もしもJK星歌ちゃんだったら。   作:三十路スキー

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それ宿題だから④

「あ、ありがとうございました!」

 

 とにかく、ベストは尽くした。今あたしたちのできる最高の演奏だったんじゃないか?特にぼっちちゃんは少しの間だけど、普段と全然違ってた。でもあの旋律どこか聞いたような。でも、それはありえない!

 

 ――まさか、ぼっちちゃんが。

 

 姉貴はずっと真剣な顔を崩さない。PAさんも顔はニコニコしてるけど瞳が笑ってない。まあ、これはいつものことか。で、どうなんだよ? あたしたちの演奏は!

 

「うん。合格、だね。だけど……」

 

「まずドラム。腕に力入りすぎ。ゴリラじゃないんだからさ」

 

「……う……」

 

「緊張しすぎなのよ。メンタル弱すぎ。ドラムのリズムはバンドの大黒柱。わかってる?」

 

「……はい……」

 

「次にベース。自分の世界に入りすぎ。そういうのダサいよ?」

 

「……」

 

「自分の演奏に浸るんじゃなくて、ベースの役目ってものをよく考えなさい」

 

「……ぬう……」

 

「そしてギターボーカルは下向きすぎ。腕動かしすぎ」

 

「……あ……」

 

「手元見すぎてるのがバレバレ。ボーカルはバンドの顔。経験不足とか、お客さんには関係ないの」

 

「……アドバイス、ありがとうございます……」

 

「最後にリードギター。キミも下向きすぎ。手元を見る必要はないはずよね?」

 

「……え、あ……」

 

「サビあたりからの演奏はなかなかよかった。でも本当は最初から出来るんじゃない?お客さんに失礼だよね、そういうの」

 

「……あ、うう……」

 

 涙声のぼっちちゃん。顔はあたしから見えてないけど多分泣きそうなんだろうな。

 

「姉貴!!」

 

「アンタは黙って」

 

「……」

 

 あたしは堪らず割って入ったけど、すぐに黙らされた。うぅ、情けない。今日の姉貴は視線だけで威圧感を感じる。氷のように冷たい声と視線。やっぱり音楽には厳しいんだな。

 そういや、若いころの姉貴はめちゃくちゃ怖かったって、姉貴のバンド仲間だった人に聞いたことがある。こんな姉貴を見たのは正直初めてだ。

 

「そうね、キミはもう少し自信を持ちなさい。そうすればもっと成長できるから」

 

「……は、はい」

 

「いろいろ厳しいことも言ったけど、みんなよく頑張ったね! 来月のライブ、よろしく頼むよ!」

 

 さっきまでとは一転して、満面の笑顔をこちらに向けてくる。

 

『笑顔はキメ顔。自信あんのよ』

 

 なんて言ってたけど、やっぱ姉貴の笑顔には勝てないな。

 

「でも今のキミたちは、辛うじて及第点ぐらいだってことは忘れないこと。ライブ本番まで時間あるんだから、練習あるのみ! だね」

 

 みんなの表情は後ろからだと分からないけど、あたしたち今すげぇニヤけてんだろな。

 

「返事は?」

 

「「「「はい!」」」」

 

 今回はみんな揃ったな。

 

「よかったですね。みなさん」

 

 久々にPAさんの瞳が笑ってる。普段からニコニコ笑顔だけど目だけ笑ってないから結構怖いんだよね、この人。

 

「やったぁ! 後藤さん! やったのよ!!」

 

「のぁ! え!?」

 

 え? いきなりぼっちちゃんに抱き着いてる! 喜多ちゃん! ズルいぞ! あたしもだっこしたい!

 

「ぼっちちゃーん! やったな! あたしも……おぶっ!!」

 

 あたしも、慌ててぼっちちゃんに駆け寄ろうと走り出したら、リョウの手に体を遮られた。

 

「リョウ! てめ、なにすんだ!」

 

「待って、ぼっちの様子が……今は近寄らない方がいい」

 

「すみません喜多さん! 離れて下さ……いおヴぇぇええええ!!!」

 

 げぇ! 後藤ダム決壊……。嘘だろ? このタイミングでリバースかよ! 結構長時間に及ぶ人間マーライオン。これはヤバイ!

 

「後藤さぁん!!!」

 

「なにやってんだぁああああ!!!」

 

「だから言ったろ……」

 

 この状況でなぜかリョウだけ妙に冷静……と思ったけど普通に動揺してるわ。相変わらず顔に出ないよな。

 

「姉貴! この水貰うよ!」

 

 あたしはそう言いながら、姉貴の机にある飲みかけのミネラルウォーターをひったくる。

 

「あ、ちょ! 全くもう。締まらないよね」

 

 姉貴は頭を抱えてる。とりあえず機材に被害はないから許せ!

 

「……それ私のなんですけど。……別にいいですけどね」

 

 PAさんがなんか小声でボヤいてるけど、気にしてる場合じゃない。

 

「ぼっちちゃん。とりあえず、これ飲んで落ち着きなよ。大丈夫だって! 胃腸もびっくりするよな、そりゃ。合格できたんだからさ!」

 

 ぼっちちゃんに駆け寄って水を渡す。胸を張れよ! ……吐しゃ物からは目を逸らしつつ。

 

「ほら、口ゆすいで、これにぺっして。まあ、私は最初から合格だと確信してたけどね。……これは想定外だけど」

 

 リョウがいつの間にかバケツと雑巾を持ってきてくれた。喜多ちゃんがぼっちちゃんの背中を摩ってあげてる。ぼっちちゃんも少し落ち着いてきた。リョウがバケツに水を汲んで、あたしが床を雑巾でてきぱきと掃除する。まさかオーディションに合格して最初にやることが、メンバーの吐しゃ物の処理とはな。先行き不安だぁ……。

 

「す、すみません星歌ちゃん……こんなことさせてしまって。こ、この場で切腹してお詫びを!」

 

「しなくていい! 気にすんなよ、これくらい」

 

 掃除が済んだら最後はみんなで記念撮影。4人揃ってのピースサイン。ぶいっ! 相変わらずぼっちちゃんはぎこちないし、リョウは意地でも鉄面皮だけど……。ライブの告知に使えそうないい感じのが撮れた!

 

「よし! 休憩したら反省会な! みっちりやるぞ!」

 

「はい! 伊地知先輩!」

 

「えええ……」

 

「そこ、イヤそうにすんな!」

 

 ぼっちちゃんは、まだ死んでるし……。さっきの演奏、まぐれだったのか? いや、違う! きっとあれがぼっちちゃんの本気。きっとあの娘なら、ギターヒーローさんにも負けないすげぇギタリストになるぞ!

 

「うふふ……今から楽しみだなぁ……」

 

「星歌、またニヤけてる」

 

「伊地知先輩、最近ちょっとヘンですよね」




おまけ

「店長、なんであんな意地悪を? ホントはあの娘たち出す気だったんですよね?」

「納得しなければ出す気は無かった。私のポリシーに反するから。身内だからこそ厳しく……だね」

「とか言いながら1枠開けてたじゃないですか。そういうのって、シスコンっていうんでしたっけ?」

「なにが悪い」

「え? そんな真顔で……言葉の意味わかってらっしゃいます?」

「シスターコンプレックスでなにが悪い? これが私の愛情表現。文句言うならクビだから」

「は、はぁい」

(転職しようかしら……)

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