もしもJK星歌ちゃんだったら。   作:三十路スキー

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星空

「せ、星歌ちゃん、外なんか出てどうしたんですか? あの、打ち上げ、みんな盛り上がってますよ……」

 

「ん? ああ、ぼっちちゃんか。ちょっと涼んでただけ」

 

 店の明りに照らされたぼっちちゃんは普段より綺麗に見える。実は少し考え事してた。そういやぼっちちゃんと出会って、たったの3か月なんだよな。切羽詰まって公園で佇んでた怪しいピンクジャージに声掛けて、即席でライブして、バイトして、オーディションして。

 バンド名はいずれ変えるつもりだったけどすっかり愛着わいちゃったな。そして今日のライブ最高だった。いつまでもこの4人でバンドやってたい。みんなで売れてすげぇちやほやされたい!

 ちょっと俗っぽいけど、今はそんな気持ち。

 

『お前の事、ちゃんと見てるからな』

 

 向こうにあたしと姉貴が並んでる。なんで二人の歳があべこべなんだろな? あたしがオバさんで、姉貴が女子高生。あたし本当はここにいるべきじゃないんだろうか? 運命が捻じれて曲がってこうなった。でもそんなこと、今は些細なこと。あたしはここにいる。あたしはあたしだから。

 

「さ、最近、夜はもう涼しいですよね」

 

「そうだな」

 

 成長したな、ぼっちちゃん。自分から雑談を振るとは……。

 

「あ、あの……えと」

 

「……空見てみなよ。綺麗だろ? 東京じゃ滅多に見れないぞ」

 

 台風一過。今日は沢山の星がくっきりと見える。

 

「わぁ……」

 

 空を見上げてぼっちちゃんが瞳を輝かせる。

 

「知ってたか? スターリーって星空って意味なんだよ」

 

「え、あ、知りませんでした」

 

「演者たちが綺羅星の様に輝けるステージにしたいって姉貴が名付けたんだ」

 

「そ、そうなんですね」

 

 まあ、姉貴に聞くまであたしも知らなかったけど。

 

「今日また一つ星が増えた。『結束バンド』って星がさ。まだまだ小さい六等星。どこか隅っこにある」

 

「あ、なんか素敵ですね……そういうの」

 

「ふふっ……そうだろ?」

 

「あ、あの、そろそろ……」

 

「ああ、もう戻るよ。でもその前に一つ聞いていいか?」

 

「な、なんでしょうか?」

 

「違ったらごめん。ぼっちちゃんが、ギターヒーローなんだよな?」

 

 そうだよな。やっぱ今確かめなきゃ。

 

「え、あ、ちが……」

 

 ぼっちちゃん動揺でタコ踊りみたいになってる。これはこれでかわいいな。……じゃなくて!

 

「オーディションあたりから、もしかしてって思ってたけどさ。今日見せたキレのあるストロークで確信したよ。よく考えたらギターも同じだしな」

 

「あ、えっと……そうです。私がギターヒーローです。でもわざと隠してたわけじゃなくて……」

 

 珍しく目線が合う。わかってるよ、ぼっちちゃんはそんな奴じゃない。

 

「い、今の私なんて全然ヒーローじゃないし、この性格を直してから話したかったんです。……特に星歌ちゃんには」

 

「なんだよそれ。お前はお前だろ。性格直すとかそんなことしなくていい。それにあたしはぼっちちゃんがギターヒーローでよかったと思う。正直最初は戸惑ったけど。普段は頼りない後輩が実は憧れの人なんて、流石にご都合主義が過ぎるよな。まるで漫画だしさ」

 

「た、頼りない……」

 

「あーもー! いちいちヘコむな! 喜多ちゃん連れ戻した時も、オーディションも、今日のライブも、どうしようもないピンチをいつも壊してくれたのはお前だった。あたしにとって後藤ひとりはヒーローなんだ」

 

「ヒ、ヒーローですか、えへへ……あ、でも、このことはまだ内緒にしてて貰えますか? 喜多さんやリョウさん、店長さんたちにも。い、いつかもっとヒーローにふさわしい人になれたら、私から話したいんです」

 

 もしもこれから結束バンドが有名になったら、バンドでの演奏が上手くなって動画みたいな実力を出せるようになったら、いずれはギターヒーローだってバレてしまうだろう。きっと世界がお前を放っておかない。でも今は、今だけはあたしだけのヒーローでいてほしい。特等席から見てたいんだ。

 

「わかった。じゃあ私の秘密も聞け。まだ誰にも言うなよ?」

 

「は、はい!」

 

「そういや、オーディションの前に言ってたよな。バンドやる上での目標や夢の話。この伊地知星歌には夢がある。結束バンドが売れて有名になること、そしてスターリーを日本一有名なライブハウスにすること」

 

「……」

 

 この話を人にするのは初めてだ。リョウにさえ話したことはない。もちろん姉貴にも。

 

「あたしが9歳の時に母さんが死んだ。父さんは仕事が忙しくていつも家に居なかった。今も単身赴任してる。姉貴は大学生でバンドに夢中だった。母さんが死んでから寂しがるあたしをライブハウスに連れていってくれるようになった。ガキの頃のあたしには全部がキラキラして見えた。特にステージの姉貴は最高に輝いてた。まるで一番星の生まれ変わりなんじゃないかって思うくらいにさ。あたしが最初に見たヒーローだった」

 

「え、店長さんが……」

 

「そうだよ。スゲーカッコよかったんだ! 今思えば、あの頃のアマチュアバンドでは頭一つ抜けてたな。間違いなくプロになれるって皆期待してた。でも姉貴は急にバンドを辞めた。理由はいまだに教えてくれない。で、それからいろいろあってライブハウスをやることが姉貴の夢になった。何年も苦労して、スターリーを開店した。それであたしは姉貴……いや虹夏お姉ちゃん以上に人気のあるバンドになりたいって思うようになった。そしてスターリーでいっぱいライブして、プロになって、売れて、売れて、売れまくって! スターリーをすげぇ有名にするんだ! そしてみんなでちやほやされてぇ! まあ、我ながら無謀な夢だと思う。でもやれる気がする。それは二人目のヒーローが現れたから」

 

「……そ、それって」

 

「もちろんそのヒーローは、ぼっちちゃんのこと。ぼっちちゃんが居たら夢を叶えられる……かもしれない」

 

「……」

 

「ああ、そうだ! ぼっちちゃんに出してた宿題、今答えてもらおうか。なんのためにバンドをやりたいのか? お前の夢、教えてくれ」

 

「わ、私は……ギタリストとして、結束バンドを最高のバンドにしたいです!」

 

「……うん」

 

 嬉しいこと言ってくれるよな。……かっこいいよ。

 

「あ、あ、それで、売れて稼げるようになって高校中退したい……」

 

「いや中退はすんな! 折角入った高校なんだから卒業しろ! 勉強とかはあたしも見てやれるし。それに中退したらご両親が悲しむぞ!」

 

 あーあ、締まらないよなぁ。折角かっこよかったのにさ。

 

「あ、あの! じゃあ! 私のお願いとか、聞いてもらってもいいですか?」

 

「ん? なんだあらたまって」

 

 ちょっと唐突だけど、ぼっちちゃん今日はやけに積極的だな。

 

「頑張ったご褒美が……欲しいです」

 

「ご褒美?」

 

 うーん。また頭撫でればいいのか?

 

「……ギュってしてください!」

 

「ぎゅっ?」

 

「わ、私をギュって抱きしめてください! 練習とかじゃイヤです! よ、陽キャとかなれなくてもいいですから!」

 

「ちょ、ちょっと待て! なんでそんな急に!」

 

「こ、怖いんです。最近イヤな夢を見るんです。星歌ちゃんが居なくなってしまう、誰か違う人になってしまう夢なんです。だから、そんなのイヤだから、抱きしめてほしいんです! 星歌ちゃんのこと感じてたいんです!」

 

 抱きしめるしかないか……。あたしもぼっちちゃんに居なくならないでほしいから。

 

「うん、わかった……。や、やさしくするから!」

 

 ゆっくりとぼっちちゃんを抱き寄せる。少し汗臭い。

 

「痛くないか?」

 

「は、はい」

 

 もう少しだけ強く抱きしめる。

 

「そか、よかった。うぅ……」

 

「せ、星歌ちゃん。な、泣いているんですか?」

 

 一筋の涙が頬を伝う。おかしいな。今すごく嬉しいはずなのに。

 

「大丈夫。この涙は……幸せの証だから」

 

「せ、星歌ちゃん! ん……」

 

 突然の口づけ。背伸びしたぼっちちゃんからのキス。したかどうかも分からないくらい一瞬のキス。

 

「……ぼぼぼ、ぼっちちゃん! ななななんで!」

 

 今度はあたしがタコ踊りみたいになってしまう。つーかあたしの初めてなんだぞ!

 

「星歌ちゃん……ど、どこにも行かないでください、ずっといっしょがいいです……」

 

 ぼっちちゃんはあたしを強く抱き寄せる。あたしもそれに応えるように抱き返す。

 

「あたしはどこにも行かない。これからもずっと、ぼっちちゃんの傍にいるから。いいよな?」

 

「あっ……はい!」

 

「そろそろ戻ろうか」

 

 抱擁を解いてぼっちちゃんの手を引く。初めて手を引いたあの日と違って、やさしく、ゆっくりと。

 

 そうだ『ぼっち・ざ・ろっく!』はここから始まるんだ。この世界に見せつけてやろう。ぼっちちゃんとあたしたちのロックを!




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