「今日はここまでにするか。明日はオーディション本番。各自よく休んで、英気を養うように! お疲れ!」
1週間はあっという間に過ぎ去り、いよいよ明日がオーディション当日。今日は練習を早めに切り上げる。いまさらバタバタしても仕方ない。明日ベストを尽くせばいいだけ。
オリジナル曲の正式なタイトルは、みんなで決めた。
『ギターと孤独と蒼い惑星』
ちょっと捻くれてるけど、まっすぐな歌。あたし達に合ってると思う。
「ぼっちちゃーん! 待って!」
「う?」
スターリー出てすぐ、自販機の群れの前でぼっちちゃんを引き留める。
「わりぃ、引き留めて。どうしても今聞きたいことがあるんだ。……ちょっと待ってな」
そう言いながら、あたしは自販機でコーラを買う。ぼっちちゃんは赤いヤツが好き。
「ほら、飲めよ。今日は奢り」
「え、あ、え? あ、ありがとうございます……」
ぼっちちゃんにコーラを半ば強引に押し付けてから、あたしはりんごジュースを買う。濃縮還元100%ジュース。本当は『いいこりんご100』がいいけど、ガマン。
「で、聞きたいことってのはさ……ぼっちちゃんは、なんで今バンドやってるのかなって」
「せ、世界平和! 世界平和を伝えたくて……」
こういう時ヘンにいいカッコしようとするとこ、あるよな。ぼっちちゃんの悪い癖。
「あーそういうのいいから。ギャグで笑わせようとかしないで、真面目に答えて」
「え、あ、ぎ、ギャグという、わけでは……す、すみません……」
ま、本人はギャグのつもりじゃ無いんだろうけど。それはそれとして。
「まあ、アレだ。目標とか夢ってやつだよ。人気者になってチヤホヤされたい! とか、売れて大金持ちになる! とかさ。そんな感じのヤツでもいいし。もっと変わったことでもいい。なんか叶えたいこととか、あるだろ?」
「あ、え、えっと……その……」
ぼっちちゃん、考えこんでしまった。やべ、いつもの奇行が始まってしまう。その前に……。
「まあ、今は答えられなくていい。それ宿題だから。ライブ終わるまでの宿題にしよう!今後もバンド続けていくなら、夢を持つことは大事なこと。と、あたしは思う」
「せ、星歌ちゃんは、バンドでの目標はメジャーデビューですよね? 確か」
「へ? 星歌……ちゃん?」
一応、あたし年上なんだけど?
「あ。あ、すみませんんんん!! 『先輩をちゃん付けで呼んだで賞』で、ししし死刑ですよね! やっぱり!!!」
「いや、死刑とかねぇよ! コーラ飲んで、いったん落ち着け」
星歌……ちゃん……星歌ちゃん……星歌ちゃん! なんか、いいな!
「は、初めてできた……友達だから、その、最初から、心の中ではそう呼んでいたわけで……」
「……ふーん。じゃあ、これからは星歌ちゃんって呼ばないと、バンドクビだから」
バンドクビってのは、もちろんジョークだけど。ずっと星歌ちゃんって呼んでほしいのはマジだから。
「ええええ!? そんな殺生な!!」
「なにがだよ。あたしがいいって言ってんだから。それでいいんだよ」
「は、はあ」
「ああ、ごめん。あたしの目標がメジャーデビューって話だったよな? あたしの夢は……実はその先にあるんだ」
「そ、それは……」
「ぼっちちゃんにもまだ内緒。そのうち話すよ」
ぼっちちゃんにニッと笑いかける。姉貴みたいに可愛く笑えないけど、あたしなりの笑顔はできたかな?あたしの本当の夢は、まだ誰にも話してない。リョウも知らない。姉貴には特に知られたくない。まだ、知られたくないんだ。
「それより、ほら」
あたしは右の拳をぼっちちゃんの前に突き出す。所謂グータッチってやつ。こういうの英語だとフィスト・バンプって言うらしいな。昔ダチが教えてくれたっけ。
「へ? ロ、ロケット……パンチ!?」
「なわけねーだろ。知らないか、こういうの。ほら、マネしてみな」
ぼっちちゃんもあたしのマネをして、右拳をこちらに向ける。軽く震えてるけど。
「よし! 明日がんばろうな!」
ぼっちちゃんと拳をコツンと突き合わせる。映画とかで見る感じ、一回やってみたかったんだ。でも、なんか気恥ずかしくなる。あたしからやらせたくせに。あたしはくるっと振り向いて、小走りにライブハウスへ戻る。照れ隠し……かな?
あーもう!あたし最近ちょっとヘンだ。ぼっちちゃんのことを考えると、なんかヘンになるんだ。それがなんでなのかは、よくわかんねーけど。
「結束バンドです。曲はギターと孤独と蒼い惑星。よろしくお願いします!」
「うん。……始めて」
オーディション当日。営業前の、がらんとしたスターリー。オーディションの審査員は姉貴とPAさん。メンバーとアイコンタクトを取ってから、一斉に頷く。
さあ! これが夢への第一歩!
――やってやろう! みんな!
やりたいことリスト
ぼっちに星歌ちゃんと呼ばせる 達成
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