それは、彼女への救いの光のようにも見えた

 

 

 どうか、彼女の行く末が

 幸せな物でありますように

 

 


 

 

  プロスポーツ選手の引退後も彼等の人生は続いていく

 

 引退後の活動にもスポットが当たる選手もいるが、普通の会社員となって現代社会で生きる為に頑張る人もいる

 

 ウマ娘も同様に、レースの世界から引退した後は現代社会の一員として生活をしてゆく

 

 各々の物語が終わった後、その後の物語が紡がれていくのだ

 

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