もしもJK星歌ちゃんだったら。   作:三十路スキー

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仲間ってなんだろうな③

 気がつけばライブ本番まであと9日。今日は4人で合わせ練習の日。セトリも決まってるし、後は本番まで練習あるのみ!

 1曲目に演奏する『ギターと孤独と蒼い惑星』はかなり良くなってきた。特にぼっちちゃんの演奏が絶好調だ。3曲目は有名曲のカバーにする。5月のライブでもやってるけど、確実にクオリティは上がってる。リョウのアレンジもカッコイイ!

 で、2曲目予定の『あのバンド』については作曲大臣が苦戦中。

 

『ぼっちが作った歌詞に合わせて曲作ってみるよ』

 

 とか言ってたけど、なかなか難産みたいだ。歌詞はぼっちちゃんが早めに仕上げてくれた。ビリビリした緊張感が伝わるいい歌詞だ。そういや、リョウが前のバンドを辞めた話に影響されたって言ってたな。

 

 チケットについても一応ノルマは達成……のはず。でもぼっちちゃん、やっぱ嘘ついてるよな。曰く『酔っ払いのすごいベーシストのお姉さんと路上ライブしてノルマ捌けました!』だって。

 名前も知らないお姉さんとか、ファン1号2号とか……小学生でも、もっとマシな嘘つくよ。リョウも言ってたけどその場しのぎの嘘は良くない。今日は心を鬼にしてぼっちちゃんを叱るつもりが、結局3人一緒に優しく迎えてしまった。チケットを本当に売ったのかは聞けずじまいだ。

 

『ノルマは私がなんとかするから、後藤さんは演奏に専念して!』

 

 なんて喜多ちゃんは言ってたけど、それじゃダメだ。そういうことの積み重ねがバンドに不和を生じさせるんだ。出来る限りは自分でやらないと。最悪、嘘だったときはあたしとぼっちちゃんの2人で下北沢中走り回ってでも、手売りする覚悟だ。

 ぼっちちゃんはいっぱいかわいいし、たまにカッコイイ。でも直してほしいところも沢山ある。特にありもしないことを見栄張って言ってみたり、できもしないことをムリしてやろうとするところ。そういうぼっちちゃん、あたしは嫌いだな。

 

『大丈夫。ぼっちちゃん、大丈夫だから』

 

 なんて言いながら、ぼっちちゃんの頭を撫でてたら1日が終わってしまった。練習は少し早めに切り上げた。ぼっちちゃんに厳しくするなんて、あたしにはできないよ。……どうすりゃいいんだろ?

 

 

 

 

 

 練習の後、姉貴に買い出しを頼まれた帰り道、ふと公園に立ち寄る。ここはぼっちちゃんと出会った公園か。

 

『あぁ! それギター! なあ! 弾けるんだよな! な!』

 

 切羽詰まったあたしは、でっかいギターケースとピンクジャージの女を見つけて話しかけたんだよな。それがぼっちちゃんとの出会い。ロクに返事も聞かずにグイグイと手を引いてライブハウスに連れてったっけ。

 それにしても暑い。エコバッグから水を取り出してちびりと飲む。やっぱこの水、ペットボトルがベコベコするな。ゴミ出しするときに捨てやすいからって理由で買ってるけどさ。割れて中身が出てこないか、たまに不安になるのあたしだけ?

 

「あれ? 先輩! 先輩じゃないですかー!」

 

 道の方から誰かこっちに走ってくる! 急にギターケースを背負った知らない女が抱き着いてきた! つーか酒臭ぇな!!

 

「なんなんですか! アンタ!」

 

 酒臭いし汗臭い。おまけにゲロ臭い! お下げ髪のスカジャン女が貧相な体をグイグイ押し付けてくる。顔は意外と美人なのに、なにもかも台無しだ。

 

「先輩好きぃ! チューしましょ! チュー!」

 

「やめてください!」

 

 ほっぺたに臭い口を押し当ててくる。くそ、なかなか離れねぇ!

 

「マジやめろ! 警察呼ぶぞ!」

 

 力いっぱいヤベー女を押しのける。

 

「えー先輩つれないなー! ほらームチュウー!」

 

 げ! 次は唇を狙ってくる!? ええい、正当防衛だ! 酔いどれ女にヘッドロックを極める! ……こんなやつにあたしの『初めて』を奪われてたまるか!

 

「ぐえー! やめれー! つーか! 背丈デカ! ……先輩はもっとチビっ子だよなぁ」

 

 つーか、さっきからセンパイセンパイって誰のことだ?

 

「ぬーん……しかも若いよねぇ。いま先輩30ぐらいのはずだから。もしかして……君、伊地知先輩の妹ちゃん?」

 

 あ、思い出した。姉貴の後輩で同じハコの仲間だった人だ。それで先輩って言ってたのか。ガキの頃、何回か会ったことがある。名前は確か……。

 

「……お久しぶりです。廣瀬さん」

 

「ズコー! 廣瀬じゃないよ廣井だよ! 天才ベーシスト廣井きくりだよー!」

 

 自分でズコーって言いながら盛大にコケる人初めて見た。

 

「伊地知星歌です。妹ちゃんなんて名前じゃありません」

 

 あたしは少し憮然として訂正する。

 

「お、言うじゃん。ごめんごめん。以後気を付けるよー妹ちゃん!」

 

 聞いてねぇな、この酔っぱらい。

 

 

 

 

 

「よっこいしょーいちっ!」

 

 2人で公園のベンチに座る。廣井さんは酷い酩酊状態。表情筋がだらしなく緩み切ったみたいな笑顔だ。

 

「いやはや、あのナマイキちゃんがデカくなったねー! でもキミ、ホント昔の先輩にそっくりだよ。ギラついた雰囲気とかさ」

 

 ボロボロの歯を見せながらケラケラと笑うヨッパライ。あたしの肩、遠慮なくバンバン叩いてきやがる。

 

「い、いきなりキスしようとするとか、あ、姉貴とそんな爛れた関係だったんすか!?」

 

「いや全然。そういうシュミはないよ」

 

「じゃあさっきのは?」

 

「その場のノリー! がはは!!」

 

 と言うと『おにころ』と書いた紙パックにストローを刺して飲む。うわ、公園で酒かよ。

 

「昔お会いした時はもっと落ち着いた人でしたよね?」

 

 できるだけオブラートに包んだ言い方。ホントはいつも陰気なムードの人って感じだけど。少なくとも、こんな酔っぱらいじゃなかった。

 

「そーかな? オトナはさ、飲まないとやってられないのよ」

 

 そういうとまたパックの酒をちゅーと飲む。姉貴も似たようなこと言ってたけど、こんなとこでは飲まんぞ。

 

「かぁー! これぞ幸せスパイラル! マネしていいよ!」

 

「いや、しませんけど」

 

 いびつな幸せもあったもんだ。しっかし、臭い息だな!

 

「あ、その水一口ちょうだい?」

 

「え? あ……」

 

 こっちが返事をする間もなく、椅子に置いた飲みかけのペットボトルを取り上げる。口を付けると、そのままゴクゴクと飲み干してしまった。

 

「あぁー。乾いた喉に水が染みるねぇ。おっと、ごめんねぇ? 全部飲んじゃったわ」

 

「はあ……」

 

 この野郎、全部飲みやがった。あ! また思い出した。確かこの人、リョウが最近やたら推してるバンドのリーダーだっけ?インディーズだけど、かなり人気あるはず。滅茶苦茶な変調子を叩きまくるドラムのスゴさと、ベースボーカルが珍しいから覚えてる。確か、『しくはっく』だとかそんな名前だったはず。

 

「そうだ、廣井さん。よかったら写真撮らせてもらっていいですか? えーと、友達がシクハック? のファンなんです!」

 

「あー? キミー私のファンなのー? いいよー! ツーショット撮ろうよ。ほら、水のお礼だねー!」

 

 あたしはそんなにファンじゃないけど。そう思いながら、廣井さんと肩を組む。スマホをこっちに向けてパシャリ! 廣井さんがアップに、あたしはぎこちない笑顔で隅に写る。リョウに次会ったとき自慢してやるか。きっと驚くぞ。

 

「でさ、妹ちゃんに聞きたいんだけど。スターリーってこの辺だったよね?道分からなくなっちゃってさー」

 

 と、言いながら廣井さんは、ピラピラとなんかの紙を見せてくる。これって! あたしたちがあたしたちが出るライブのチケットじゃん! でも……。

 

「ライブの日、間違えてますよ」

 

「へぇ? マジかー!」

 

 ……ライブはまだ少し先だ。




星歌ちゃん(16)VS廣井さん(25)
『廣瀬』は掲載誌での誤植から

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