もしもJK星歌ちゃんだったら。   作:三十路スキー

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今回は山田視点。虹夏さん(29)はジカさんと呼ばれがち。


結束バンドの結束記念日④

「へい、大将やってる?」

 

 そのギャグはサムいよ。店員さんも苦笑いしてる。

 

「ぼっち、こっちこっち」

 

 入口で一人スベってるぼっちを窓際のカウンター席に手招きする。ぼっちが私の隣に座る。2人で会うのはこれが初めて。さて、どうしようか。

 

 

 

 

 

『ぼっちです。歌詞が出来ましたので、よければ見てもらえればと』

 

 なんてロインが来たのがついさっき。別に明日みんなスターリーに来るからその時でもいいかと思ったけど、なんとなく今いるカレー屋に呼んでみた。ぼっちとは、2人で話してみたかった。

 

「あっ、アー写撮影、た、楽しかったです、ね」

 席に着いてからの気まずい沈黙を破るように、ぼっちが話しかけてくる。作り笑顔が痛々しい。

 

「うん。郁代がもうイソスタにアカウント作ってる。気の早いことだね」

 

 ぼっちに結束バンドのアカウントを表示したスマホを見せる。早速さっき撮ったアー写をアップしてる。

 

『結束バンドです! 下北沢を拠点に超エモエモなロックバンドを目指します!』

 

 郁代は正直うざったいとこもあるけど、今は好き。戻ってきてからはすごく頑張ってる。初めはどうでもいいと思ってた。ああいうバンド以外にいくつも居場所のあるタイプは、どうせすぐ居なくなる。ライブをドタキャンしたのはさすがに想定外だったけど。かなりムカついたし、星歌を悲しませた奴なんて許すつもりは無かった。

 でも星歌とぼっちが許すなら、私も郁代に賭けてみたくなったんだ。……そういや、まだ名前で呼べてないな。

 

「あ、あはは……。さ、さすがSNS大臣? ですね……」

 

 ぼっちは、私がカレーを食べ終わるまで律儀に待っている。いや、単にコミュ障すぎて話しかけられないだけか。カレーの味はそれなり。ジカさんの作る素朴なカレーの方が私は好き。

 

「早く歌詞見せて」

 

「お、お願いします」

 

「うむ。拝読いたす」

 

 無駄に明るくて、無条件に現状を肯定するタイプの応援ソング……つまらない歌詞。私が前居たバンドの末期でも、こんなに酷くはなかった。でもぼっちはわかってやってるな。これがバンドらしくて、みんなのためになると思ってる。違う、そうじゃない。でも光るセンスや努力の跡は感じる。

 

「ぼっち的にはこの歌詞で満足?」

 

「あ、いえ、ば、バンドのためを考えるとこうしたほうがって……」

 

「言ったっけ?私が前のバンド辞めた理由」

 

 ――つまらない身の上話をした。私が前のバンドを辞めた理由、実は誰にも話してなかった。星歌だって断片的にしか知らないはず。でもなぜか、ぼっちには話そうと思った。『音楽性の違い』なんて言えば聞こえはいいけど、言ってしまえば私の我儘。

 売れ線を求めるのはフツーのことだし、大して相談もせず抜けるなんて言えば揉めるのも当然。いろいろあったけど、メンバーのことは恨んでいない。向こうがどう思ってるかなんて、考えたくもないけど。

 それでも私は『個性(わたし)』を捨てたくない。

 

「個性を捨てたバンドなんて死んだのと同じだよ。私はこのバンドには死んでほしくない」

 

「……」

 

「いろいろ考えてつまらない歌詞書いてこなくていいから、ぼっちの好きなように書いて」

 

「え、でもそうすると暗いジメっとした歌詞が……」

 

「バラバラな個性が集まって、ひとつの音楽になるんだ。それに暗い歌詞、リア充っ子に歌わせたらきっと面白いよ」

 

「リョウさん……」

 

「さて、そろそろ出ようかな。……その前に一つだけいい?」

 

「あ、はい」

 

「星歌の事、どう思う?」

 

「え、あ、な、なんで急にそんなこと」

 

「星歌、いつもぼっちのことばっかり話すから。無理させてないかとか一緒に居て楽しいとか。だから気になるんだ」

 

「え?せ、星歌ちゃんは、顔や声はこ、怖いですけどぉ。とっても優しくて、い、い、いい人だと……思いますけど……」

 

 顔を真っ赤にしながら一生懸命に話すぼっち。

 

「え?……今星歌ちゃんって呼んだよね?」

 

「あ、ああ!『先輩をちゃん付けで呼びましたで賞』で、し、死刑ですよね!」

 

 手足をバタバタさせながら必死に弁明するぼっち。星歌がかわいいって言うのも、少しわかる。

 

「ぷぷっ。それ直接星歌に言ってあげなよ。絶対喜ぶから」

 

「むむむ無理です! 絶対!」

 

 ヘッドバンギング? 新しいバンドパフォーマスかな?

 

「今度から星歌ちゃんって呼んであげなよ。あの娘は先輩後輩とか気にするタイプでもないし」

 

「むむむむむむむむむ!!」

 

 ぼっちが首振り人形みたいに止まらない。やばい、客や店員たちの視線がこっちに釘付けだ。

 

「と、とりあえず、落ち着け。店出ようか」

 

 ぼっちを何とか宥めて、店の出口へと向かう。会計のため財布を確認すると所持金7円。しまった、草生活が限界で思わず店に入ったの忘れてた。……こうなったら。

 

「ごめん、ぼっち。今お金ないから奢って」

 

「え、でもリョウさんがここに誘ったんじゃ?」

 

「野草生活がもう限界で、それにここ新しくできたばかりで気になってたから……お願い奢って」

 

「あ、はい。で、でも後で、絶対、返してくださいね」

 

 

 私への尊敬のまなざしが、一転してゴミを見るような目に変わった。……ゾクゾクする。機を見て、またお金借りよう。

 

 

 

 

 

「ホントにごめん。来月絶対返します」

 

「あ、いつでも構いませんので」

 

「ぼっち、また明日」

 

「リョウさん! あ、あの! 私、頑張ります!」

 

「じゃあ、楽しみにしてるよ」

 

 日もどっぷり暮れたし、今日はもう帰ろう。曲の仕上げは、ぼっちの歌詞次第だな。ぼっちのこと、暗くてウジウジした性格や奇想天外な発想もひっくるめて私は好き。きっとおもしれーことになる。

 歩きながら、なんとなくスマホでオーチューブを確認。ギターヒーローは今日も更新無し。なぜか星歌は、あいつの演奏に夢中。あんな動画の何がいいんだろう。確かに技術はかなりあるけど、所詮売れてる曲をカバーするだけの小銭稼ぎ動画。……私は嫌いなはずなのになんで毎日のようにチェックしてんだろ。我ながらバカみたいだ。

 




おまけ

山田リョウ
 暗殺されなかった山田の可能性。星歌(16)が誕生した影響でバンド内の陰陽バランスが崩れたため、脳がすこし綺麗になった。なにかと短気な星歌をフォローする。音楽や楽器を愛する人が好き。ルックスや家柄など上辺で評価してくる奴が嫌い。
 ぼっちは初対面から発想がおもしれーので好き。喜多は最初どうでもよかったが、戻ってきてからは少しずつ仲間として認めていく。星歌のことはずっと親友だと思っている。ジカさんも優しいから好き。
 夏でも長袖やタイツを愛用。肌を出さないのがこだわり。だが特に理由はない。

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