私、『ムラクモヒメ』は、歴史を感じるほど傷んだ家具や色褪せたポスター、真下しか照らせない暗めの照明の下、私とトレセン学園の問題児とされる先輩とその悪友、そして二人の知り合いであろうメガネをかけたウマ娘の四人で卓を囲んでいます
「へっ…全員揃ったみてぇだな…!」
私の真向かいに座る長い芦毛に茶色い帽子をチョコンと被ったゴルシ先輩が言いました
ただ私の練習終わりに突然拉致して連れられて来た段階で両隣のお二人が座っていたのに、さも待ちくたびれたかのような物言いは不適当では?
「待ちくたびれたぜ…二人でサイコロの出目を当てるゲームに飽き飽きしてた所さ」
左隣にはゴルシ先輩と良く常人にはよくわからない勝負を繰り広げているニット帽を被ったナカヤマ先輩
トレセン学園からは卒業している筈ですが、良くトレセン学園周辺で見かけることが多く、何をしているかを聞いても「当ててみな?」とはぐらかされます
「楽しみですね。普段は見ているだけでしたが、今日はお手柔らかにお願いします」
「手加減なんてしねーから覚悟しとけよ!」
「ククク、どんな打ち手か見せてもらおうじゃねーか」
右隣には小柄な…いえ、かなり小柄なウマ娘、初めてお会いします
落ち着いた服にピンと伸びた背筋、リムレスのメガネに鹿毛の髪に一部の毛先が黄色に染まっており、そして香るこの匂いは…
「申し訳ありません。気になりますか?この香水の匂いが」
「あ、いえ…大丈夫です…お気遣いなく」
トレセン学園にも香水を付けるウマ娘は居ますが、爽やかな香水をつけることが多いのでこの…重い?スモーキー?な香りが彼女の大人びた、そしてミステリアスな雰囲気を際だてます
「あの…一体何をやるつもりですか?」
何度も何度も破天荒の先輩に振り回され慣れてきた自分が嫌になりますが、この状況を無視して一人帰れる保証もなく、取り敢えず話を進めます
「あぁ!この小説がUA56400を越えた記念に麻雀させようと
「それって最後の一人は私である必要無いですよね?」
「ホントはドンジャラさせようとしていたんだがな、作者がドンジャラを持ってないからな」
「その情報要らないですよね?」
「私がお願いしました。貴女と『お話』してみたかったので」
「あ、そうなんですか…?」
…微笑んではいますが、私のことをジッと見られると怖いものがありますし、所々『含み』があるように聞こえるのは何故でしょうか…
「うっし始めるか!因みにドベは一位からの命令一つに絶対に従わなければならない罰ゲームだかんな!」
「聞いてませんよそんな事⁈」
「いいぜぇ…そうでなくちゃな…!」
「よろしくお願いしますね?」
「甘いなぁゴルシ…ロン」
「ぐわぁぁあ!『
碌に麻雀を知らない私には、簡単にルールと打ち方、上がり方を教えられてゲームが進んでいきます
三種類の模様、文字と竹?と丸?で1から9の数字がそれぞれ表現され、同じ種類の模様で構成された数字の階段を3枚、もしくは同じ牌を3枚で一つの集まり、それらの集まりを四つ揃えたのに加えて
数字系の牌とは別に『
「リーチ、場風の南、混一、裏ドラ…跳満、と」
自分で引いた場合は『ツモ』、相手の捨て牌が上がるための最後の一枚ならば『ロン』
『ツモ』は他三人から得点を貰え、『ロン』は牌を捨てた人が上がった人に得点を払う
「くそぉ…アタシの『
「ククク…ようやく背中が見えてきたな」
「折角の親番でしたが…振り込まなかっただけ良しとしましょう」
「アンタに『西』を掴まれてたら出なかっただろうな、危ない所だったぜ」
「買い被りすぎ、ですよ?」
「あーっ⁈しっかり『發』抱えてんじゃねーか!」
親と子、という役割?分類?があり、親は最初に一枚引く人、上がった時の得点が子より高く、子が『ツモ』した時に払う点数が他より多くなる
…覚えることが多すぎでは?
「へっ…だがまだアタシが僅差でトップだ!最後の親番でド派手に上がって終わらせてやるぜ!」
「…今のままだと最下位は…ムラクモヒメさん、ですね」
「アタシが勝ったらこの夏のトレーニングはトラックを押してアメリカ横断だ!ラスベガス目指して頑張ろーぜ!」
「私は別に熱い勝負が出来ればいい…そうだな、もう一局付き合って貰おうか、倍プッシュでな」
「私は…そうですね、少し、『掃除』のお手伝いをしていただきたいのですが…」
私は他三人の横並びと違って点数が離れています
というか初心者に容赦ないですね皆さん
ちょっと、頭にきました
「次を始める前にお願いが二つあるんですが、よろしいですか?」
「お願い、ですか?」
「オイオイ、今更命乞いなんざ認めないぞ?」
「いえ、一つはちょっと電話したいだけなんです」
「あ?電話ぁ…?代打ちは認めねーぞ?」
「いえ、ちょっと報告するだけです。もう一つが一位になった時の権利を指定します」
「おや、今、お決めになるのですか?」
携帯電話から電話帳に登録された番号をタップして呼び出しボタンを押す
普段だったら利用するのは心苦しいのですが…せめてのお詫びに彼女の好きなものをあげましょう
「はい、私が勝ったら
最高級品の『オレンジジュース』を
下さい」
宣言するのと同時に通話に応答が入る
[はーい、ヒメちゃん、何かあったー?]
「ねぇ、『
[うっそホントに⁈頑張ってヒメちゃん!]
「『ツモ』…で良いんですよね?」
「…ええ、合ってます。白、發、中…『大三元』…役満ですか」
「上がれなかったか…!ゴルシ、親被りで最下位だな」
「チキショォ!『目覚まし時計』があれば‼︎」
「お疲れ様でした、貴女と会えて良かったです」
「…いえ、こちらこそ…」
その後、近くの駅まで送り届けられ、去り際に『土産だ』と、手にお茶漬けセットを渡されて、トレセン学園最寄駅に続く電車の中で帰り道が一緒だと言うメガネをかけた大先輩に話しかけられました
隣に並ぶと彼女の体躯の小ささがより明確になりますが、落ち着いた物腰であの破天荒さを受け入れる懐の大きさには少し尊敬します
「お二人の話に度々話題に上がったので気にはなっていたんですよ。『オモシレー奴が居る』と」
「そうですか…」
その評価は嬉しくありません
「せめて現役中はそっとしてていただけるとありがたいのですが…」
「きっと彼女なりの気遣いですよ?あまり思い悩み過ぎるのも、よく無いですから」
「そうなんですかね…」
「私も私の妹も、お茶漬けが好きでしてね?度々ナカヤマさんに頂いているのですよ」
「へぇ…その、何というか、意外に見えます」
「ふふ、よく言われます。…食欲が無い時でも食べやすいですからね?これから暑くなりますから冷やし茶漬けなんかも乙なものかと」
「な、なるほど」
「海外に旅行…私には想像もつかないです」
「良いものですよ、様々な価値観に触れ、見たこともない景色に出会え、初めての出会いで交流が広がる…。最初はレース場の下見のついでに周辺の散策をしてみるのは如何でしょう?トレセン学園の『遠征支援委員会』を利用すれば宿泊地、観光スポット、練習場、更にはリフレッシュの為の旅行にも対応出来ますので」
「な、なるほど…」
「…そろそろお別れですね」
「そうですね、色々とお話ありがとうございます」
「貴女ならいずれG1を勝つことが出来ますよ」
「そ、そうですかね」
「ええ、そうです」
そう言って大先輩は自動ドアの向こう側に行きこちらに向き直り、手を振りました
「それでは、良い
後日、オレンジジュースが先輩から届きましたが…
「トレセン学園産のオレンジジュース?」
「嘘っ?!今年の『
「ほんとに何でもありますねトレセン学園!?」