「表出ろ! 山田ァ!」
「上等」
「2人とも! ついさっき喧嘩はナシって言ったところじゃないですか!」
オーディションに無事合格し、反省会と流れで軽い練習。……音楽のことは、ちょっとしたことでついヒートアップしちゃうんだよね。
「あ、あの!」
久々にぼっちちゃんが口を開く。
ぐぅ~……。
その時、気の抜けた音がライブハウスに響き渡る。顔を真っ赤にして俯くぼっちちゃん。腹の虫ってやつか。
「……ぼっちちゃん、腹減ったのか?」
「は、はい……」
……喧嘩とかバカバカしくなるくらい見事な腹の虫。
「ごめん星歌。さっきは言い過ぎた」
「いいよ。こっちこそ、ごめんなリョウ」
「なんか急に仲直りしてるー!」
気が付いたら6時過ぎ。ちょうど晩飯時だ。ぼっちちゃんは、オーディション後に胃の中身全部出したからな。腹も減るよな。
「じゃあ飯行くか。近くのファミレスとかどう? オーディションお疲れ様会ってことで」
近所のガスゼリア。最近新しく出来たんだよね。
「はい! 行きましょう!」
「星歌、奢って」
「奢らねぇよ。毎月このあたりで小遣い貰ってるの知ってるからな」
「星歌のいけず……」
「リョウ先輩! 私が奢ります!」
お得意のキターン! でもやらせねぇよ。
「駄目だ! 金のことでリョウの相手まともにしてたら、いくらあっても足りねぇよ!」
「あ、お母さんに食べてくるって連絡しとかないと。あ、み、みんなで外食とか、初めてですね」
「そーいやそうだな。バイトや練習終わりだと時間遅くなるしな。ぼっちちゃんは片道2時間だし」
それに初ライブの後、すぐ帰っちゃったしさ。
「す、すみません! 終電早くてすみません! し、死刑ですか?」
「すぐ死刑って……発想が小学生か!」
「オーディションお疲れ! 乾杯!」
「乾杯ぁい!」
「乾杯」
「か、カンペイ!」
ドリンクバーのジュースで乾杯。近所のファミレスでささやかな打ち上げ。ウチはみんなキャラがバラバラだけど、飯の好みまでみんなバラバラなんだよな。
「はーい! パスタこっちでーす!」
喜多ちゃんはよくわからん名前のカラフルなパスタ。イソスタ映えする限定商品らしい。サラダも添えてバランスが良い。
「キャー! 友達の言ってた通り、これすごい映えるー!」
パシャパシャと写真撮りまくる喜多ちゃん。食うのそっちのけで撮影に夢中。
「写真ばっか撮ってないで早く食え。冷めるぞ」
「はぁい。じゃあお先にいただきますね」
喜多ちゃんは食べる時の作法が綺麗だ。育ちの良さを感じさせる。
「うん。意外と悪くない」
リョウはビーフカレー単品。あいつ昔からカレー好きなんだよね。
「やっぱりビーフが至高。揚げ物乗せるとか邪道」
「この間、うちで姉貴の作ったカツカレー旨そうに食ってたじゃん」
「むむむ……」
「なにがむむむだ」
そしてぼっちちゃんはハンバーグセット。ソースはデミグラス。ご飯は大盛。なんか男子みたいだな。その割には細いよなぼっちちゃん。……ある部分を除いては。
ハンバーグやご飯を、小さなお口で一生懸命頬張る姿が愛おしい。いや愛おしいってなんだよ。1歳しか違わないのに。
「ぼっちちゃん、口の周り汚れてるぞ。ほら、顔こっち向けて」
紙ナプキンでぼっちちゃんの口を拭いてあげる。焦って食べるからだよ。しょうがない奴だ。
「ん……んむぅ……。あ、ありがとうございます」
「もう! 伊地知先輩! 後藤さんを甘やかしすぎですよ! このままじゃ後藤さんダメダメ人間になっちゃいますよ!」
「うるせーな。このぐらいはいいだろ?」
「星歌、私も汚れたから拭いて」
リョウはなんでわざと口の周り汚してんだよ。
「いや、自分で拭けよ。……ああもう! こっちに寄れ」
……ぼっちちゃんに対抗意識燃やしてんのかこいつは。相変わらずよくわからん奴。でも最近ヘンに甘えてくるよな。
ヘンといったら、なんか最近は『ギターヒーローなんかより私を見て』とか言ってギター持ってきて弾きだしたことあったな。ギターヒーローさんに勝てる高校生なんて日本にはいねぇよ。しかもそのギターをなぜかあたしの部屋に置いていく。
持って帰るのめんどくさいってなんだよ。近所じゃねぇか。
「ん……。星歌やさしい」
結局綺麗に拭いてやった。
「こら、ベタつくな。暑苦しい」
「あーん! レアショット! 甘えん坊なリョウ先輩もカワイイ!」
そしてパシャパシャ撮りまくる喜多ちゃん。リョウ狂いにも程があるな。
最後に遅れて来たのは、あたしの唐揚げ定食。普段はドリアとか頼むことが多いんだけど、今日はなんとなくガッツリいきたい。ファミレスはこういう幅広いメニューがいいんだよね。
うーん。小さめだけど、唐揚げが6個もある。小食なあたしにはちょっと食べきれないかも。だから……。
「ぼっちちゃん、唐揚げ1個あげる。頑張ったご褒美。ほら、口開けて。あーんして」
「あ、大丈夫です」
遠慮するぼっちちゃんもかわいい。奥ゆかしいな。
「遠慮すんなよ」
唐揚げを箸で掴んで、熱いのをフーフー冷ましてからぼっちちゃんの前に持っていく。左手は添えるだけ。唐揚げの誘惑に抗えないのか、ぼっちちゃんはそのままパクッといく。
「うまいか?ぼっちちゃん」
「あ、おいしいです」
おいしそうに食べるぼっちちゃんは、とってもかわいい。唐揚げ頼んだの、実は確信犯なんだよね。ぼっちちゃん唐揚げ好きって言ってたから。
「星歌、私にもちょうだい」
「お前は先に金返せ」
借金は忘れてやらないからな。
「ケチ」
「リョウ先輩は私のを召し上がれ!」
こんな感じでバカやったり、いろいろ普段しないような話をした。最近は練習とバイトばっかりで暫くはゆっくり出来なかったしな。ライブのことやチケットノルマは一旦忘れよう。どうせ明日以降向き合っていくことなんだし。
バンドとして皆で頑張って夢を追うことも大切だけど、みんなとの思い出もいっぱい作りたい。『夢を叶えていく過程を楽しむことが大事』って姉貴も言ってたし。あたしは欲張りなんだ。
リョウと2人の帰り道。テキトーに喋りながら帰る。いつもは不愛想なくせに、今日は妙に明るいな。
「前居たバンドの人からロインあったんだ。3人で会えないかって」
「……会うのか?」
「うん。ちゃんとけじめは付けたいかな。どうなるか分からないけど」
「そっか」
「ヨリを戻したいって話なら断るから安心して」
「なんだよそれ。恋人じゃあるまいし」
「私は、結束バンドでやりたいから」
「リョウ……」
「だからお金貸して。実はもうお金ない。食事ぐらいはするっぽいし。お願い」
うるうると瞳を潤ませながら頼み込んでくるリョウ。……しょうがねぇな。
「ほら。来月のバイト代から強制返済な」
財布の中から野口を何枚か渡す。高校生には大金だぞ! ああ、シフト増やせないかな……。あいつが金が無いのはどうせ無駄遣いやツケだろう。
でも大事なところでダチに恥かかせるわけにはいかないし。
「そんなご無体な!」
「当たり前だろ! 貸してもらえるだけ有難いと思え」
幼馴染のアプローチには鈍感なツチノコ女子。
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