「おはよー! ごめーん! 遅れたー!」
廣井さんが奥の事務スペースらしきところに居る人に話しかける。
「あぁ? 廣井てめぇ今何時だと思ってんだ?」
うわ……なんかすげー厳ついおっさんだ。ピアスバチバチでなんか明らかにカタギじゃねぇぞ! こ、怖い……。さっきのガキんちょとはワケが違う!
もうだめだ、おしまいだ……。最期に一目、お姉ちゃんに会いたい。
「い、伊地知先輩しっかりして!」
ゴメン、喜多ちゃん。無理かも。
「……ちーん」
「おおおおお……」
「ひとりちゃん! リョウ先輩まで!?」
「ちょ、タンマタンマ! お客さん連れて来たんだからさ、銀ちゃんスマイルスマイルー! ほら、みんなも挨拶しなよー」
「こ、コンニチワ……」
声が裏返る。ううう……。あたしすっかりビビっちまってる。みんなごめん、おしっこチビった。
「あらやだー! 廣井ちゃん、こんなかわいいお友達がいるのねー! アタシ吉田銀次郎37歳でーす! 新宿FOLTの店長よん♪」
「安心して、銀ちゃんは心が乙女なただのおっさんだからー」
うへぇ、さっきのコワモテな雰囲気とはずいぶん違うぞ。オネェ系ってやつか。
「おっさんは余計よー! もう、失礼しちゃうわね! プンプン!」
「見た目とのギャップに頭バグるよねー」
ぞぞぞぉ……。37歳男性のぶりっ子、気持ち悪ぅ……。
「おい廣井、遅刻すんなって何度も言ってるよな?」
「もう、リハ終わっちゃいましたヨ!」
「ごめーん! まあ何とかなるっしょ!」
向こうから二人の女性がこちらにやって来る。二人とも遅刻を咎めてるようだが、廣井さんは反省ゼロだ。スカジャンの女性は、ユニセックスな雰囲気の美人さん。リョウとはまた違った感じで『男前』って感じだ。女性に男前なんていうのは失礼だけど、あたしの貧弱なボキャブラリーでは他にいい例えが見つからない。
もう一人は外国の人かな? 綺麗なブロンドヘアに碧い瞳、透き通るような白い肌。男前さんにも負けない美形。服装は浴衣を大胆に着崩した恰好。ダイナマイトボディが眩しい……。
「……もしかして結束バンドの人たちですか?」
「は、はい! えっと……」
「SICK HACKの人」
後ろから小声で教えてくれた。ナイスフォロー、リョウ。つーかあたしたちのこと何で知ってんだろ?
「ドラムスの岩下志麻です。よろしく」
「こ、これはご丁寧にどうも」
深々としたお辞儀。礼儀正しい態度にこっちも恐縮してしまう。
「初めまして! ワタシ、イライザ! ギターやってマス。イギリスから日本来てイマ3年目ー! 仲良くしてネー!」
イライザさんはハイテンションで元気いっぱい。岩下さんとは対照的だ。
「ども、伊地知星歌って言います。ドラムスで一応リーダーです」
「ご、後藤ひとりです……。いちお、リ、リードギターです。お、お、おながいします!」
「ギターボーカルの喜多です♪ よろしくお願いします!」
「ベースの山田です。SICK HACKのコアなファンです」
それぞれに自己紹介。名乗られたら名乗り返すのが礼儀だ。リョウは謎のドヤ顔。
「え? 伊地知ってことは……伊地知先輩の妹さん?」
「はい、そうですけど?」
「いやぁ、大きくなったね。私とは一回しか話したこと無いから覚えてないだろうけど。大学時代は、伊地知先輩には廣井とお世話になってたんだよ。あ、廣井がみんなにご迷惑をお掛けしてるみたいで。よかったらこれどうぞ。つまらないものですが」
小さいけど高級感のある包み紙。こ、これは! 『ねこや』の芋ようかんじゃねぇか! お詫びの秘密兵器って姉貴が言ってたっけ。これさえあれば大体のお詫びは上手くいくらしい。渋いお茶とよく合うんだよな。
「え、岩下さん迷惑だなんてそんな! それにこんないいものいただけませんよ!」
「志麻でいいよ。その方が通りがいいし。みなさんで召し上がれ。伊地知先輩にもよろしく」
「ありがとうございます! 志麻さん」
とことん礼儀正しいなこの人。3人ともキャラバラバラだな。うちもそうだけど。
「はーい! おしゃべりはそこまで。あんたたち、そろそろ準備なさい。あ、ゲストちゃんたちはライブの後で楽屋行っていいわよ。アタシSTARRYのジカちゃんとはマブダチだもんね。特別サービスよん♪」
この人も姉貴の知り合いなのか。まあ狭いギョーカイらしいしな。
「へいへい。それじゃ、ぼっちちゃんたちはごゆっくりー」
「みんな、今日はライブ楽しんでいってね」
「後でイッパイおしゃべりしようネー!」
SICK HACKの3人がライブの準備に向かう。廣井さんたちのライブ今から楽しみだ。
「さ、キミたちも。客席は向こうよ。あの娘たちのナマ本番、聴いたらトブわよ! んーちゅ♪」
新宿オネェの投げキッス。……げろげろー!!
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