もしもJK星歌ちゃんだったら。   作:三十路スキー

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ココロの距離①

 今日でライブ本番まであと8日。本番まで時間無いし、今日も合わせ練習したいと思ったけど、喜多ちゃんは外せない予定あり。リョウも曲を仕上げるみたい。結局あたしとぼっちちゃんの2人練習になった。バイトはよく一緒になるけど、練習だと意外とレアな組み合わせ。

 

「あのさ、昨日はごめん! あたし、ぼっちちゃんのことずっと疑ってた!」

 

「え、き、急にどうしたんですか!?」

 

 スタジオに入っていきなりの謝罪。昨日のことを謝らないと。あたしはぼっちちゃんに思い切り頭を下げる。

 

「ぼっちちゃんがしてたチケット売った路上ライブの話さ、正直嘘だと思ってたんだ」

 

「え? あ、なんかみんなやさしかったのって、やっぱり……」

 

「うん、多分そう……」

 

 リョウと喜多ちゃんがどう思ってたかは分からないけど、多分信じてないよな。

 

「昨日ぼっちちゃんが言ってたベーシストのお姉さんって人に会ったんだよ。この人だろ?」

 

 スマホで廣井さんと撮った写真をぼっちちゃんに見せる。

 

「あ、この人! お姉さんです!」

 

「この人、廣井さんって言うんだけど、ぼっちちゃんのことすごく気に入ってた」

 

「あ、そうなんですね。えへへ……嬉しい」

 

「で、あたし廣井さんに説教されてさ……。それはいいんだけど。あたしのほうがぼっちちゃんをいっぱい知ってるはずなのに、実際は全然知らないんだって。なんか自分が情けなくなってさ。……グス。あれ? ヘンだろ? グスッ……ズズッ」

 

 え、なんでちょっと泣いてんだろあたし。鼻まで啜って。泣くようなことなんて何も無いのに。大げさすぎるよな。でも……。

 

「泣かないで……」

 

「え?」

 

 ぼっちちゃんが背伸びして、あたしの頭を撫でてる。

 

「大丈夫です、星歌ちゃん。大丈夫ですから」

 

 ……母さん。

 

 ぼっちちゃんが普段しないような、柔らかな笑顔。なんかガキの頃に死んだ母親のことを思い出してしまった。顔も声も全然似ていないのに、なんでだろう……。

 って! なんで後輩に甘やかされて母親を思い出してるんだ!マザコンかよあたしは!? 母さんのことは自分なりに割り切って、前に進むと決めたはずなのに。

 

「え? おま! なにしてんだ!?」

 

「あ! と、とんでもないご無礼を!! 無意識にやってしまいました!」

 

「い、いや……謝らなくていいけど」

 

 なんであたしガキみたいに泣いて、あやされてんだ。あの娘より年上なのにさ。気弱で泣き虫でクソめんどいのはあたしの方だ……。

 

「妹が泣いてるとき、頭を撫でてあげるんです。なんか、えっと、せ、星歌ちゃんが泣いてるから、ほっとけなくて、つい!」

 

「そ、そうか」

 

「そ、それで、その」

 

「わかった! わかったから! ……とりあえず2人で音合わせてみるか」

 

 スタジオに入ったんだから、練習しないと。

 

「あ、はい」

 

「じゃ、いくぞ」

 

 

 

 

 

 え!? この音! 弾き方の癖……。まさかギターヒーローさん? いやあり得ない。似てるだけ、きっと似てるだけだよな。ぼっちちゃんは最初に比べてかなり合わせるの上手くなった。でも、動画のあの人にはまだまだ遠く及ばない。

 それにギターヒーローの正体がぼっちちゃんでした! なんてのは、都合が良すぎる。漫画じゃあるまいし……。仮にそうだとして、なんで隠す必要あんだよ?

 

「ぼっちちゃん、かなり上手くなったな。見違えたよ。あの時はド下手だなんて言ってごめん」

 

「え、えへへ……。じゃ、じゃあ!うまく弾けたご褒美に頭撫でてください……」

 

「へ!?」

 

「き、昨日星歌ちゃんに……頭を撫でられた時、とても落ち着きました」

 

「そ、そうか」

 

「だ、だから、今日もや、やってもらえると、うれしいです……」

 

 ずるいよな、ぼっちちゃんは。意外とそういうのストレートに言えるから。

 

「わかった。少し寄って」

 

 ぼっちちゃんの頭にやさしく手を乗せて、ゆっくりと撫でる。

 

「い、痛くないか?」

 

 やさしく出来てるかな?

 

「は、はい。大丈夫です」

 

 2度3度とゆっくりと撫でてやる。ぼっちちゃんはとても幸せそうな顔をする。今にもとろけてしまいそうだ。

 

「もういいか?そろそろ練習しないと」

 

「あ、はい。お、お願い聞いてくれて、ありがとうございます。こういう感じちょっと憧れてたんです。へへ……」

 

「そ、そか。そりゃよかった」

 

 

 

 

 

 今日のスターリーはBAR営業の日。うちみたいな弱小ライブハウスは毎日ライブができるわけじゃないんで、定休日以外の空いてる日はロックなムードの飲み屋として営業してるってわけ。もちろんあたしたちガキはお呼びじゃないからバイトは無し。姉貴がマスター。PAさんたちも接客するからちょっとしたガールズバーみたいになってるらしい。もちろんセクハラお触りダメ絶対!

 

「それでさ、リョウの奴ったら……」

 

「へ、へぇ」

 

「おーい! 2人とも! こっち注目!」

 

 テキトーにぼっちちゃんとダベってると、姉貴がこっちにやってくる。

 

「ねぇ!これ見て。どーかな?」

 

 姉貴はスターリーのロゴが入ったエプロンをつけている。黒い生地に白一色のシンプルなロゴ。

 

「姉貴、それどうしたんだ?」

 

「接客スタッフの制服。オーダーで作ったんだよ。今度からキミたちにも着てもらうからね」

 

「あ、なんかかっこいいですね」

 

「お、ぼっちちゃん気に入った? ライブハウスはスタッフの雰囲気も大事だからね」

 

「でもちょっと地味だよな」

 

「地味ってなによ。明るく楽しく健全なライブハウスがうちのモットーなの!」

 

 うーん。ここのちょっとダークな雰囲気があたしは気に入ってるんだけど。マジに危険なのは流石に困るか。

 

「そういや姉貴。これどこで作ったんだ?」

 

「ああ、これだね。ここらはこういうお店そこそこあるよ」

 

 姉貴がスマホの画面をこっちに見せる。

 

『オーダーメイド印刷ならシモキタプリント! Tシャツ1枚1000円から! 最短翌日お渡しもOK!』

 

「へぇ……Tシャツとかもできるんだ」

 

 バンドでお揃いのTシャツってのも、ベタだけど悪くないな。ちょっとやってみたい。

 

 

 

 

 

 時間は正午過ぎ。そろそろ昼飯の時間か。

 

「ぼっちちゃん。昼飯は今日も弁当か?」

 

「あ、はい」

 

 夏休み中は練習の前後にスターリーのテーブルで昼飯を食べることが多くなった。バンドメンバーでそれぞれ弁当とかお菓子なんか持ち寄って、おしゃべりしながら食べるんだ。長期休暇ならではの楽しみかな?

 あたしたちはバイトあるから、ここで放課後のティータイムってのも難しいしな。誰かさん(ヤマダ)は金欠の時は草とか持ってきやがるから、結局食べ物を恵むハメになるけど。

 

「よかったら今日は外で弁当食べないか?」

 

「え、でもお弁当食べられるようなところ、ご、ご存じなんですか?」

 

「気分転換にな。いいところ知ってるんだ。静かなとこだし、ぼっちちゃんも気に入ると思う」

 

「わ、わかりました」

 

「よし! じゃあ行こうか」

 

 2人でスターリーを出て、とっておきの場所に出かける。




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