「私の家!」
「違うだろ!」
なんとかライブハウスに着いた。あいつは溶けてるみたいなだらしない顔。まあ落ち着いてきたみたいだし、いいか。
「やっと戻ってきた」
見慣れたダチがこちらに寄ってくる。
「えっと、この子は後藤ひとりちゃん。公園で奇跡的に見つけたギタリスト」
「へぇ」
「紹介する。こいつはベースの山田リョウ」
「こんにちは」
無表情のままぺこりと会釈。相変わらずの鉄面皮。表情筋死んでんのか?あんま人の事言えないけど。
「ご、後藤ひとりです! この度は申し訳ありませんでした!」
案の定ビビり散らかしている。
「リョウは表情出にくいだけだから。変人って言ったら喜ぶよ?」
ベーシストは大抵落ちる。姉貴の受け売り。
「うれしくないし」
いや、顔赤らめんな。ひとりちゃんも『うれしそうだ』って顔に書いてるし。
そして、ツカツカと大きな靴音を鳴らしながらやってきたのは……。
「星歌ちゃん! アンタこんな大事なときに勝手に抜け出してどういうつもり!?」
……げ、姉貴だ。普段は温厚だけど、怒るとマジで怖い。
「ご、ごめん。姉貴! ギターがバックレたからサポートギターしてくれる人探してたんだ!」
「なんでそんな大事なこと先に相談しないの!?」
「……ソウダソウダ」
ごもっとも。……山田は小声で乗っかるな。
「とにかく本番まであまり時間無いし、スタジオで練習しなさい。星歌ちゃんは後でお・説・教・ね!」
ぐえー。やっぱそうなるか。
「リョウちゃんもね」
「なんで私も?」
山田ざまあ。
「で、キミさっき聞こえたけど、後藤さんだったよね?」
「ぴえええええええええ!」
ひとりちゃん! 仮にも女子がしていい顔じゃない!
「あ、いや、そんな怯えないでよ! さっきはキミに怒ったわけじゃないって!」
「ズビバセン! ズビバセン!」
「私は
あたしを叱った阿修羅の形相から一転、ひまわりのような笑顔を見せる姉貴。これがナチュラルにできるんだからすげぇよ。
「――落ち着いた?」
「は、はい」
「うちの妹がごめんね。当日いきなりサポートギターなんて無茶にもほどがあるよ」
「あ、はい、いえ」
「今日は楽しく弾くことだけは心掛けてね。音ってものすごく感情が表れやすいから。それに、キミにもここでの演奏を楽しんでもらえたらうれしいな」
「が、が、頑張ります!」
併設のスタジオで音を合わせる。時間の余裕はあまり無い。
「これ今日のセットリストと楽譜ね。いけそう?」
「は、はい!」
意外と自信ありげな顔。まあ今回はギターの実力が未知数だったから、ギターのパートはそれなりに簡単なものになっている……らしい。リョウの受け売り。
自称通りそこそこ弾ければなんとかなるはず。いや、それに賭けるしかない!
「それじゃ、いくよ!」
~~~ジャラーン♪♪
「……ド下手だ」
「ぷっ」
君は最高のギタリストだ! とでもおだててその気にさせるはずだったのに! つーか吹いてんじゃねぇよ山田!
「とりあえず出てこ~い! 本番始まるから!」
いつの間にかゴミ箱にすっぽりと収まっている全身ピンク。ゴミ箱そこそこデカイけど人一人すっぽり収まるとは思えない。こいつ体どうなってんだ!?
「ややや、やっぱり私にはできません~!」
いまさらそんなこと言われても困るんだけど!
「しょうがねーよ! 即席バンドだし! あたしだってそんなにうまくない!」
「私はうまい」
リョウは空気読め。
「え、あ、わ、私全くお役に立てませんし……あはは、私の命をもってハラキリショーでも……バンド名だけでも覚えて帰ってもらえるはず……」
「なら私がベースでポムっと介錯してあげる」
「マジやめろ!」
「流血沙汰もロックだから」
「ロックは免罪符じゃねぇ!」
「まあ、うちのバンド見に来るの、あたしの友達だけだから。安心しろって」
自分で言ってて結構惨めだけど、事実だから仕方ない。
「で、でもやっぱり怖いです。……お客さんの視線とか耐えられません」
「なら、これ被る?」
リョウが完熟マンゴーと書かれたバカでかい段ボールを抱えてる。
「わぁ……。そ、それいいですね!」
「いや、それはダメ。お客さんに失礼すぎる」
「名案だと思うけど」
ああ、もうイラつく!!
「……つーかいい加減にしてくれない?」
「へ?」
「星歌、ストップ」
「てめぇはさっきから聞いてれば、ずっとウジウジと! 自分でステージに立つって決めたんだろ! 根性見せろよ後藤!」
「ひぃいいいいいいい!」
「星歌! ダメ!」
ズゴッ! 後頭部に鈍い痛み。脳天チョップが直撃!!
「言い方、きつすぎ。無理なお願いしてるのどっちだっけ?」
「……う、ごめん」
「短気は損気。謝る相手違うでしょ?」
すぐ短気を起こすのがあたしの悪い癖。それで結構損してきた割になかなか治らない。こんな時、リョウはブレーキになってくれる。いつもはテキトーなくせに。
「ご、ごめん。あたしが悪かったから。……泣かないでよ」
「うぅ……ぐす……」
「……それで、ひとりはどうしたい?私たちは無理強いしない。でも時間無いから。今決めて?」
リョウがひとりちゃんに問いかける。いつになく真剣に。
「わ、私は……やりたい……です。バンドはずっとやりたいと思っていたし……でもメンバーとか集められなくて、い、今出なかったら、誘ってもらえるなんてこんな奇跡、私なんかには多分もう一生起こらない! だ、だから……やらせてください! お願いします!」
この娘、マジ顔すればこんなにかっこいいんだ。ゴミ箱に入ってさえなければ。
「あ、頭上げて! てかお願いしてるのはこっちだし……。ありがとな。まずはゴミ箱から出よっか?」
「星歌、ちょっと泣いてる」
「うっせぇ! あたしは目にゴミ入っただけだし!」
しっかりしろ伊地知星歌! そうこうしてると、ようやくひとりちゃんがゴミ箱から出てきた。
「これ、使って。泣き顔のままでお客さんの前に出るつもり?」
あたしは黄色いハンカチを差し出す。
「ぐず……ぐす……ちーん! あ、ありがとうございます!」
「こら、バカ! 鼻かむな!」
ひよこさん柄のお気に入りなのに……。
「そういえばライブの名前どうする?本名で出る?」
「あっ、本名はちょっと……」
「じゃあ、あだ名とかある?」
「中学の頃は、ねぇとかおいとか呼ばれてました」
あ~涙出てきた。さっきとは別の意味で。
「ひとり……ひとりぼっち……ぼっちちゃんは?」
「いや、さすがにその名前はひどいだろ! いじめか!?」
「ぼぼぼ、ぼっちです!」
「お前それでいいのか? イヤならイヤと言いなよ?」
「こ、これがいいです。は、初めてのあだ名、うれしい!」
まあ『ちゃん』をつければ案外かわいいかも。
「……お前がいいなら、それでいいけど。じゃ、よろしく! ぼっちちゃん」
「星歌、もう時間」
「じゃあ、行こうか!」
「は、はい!」
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