ピンポーン♪
「は、は、はい!」
ぼっちちゃんの声だ。今日は普段以上に緊張してるな。
「来たよ」
「こんにちは後藤さん!」
「もてなせ」
三者三様にインターホンから話しかける。
「あああ……い、今開けます」
玄関のドアが開く。さあ、君の家に突撃だ!
「あ、本日はお日柄もよく……」
玄関を開けると、いつもと違うぼっちちゃんが立っていた。こ、これは……乙女だ。シンプルだけど爽やかな衣装がぼっちちゃんのルックスを引き立てる。普段のピンクジャージとは大違いだ。
「今日の後藤さん、かわいいー!」
「あ、あ、写真はちょっと……」
ここぞとばかりに写真を撮りまくる喜多ちゃん。やっぱ素材がいいよな。羨ましい。
「そうだよ。ぼっちちゃんはかわいいんだ!」
私の見込んだ通りだ。ヘンなジャージじゃなきゃ絶対かわいい。
「普段の奇行で忘れるところでしたね!」
何気に失礼なことを言う喜多ちゃん。でもその通りとしか言いようがない。
「ぼっちはダイヤの原石だったのかー」
目が『銭』になってるぞ、山田。
「うう……やっぱり、は、恥ずかしいです。私の趣味に合わない服ですし」
「ぼっちちゃん、その服どうしたんだ?」
「あ、お母さんにムリヤリ着せられました。おもてなしにふさわしい恰好をしなさいって。ぜ、全然似合ってませんよね?……お目汚しすみません」
「何言ってんだよ、すげー似合ってるぞ!」
「あうう……私なんかじゃみなさんみたいに可愛くないですし……やっぱり死刑じゃ……」
廊下にどんよりとぼっち節がこだまする……。
「そんなことないよ後藤さん。もっと自信持って!」
「うう、星歌ちゃんと喜多さんの優しさが染みる……」
おいおい、ぼっちちゃん軽く泣き出したぞ。
「ぼっち、ビジュアル路線で売り出そう。収益の分配は9:1で。もちろん私が9ね」
「リョウ先輩、悪女でステキ!」
「むむむむ無理ですって!」
「山田ぁ!」
「いてぇ!」
とりあえずリョウをシバいとく。
「こ、こちらへ……どぞー」
ぼっちちゃんの案内で廊下を進んでいく。
「お邪魔しまーす」
「邪魔するなら帰ってー」
「お前が言うな!」
さっきまでへばってたのにすぐこれだ。
「これお土産。ご家族で召し上がってね」
「あ、ありがとうございます……」
喜多ちゃんが持ってきたオシャレ全開のおみやげ。ぼっちちゃん圧倒されてる。
「エアコンいれろー」
今日のお前はそればっかりだな、リョウ。あたしも涼みたいけど。
「じ、じゃあ、飲み物持って来ますので、楽にしててください……」
「ああ、ありがとな」
2階にあるぼっちちゃんの部屋に通された。用意された座布団の上にそれぞれ腰掛ける。
「しかし、小奇麗だけど物が無い部屋だな」
掃除の行き届いた和室。あまり生活感が無くて、正直殺風景に感じる。目立つものといえば壁に貼ってあるデカい結束バンドのアー写。ポスターみたいにしてなんか微笑ましいな。
「ギターもエフェクターも何もありませんね。私勝手にもっとロックな部屋かと思ってました」
「それあたしも」
うーん。この部屋どこかで見たことあるような、無いような。つーかギターヒーローさんが普段撮影してる部屋に似てるかも。流石に違うか。こんな部屋似たようなのいくらでもあるし。いくらファンだからって意識しすぎか、あたし。
「この部屋……いや、まさかな」
「さっきからどしたリョウ」
「別に」
なぜか露骨に機嫌が悪くなるリョウ。まるでギターヒーローさんの話を振ったときみたいだ。いちいちヘソを曲げられても面倒だから、最近はリョウの前ではできるだけギターヒーローさんの話はしないようにしてる。
「あれ見てよ。やっぱりぼっちはロックな奴だぜ」
何かを見つけてドヤるリョウ。
「げ、盛り塩によくわからんお札!」
「あれは、ろっく?」
「ろ、ロックしてるねぇ」
「今度は剥がれたアー写の裏から大量のお札が!」
もう勘弁してよ!
「それね、この間お姉ちゃんがオバケにとりつかれたから貼ってあるんだ」
「へ?」
「あとね、沢山飾り付けとかも用意してたんだけど、お母さんにチカチカするからやめなさいって言われてやめたんだー」
「もしかして、後藤さんの妹?」
急に出て来た女の子と柴犬。
「はじめまして! 後藤ふたり5歳です! 犬はジミヘン」
「わふーん!」
この娘が前にぼっちちゃんから聞いた妹か。ぼっちちゃん曰く『生意気でわがまま』らしいけど、見た感じはとてもかわいらしい。明るいミニぼっちちゃんって感じだ。犬もかわいい。
「ちゃんと挨拶できて偉いね」
「よろしくね。ふたりちゃん」
「よよよ、よろしくななな、ちびっ子」
なぜかリョウが小刻みに震えてる。
「わおーん!」
「犬、イヌ、いぬぅー! ひいいい!」
「お、おい! どうしたリョウ!」
げ、リョウが怯えだしたぞ! 頭を抱えてガクガク震えてる。
「お、お飲み物……ドゾー」
いつの間にか戻ってたぼっちちゃん。一旦机に麦茶を置く。
「お、悪いなぼっちちゃん」
「わんわん!」
「うわー! 来ないでよぉ!」
おお!犬がリョウに向かって飛びつく!
「あ、ジミヘン! 駄目だよ!」
ぼっちちゃんが犬に飛びついて抱える。
「ふう。ジミヘン、やめようね。嫌がってる人に飛びつくのは『めっ!』だよ」
「くぅーん……」
おお! 今日のぼっちちゃん後光がさして見えるぞ!
「リョウ先輩! 大丈夫ですか?」
すかさず喜多ちゃんが駆け寄る。
「ビビビ、ビビってないし」
「お前、まだ犬ダメだったのかよ?」
「え、そ、それはどういう?」
ぼっちちゃんも気になるか。
「リョウの奴、ガキの頃丁度このくらいの犬にいろいろちょっかい出して噛まれたことあんだよ。ケツをガブっとな」
「ええ! リョウ先輩かわいそう!」
「奴らは獣だ、恐ろしい」
「自業自得だよお前は」
「み、見るだけなら大丈夫なんだけどな」
あと、犬飼ってるフリとかは得意なんだよな。なぜか知らないけど。
「弱ってるリョウ先輩なんか新鮮です。ちょっとゾクゾクする……」
「ううう……」
写真を撮らないであげるのはせめてもの情けか。
「ふたりがここにいるってことは、お母さんたち、もう買い物終わったの?」
「うん。お母さんが、お昼ご飯もうすぐできるって。『みんなも食べていってね』って言ってたよ」
「ゴチになります!」
飯と聞いてすぐ元気になるリョウ。山田さぁ……。
「ありがとうふたり。冷凍庫のアイス、私の分も食べていいからね」
あたしたちの前では見せたことのない綺麗な笑顔。キラキラ輝いて見える。でもなんか違和感がある。
「う、うん。ありがと」
なんかふたりちゃん、ちょっと動揺してるような?
「私もお昼の準備手伝ってきますので、ごゆるりとなさいませ。ではごきげんよう」
ぼっちちゃんはにこやかな表情でスカートを摘んで綺麗にお辞儀をする。そしてジミヘンを抱えたふたりちゃんと一緒に部屋を出て行った。
「後藤さん、なんか雰囲気違いましたね」
まるで深窓の令嬢を思わせるような雰囲気。美しくも儚い雰囲気を漂わせていた。
「綺麗なぼっち」
いやいや、国民的なガキ大将じゃあるまいし。
「うーん。なんか違和感あるぞ……」
さっきのぼっちちゃん、よく見ると前髪が乱れておでこが出ていた。さっき犬に飛びついたせいで髪型が崩れたからか。
違和感の正体はこれか! まさか性格が変わるとは。ぼっち胞子? そんなものは無い。メルヘンやファンタジーじゃあるまいし。
でも、あたしはいつものぼっちちゃんが好きかな。
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