ウマ娘の新アプリがリリースされました   作:たかなしゆういち

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〈外伝〉囁き巧者

 

 年が明けてしばらく経ち、遅い朝日がようやく顔を出した寒い日のことである

 

 「あ、寮長!あけましておめでとうございます!ただいま帰りました!」

「ん、おかえり。そしてあけましておめでとう。予定より早かったね」

 

 ウマ娘達が通うトレセン学園の学生寮の一つ、『栗東寮』の玄関口

そこにキャリーバックを転がして来たウマ娘と、清掃のために竹箒を持っていた『寮長』と呼ばれたウマ娘が会話をしていた

 

 「…わ!なんですかそれ?まるでスマホロ●ムみたいな…」

「サポート科からテストも兼ねて借り受けた。スマホをセットすると自分の周りを飛んでくれる。外で音声入力しつつ両手がフリーになる」

「へー、こんなのも作ってるんですね」

 

 横置きのスマホを乗せたドローン(の、ようなもの)が寮長の周りをゆっくりと回っている

 

 静かに空中浮遊をしている機械に目を奪われていたウマ娘は、竹箒を静かに地面に下ろし、そっと近づいていた寮長に気づかなかった

 

 「えい」

「うひゃぁあ⁈な、なんですか!急…に…」

 

 寮長は後ろ蹴りをされないように、横から優しくウマ娘に抱きついた

突然の抱擁に驚き、寮長へ振り向いたウマ娘の眼前には、寮長の中性的で整った顔が迫り、鼻腔の奥に何かいい匂いまで届き始め、ウマ娘の細いながらも力ある両腕に包まれ、口を開けるも何も言えずにただ身を委ねることしか出来なかった

 

 

 「耳、貸して?」

「ひゃ、ひゃい///」

 

 

小さくも、しっかりと耳に響く心地よい(こえ)に逆らえず、顔を傾けて耳を寮長へと近づけた

 

 

 「    」

 

 

 ウマ娘は耳元で自分の名前を呼ばれた気がした

急激な展開についていけず、自分の心臓が激しく高鳴るのを感じてーーー

 

 

 

 

「●●kg増加、ウエストもプラス●▲cm。…御正月で油断したね?」

 

 

 心臓が止まった気がしたと、後日、ウマ娘はこの日の事をそう語った

 

 


 

 

 無慈悲な宣告から少しして、『セレーネグリマー』と呼ばれるウマ娘が長期の旅行に使われるキャリーバッグを持って栗東寮へと帰って来た

 

 「ただいま寮長ー、あけまし…何かあったんですか?」

「ん、おかえり。『ホープフルステークス』、勝利おめでとう」

「ありがとうございます!…でも、取材やテレビ出演が大変で…」

「それは勝者の義務。…お疲れならハグしてしんぜよう」

「ありがとう寮長!」

 

 地面に手を突き項垂れるウマ娘を尻目に、真正面から抱き合う二人のウマ娘

 この間も宙を浮くスマホは彼女らの周りを軌道衛星の様に回っている

 

 「ん…『セレーネグリマー』、体重◇kg減。本格化し続けている現状から考えれば食べなきゃ駄目」

「あー、これが噂の寮長チェックでしたか。…ちょっと忙しかったからですかね…」

 

 寮長の言葉に反応して、スマホがデータの入力を行う

先ほど打ちひしがれたウマ娘も含めて多数のデータの入力が終わっていた

 

 「『頑張り屋なポニーちゃんにはご褒美をあげよう』」

「わ、フジ大先輩にそっくり!何貰えちゃうんですか?」

「練習して漸くマスター出来た、アップルパイを焼く予定。夕食のデザートに食べるといい」

「いつもありがとうございます!」

 

「…うぅ…アップルパィ…」

「早く来たって事は自分でも薄々理解してのこと。プールが空いてるからトレーニング後のご褒美であげる」

「寮長大好きぃ‼︎」

 

 アップルパイという単語に反応して、しかし現状の問題によって諦めかけていたウマ娘が、寮長の言葉で眼を輝かせ、先ほどのセレーネグリマーと同じように抱きしめた

 

 


 

 

「あ、寮長。明けましておめでとうございます」

「ん、明けましておめでとう。『サポーター』の家はどうだった?」

「はい、ゆっくり休む事が出来ました」

「それはなりより」

 

 長くて癖毛で芦毛の目隠れウマ娘、『ムラクモヒメ』と呼ばれるウマ娘が大きめなバックを肩にかけ、寮へと帰って来た

 

 「さぁ、飛び込んでくるが良い」

「えぇっと…?」

「躊躇う必要などない。アメリカでは普通」

「寮長の出身ってご両親含めて日本ですよね?」

 

 寮長が両手を広げて抱きしめやすい体制を取り、ムラクモヒメは荷物を下ろして恐る恐る抱きしめた

 

 「こ、こんな感じですか?///」

「ん…」

 

 寮長はゆっくりとムラクモヒメの背中に手を回す

ムラクモヒメは慣れないふれ合いに顔を赤らめ、体温も上昇しているのが自身でも感じられた

 尚、この初々しいやり取りの間も二人の周囲をスマホが飛び続けている

 

 「『ムラクモヒメ』…」

「ヒャイ⁉︎」

「体重…△kg微増、ヒップも…プラス▲cm?本格化時期だから順当な成長か」

「ななななんで増加分を的確に当てられるんですか⁈」

「秘密。本格化時期に大量に消費するカロリーを補うべく私お手製のアップルパイを食後にプレゼントする」

 

 


 

 

 「お疲れ様ー、機材の回収に来たよー」

「ん、ありがとう」

 

 太陽がオレンジ色になり、冷たい風の主張が強くなった夕暮れ時、寮長の所属するチームメイトのウマ娘が栗東寮に訪れた

 

 「やっぱりスマホを載せる以上、重さでバッテリー消費が激しい」

「まー予想通りですね。ひー、ふー、みー…全部ありますね」

 

 ウマ娘達は、朝から交換しつつ飛ばしていた機械を壊れないようにブロッククッション付きのアタッシュケースに仕舞う

 

 「そろそろ寮対抗戦ですねぇ、いやぁ楽しみです」

「…勝負方法のくじ引きに、あまり変なの入れないでよ?」

「やだなぁ(私は)入れませんよ。ではではー」

 

 アタッシュケースを持って空いている手をヒラヒラさせて去っていくウマ娘

それを見届けた寮長はアップルパイを完成させるべく、キッチンへと向かっていった

 

 

 

 「プールで後ろから空き缶やらフライパンやらいろんな物鳴らされまくったんですけどぉ⁈」

「サポート科の『水泳中に効果のある音』についての研究。サンプルが欲しいとのこと」

「せめて音楽にして欲しいです!」

 

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