「なにやってんだろ? あたし」
両手にエナドリ満載の買い物袋を持って、ふと思う。バイト初日を乗り切ったぼっちちゃん、次の日風邪を引いて熱出したらしい。学校とバイトを数日休むことになった。なんだよ、また明日って言ったくせに。……心配だな。
そこからの月曜日が今日。風邪が治ったぼっちちゃん復帰の日。学校が終わったらスターリーにやってくる。あたしがシフトの穴埋めしてやったんだから、今日からはバリバリ働いてもらうぞ! なんてな。
『EDMガンガンにかけまくってエナドリ片手に踊り狂っていてください!』
学校からの帰り道、ぼっちちゃんから意味不明なロインが届いた。マジでわけわからん。でもぼっちちゃんから何か頼んでくるなんて初めてだな。まあ、できるだけのことはしてあげたい。
スターリーへの通り道にあるドラッグストアでちょうどエナドリ大セールが開催中だったので、たくさん買った。両手にエナドリ満載の買い物袋を持って、ライブハウスへの道を急ぐ。こんな理由でバイトに遅刻したら大目玉だ。
「リョウ、袋一つは持てよ」
「やだ。私は買う必要ないって言ってるのに。星歌が勝手に買ったんだから、星歌が持つべき」
とか言いながら一本飲んでんじゃねぇよ山田。そうこうしていると、向こう側にぼっちちゃんが見えてきた。ピンクすぎて遠くからでも目立つ。……やっぱ服装は注意した方がいいな。ちょっと遠いけど、早速声をかけてやろう。
で、なんか誰かと一緒だけど、あの制服はぼっちちゃんの高校だっけ。標準服ってやつか。後ろ向きで顔がよく見えないけど、学校で出来た友達かな?
「おーい! ぼっちちゃーん! よくわからんけどー! エナドリ沢山買っといたぞー! これでいいかー?」
「え? あ、ありがとうござ……んぶぅ!」
え? あいつ、ぼっちちゃんになにやってんだ? つーかどこかで見たことあるような?
「ごめん後藤さん! 私やっぱり帰る! 理由は言えないけど、どうしてもそこには行けない! ここに来たことは絶対にその人たちにも言わな……」
ん? ぼっちちゃんの隣の子、見覚えがある。……あ、あいつは! ……まずは袋を置いて、と。
「あー! 逃げたギター!!」
「あひいいいいいー!!」
「喜多! てめぇ! そこを動くな!」
「星歌!」
リョウ止めんな! あいつだけは!
「あわわ! ……あの! わ、私!」
あいつビビって腰を抜かしてる。だが許さん!!
「やめて……ください!!」
どたぷん!!!
あ、なんか柔らか……。え!?ぼっちちゃんの、胸! ぼっちちゃんが抱き着いて、あたしを体で止めようとしてくる! てか、なんであいつと一緒にいるんだよ!
「ぼっちちゃん! どけ! そいつ殴れない!」
「おおおおおお、落ち着いて!」
あ、バランスが崩れて、あたしがぼっちちゃんに押し倒される形になった。ジャージに引き締められて、なお存在を主張する大きなたわわが、あたしの顔にのしかかる。夢心地だぁ……。って何考えてんだあたし! とりあえず、ぼっちちゃんの胸を押しのける。
「……いや、お前が落ち着け」
「星歌、鼻血出てる。……スケベ」
リョウが真上から見下ろしてくる。ギャー! あたしの鼻から大量の血が。そして、ぼっちちゃんのジャージいっぱいに鮮血が広がる。やっちまった!
「あ……ぼっちちゃん、ごめん! てか、スケベちげーし! ちょっと頭と顔打ったからだろ……たぶん」
「あ、いえ、だ、大丈夫です。こ、こちらこそ、無駄で無意味な脂肪の塊を押し付けてすみません……」
「いや、大丈夫じゃねぇし! ぼっちちゃん、ジャージは洗って返すから! ホントごめん!」
必死にぼっちちゃんのジャージをハンカチで拭きながら謝罪する。あとソレについては、無駄とか言うのやめろ! 敵作るぞ!
「……スターリーに、行こうか」
「お、おう」
「あ、はい」
ゆっくりと立ち上がるぼっちちゃんとあたし。ここはシモキタの街中。周りの視線が痛い。早く店へ入るに限る。
しっかし、ぼっちちゃんが止めてくれなかったら、危うく暴力沙汰を起こすところだった。ありがとな、ぼっちちゃん。それからリョウも。
「ほら……立てる?」
腰を抜かしたままの喜多に手を差し伸べるリョウ。
「あ、あうう……リ、リョウ先輩……」
喜多は目をキラキラさせながら、ガシッとリョウの手を掴んでる。なんつーか、現金な奴。とりあえず営業開始前のスターリーで事情を聞くことにする。
「大変申し訳ありませんでした! 何でもしますから! あの日の無礼をお許しください! 私をめちゃくちゃにしてください!」
「とりあえず落ち着け! 頭上げろって!」
ライブハウスに入店早々、見事な姿勢の土下座を披露する『逃げたギター』こと喜多。一心不乱に頭を打ち付けてるのを見ると、さすがにあたしも気の毒になってきた。ざわつく店内。姉貴やスタッフさんたちもめっちゃ見てくる。
あーもう! 正直困るんだけど!
「お、お、お許しください! めちゃくちゃ!」
そしてなぜか一緒に土下座するぼっちちゃん。いや、お前はいいよ!汚れたピンクジャージは脱いでもらったが、下に着てるTシャツなかなか厳ついな。やるじゃん。センスがいかにもロックって感じだ。
「とりあえず、理由を聞かせて。話はそれから」
リョウは動きで席に座るよう促す。リョウの言う通り、あたしも理由が知りたい。何故ライブ当日に逃げたのか。……その前に、鼻血塗れの顔を洗わせて。
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