「さあ、そろそろ出番だ。行くぞみんな!」
楽屋の扉を開けると声が聞こえてくる。
「ねえ、結束バンドって知ってる?」
「知らなーい。見とくのダルいね」
いかにも面倒くさそうな女の声だ。この手のバンギャはたまにマナー悪い奴いるよな。
「ぐっ……」
思わず扉を閉める。好き放題言いやがって……。親指の爪を噛む。ガキの頃直した癖なのに。
「気にしない、気にしない」
リョウがあたしの背中を摩りながら言う。ごめんリョウ。……ありがとな。
「大丈夫だって。あたしたちまだまだ駆け出しだから知られてないだけ。気にせずいこう!」
努めて気丈に振る舞うあたし。
「そうですよ! これから私たちの音を聴かせてあげればいいだけですもんね!」
こういう時は、喜多ちゃんの元気に助けられるな。どうせさっきの連中は、後に控えるマカロニペンシルさんあたりが目当てだろうし。全く知らないあたしたちの演奏でド肝抜かしてやろう!
「よーし! 結束バンドファイトー!」
ガラにもなくおもいっきり右腕を上げて音頭を取る。
「おー!!」
「……おー」
「お、ふぉー」
ぼっちちゃん……。まあお前は落ち込むなって方が無理か。みんな練習通りに演奏できれば大丈夫だから安心しろよ。
「よっしゃ! 今度こそ出発!」
「初めまして。結束バンドです! 本日はお日柄もよくー」
「もう、先輩たらぁ! 今日は大雨じゃないですかー」
「あらーそうだっけぇ! あ、あたしったらおバカさん♪」
「あ、あはははは……」
「ははは……」
「……」
「……曲紹介いこう」
何故だー! 台本通りにやったのに、なんでドン滑りなんだよー! あたし渾身のMCが全く受けずに会場に冷ややかムード。
やっぱ昨日考えたドラムスティックで『モノボケ宮本武蔵!』で行けばよかったかな? ぼっちちゃんの武田信玄とのコンビ芸で。リョウと喜多ちゃんに猛反対されたけど。
「1曲目は、あ、あたしたちのオリジナル曲で『ギターと孤独と蒼い惑星』です!」
「い、1曲目『ギターと孤独と蒼い惑星』でした……」
声が震える。ビビってんじゃねぇぞあたし! ドラムの席からよく見える、少ないお客さんたちの顔。失望、無関心、苦笑い。廣井さんやぼっちちゃんのファンたちも来てくれたのに、今日は情けないところしか見せられてない。
くそっ! なんでだ! 全然上手くいかない。練習と全く違う。あたしとリョウはリズムが全然合わないし、喜多ちゃんのボーカルも全然声が出てない。ぼっちちゃんのギターもグダグダだ。
「やっぱ全然パッとしないわ」
「早く来るんじゃなかったね」
くそぉ! これ見よがしに言いやがって。でもこれが現実。お客さんにとっては全然知らないヘタクソバンド。
……でも。
「先輩! 次の曲紹介しないと!」
「え、あ……次の曲は、これもあたしたちのオリジナル曲で『あのバンド』です!」
どうすれば、どうすればいいんだ! このままじゃ終われないのに……。
――雷鳴走る。
え? 予定にないぼっちちゃんのギターソロ?聞き慣れた激しくもクセのあるストローク。この感じは……ギターヒーロー! 見慣れた猫背の背中が、今は虎に見える。
区切りのいいところでライトアップ。ナイスだ照明さん!
――これならいけるぞ。やってやる! ステージの上ではあたしたちがヒーローだ!!!
「結束バンドでした! ありがとうございました!」
2曲目、3曲目とあっという間に終わり、最後の挨拶をする。見事なドヤ顔してるなあたし。
「ちょっといいじゃん、結束バンド」
「ね。私ファンになろうかな」
さっきの奴ら、手のひら返しかよ。これが結束バンドの実力だっての。まあ、ほとんどぼっちちゃんのお陰なんだけど。
「めっちゃかっこよかった!」
「ねー! 結束バンドサイコー!」
ファン1号さんと2号さんが声を掛けてくれる。真っすぐな声援、なんか照れくさい。
「やるじゃん。結束バンド」
「ふふん」
ステージの隅に居るのは廣井さんと姉貴か。姉貴は無言でドヤってるし。
「あ、は、あ……」
ぼっちちゃんが不安そうにこちらに向き直る。なんだよ、2曲目の頭からさっきまで憑りつかれたようにギターを掻き鳴らしてたのに。
「よくやった!」
あたしはとびきりの笑顔とサムズアップを返してやる。胸を張れ、お前はスゲ―奴だ。
「え、へへ……」
ぼっちちゃんも笑顔を返してくれる。ホントお前は普段からこの顔ができればいいんだがな……。初ライブは逃げるように戻ったけど今日は拍手を背に堂々と楽屋に引き上げる。
最高の気分だ!!!
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