もしもJK星歌ちゃんだったら。   作:三十路スキー

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お久しぶりです! 突然の第二部開始!


江ノ島から2学期
青い春と西の空①


「トルティーヤ!」

「あらあら、今度はサンバですか」

 

 リズムに合わせてステップ踏んで、はいポーズ! PAさんは小動物を愛でるようなまなざしをぼっちちゃんに向ける。

 

「ぼっちちゃん、変な踊りはやめなさい。もう店開けるよ」

「あっ、すみません……」

 

 今日もぼっちちゃんは奇妙な踊り。それを姉貴がたしなめる。最近はバイトのたびにこんな調子だ。ちょっと困る。まあ、出勤早々ゴミ箱に入るよりはマシだ。

 もちろんゴミ箱はあたしが毎日しっかり洗ってるから汚くないよ。ぼっちちゃんかわいい。

 

「後藤さん、今日も楽しそうですね……」

「いつも通りのぼっち」

 

 ライブが終わってからもう半月が経つ。あたしはあの夜のことを未だに思い出す。本当はキスなんてしていないんじゃないか? 

 ぼっちちゃんだってきっと雰囲気に飲まれただけ。ライブの熱気に舞い上がってしまっただけなんだ。ふと唇をなぞる。

 ……そんなんじゃない。あたしたちはそんなんじゃないんだ。

 

 

 

 

 

 

 あっという間に夏休みの最終日。

 

「星歌ちゃん。今日のぼっちちゃんなんとかしてよ。困るんだけど?」

「あん? また踊ってるのか姉貴」

「入口前でセミのお墓作ってるよ……」

 

 ぼっちちゃんやさしいな。すぐに死んでいく儚いセミたちのためにお墓を作ってあげるなんて。

 

「いいじゃん。そのくらいぼっちちゃんの好きにさせたら」

「いや、よくないでしょ。ほら、ぼーっとしてないで止めてきて! 結構限界だよあの娘」

 

 階段を上がって入口前の花壇に向かう。ぼっちちゃんが今にも死にそうな顔をしてセミの墓を作ってる。墓標代わりにアイスの棒。あ、それ当たりだ。

 

「アンタガタドコサヘキサエンサン……」

 

 うーん、こりゃ限界だな。でもぼっちちゃんのやりたいことはできるだけ手伝ってあげたい。

 

「ぼっちちゃん。手伝うよ!」

「……バイオハザードオタンチン」

 

 今にも倒れそうなぼっちちゃんの体を支えてやる。

 

「そうじゃなくて!」

 

 姉貴があたしとぼっちちゃんの頭をコツン。

 

「いや、普通に困るんだけど。あと星歌ちゃんはこっち来て」

「いだだだ! 耳を引っ張るなって!」

 

 階段前に引っ張られていくあたし。リョウと喜多ちゃんもこっちに来た。

 

「そういや、みんな夏休みぼっちちゃん遊びに誘ってあげたの?」

 

 姉貴が呆れたように問いかける。

 

「私はここに来る以外は予定全部埋まってて、友達と遊ぶ予定ばっかりなんですけど後藤さん他の子がいると委縮しちゃうし……」

 

 喜多ちゃん愚痴ってたっけ、ぼっちちゃん、学校で一緒にお昼ご飯食べようとしても昼休みいつも居ないって。リョウみたいに一人が平気なタイプだと思ってたけど、単にコミュ障人見知りなだけか。

 

「あぁ、あたしはここでのバイトに家事、宿題やらで気が付いたらもう夏休み終わってたわ」

 

 あとはリョウに構ったり、リョウに構ったり、リョウに構ったり……。

 

「2人が誘ってると思ってた」

 

 まああたしだってずっとバイトばっかしてたわけじゃない。今思えば多少無理してでも誘うべきだったか。

 といってもダチのノルマ消化で行ったやたら前衛的な劇団とか過激派地下アイドルをぼっちちゃんが喜ぶとは思えない。

 結局あたし一人で行ったけど正直キツかったな。

 

「……もうバンド名変えたら?」

 

 姉貴が不機嫌そうに何か渡してくる。雑誌?

 

「はいこれ。楽しんできなよ!」

 

 姉貴が手渡してきたのは『るるる江の島』だ。ベタな旅行雑誌。……これかなり前のやつじゃね? 表紙が経年劣化で少し黄ばんでる。

 

「え? でも今日は練習あるし……」

 

 今日は夏休み最後の合わせ練習。秋にもう一度ライブやりたいって言ったら、またオーディションからだなんて言われたし。もっと練習しないと。

 

「なぁに、1回練習しないぐらいで大して変わらないよ。今日は青春してきなさいな」

 

 ……言い方が引っかかるな。まあいいや。

 

「ありがとうございます! やっぱり優しいですよね店長さん!」

「あはは。褒めても何も出ないよ」

 

 姉貴は軽く頭を掻いて照れ隠し。嬉しそうだ。

 

「店長優しい。時給上げて」

「調子乗んな山田」

「ちぇ」

 

 リョウは相変わらずだ。猫の目だか狐目だかで睨む姉貴。

 

「ほら行ってきな!」

 

 姉貴があたしの背中をパンと叩く。勢いで押し出されるようにぼっちちゃんのところに行く。

 

「あのさぼっちちゃん。ここ行こう! 下北沢から1時間だしきっと楽しいぞ!」

 

 ぼっちちゃんに雑誌の表紙を見せながら話を切り出す。

 

「え、あ、き、今日は練習じゃないですか……」

「練習はいつでもできるじゃない! 夏の思い出は今日しかできないのよ! ねぇ、リョウ先輩!」

「コクコク」

 

 喜多ちゃんもリョウも乗り気だ。

 

「さあ後藤さん! 夏の思い出作るわよー!」

 

 意識不明のぼっちちゃんを喜多ちゃんが肩を持って担ぐ。

 

「よいしょ。ほらぼっちちゃん、しっかり歩けよ」

 

 あたしはもう片方の肩を担ぐ。

 

「ぷぷっ。宇宙人捕獲したみたい」

 

 お前も手伝え山田ァ! とりあえず駅に向かおう。時間は昼前。今日は思いっきり遊ぶぞ!

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