もしもJK星歌ちゃんだったら。   作:三十路スキー

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ぼっちちゃんやさしい④

「じゃあ、ふたりとも頼むわ。もうライブ始まったから、ドリンクもあんまりお客さん来ないと思うけど。もし困ったら、すぐあたしを呼んで!」

 

 次は受付をリョウ先輩と交代して、ドリンクコーナーで働くことになった。まずは、後藤さんをゴミ箱から引っ張り出さないと……。アイデンティティの喪失中っていったい何のことかしら?

 それにしても、さっきの伊地知先輩カッコよかったなぁ。執事っていうよりは用心棒って感じだけど。立ち姿だけで華があるわよね。リョウ先輩とはまた違った魅力が、キャー! って感じ!

 そして後藤さんのメイド服姿……私より似合ってるかも? ちょっと悔しい。てゆーか! クラスの女子が全員嫉妬するレベルよこれ! なんで学校だとヘンなジャージ着てるんだろ? もったいない。普通に制服着てダサい髪整えるだけで絶対かわいいのに!

 

「み、見ててください喜多さん! 汚名挽回のチャンスです!」

 

 いや汚名挽回ってなんのこと? って、それは汚名返上よ! 後藤さん! ああ、言ったそばからコーヒー溢れてる!

 

「大丈夫? 大体分かったから、後藤さんもう休んでて」

 

 とりあえず手当してあげないと。熱いコーヒーで火傷しちゃってるし。

 

「イキってすみません……」

 

「よかった。大事にならなくて」

 

「そういえば、後藤さんってなんでバンド始めようと思ったの?」

 

「あ、世界平和! 世界平和を伝えたくて……」

 

「意識高いのねぇ……」

 

 うーん。もしかしてメイド服に着替える前に着てた、モジャモジャ丸メガネなオジ様の描かれたシャツが関係あるのかしら?

 もしかして後藤さんってああいう人が好きなの? ……私はタイプじゃないかな。

 

「き、喜多さんは何でですか? 憧れの先輩ってリョウさんのことですよね?」

 

「……先輩の路上ライブ見て一目惚れしたの。ちょっと浮世離れした雰囲気とか、ユニセックスな見た目とか! もうなにもかもキャーって感じで!」

 

「きゃー?」

 

「そしてなにより楽器を持った姿がサマになってて!」

 

「あ、それわかります!」

 

「ずっとリョウ先輩のことはファンとして追ってたんだけど、前のバンド辞めちゃったみたいで。結束バンドのメンバー募集を知って、思わずやりたいって言っちゃったんだ」

 

「す、すごい行動力ですね……」

 

「バンドって第2の家族って感じしない?本当の家族以上にずっと一緒にいて皆で同じ夢を追って……。友達とか恋人を超越した不思議な存在だと思うのよね」

 

「そ、そう、ですか」

 

「部活とか何もしてこなかったし、そういうのに憧れてたんだ。そう! 私は結束バンドに入ってリョウ先輩の娘になりたかったのよ! 友達より深く密に!!」

 

「……」

 

 私何言ってんだろ? そんなこと言う資格なんて、もう私には無いのに。でも後藤さんには、なぜか本音を打ち明けたくなるの。私も普段はこんなのじゃないし。あの娘とは今日出会ったばかりなのに、不思議。

 

「だからこそ、私はもうバンドには入らないけどね」

 

「え?」

 

「……私みたいな無責任な人間は、駄目よ」

 

 ごめんなさい。私は後藤さんの仲間(ともだち)にはなれない。今の私には、貴方が眩しすぎるから。

 

 

 

 

 

「お疲れ様。今日はもう帰っていいからね」

 

 服を着替えた私たちに、店長さんが仕事の終わりを告げる。

 

「今日はありがとうございました。これからもバンド活動頑張ってください。陰ながら応援しています、それでは」

 

 精一杯の笑顔で別れを告げる。私がもうここに来ることはない。陰ながら応援なんて嘘。明日からは忘れよう。……バンドなんて大嫌い……だから。

 

「あの! き、喜多さん……帰らないで!!」

 

 

どたぷん!!!

 

 

 わ!? 後藤さん! なんでいきなり抱き着いて! あ、やわらか!ってそんなことじゃなくて!

 

「えっ……ちょ! まっ……ちょ! 帰るの、ま、待って! は、話をきいてくだ、さい!」

 

 後藤さん、ギブ! ギブ! 強く抱きしめすぎ! ちょっと!苦しいんだけど!

 

「あがが……ぐ、ぐるじい! わ、わかったから! 話聞くから! 一回離れて!」

 

「やめろ! ぼっちちゃん! 喜多が死ぬぞ!」

 

「ぼっち、ステイ、ステイ」

 

 先輩方に止められて、ようやく後藤さんは私に抱き着くのを止める。……さっきまでは前髪で隠れてよく見えなかったけど、綺麗な瞳してるなぁ。

 

「き、喜多さん! ほ、本当にこのまま帰って……それでいいんですか?」

 

「ごめんね、後藤さん。さっき言った通り、私は結束バンドには入れないわ。みんな真剣にやってるし、私は逃げ出した人間だもの」

 

「き、喜多さんの左手……指の先の皮が、か、固くて、それは!」

 

「かなりギター練習してないと、そうはならない。頑張ってたんだね」

 

 ごめんなさい。リョウ先輩。本当は貴方の隣に居たかったけど、私は……。

 

「あたしは、喜多……ちゃんにも結束バンド一緒に盛り上げてほしい」

 

「でも……」

 

 ごめんなさい。伊地知先輩。私は貴方の期待を裏切ってしまいました。

 

「……無責任に頑張ってなんて言うなよ。喜多ちゃん、あたしたちにはお前が必要だ」

 

「先輩……私は最悪のタイミングで逃げ出した人間ですよ?」

 

 ごめんなさい。私は貴方たちの夢を汚しました。なのにむざむざ戻ることなんて、できません。

 

「また逃げんのか? あたしやリョウだけじゃなくて、ぼっちちゃんからも」

 

「……」

 

「逃げんのはもうやめなよ。前の事、悪かったって思うなら」

 

「……伊地知先輩」

 

「あたしだって引け目感じる気持ちも、それでも憧れを捨てきれない気持ちだってわかるよ。ずっとバンドやりたかったからさ」

 

「わ、わたしもでーす!!」

 

「……後藤さん」

 

「リョウも思うだろ? 喜多ちゃんに居てほしいってさ」

 

「うん。これでスタジオ代もノルマも四等分」

 

「言い方!」

 

「……リョウ先輩のノルマ! 貢ぎたい!」

 

「爛れた関係爆誕させんな……」

 

「でも、私ギター全く弾けないですよ?」

 

 ごめんなさい。私は大嘘つきです。ギターできないのにできるって嘘つきました。慌てて練習して、いくらやっても少しも弾けませんでした。

 

「大丈夫! ぼっちちゃんに先生してもらおう。責任取れよな、後藤センセイ?」

 

「いいの? 後藤さん」

 

「は、はい! き、喜多さんは努力の才能は人一倍あるから、だ、大丈夫です」

 

「ありがとう……私、頑張る。結束バンドの一員として!」

 

 ありがとう、みんな。




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