「よかった……」
「ん?」
「ぐ、グダグダに、なったけど、喜多さんを引き留めれて、よ、よかった……です」
「……そうだな」
「ぼっちのおかげで復活できた」
「本当にありがとう後藤さん!」
正直あたしやリョウだけだったら喜多ちゃんを引き留めるのは無理だったよ。ぼっちちゃんは勇気があって、やさしい子だ。
「いやぁ、青春だねぇ」
「ですねぇ」
姉貴とPAさんが遠巻きにニヤニヤしてる。……ちょっとキモい。
気が付けばもう6月。あの騒動からようやく結束バンドは本格始動。それからはドタバタだったな。喜多ちゃんがギターだと思ってたのがまさかの多弦ベースで、見兼ねたリョウが買い取った。おかげで毎日草食べてる。あいつ親が金持ちなくせに、なぜかこういうとこ意地張るんだよな。
そしてリョウが手持ちのギターを貸してあげることになった。貸し出した水色のギターは、リョウのお気に入り。手に入れた時ガラにも無く、めちゃくちゃはしゃいでたやつだ。
「むしゃむしゃ……」
「いいのか? あのギター貸して。あれスゲーレアモノなんだろ?」
「もぐもぐ……。ギターはあれが一番合ってる。楽器は持っててうれしいコレクションじゃない」
喜多ちゃんには、あいつなりに期待してるってことか。下校中そこらの草を食べながらじゃなけりゃ、説得力あるんだがな。
「デザート、星歌もいる?」
「……いらん」
デザートって、花の蜜吸うのかよ! 勘弁して。
スターリーに到着、今日はバンドミーティングをする。喜多ちゃんが正式にスターリーでバイトすることになった。かなり仕事デキる娘なのでとてもありがたい。
ぼっちちゃんもバイト入ってくれるようになった。姉貴はもう少しシフト入ってほしいと愚痴ってたけど、学校片道二時間だしあまり無理はさせたくない。仕事のデキは……ま、ゆっくりがんばろう。
そして放課後の学校やうちのスタジオでマンツーマンレッスンの毎日だ。オリジナル曲が完成したら、4人で本格的な合わせ練習もしたい。
「あ、そこ……さっきも言いましたよね?」
「もう嫌! ギター辞めます!」
「また、喜多ちゃんか……スタジオの外まで聞こえてくるし」
……後藤センセイはギターについては、結構スパルタみたいだ。態度はいつも通りのオドオドなんだけど、指摘は結構辛辣。それからギターについてだけは、めちゃくちゃタフなんだよな。喜多ちゃんが疲れてても気づかないぐらい没頭して、止めないと何時間でも練習し続けそうだ。
そのせいか、喜多ちゃんは毎日のように『もう辞めます!』と喚いてる。まあ、持ち前の爽やか向上心パワーで復活して、すぐ練習再開するけど。気づかない間に疲れが溜まりすぎてないか心配だ。
「おーい! 二人とも、ミーティングやるぞ! 向こうに集合な」
「はい! 伊地知先輩!」
「あ、はい!」
「バンドミーティング始めるぞ。今日のテーマ! よりバンドらしくなるには!」
ぼっちちゃんと喜多ちゃんが拍手してくれる。カワイイ後輩たちだ。それに比べて……。
「……ざっくりしてる」
リョウは頬杖なんかついて、露骨にやる気がない。お前に協調性は期待してないけどさ、もう少し……なんか、あるだろ。
「その前にちょっといい?」
「どうした? リョウ」
「曲作ってきた。大雑把にメロディだけ」
「すごい! リョウ先輩流石です!」
喜多ちゃん、リョウのことはすぐ褒めるよな。でも今回はあたしも同意だ。
「もうできたのか、やるじゃん」
リョウは褒めすぎるとツケ上がるから、褒めるときはほどほどに。にしてもリョウの奴、仕事が早いな。音楽に関してだけは。で、早速聞いてみたけど、メロディだけとはいえ、かなりいいぞ!
あたしは作曲とか全然分からないけど、リョウの作る音楽が好きだ。今回のは、何となくリョウが昔やってたバンド『ざ・はむきたす』を思い出させる。特にリョウがバンド始めたころにあった、ちょっと尖ったムードがある。やっぱリョウがやりたい感じはこうなのかな?
あたしは解散前ぐらいのポップな感じも嫌いじゃなかった。あいつから言わせれば『売れ線に走ってつまらない』らしいけど。
「キャー! リョウ先輩! よくわかんないけど素敵です!」
おいおい……その感想はどうなんだよ? まあ、ド初心者の喜多ちゃんにはメロディの良し悪しなんか解らんだろうけど。あたしも偉そうなことは言えないけど。
「うん、いいんじゃない?ぼっちちゃんはどう思う?」
「あ、す、すごい! いい……とお思います」
「次はぼっちが頑張って。歌詞が出来たら曲仕上げるから」
「へ?」
「いやいや、ぼっちちゃんが作詞担当って前決めただろ? 期待してるぞ、後藤大センセイ!」
「うえ!?」
「後藤さん、重要な役目を任されてすごいね!」
キターン! って何の光? 混じりっ気ナシの陽キャオーラが眩しい! 喜多ちゃんから後光のようなものさえ見える! あくまでイメージなんだろうけど!
「あ、作詞なんて朝飯前! ちょちょいのちょいですよ!」
あ、ぼっちちゃん陽キャオーラにやられたか。
「ふふっ。後藤さんってすぐ調子乗るのね」
「しーっ! 喜多ちゃん声に出しちゃダメ!」
そんなの聞こえたらぼっちちゃん落ち込んじゃって、戻って来なくなるから! とりあえずここは仕切り直し。
「さて諸君! いくらいい演奏をしても、聞いてもらえなかったら意味ないよな?まずは、バンドの個性をしっかりアピールしなくちゃいけない。そのためには、まず何が必要だと思う? はい、ぼっちちゃんどうぞ!」
「あ、え? い、いきなり言われましても! え、えと、なにか答えないと……」
あたしの指で作ったファインダーが、すかさずぼっちちゃんを捉える。いきなり質問したのは、ぼっちちゃんにはちょっと意地悪だったか。
でもぼっちちゃん困ってあたふたしてるとこ、可愛いかったな。たま~にイジワルしたくなっちゃうんだよね。……ほんの少しだけ。
「アー写だと、あたしは思うんだ」
「あーしゃ?」
「アーティスト写真。ライブハウスの告知やフライヤーに使う。バンドの方向性やメンバーの特徴を1枚で伝える、大事なもの」
「博識なリョウ先輩! ス・テ・キ!」
「山田クン、説明ご苦労!」
「うざ」
「……まあ、とにかくいい感じのアー写を取りたいと思ってるんだ」
「あっ、前のライブの時はどうしたんですか?」
「前のライブ出るために撮ったアー写はあるけど……」
「げっ……」
動揺する喜多ちゃん。構わずあたしはスマホを取り出し、写真を見せた。
「ほら、喜多ちゃん逃げたから……」
「こ、これはひどい……」
「ごめんなさい!」
ポーズを決めるあたしとリョウの横で、学校の集合写真で欠席した生徒みたいになってる喜多ちゃん。あいつの写真はどこから持ってきたんだっけ? こんなひどいアー写、日本のロック史にもいまだ無いはず。
「過ぎたことは仕方ない。今回のアー写は4人揃って野外で撮影したい」
「今ここでパパって撮っちゃダメなんですか?」
分かってないな、喜多ちゃん。
「ダメダメ! どんな媒体で使われても恥ずかしくないようなインパクトある一枚を撮影すんだよ! ……立派なスタジオ使うカネなんか無いし、外でいいとこ探して撮るのがベストかなって」
「そ、そんなものですかね?」
「そんなもんだよ、ぼっちちゃん。……って山田寝るなぁ!」
「zzz……ずぴー」
案の定だ。喋らなくなったと思ったら、リョウの奴、いびき立てながら居眠りしてやがる。
「……ごめん。昨日徹夜で曲作ったから眠くて」
そういうとこだぞ、リョウ。インスピレーション頼みで計画性が無いからこうなる。でも作曲頑張ってくれたし、今日はゆっくりさせてやろう。
「しょうがない奴だ……。今日撮影しようかとも思ったけど、また今度にするか。今度の休みにでも行きたいな。予定を合わせてさ。みんな写真のアイデア考えといて。今日は解散。お疲れ!」
楽しいアー写撮影の旅は、次にお預け。このために用意した『みんなで結束バンド大作戦』は次回披露しよう。ホームセンターでカラフルな結束バンドをまとめ買いしといたんだ。それぞれのイメージカラーを決めて、その色の結束バンドを腕に巻くのさ。ラバーバンドみたいでイカしてるよな? 我ながらナイスアイデア、みんな驚くぞ。バンドが売れてきたら、グッズとして物販で500円はカタい。今から夢が広がるな、ワクワクする!
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