もしもJK星歌ちゃんだったら。   作:三十路スキー

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あたしとピンクのヤベーやつ②

「私の家!」

 

「違うだろ!」

 

 なんとかライブハウスに着いた。あいつは溶けてるみたいなだらしない顔。まあ落ち着いてきたみたいだし、いいか。

 

「やっと戻ってきた」

 

 見慣れたダチがこちらに寄ってくる。

 

「えっと、この子は後藤ひとりちゃん。公園で奇跡的に見つけたギタリスト」

 

「へぇ」

 

「紹介する。こいつはベースの山田リョウ」

 

「こんにちは」

 

 無表情のままぺこりと会釈。相変わらずの鉄面皮。表情筋死んでんのか?あんま人の事言えないけど。

 

「ご、後藤ひとりです! この度は申し訳ありませんでした!」

 

 案の定ビビり散らかしている。

 

「リョウは表情出にくいだけだから。変人って言ったら喜ぶよ?」

 

 ベーシストは大抵落ちる。姉貴の受け売り。

 

「うれしくないし」

 

 いや、顔赤らめんな。ひとりちゃんも『うれしそうだ』って顔に書いてるし。

 

 そして、ツカツカと大きな靴音を鳴らしながらやってきたのは……。

 

「星歌ちゃん! アンタこんな大事なときに勝手に抜け出してどういうつもり!?」

 

 ……げ、姉貴だ。普段は温厚だけど、怒るとマジで怖い。

 

「ご、ごめん。姉貴! ギターがバックレたからサポートギターしてくれる人探してたんだ!」

 

「なんでそんな大事なこと先に相談しないの!?」

 

「……ソウダソウダ」

 

 ごもっとも。……山田は小声で乗っかるな。

 

「とにかく本番まであまり時間無いし、スタジオで練習しなさい。星歌ちゃんは後でお・説・教・ね!」

 

 ぐえー。やっぱそうなるか。

 

「リョウちゃんもね」

 

「なんで私も?」

 

 山田ざまあ。

 

「で、キミさっき聞こえたけど、後藤さんだったよね?」

 

「ぴえええええええええ!」

 

 ひとりちゃん! 仮にも女子がしていい顔じゃない!

 

「あ、いや、そんな怯えないでよ! さっきはキミに怒ったわけじゃないって!」

 

「ズビバセン! ズビバセン!」

 

「私は伊地知虹夏(いじちにじか)。スターリーの店長です。よろしくね」

 

 あたしを叱った阿修羅の形相から一転、ひまわりのような笑顔を見せる姉貴。これがナチュラルにできるんだからすげぇよ。

 

「――落ち着いた?」

 

「は、はい」

 

「うちの妹がごめんね。当日いきなりサポートギターなんて無茶にもほどがあるよ」

 

「あ、はい、いえ」

 

「今日は楽しく弾くことだけは心掛けてね。音ってものすごく感情が表れやすいから。それに、キミにもここでの演奏を楽しんでもらえたらうれしいな」

 

「が、が、頑張ります!」

 

 併設のスタジオで音を合わせる。時間の余裕はあまり無い。

 

「これ今日のセットリストと楽譜ね。いけそう?」

 

「は、はい!」

 

 意外と自信ありげな顔。まあ今回はギターの実力が未知数だったから、ギターのパートはそれなりに簡単なものになっている……らしい。リョウの受け売り。

 自称通りそこそこ弾ければなんとかなるはず。いや、それに賭けるしかない!

 

「それじゃ、いくよ!」

 

 

~~~ジャラーン♪♪

 

 

「……ド下手だ」

 

「ぷっ」

 

 君は最高のギタリストだ! とでもおだててその気にさせるはずだったのに! つーか吹いてんじゃねぇよ山田!

 

「とりあえず出てこ~い! 本番始まるから!」

 

 いつの間にかゴミ箱にすっぽりと収まっている全身ピンク。ゴミ箱そこそこデカイけど人一人すっぽり収まるとは思えない。こいつ体どうなってんだ!?

 

「ややや、やっぱり私にはできません~!」

 

 いまさらそんなこと言われても困るんだけど!

 

「しょうがねーよ! 即席バンドだし! あたしだってそんなにうまくない!」

 

「私はうまい」

 

 リョウは空気読め。

 

「え、あ、わ、私全くお役に立てませんし……あはは、私の命をもってハラキリショーでも……バンド名だけでも覚えて帰ってもらえるはず……」

 

「なら私がベースでポムっと介錯してあげる」

 

「マジやめろ!」

 

「流血沙汰もロックだから」

 

「ロックは免罪符じゃねぇ!」

 

「まあ、うちのバンド見に来るの、あたしの友達だけだから。安心しろって」

 

 自分で言ってて結構惨めだけど、事実だから仕方ない。

 

「で、でもやっぱり怖いです。……お客さんの視線とか耐えられません」

 

「なら、これ被る?」

 

 リョウが完熟マンゴーと書かれたバカでかい段ボールを抱えてる。

 

「わぁ……。そ、それいいですね!」

 

「いや、それはダメ。お客さんに失礼すぎる」

 

「名案だと思うけど」

 

 ああ、もうイラつく!!

 

「……つーかいい加減にしてくれない?」

 

「へ?」

 

「星歌、ストップ」

 

「てめぇはさっきから聞いてれば、ずっとウジウジと! 自分でステージに立つって決めたんだろ! 根性見せろよ後藤!」

 

「ひぃいいいいいいい!」

 

「星歌! ダメ!」

 

 ズゴッ! 後頭部に鈍い痛み。脳天チョップが直撃!!

 

「言い方、きつすぎ。無理なお願いしてるのどっちだっけ?」

 

「……う、ごめん」

 

「短気は損気。謝る相手違うでしょ?」

 

 すぐ短気を起こすのがあたしの悪い癖。それで結構損してきた割になかなか治らない。こんな時、リョウはブレーキになってくれる。いつもはテキトーなくせに。

 

「ご、ごめん。あたしが悪かったから。……泣かないでよ」

 

「うぅ……ぐす……」

 

「……それで、ひとりはどうしたい?私たちは無理強いしない。でも時間無いから。今決めて?」

 

 リョウがひとりちゃんに問いかける。いつになく真剣に。

 

「わ、私は……やりたい……です。バンドはずっとやりたいと思っていたし……でもメンバーとか集められなくて、い、今出なかったら、誘ってもらえるなんてこんな奇跡、私なんかには多分もう一生起こらない! だ、だから……やらせてください! お願いします!」

 

 この娘、マジ顔すればこんなにかっこいいんだ。ゴミ箱に入ってさえなければ。

 

「あ、頭上げて! てかお願いしてるのはこっちだし……。ありがとな。まずはゴミ箱から出よっか?」

 

「星歌、ちょっと泣いてる」

 

「うっせぇ! あたしは目にゴミ入っただけだし!」

 

 しっかりしろ伊地知星歌! そうこうしてると、ようやくひとりちゃんがゴミ箱から出てきた。

 

「これ、使って。泣き顔のままでお客さんの前に出るつもり?」

 

 あたしは黄色いハンカチを差し出す。

 

「ぐず……ぐす……ちーん! あ、ありがとうございます!」

 

「こら、バカ! 鼻かむな!」

 

 ひよこさん柄のお気に入りなのに……。

 

「そういえばライブの名前どうする?本名で出る?」

 

「あっ、本名はちょっと……」

 

「じゃあ、あだ名とかある?」

 

「中学の頃は、ねぇとかおいとか呼ばれてました」

 

 あ~涙出てきた。さっきとは別の意味で。

 

「ひとり……ひとりぼっち……ぼっちちゃんは?」

 

「いや、さすがにその名前はひどいだろ! いじめか!?」

 

「ぼぼぼ、ぼっちです!」

 

「お前それでいいのか? イヤならイヤと言いなよ?」

 

「こ、これがいいです。は、初めてのあだ名、うれしい!」

 

 まあ『ちゃん』をつければ案外かわいいかも。

 

「……お前がいいなら、それでいいけど。じゃ、よろしく! ぼっちちゃん」

 

「星歌、もう時間」

 

「じゃあ、行こうか!」

 

「は、はい!」




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