もしもJK星歌ちゃんだったら。   作:三十路スキー

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突撃! 君の家①

「うーん……」

 

 寝苦しさで目を覚ます。なんだか暑苦しいな。

 

「ん、おはよう、星歌」

 

 鼻息の当たる距離に見慣れた顔が!? 危うく唇が当たりそうになる。

 

「ぬお! なんだリョウか。脅かすなよ」

 

 悔しいけど、顔良いよな。ちょっとドキドキする。

 

「別に脅かしてない」 

 

「人の顔がそんな至近距離にあったらびっくりすんだよ!」

 

 ああ、そうだった。昨日久々にリョウが泊りに来たんだ。飯をたかりに来るのはしょっちゅうだけど、泊まっていくのは久々だ。『明日起きる自信無いから泊めて』ってすげぇ理由だな。リョウと一緒の布団で寝るとかガキの頃以来か。あの時あたしたちはまだ実家に居たな。

 リョウは、母さんが死んでから荒んでいたあたしに毎日話しかけてくれたんだ。あの頃のあたしは、典型的な問題児だった。周りのみんなを突き放して、傷つけた。あの頃『ぼっち』だったあたしに構ってくれたのはリョウだけ。感謝してる。

 ダメなところも沢山あるけど、それ以上にいいところも沢山あるってあたし知ってるよ。一番のダチだから。

 

 

 

 

 

 今日は金沢八景にあるぼっちちゃんの家に3人で行くことになった。バンドTのデザインをみんなで考えるためだ。下北沢駅で待ち合わせ。片道2時間掛けて遠路はるばるあの娘に会いに行く。

 

「喜多ちゃん、ダチの家に行くのにその土産は大袈裟すぎないか?」

 

「やっぱり伊地知先輩もそう思われますか? これ親に持たされたものなんですよ。失礼のないようにって。うちの親、特に母が結構礼儀とかうるさい人なんですよね。あ、お土産選んだのは父です。あの人私以上にミーハーなんですよねー」

 

「へぇ、そうなのか」

 

 つーか喜多ちゃんよりミーハーなお父さんとか相当だな。

 

「そんなことより、今日の伊地知先輩すっごくかわいいじゃないですか!」

 

「い、いやそんなことは……こ、この恰好はあくまで失礼のないようにだ!」

 

 姉貴曰く『白いカットソーにベレー帽で清楚さアピール』らしい。普段しないサイドテールを結んで、髪留めに大きな赤いリボンも付けてる。そしてこのキュロットスカートだ。スカートなんて制服以外で履かないから違和感スゴい。

 

「メイクもばっちりされてますし、普段と全然印象変わりましたね!」

 

 これも姉貴にやり方教わったんだ。『今出来る最高の自分を見せることは、ステージに立つ者の義務』だそうだ。

 

「私も似合ってると思うよ」

 

 続けてリョウが言う。

 

「つーかリョウが素直に来るとは思わなかったぞ。おばあちゃんの峠が10回目だかになると思ったけど……」

 

「まあ、バンドのことだし流石にサボらないよ。電車で2時間とかクソだるいけど。でもなんでスターリーじゃなくてぼっちの家なの?」

 

「気分転換も兼ねてだよ。ここんとこ毎日練習だったし、今日は一日練習は休んで、バンドTを作る。バラバラの服装じゃ駄目。統一感を持たせるのがバンドのイメージ作りに大切なんだ。決して遊びに行くわけじゃないぞ」

 

 姉貴に『まるで結束感ないね』とか言われたくないし。

 

「ホントはぼっちの家に行きたいだけでしょ?バレバレだよ」

 

「う、うるせぇな。いいだろ別に」

 

 ……図星だ。

 

「まあまあリョウ先輩。いいじゃないですか! 私も後藤さんの家、気になってましたし!」

 

「あくまでバンドのためだぞ喜多ちゃん。もうライブまで日にち無いから、今日明日ぐらいにはデザイン決めないと間に合わないしな」

 

「昼前には着くと思いますから、少しぐらいは遊びましょうよ! 伊地知先輩!」

 

「まあ、それもそうか。ぼっちちゃんとも楽しく遊びたいし」

 

 そういやぼっちちゃんは人を家に招くのは初めてらしいし、おもてなしとかがんばっちゃうんだろうな。今日が楽しい思い出になるといいな。

 

「ごめん、着いたら起こして」

 

 ってリョウ! いきなり寝る奴があるか! 昨日十分寝たくせに。

 

「おいこら! あたしの肩は枕じゃねぇぞ! ……しょーがねーな」

 

 あたしの肩にもたれ掛って熟睡してやがる。

 

「あはは……でもこんなリョウ先輩もかわいい!」

 

 

 

 

 

「あじぃー。もう帰りたい」

 

 リョウはさっきから文句ばかりだ。今日は真夏らしい天気で最高気温もクソ高い。

 

「ガマンしろリョウ。もうすぐ着くから」

 

 さすがに、あたしもヘタりそうだわ……。

 

「うえぇ……」

 

 リョウはさっき飲み干した『いろみず』のペットボトルをベコベコさせてる。

 

「あと少しです! がんばりましょう! リョウ先輩! 伊地知先輩!」

 

 今日も、喜多ちゃんは元気だな。

 

「喜多ちゃん、道案内ありがとな」

 

「いえいえ、私こういうの慣れてますから!」

 

「さすが、郁代。褒めて遣わす」

 

 唐突に喜多ちゃんの頭を撫でるリョウ。

 

「きゃーん! リョウ先輩ー! あ、セット乱れるんで撫でる時は右から流す様にお願いします。あとそろそろ名前呼び止めてください。いくらリョウ先輩でもこれは譲れません」

 

「いいじゃん郁代」

 

「むぅー!」

 

 可愛くムクれる喜多ちゃん。あざとくもかわいい。しかし、言うようになったな。単なる『ファン』から『バンド仲間』になった証拠かな。

 

「地図アプリだと……ここですね!」

 

 相変わらず切り替えが早いな。この辺は似たような家ばかりだからアプリの存在は助かるな。さて、ぼっちちゃんの家はどんなのかな? ふと見上げると……。

 

『歓迎! 結束バンド御一行様』

 

「勘弁してくれよ……」

 

「……後藤さんの家って、旅館でしたっけ?」

 

「じゃ、私はこれで」

 

 何この巨大な垂れ幕。あたしは頭を抱えた。喜多ちゃんは固まってる。帰ろうとするな山田。




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