「暑い……」
今日も最高気温は30度を軽く超える。天気は快晴。容赦無い日差しと長い階段が体力を奪う。汗が止まらない。
「みなさーん! 早く早くー!」
階段の上まで登った喜多ちゃんが呼んでる。
「おぉい、待てよ……喜多ちゃん……」
ホント元気だな。でもちょっとこっちの空気読んでほしい。仲見世通りから上り坂でダメージ食らってるのにさ。つーか喜多ちゃんって普段は協調性の塊みたいな娘なのに、あたしたちといるときは結構フリーダムっていうか、甘えてくるっていうか。もしあたしに年の近い妹がいたらこんな感じなんだろうか。
うちは年も離れてるし、あたしなんかが妹だから、やっぱ姉貴からすれば可愛げ無いんだろうな……。ごめんねお姉ちゃん。
なんて朦朧とした頭で考えてると、両肩にズシリと重みを感じる。左肩にリョウが乗っかってる。右肩にはぼっちちゃんがしがみ付く。
「ええい、離れろお前ら! うっとおしい!」
「うーん、あと五分……」
寝るな山田! あと髪引っ張るな! せっかく髪伸ばしてサイドテールにしてるのに! 長さはまだ、あの頃の姉貴の半分ほどもないけどさ。
「はぁ……はぁ……星歌ちゃん待って……ください……」
後藤も離れろ! ピンクジャージの汗染みがすごい。もう上着脱げ。
「もうだめだー!」
なんとか階段を上り終えたけど、もう体力の限界だ。3人で道の端っこにへたり込む。
「もう! だらしないですよ! インドア人にしても体力無さすぎです!」
喜多ちゃんがあたしたちの目の前まで戻ってきて、プリプリと怒ってる。言い出しっぺのあたしがこの体たらくじゃ面目ない。
「はぁはぁ……そんなこと言ったってしょうがねぇだろ……」
バイトのおかげで力仕事は自信あんだがな。いかんせん持久力がない。インドア派のつらいところだ。
「だるい。疲れた。吐きそう」
「……」
「ほらリョウしっかりしろ。あーもう! ぼっちちゃんまた死んでる」
ぼっちちゃんの横っ面をペチペチして起こす。暑苦しいジャージのせいですげぇ暑そうだ。つーかあいつのジャージへのこだわりは何なんだよ。さすがにこのままじゃマズい。
「ほらぼっちちゃん、前開けるぞ」
「あっ……うぅ」
「もう汗だくじゃねぇか。上着は脱いどけ。熱中症になるぞ」
上着のジッパーを開けると、封じ込められてた暴れ牛が姿を現す。牛の頭蓋骨がデカデカと書かれた某バンドのTシャツだ。もちろん暴れ牛ってのは二重の意味でだ。つーかGカップぐらいあるよな。……羨ましい。
「喜多ちゃん……少し休もう」
「郁代のおにぐんそー」
「もう……しょうがないですねぇ」
「あ、す、すみません喜多さん……」
あ、喜多ちゃんの視線がぼっちちゃんの胸に。
「……イイノヨ、ゴトウサン。キニシナイデ」
震える牛に喜多ちゃんの視線が突き刺さる。
階段はまだまだ続くけど、結局頂上までは『江の島エスカー』に乗ることにした。要はバカでかいエスカレーターだな。ちょっと金掛かるけど背に腹は代えられん。これで一気にショートカットだ。喜多ちゃんはちょっとおむずかりだ。
さて、到着した山上の公園『サムエル・コッキング苑』は和洋折衷の美しい庭園だ。色とりどりの美しい植物や美味しそうなスイーツ、惚気全開のカップルたち……。
途中ぼっちちゃんがトンビに襲われるハプニングもありつつ、なんとか展望台に到着。
「見てください! 展望台からの眺めは最高ですね! 目に焼き付けておきましょう!」
喜多ちゃんがエレベーターを出て開口一番。ホント元気だねぇ……。夏の太陽みたいな女の子。さぞやモテるんだろうなぁ……。ああ、まだ頭がクラクラする。
「ぬーん。冷房サイコー……」
「極楽ぅ……」
「ですねぇ……」
「あの……みなさん?」
ごめん喜多ちゃん。今は何よりも、エアコンが愛おしい。
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