「でーきた! 上手く行ったわ!」
喜多ちゃんがぼっちちゃんに手鏡を渡す。あたしも横から見る。薄化粧がぼっちちゃんの良さを引き立ててる。
「こ、これが……私?」
ぼっちちゃん、ベタなリアクションだな。
「きゃー! すごくカワイイわ、後藤さん!」
「見違えたよ、ぼっち。カネになるぞこのビジュアルは」
喜多ちゃんもリョウも驚いた様子だ。山田は一言余計だけど。
「……」
あたしは言葉が見つからない。
「星歌ちゃん、どう……ですか?」
「いいじゃん。似合ってるよ、ぼっちちゃん」
綺麗だ。紅い唇、雪のような肌、艶やかな髪。どんな美辞麗句を尽くしても足りない。
「あ、ありがとうございます。うへへへ……」
「うわ、台無しだ」
「今度一緒に笑顔の練習しましょうね……」
リョウも喜多ちゃんも呆れてるな。笑顔はこれでもマシになった方なんだよ。あたしは一緒に接客してるから分かる。それにしてもさっきのはひどかったけど。
さっきまで寂しかった楽屋も賑やかになってきた。スタッフさんや他の出演バンドに挨拶したりしてるとあっという間に時間が過ぎていく。
「楽屋行っていいのー? 先輩しゅきー!」
「やめて! 抱き着かないの!」
「いいんですか? 私たちまで」
「キミたちー遠慮すんなってー!」
「この酔っ払いのことは気にしないでね。あの娘もライブ前で緊張してるだろうから会ってあげて。きっと喜ぶよ」
なんか入り口前が騒がしいな。
「ぼっちちゃん、キミにお客さんだよ」
姉貴が楽屋の扉を開く。ぼっちちゃんに客? 3人の女性が楽屋に入って来た。
「いえーい! ぼっちちゃーん! 来たよー!」
「お、お姉さん! 来てくれたんですね」
見覚えあるお下げにスカジャンの女性。下駄を鳴らして美人を台無しにする酒臭さを振り撒きながらやってきた。間違いようがない、廣井さんだ。ぼっちちゃんと路上ライブしたという野良ベーシスト。この前公園で話した一本筋の通った酒クズベーシスト。
……ちゃんと来てくれたんだな。
「あったりまえよー! おにころ5本分以上のライブ期待してんだからねー!」
結局酒基準かよ。
「あ、あの、お知り合いなんですか?」
「うん、私の後輩。昔はこんなんじゃなかったんだけどなー」
「そうだよー! 先輩かわいーから好きー!」
「だから抱き着くなって! 酒臭い!」
うぷ。狭い楽屋に酒の匂いが充満して臭うこと臭うこと。
「私たちもいるよ!」
「ひとりちゃん!」
パッと見大学生ぐらいの女の人たちだ。二人ともオシャレで美人さんだ。
「あ、路上ライブの……来てくれたんですね」
「もちろん! 私たちひとりちゃんのファンだし!」
「台風を吹き飛ばしちゃうようなライブ期待してますね!」
この人たちが噂のファン1号2号さんか。路上ライブでチケット買ってくれたっていう。
「今日は一段とかわいいね、ひとりちゃん!」
「前のジャージ姿とは大違いですね。お揃いのシャツも似合ってますよ!」
「私のファン……私のファン! うおおおおおお!!!」
やべー! 暴走ぼっちちゃんだ! なんか妙なオーラを放ちだした!
「お、お邪魔しましたー!」
「が、がんばってー!」
ファンの二人が楽屋から足早に去っていく。
「ああ、帰らないで―! ステージ最前列へどうぞー!」
姉貴が慌てて声をかける。
「あーそれにしても……」
「どうしました? お姉さん」
「みみみ、見違え……ましたね。ご、後藤さん。あ、やべぇ酔いが完全に醒める」
急にダラダラと汗をかきだす廣井さん。どうしたんだ? どこからかパック酒を取り出してストローを刺して大急ぎで飲み始めた。
「飲食物の持ち込みはご遠慮願いまーす!」
「ちょっとー! 意地悪しないでくださいよー!」
すかさずパック酒を取り上げる姉貴。
「全くもう。邪魔になるからあっちいけー」
酔っ払いが姉貴に耳を掴まれてる。
「がんばれーケッセキバンドー!」
廣井さんと目が合った。あたしにウインクしてきた。見せてあげます、結束バンドはぼっちちゃんだけじゃないってところ。4人でとっておきの音を聴かせてみせますから!
「結束バンドです。バンドの名前くらい覚えてください」
廣井さんにツッコんでおく。そろそろ覚えてほしい。
「じゃ、時間になったらまた呼びに来るから。気張りなよ」
廣井さんをヘッドロックで抱えながら楽屋の扉を開けて退場する姉貴。相変わらず容赦ねぇな。
「……」
「リョウどうした? さっきから直立不動だけど」
そういやリョウは廣井さんの大ファンだったはず。なのにさっきから何も言わなかったな。普段なら厄介音楽オタク全開で廣井さんに絡みそうなのに。
「……うーん」
「キャー! リョウ先輩立ったまま気絶してるー!」
マジかよ……。嬉しすぎて気絶してる。
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