ウマ娘の新アプリがリリースされました   作:たかなしゆういち

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雨音迫る夕暮れ

 

 むかしむかし、とある国のとある(まち)に、雲を集める魔法(まほう)を使う魔女(まじょ)が住んでいました

 

 魔女はその魔法で夏のあついお日様の光を雲でかくしたり、なかなか雨が降らない時は雨雲を集めて畑にめぐみの雨を降らせたり、街の外で雲を集めて街の空の雲をなくし、街の天気を晴れのにしたりするのがお仕事でした

 

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 お祭りの日が近づくと、街ではこんなウワサでもり上がっていました

 

『月の女神(めがみ)様』が街の祭りにやって来る、と

 

 月の光を浴びてキラキラきらめく女神様は、この国のお(ひめ)様すらその(うつく)しさにため息が出ると言われるほどキレイとのウワサです

 

 雲の魔女もそのウワサを聞いて月の女神様に会ってみたいと思いました

 

 しかし、この街のエライ人は雲の魔女にこう言いました

 

 『お祭りのためだ。お前は雲を集めて街の外にいてくれないか』

 

 

〜とある絵本作家の作成途中の絵本の文より〜

 

 


 

 

 京都競馬場へのアクセスが容易なお高めのホテルの部屋の扉をノックし、中にいる滞在者からの了承を得たのでドアを開けて中に入る

 

 今居るこの階は未来のG1ウマ娘が万全な状態で臨めるようにと全てがウマ娘基準となっており、部屋の中の細かな備品一つ一つにも高級感を漂わせていた

 

 そんな部屋のベットに腰掛けて窓の外を眺めるウマ娘は自分の初めての担当バであり今後これ以上のウマ娘に出会う事が無いと言っても過言でない程の実績と才能を持った『セレーネグリマー』だ

 

 明日に控えたクラシック三冠路線の最後のレース『菊花賞』

このレースに勝利すれば無敗で『皐月賞』、『日本ダービー』を勝利した『無敗クラシック三冠』を達成するという偉業を前に

 

 彼女は忙しなく動き回る事もなく、不安な顔をするでもなく、ただただ外の景色を見ていた

 

 

 今の彼女が何を考えているのかが…分からない

高倍率のトレーナー採用試験を潜り抜けただけでは、レースに懸けるウマ娘の心の機微を察せない

 これがベテランのトレーナーならば気の利いた言葉をかけられたのだろうが、生憎と自分は自分なのでまず自分ができる事、明日の打ち合わせをする事にした

 

 

 

 「不安な事?……不安ってわけじゃあないんだけど、明日は雨だなって」

 

 明日のホテルから控え室までのスケジュール、出走ウマ娘の特徴、予想される作戦、そして自分たちの作戦、そしてレース後のライブ

 一通り確認したあとに不安な事はないか(もしくは隠していないか)探った所、返って来た答えは天気の話だった

 

 確かに予報では降水確率は高い、そして今まで雨天時の実戦は無いにしてもトレセン学園最新機器の『メガドリームサポーター』を使えば重馬場でのレースの練習も出来た

 そこまで気にするような事ではない…と思っている

 

 

 「トレーナー、明日の『ムラクモヒメ(ヒメちゃん)』はね、絶対に怖いよ?心…いや、魂、『ウマソウル』っていうのが叫んでる」

 

 ムラクモヒメ、そして『ウマソウル』という彼女の言葉を聞き、もう一度深く考える

 

 『ウマソウル』というのはこの学園で研究されている『ソウル』の文字通り不可視の魂に関する物で、普段おとなしいウマ娘が特定のウマ娘に対して強いライバル視をしたり、生まれも育ちも違う初めて会ったウマ娘にシンパシーを感じ生涯の友と呼べる仲になったり(一方通行な好意の時もある)、思い入れのあるレースに対して神懸かり的な力を発揮したりする要因と考えられている

 

 ウマソウルは女神の采配だとか自身の前世であるとか様々な説があり研究者も多く、ついこの前も『ナインティメモリー』というサポート科のウマ娘からウマソウルの研究の為にと怒涛の質問攻めをされた事もあった

(長時間にも及び、後半になるにつれて質問のペースも上がる様は新たなトレーニングのアイディアの切っ掛けとなった)

 

 そしてムラクモヒメ

彼女はセレーネグリマーのルームメイトでありトレセン学園一の親友だ

 彼女も『菊花賞』に出ると発表された後はめっきり減ったが、休憩中に出てくる話題はムラクモヒメの事が多く占めていた

 その中の良さは周囲も認めるほどで、ここ数週間は様々な人やウマ娘に二人に何かあったのかと心配されるほどだった

 

 同室のウマ娘とG1を争う

この学園では珍しい事でもないが、軽やかに先頭に抜け出す加速力を持つ『ハヤテイチモンジ』や最終直線での力強い末脚を魅せる『トルククロール』、日本ダービーにて大逃げして一着争いをした『スノウエンゼル』など他にも強敵がいる中、ムラクモヒメを一番の強敵とするのはただの偶然か、それとも…

 

 

 「だから明日は雨が降るよ、絶対に」

 

 そう言われて思い返すのはムラクモヒメの直近のレース映像だ

 菊花賞への弾みのために出走したそのレースは雨で走りづらい筈なのに後方から力強く駆け上がってハナ差の1着だった

 加速力はセレーネグリマー程ではないが、重馬場も苦にしない力強さと粘り強さはグリマーを上回るかもしれない

 

 

 明日の天気を『絶対』と言うほど言い切る彼女の言葉を聞き、彼女の部屋を出たあとも何か見落としがないかが気にかかり、ムラクモヒメ他出走者のデータを見直す事にした

 

 


 

 

 何でだろうね?初めて寮で会ったときから、ヒメちゃんは絶対に私の前に立ち塞がるって確信があったの

その時はまだ他にも速い人なんていっぱい居たのに

 そして、ホントに私の前に立ち塞がった

 

 

 アンタを負かせてやる

レースでぶっちぎってやる

そんな啖呵を切って挑んできたウマ娘を一蹴し続けて入学したトレセン学園

強すぎた故に周りから距離を置かれていた私は、ここで本当のライバルと競い合って高め合ってレースを走る事に期待していた

 

 トレセン学園初めての親友のヒメちゃんは、最初は自分に自信なさげで私に挑んでくるようには見えなかった

 実際に最初は此方の練習を遠巻きに見ているだけだった

でも暫くしてヒメちゃんは一緒に練習をしたいと口に出し、私との実力差を目の当たりにしても鍛え直してまた一緒に練習をしたいと小さな声で言った

 

 回数を重ねる度、少しづつ実力差を縮められているのが分かった

人見知りで自分に自信が無くてもウマ娘としての本能、速さへの執着とレースでの負けず嫌いは折り紙付きであった

 

 向こうはどう思っているかは知らないけれど、いつも練習に直向(ひたむきな)ヒメちゃんを勝手に好敵手(ライバル)認定して行う練習は充実したものがあった

 

 

 私は『ムラクモヒメ』に勝ちたい

私をレースで打ち負かすべく、誰よりも私を見続けて、誰よりも私を追いかけ続けた彼女に

 

 

 雨音が聞こえ始めたホテルの一室で、明日のレースに思いを馳せて眠りについた

 




 更新が大分空いてしまいました
一月がいつの間に終わったことに驚愕しています

正月を過ぎたらゆっくり出来るか更新が捗るかと思ったら全く出来なかった
二月も忙しくなりそうです…
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